2023 菊水賞 レポート
2023年04月06日(木)
兵庫3歳クラシックの第一冠「菊水賞」に今年は重賞ウイナー4頭を含む10頭が出走。去年の大晦日に行われた園田ジュニアカップと3月の兵庫ユースカップにおける1着から3着馬が顔を揃えるなど、現状この世代で考えうる最高のメンバーが集結した。
多士済々の顔ぶれの中、10倍以下の人気は3頭。
まず注目を集めたのは、去年兵庫の最優秀2歳馬に輝いたスマイルミーシャ。レースセンスの高さを見せ、ここまで4戦無敗の土つかず。
園田ジュニアカップから3ヶ月ぶりの直行ローテとなったが、これに関しては飯田良弘調教師が暮れの時点で思い描いていたプラン通り。中間も素晴らしい動きを披露したが、飯田師が少し心配していたのは、3月20日の能検の時に前走から馬体が17キロ減っていたことだった。
「体の作り的には問題なさそうだと思っています。レース当日は490キロ前後まで馬体が戻っていてくれたら」と話したが、実際当日の馬体重は−20キロ。能検時よりもさらに3キロ減となっていた。このあたりがファン心理に影響したのか、単勝オッズは締め切り間際でベラジオソノダラブに逆転され、2番人気(単勝3.0倍)となった。
一方ベラジオソノダラブは、園田ジュニアカップ2着の後の今年の緒戦、兵庫ユースカップで初コンビ竹村達也騎手を背に優勝。坂本和也調教師との師弟タッグによるこの勝利は竹村騎手にとって12年ぶりの重賞制覇となった。これで兵庫若駒賞と合わせて重賞タイトルは2つ目に。今回は課題の折り合い面、距離延長をどうこなすか、手綱が戻る田中学騎手の手に委ねられた。最終的には1番人気(単勝1.9倍)に支持された。
そして、門別で4勝、兵庫移籍後、笠松のゴールドジュニアを制したニシケンボブが3番人気(単勝4.6倍)に。
前走は1400m戦の兵庫ユースカップで3着に敗れたが、「調教が軽かったし、この馬には距離も短かった。今回は前走よりはるかに良くなっていますよ」と高本友芳調教師は確かな手応えを感じていた。
その他では、園田ジュニアカップでは痛恨の出遅れから3着まで追い上げたヒメツルイチモンジ。前走のAクラス特別戦では、食い下がるグロリアドーロをゴール前ねじ伏せての勝利となり、軌道に乗ってライバルたちとの再戦となった。4番人気(単勝12.3倍)
もう一頭の飯田厩舎、ビキニボーイは中央から転入後、常に上がり最速の末脚を披露。兵庫ユースカップでも最後方から追い上げ2着。前走Aクラス勝利からの連勝を狙う。5番人気(単勝13.2倍)
スタートは一息も道中早めに動く競馬に変えてから成績が上がってきたグロリアドーロ。前走もヒメツルイチモンジと差のない競馬で2着と善戦した。
このレースでどういう動きをするか、鞍上山本咲希到騎手の存在も相まって、キーマンの一頭として注目された。ちなみに山本騎手は、兵庫に移籍後、初の重賞舞台となった。6番人気(単勝38.3倍)
出走馬
レース
スタート
1周目3コーナー手前
1周目3〜4コーナー
正面スタンド前
2周目1〜2コーナー
2周目向正面
2周目3〜4コーナー
最後の直線①
最後の直線②
最後の直線③
ゴールイン
前日の雨の影響で馬場状態はやや重。曇天の空の下、いよいよ発走の時を迎えた。
最も良いスタートを切ったのはベラジオソノダラブ。続いてスマイルミーシャが好発から位置を上げ一旦先頭へ。差がなく五分のスタートからヒメツルイチモンジがその2頭の間に入って先団を形成。ニシケンボブとアドワンがやや後手を踏むも、それぞれ最内と大外から巻き返して中団へ。逆にグロリアドーロとビキニボーイは五分に出た後、ダッシュがつかず最後方集団になった。
1周目の3、4角中間では園田ジュニアカップの上位3頭が前を固める形になったが、内の2頭がそれほど行かないと見るや、外から思い切ってハナを奪った田中騎手とベラジオソノダラブ。実にデビュー戦以来の逃げの手だった。スマイルミーシャの吉村騎手は無理せず控えて2番手を選択。
この間にニシケンボブとタオロマイは進路が塞がって体勢を崩し、やや後退。
アドワンは最後方から一気に上昇、スマイルミーシャの外に並び1周目の4コーナーに入る。
ホームストレート、やや前進気勢を見せるも田中騎手がベラジオソノダラブを上手くなだめてスローペースに。
