2025 兵庫若駒賞 レポート

2025年3月6日(木)

今年は1月21日から始まり、7週間(22日間)にわたって行われた姫路開催のラストを飾る重賞レース「第17回兵庫若駒賞」。今年の姫路5重賞のトリにもなった。

一昨年の2023年こそ8月に行われたが、元々はずっと10月に組まれていた2歳重賞で、昨年は開催なく、今年3歳重賞として新たに生まれ変わった。
兵庫三冠ロードの前哨戦的位置づけとなり、8頭と少数精鋭ながらそこでの主役候補となるであろう面々が顔をそろえた。

中でも2歳王者のオケマルと門別から転入後3連勝中のベラジオドリームの初対決に注目が集まった。

1番人気は、2歳王者のオケマル。単勝1.1倍という圧倒的な支持を集めた。
昨年9月、ハイレベルな新馬戦を勝ち、続くアッパートライ競走を6馬身差の圧勝。
重賞初挑戦となった10月のネクストスター園田では、道中砂を嫌がる課題は見せたものの、苦しい位置から最後の直線で強烈な末脚を見せ、鮮やかな差し切り勝利。
そして大晦日の園田ジュニアカップでは周囲を驚かせる逃げの手に出て、最後は2着に7馬身差をつける完勝劇。ここまで4戦4勝と土つかず、加えてその圧巻の勝ちっぷりから、すでに堂々と世代の主役を張っている。前走後は一旦放牧し体調を整え、帰厩してからも順調に乗り込まれてきたということで休み明けの不安なし。
今年の初陣、初の姫路をクリアし、兵庫クラシック戦線に弾みをつけられるか。

2番人気は、単勝3.6倍でベラジオドリーム。
門別時代は、サッポロクラシックカップ、ネクストスター門別と重賞で2着が2回ある実力馬。北海道籍で遠征してきた兵庫ジュニアグランプリ(Jpn2)で6着に敗れた後、兵庫に転入。他馬にハナを主張され、2番手からの競馬となった前々走こそアタマ差の辛勝となったが、その他2戦は危なげない逃げ切り勝利。特に前走は57キロを背負う中で強い内容だった。門別在籍時は主に短距離戦を使われていたが、こちらに移ってからは三冠路線を視野に中距離戦に挑戦して結果を出してきた。前走後は1週間ほどリフレッシュ放牧に出して、厩舎に戻ってからも入念な乗り込み。「高いレベルで状態をキープしている」と諏訪調教師は話す。
2歳王者とは初対戦、今回と同舞台を経験しているアドバンテージで待望の重賞初制覇を決めるか。

完全に前述の2強ムードとなり、3番人気以降は、20倍以上の単勝オッズがついた。
前走JRA交流の多紀連山特別で鮮やかな差し切りを決めたサンジュウロウが離れた3番人気の22.6倍。ダートグレードも含むここ2戦は着外も、昨秋の重賞では入着圏の走りを見せたジーニアスレノンが4番人気の40.6倍で続いた。

出走馬

1番 ベラジオチャンプ 川原正一騎手
2番 ヒロノラファール 大山真吾騎手
3番 ジーニアスレノン 廣瀬航騎手
4番 サンジュウロウ (北)石川倭騎手
5番 イザグリーンライト 山本咲希到騎手
6番 ベラジオドリーム 小牧太騎手
7番 マカセナハレ 大山龍太郎騎手
8番 オケマル 下原理騎手

レース

スタート
1周目向正面
1周目3~4コーナー
1周目スタンド前
1周目スタンド前
2コーナー~向正面
向正面
コーナー
4コーナー
4コーナー〜最後の直線
最後の直線①
最後の直線

ゴールイン

今年の姫路開催は、時折強風に見舞われたり、小雪が舞ったりはしていたが、馬場状態はほぼ「良」のコンディションで競馬が行われていた。
しかしながらこの最終週は天気が崩れて雨の中開催がスタート。初日は今年の姫路開催では初めて「重」で始まり、2Rで「不良」に。2日目も雨で「不良」、最終日の6日にようやく雨はあがって「重」に回復した。

吹き抜ける北風は冷たく強く、実況席の温度表示約9℃以上に体感的には寒く感じた。
それでも今年の姫路最後のメインレースに合わせるがごとく、この時間になると空を覆っていた雲もちぎれ、青空が広がってきた。

西日が差し込む場内に高らかにファンファーレが響き渡り、ゲートが開く。

好スタートは諏訪厩舎の2頭、ベラジオチャンプとベラジオドリーム。オケマルもまずまずの出を見せ、すぐさま前へと上昇。やや促して先手を取ったベラジオドリームの外に合わせるように2番手に控えた。注目の先行争いは大方の予想通りの馬順で1周目の3、4コーナー中間点へ。

