2024 兵庫ジュニアグランプリ レポート

2024年11月21日(木)

毎年11月に実施されている2歳馬のダートグレード競走、兵庫ジュニアグランプリ(Jpn2)。川崎競馬場で行われる全日本2歳優駿(12月11日)に向けてのステップレースだが、2025年の3歳ダートクラシック路線、短距離路線にも繋がる重要な一戦だ。ハナ差の激闘となった前回に続き今年も熱い戦いに期待したい。

JRAからは「なでしこ賞」を勝ったコスモストームなど5頭がエントリー。北海道からはネクストスター門別2着馬のベラジオドリーム、ヴィグラスデイズの2頭が遠征。地元勢は兵庫ジュベナイルカップ1~3着馬のラピドフィオーレ、キミノハート、ジーニアスレノンなど5頭が参戦。各地区のネクストスター覇者は不在だが、将来を期待される傑出馬12頭で争われた。

単勝2.6倍の1番人気はJRAのハッピーマン。
京都ダート1200m戦で初陣を迎えると5番手追走から上がり最速の末脚で快勝。前走のヤマボウシ賞は4着だったが、休み明け初戦から2、3着馬と差のない競馬ができた。デビューから跨り、馬の特徴を知る坂井瑠星騎手が継続で騎乗するのも大きい。国内、海外で活躍するトップ騎手が園田でどう導くか注目が集まる。

単勝3.2倍の2番人気はコスモストーム(JRA)。
前走のなでしこ賞(京都ダート1400m)は好位4番手追走。速い流れの中で外々をまわる展開となったが、最後まで良い脚を使って2勝目をマーク。初めての地方コースとなるが、新馬戦で小回りの小倉ダート1000mを経験して勝っている。今回も外枠が当たり、砂を被らず気分よく道中運べるかがポイントになりそうだ。

3番人気(単勝4.2倍)はJRAのコパノヴィンセント。中山ダート1200mの新馬戦を4番手から抜け出して初陣を飾った。距離延長となった2戦目のプラタナス賞は勝ち馬には離されたが2着は確保。長い直線の東京コースでもしぶとさを発揮した。今回は兵庫の吉村智洋騎手とのコンビ。鞍上は直前のレースで3連勝と波に乗っている。不気味な存在だ。

北海道のべラジオドリームが4番人気(単勝5.9倍)。門別1000mのデビュー戦は後続に4馬身差をつける快勝。持ち前のスピードを発揮した。サッポロクラシックカップで2着、ネクストスター門別も2着と惜しい競馬が続いているが、前走で先着したエイシンマジョリカはエーデルワイス賞(Jpn3)で2着と好走。強敵と戦ってきた経験を武器に道営勢7年ぶりの勝利を目指す。

前走で初勝利を挙げたヤマニンシュラ(JRA)が単勝7.7倍。上位5頭までが単勝10倍以下と人気は拮抗。6番人気以降は単勝41倍以上と大きく離れた。

出走馬

1番  ジーニアスレノン 広瀬航騎手
2番 (J)ヤマニンシュラ  ()幸英明騎手
3番 サンジュウロウ 笹田知宏騎手
4番 ラピドフィオーレ (高)赤岡修次騎手
5番 キミノハート 小谷周平騎手
6番 ()コパノヴィンセント 吉村智洋騎手
7番 ()ハッピーマン ()坂井瑠星騎手
8番 (北)ヴィグラスデイズ (北)服部茂史騎手
9番 ()シャインミラカナ ()亀田温心騎手
10番 マナヴァルキューレ 大山龍太郎騎手
11番 (北)ベラジオドリーム (金)吉原寛人騎手
12番 ()コスモストーム ()秋山稔樹騎手

レース

スタート

スタンド前

ゴール板前

2コーナー

向正面

3コーナー

4コーナー

4コーナー~最後の直線

最後の直線

最後の直線

最後の直線

       