2番手にアドワン、3番手にスマイルミーシャが続いて、ヒメツルイチモンジ、ニシケンボブが中団グループを形成。
向正面に入っても上手く折り合い、淡々としたペースを刻むベラジオソノダラブと田中騎手。そして前と後ろの動きを警戒しながら道中インの3番手を進んでいたスマイルミーシャの吉村騎手はこのあたりから後方を確認。その視線の先には追い上げを開始するグロリアドーロとビキニボーイの姿があった。2周目の3、4角中間、ややスピードを上げてベラジオソノダラブが後続を2馬身離し、捲ってきたグロリアドーロが2番手の外、そして残り400m標識の手前からついにスマイルミーシャも追い出しにかかる。
並ばれる前に自ら動いて押し切るという自分の形に持ち込んだベラジオソノダラブが余裕を持って最終コーナーへ。
直線に入っても逃げるベラジオソノダラブの勢いは鈍らない。外からスマイルミーシャが懸命に追うも2馬身ほどの差がなかなか縮まらずに残り100m。
ニシケンボブ、ビキニボーイ、グロリアドーロ、ヒメツルイチモンジの熾烈な3着争いを尻目に、最後は歓声の中、ベラジオソノダラブが1馬身半のリードを守って逃げ切りのゴールイン。落ち着いた流れで逃げ、終いもまとめて後続を完封した。これで重賞3勝目。
必死の追い上げを見せたスマイルミーシャが2着、接戦の3着争いはアタマ差でニシケンボブが制し、ビキニボーイは4着、グロリアドーロがクビ差の5着に入った。ヒメツルイチモンジはその後の6着ともうひと伸びがなかった。
暮れの大一番、園田ジュニアカップで覇を競った2頭によるワンツーとなったが、今回はベラジオソノダラブに軍配。2歳女王に雪辱を果たした。
1700mへの距離延長、折り合いの課題を、田中騎手の好判断、好騎乗により克服した大きな1勝となった。
ベラジオソノダラブは、今年3月の兵庫ユースカップに続いて重賞3勝目。
1700m戦は3度目の正直で初勝利となった。
獲得タイトル
2022 兵庫若駒賞
2023 兵庫ユースカップ
2023 菊水賞
田中学騎手は通算重賞77勝目。イグナイターで勝利した黒潮スプリンターズカップ(高知)に続き、今年の重賞2勝目となった。
これで下原理騎手が持つ兵庫生え抜き騎手の歴代重賞記録である78勝にあと一つと迫った。菊水賞は2007年のユキノアラシ、2019年のジンギに続いて3勝目。
坂本和也厩舎は通算重賞8勝目。今年は兵庫ユースカップに続き、2勝目。ベラジオソノダラブで重賞連勝を決めた。
菊水賞は初制覇となったが、2013年、騎手時代にユメノアトサキで勝利しており、これで騎手、調教師での同レース制覇となった。
◆坂本和也調教師 優勝インタビュー◆
(そのだけいば・ひめじけいば 公式YouTubeより)
「オーナーさんはじめ、田中騎手、調教に携わった竹村騎手、そして厩務員さん、あとはファンの皆さんの後押しがあって勝てたと思っています」とまず関係者とファンへの感謝を口にした坂本師。
デビュー戦以来の逃げの手について、事前に田中騎手と作戦を練った訳ではなかったがパドックを出たときに「ゲート出たら行ってね」とだけ伝えたという。
「逃げると自分のリズムで走れるのが一番大きかったと思いますし、控えるとどうしても相手のリズムで走らされる分、かかってしまうことがあるので。良い判断で逃げていただいたと思います」と名手の手腕に賛辞を贈った。
「まだまだ成長もすると思いますし、いろんな面でチャレンジしていって、ソノダラブという名前を付けていただいた限り、全国に(その名を)轟かせるように頑張っていきたいと思います」と最後は笑顔でファンの祝福に応えた。
総評
今回は展開に泣かされた部分も大きかったか、スマイルミーシャをはじめ、ライバルたちの陣営は巻き返しに意欲を燃やしているはずだ。
そうしたライバルたちとの再戦が早くも楽しみになるが、この先ベラジオソノダラブにはまだ見ぬ強敵たちも待っている。
勝利インタビューで語った“全国に”の言葉通り、次走は兵庫三冠の第2戦、ダートグレードの兵庫チャンピオンシップに挑戦すると話した坂本師。
中央相手、更なる距離延長と壁は高いが、兵庫3歳勢筆頭として堂々と立ち向かい、そして今度は全国に“園田LOVE”を轟かせてもらいたい。
写真:齋藤寿一
文:木村寿伸