その2頭とさほど離されることなく、1馬身半差でヒロノラファール、差がなく外にジーニアスレノンがつけて4番手。中団以下はそこから3馬身差でイザグリーンライト、また3馬身空いてマカセナハレ、さらに良いスタートを見せるもその後すぐ後方に下がったベラジオチャンプ、ダッシュが効かなかったサンジュウロウの2頭が並んで最後方の展開で、1周目のゴール板前を通過していく。

馬群全長15馬身ほど、序盤は淡々とした流れで、1、2コーナー中間からバックストレートへ。

向正面に入ると、「楽逃げはさせまい」といった感じで、2番手オケマルの下原騎手がやや促すと、それに呼応するように先頭を行くベラジオドリームの小牧騎手の手綱も動き始める。これでピッチは上がり、隊列は20馬身以上に。

これら2頭の動きに必死についていくジーニアスレノンが2馬身差の3番手、後退加減のヒロノラファールが4番手。そこから5馬身差と離れてイザグリーンライト以下が追走して、ゴールまで残り600m。

逃げるベラジオドリーム、その外にピタリと合わせるオケマル。ほぼ並んで先頭も、外のオケマルの手応えがいい。4コーナーの入り口、背後から接近するジーニアスレノンの動きを何度も確認した下原騎手は満を持して追い出した。

直線に入ると、オケマルがあっという間に先頭に立ち、後続を離して残り200m。
苦しくなったベラジオドリームを捕らえて2番手に上がるジーニアスレノンだが、前との差は広がるばかり。その後方からイザグリーンライト、マカセナハレら後続各馬が3番手のベラジオドリームに接近する。

後ろをちぎって10馬身、独走で残り100mを切るオケマル。そこからはもう流す形で圧勝も圧勝、最終的に2着に大差をつける大楽勝でゴールを決めた。

序盤、そしてペースアップの中盤と終始前の2頭についていったジーニアスレノンがしぶとく伸びて2着。
そこから10馬身空いてベラジオドリームが入り、なんとか3着は死守した。

戦前の2強ムードを吹き飛ばす大差勝ち、最後は流して走破時計2分1秒と、今年の姫路ファイナルに衝撃が走った。

今年の初戦を完勝した2歳王者は、一点の曇りなく、兵庫クラシック戦線へと歩みを進める。

◆オケマルはこれで昨年9月のデビュー以来、5戦5勝。ネクストスター園田、園田ジュニアカップに続いて重賞3連勝を決めた。最後は流して2着に大差をつける圧勝劇と、その衝撃の勝ちっぷりから、兵庫クラシック開幕を前にして早くも三冠馬誕生の予感すら漂う。

獲得タイトル

2024 ネクストスター園田
2024 園田ジュニアカップ
2025 兵庫若駒賞

◆下原理騎手は重賞通算96勝目。先月オディロンで制した白鷺賞に続いて、今年の重賞2勝目。下原騎手はこのレースと相性がよく、第1回(カラテチョップ)、第2回(タガノバロット)、第4回(メイレディ)、第9回(ナチュラリー)に続き、8年ぶり5度目の勝利となった。

◆盛本信春厩舎は重賞通算12勝目。昨年大晦日の園田ジュニアカップ(オケマル)以来の重賞制覇で、今年の重賞初V。

◆下原理騎手 優勝インタビュー◆
 (そのだけいば・ひめじけいば 公式YouTubeより)

「もう強いです!」

オケマルとの圧勝劇に鞍上の下原理騎手は、勝利インタビューの開口一番、気持ちを込めてこう一言。

陣営のゲート練習の成果もあってスタートを決めたオケマル。下原騎手は「落ち着きが出てきて、スタートもだいぶ上手になってきました」とその成長を口にした。

大方の予想通り、ベラジオドリームが逃げて、それをマークする形で道中進めていった。

「(位置取りは)スタートを出てから考えようと思っていたんですけど、ベラジオドリームがいいスタート決まっていたんで」と相手を見つつ2番手を選択、自身の想定通りのポジショニングとなった。