ゴールイン

兵庫ジュニアグランプリ当日は最高気温が18℃まで上昇。日なたで動くと汗ばむ陽気だった。天候「晴」、馬場状態「良」と、ベストコンディションでメインレースを迎える。ブラスバンド「H.B.B」によるファンファーレの生演奏が行われ、場内からは拍手と歓声が起きた。枠入りはスムーズに進んで大一番のゲートが開く。

スタートは若干バラつくが大きな遅れは無かった。先行馬の多い一戦だったが、コパノヴィンセントがすんなり先手を主張。ベラジオドリーム、コスモストーム、ヤマニンシュラが好位につける。直後にヴィグラスデイズ、シャインミラカナ。先頭から5馬身後方の7番手にハッピーマン。坂井瑠星騎手は先行集団の後ろで折り合いに専念していた。その後にサンジュウロウ、ラピドフィオーレ、キミノハート、マナヴァルキューレ。最後方にジーニアスレノン。兵庫勢は後方を追走して1コーナーを通過。この間にハッピーマンはインに入れて内ラチ沿いを確保した。馬群全長は13馬身ぐらい。スローペースで2コーナーへ向かう。

向正面に入っても隊列に大きな変化はない。逃げるコパノヴィンセントが徐々にペースを上げていく。吉村智洋騎手が得意としている展開だ。3コーナー手前で先行集団の7頭は6馬身圏内で固まっている。そこから4馬身後ろを地元勢が追走。ラピドフィオーレが位置を上げるも、遠征勢との差を詰めることが出来ず兵庫勢は勝負圏内から早々脱落となった。

残り400m付近で脚があがったシャインミラカナが後退。前の6頭は一団で4コーナーへ向かうとコパノヴィンセントがスパートを開始。後続との差を2馬身に広げて直線に入った。ヤマニンシュラ、ベラジオドリーム、コスモストーム、ヴィグラスデイズも懸命に追うが差は詰まらない。このままコパノヴィンセントが逃げ切るかと思われたが、ハッピーマンが驚異的な追い上げをみせる。4コーナーで前が開くと直線で外へ切り替えながら一気に加速。物凄い勢いで伸びてきた。

コパノヴィンセントの脚色は衰えていなかったが、ハッピーマンがそれを上回る豪脚を披露。リードがみるみるうちに無くなり、ゴール板の80m手前でハッピーマンがきっちり捕らえた。1番人気の期待に応える勝利で初タイトルを獲得。2着馬との差は1馬身半だったが着差以上の強い内容だった。

2着は逃げたコパノヴィンセント。相手の決め手に屈したが、吉村智洋騎手の絶妙なペース配分で逃げて見せ場十分の内容だった。好位で立ち回ったヤマニンシュラが3着。去年に続いて今回もJRA所属馬のワンツースリー。最後までじわじわ脚を伸ばした北海道のヴィグラスデイズが地方馬最先着の4着。コスモストームは5着。ベラジオドリームは6着でゴールした。地元勢はラピドフィオーレの7着が最高だった。

JRA所属馬は兵庫ジュニアグランプリを8年連続で勝利。近年はJRAに在籍する砂のエリート候補達が強さをみせつけている。

◆ハッピーマンはダノンレジェンド産駒の牡馬。重賞初挑戦で初制覇。


獲得タイトル

2024 兵庫ジュニアグランプリ(Jpn2)

◆JRAの坂井瑠星騎手は兵庫のダートグレード初制覇。

◆JRAの寺島良厩舎も兵庫のダートグレード初制覇。

◆坂井瑠星騎手 優勝インタビュー◆
 (そのだけいば・ひめじけいば 公式YouTubeより)

鞍上の坂井瑠星騎手は弾けるような末脚を「乗っていてハッピーでした」と、馬名を引用して表現した。

「良いスタートを切って引っ掛かりたくなかったので、少し遅れてもいいかなと思っていました。行きっぷりが良くて抑えるのが大変でしたね」

前走は道中で力みをみせて力を発揮出来なかったが、今回は先行集団の後ろで待機。じっくり脚をタメることが出来た。

「レース前に小牧太さんから『今日は内やで』と助言をいただいたので1コーナーで内へ行きました。道中は落ち着いていて手応えも良かったです。あとは前が開けばと思っていましたが凄い脚でしたね」