序盤は馬順に大きな変化はなく淡々と、そして向正面に入ると前の2頭がやや促してペースは上がり、縦長の展開に。

「ペースはいくらか流れているのかなと思いながらも、馬は全然余裕だったので、あとはソラを使うかだけでした」

その手応えどおり、直線で追い出されると、末脚弾けて一気に後続を置き去りに。終わってみれば2着のジーニアスレノンに大差をつける完勝だった。

「ビジョンを見ながら正直びっくりして、もう追うのをやめようと思うぐらい余裕でしたね。(懸念していたソラを使う面も)全然問題ないですね、まだ押していたらもっと伸びていたと思います」と、これだけのパフォーマンスを見せても、着差以上の強さだったことが伺える。

「前(2走前のネクストスター園田)は砂被って嫌がったところがあるので、(この先)強いメンバーと当たってそういう形になった時にどうかなと思います。前回の追い切り時よりも、今回の追い切りで跨ったときの方がもっとパワーアップしているのが分かったので、すごく成長力のある馬だなと思います」

と、唯一とも言える課題と確かな成長を口にした鞍上は、続けて今後の三冠への期待を問われると、「そうですね。自分がへまらなければいけると思います」と、ジョーク交じりに微笑んだ。

ここまで圧倒的なパフォーマンスを見せ続けるオケマルだが、その存在について、

「僕の騎手人生最後の宝物かなと思うぐらいです」

と言い放った下原騎手。

今回で重賞96勝目、数々の名馬に跨り、ダートグレード競走でも勝利している兵庫のトップジョッキーの言葉なのだから、相当の重みがあるし、この言葉には周囲も驚いたことだろう。

こう言わしめたオケマルとのこれからの活躍が楽しみで仕方がない。

目前に迫った重賞100勝に向けても、「この馬でぜひ決めたいと思います」との言葉どおり、この人馬でその勢いは加速していきそうだ。

総評

レース後、盛本調教師は、「勝つとは思ってましたけどね。それでもレース前はやはり気を引き締めていきました。しっかりスタートが決まって、下原騎手も逃げようと思えば逃げられた感じでしたが、本当にベストな位置で競馬ができたかなと思います。4コーナーまで逃げ馬をあまり楽させるなよとは思って見てましたけど、最後も問題なく、手応えが違いましたね」と喜んだ。
大差勝ち、タイムも優秀な2分1秒だったことを伝えると、「そんなにですか。とにかく馬場が悪かったのでずっと心配していましたし、ベラジオドリームも強い馬なんで、こんなに離すとは思わなかったです」と驚きと笑みが溢れた。
「下原騎手もこんな馬には出合えないと言ってましたけどね。本当に大事に大事に行きたいですね」とまた表情を引き締めた盛本師。
心肺機能の向上は見られたが、まだまだトモの使い方などには課題があるという。「秋口になったらもっと良くなると思っています」というから末恐ろしい。

初の姫路にも動じることなく、この日も馬房であくびをしていたということで、なんとも肝が据わっているが、このメンタルも強さのうちなのだろう。

以前は道中で自ら進んでいかないところもあったがそれも解消され自在性も増し、唯一の課題は下原騎手も挙げていたように多頭数になったときの馬込みへの対応。
しかしこれに対しても「そこは課題ですけど、まぁ問題はないかなと思います」と、そこまで意に介さない様子だった。

ちなみに馬名由来(オッケー)の勝利のポーズ、両腕で頭上に輪を作る通称”オケマルポーズ”は今回飛び出さなかったが…。

「ポーズはしてないですね。するところないでしょ、だって、ここ(検量前や表彰)でやってもふざけてるしな(笑)」

とのこと。これは菊水賞でのお楽しみということで…。

「重賞で連勝はあっても3連勝はないですし、実は2歳も3歳もこの馬でしか勝ったことないんですよ。すごい馬に出合えて、本当に宝物です」としみじみ語った盛本師。

このあとは菊水賞に直行とのこと。今回は8割位の仕上げだったというが、果たして今後の三冠戦線で100%のオケマルが見られるのか。ここまで来ると中央相手にどれだけやれるかも見てみたいがそれはまた先の話になるだろうか。

すでに「三冠馬が誕生するのでは?10年に1度出てくるレベルの馬では?」と周囲はざわついているが、果たしてこの先待ったをかける馬は現れるのか。
オケマルにはちぎられたが3着のベラジオドリームを10馬身離したジーニアスレノンも確かな成長を見せたし、そのベラジオドリームも予想された展開とはいえ、終始マークされる形は厳しかった。それに距離の課題を陣営は口にしていた分、距離が短くなり、コース形態も変わる次の菊水賞では巻き返しを見たい。

兎にも角にも、兵庫生え抜きにして、その兵庫の歴史に名を刻むかもしれない優駿の出現に胸の高鳴りが抑えられない。


 文:木村寿伸  
写真:齋藤寿一  

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