兵庫のレジェンドからのアドバイスを聞いてスムーズに内へと入れた坂井瑠星騎手。冷静な判断がハッピーマンの持ち味を引き出した。

JRA所属馬は地方の深いダート、小回りコースに苦戦するケースが多く見られるが、ハッピーマンは器用にこなしてみせた。

「園田の1400mをこなせたので今後の幅が広がりました。距離が延びてもやっていけるように関係者と相談していきたいです」と、今後に向けて視野が大きく広がった。

ハッピーマンの父はダート短距離重賞で活躍したダノンレジェンド。中央、地方のファンにお馴染みの種牡馬だ。その産駒の代表馬になり得る1頭が出てきた。可愛い名前とは裏腹に破壊力抜群の末脚を持っている。砂路線のスター候補が園田で強いインパクトを残した。

坂井瑠星騎手は園田のダートグレードレースは初勝利。これまでは2020年の兵庫チャンピオンシップ(ダノンファラオ)2着が最高だった。ゴール後にはゴール板付近まで来てファンの声援に応える姿がみられた。

「園田のダートグレードは2着が最高だったので勝てて良かったです。いつも馬券を購入している側だったので、久々に園田で勝てて良かったです」

JRAでは今年も年間100勝に到達。騎手リーディングは4位につけている(11月22日時点)。JRA重賞18勝、海外ではサウジダービー、UAEダービーを制覇するなど、国内海外で活躍する坂井瑠星騎手。表彰式が行われた西ウイナーズサークルは多くのファンが集まり大きな歓声が飛んでいた。

総評

表彰式終了後に表彰式を終えた寺島良調教師にお話を伺った。
「前がやり合ってペースが流れると読んでいたのですが、すんなり隊列が決まって緩い流れになりましたね。想定外の展開でしたが、ゴチャつく位置でもうまく我慢が出来ていました。あとはどれくらい脚が使えるのかなと思っていましたが、外に切り替えてからは凄い脚でした。園田の短い直線でも持ち味の瞬発力を出せて収穫のあるレースでしたよ」と、笑顔で振り返ってくれた。
道中も坂井瑠星騎手の好リードで内ラチ沿いを確保。脚をためることができた。
「坂井騎手が小牧太さんの助言を聞いて良い乗り方をしてくれましたね。こういう競走が出来るなら可能性が広がっていきますね。前走は負けはしましたが、競馬を覚えさせる内容のあるレースでした。次走で結果に繋がって良かったです」と、新味を出しての勝利は今後に向けてのアドバンテージとなる。
2歳の段階で賞金を大幅に加算できたことにより今後起用したいレースに向かいやすくなった。
「入厩した当初は1400mまでかと思っていましたけど、今回結果を残してくれてたので視野が広がりました。距離は未知数なところはありますが、能力は高いので大舞台に挑戦していけたらいいですね。ダート路線が整備されましたし、来年のダートクラシック路線を目指せるように状態を見ながらやっていきたい」と、今後についても語ってくれた。


今年は兵庫の重賞上位組のラピドフィオーレ、キミノハート、ジーニアスレノンの3頭が挑戦。結果は振るわなかったが果敢な挑戦に拍手を送りたい。強い相手と戦った経験は今後の競走に活きるはずだ。

「ネクストスター園田」を無敗で制したオケマル、1700mの認定戦を勝ったキングスピカは大晦日の園田ジュニアカップへと向かう予定。兵庫2歳路線にはまだ重賞に出走していない素質馬が多数いる。全国に名を轟かせるスターホースの誕生を期待したい。


 文:鈴木セイヤ
写真:齋藤寿一

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