2025 摂津盃 レポート
2025年08月15日(金)
8月唯一の重賞は、夏の夜空を焦がす伝統のハンデ戦「第57回摂津盃」。昨年は“チーム柏原厩舎”がレースを支配、人気馬を抑えてワンツーフィニッシュを決める波乱の決着に。
今年も中距離重賞の常連や、連勝中と勢いに乗るA2馬、中央から転入後間もない馬など多士済々の顔ぶれで混戦模様の一戦となった。
負担重量は、エイシンレオの最軽量54キロからエイシンレジュームのトップハンデ57キロまでの最大3キロ差。牝馬のヴィーリヤが55.5キロなので実質的な最重量はこちらとなる。
重賞ウイナー3頭を含むフルゲート12頭がお盆シリーズのナイター重賞を盛り上げた。

1番人気(単勝2.1倍)は今回の紅一点、A2クラスのヴィーリヤ。
前走の兵庫サマークイーン賞は格上相手に初の重賞挑戦となったが、道中2番手からの競馬で逃げるプリムロゼを直線半ば捕らえて勝利を掴んだ。兵庫転入後、これで無傷の7連勝。これまでの6勝は全て1400m戦で逃げる競馬で勝ってきたが、この大一番で距離への対応、そして脚質の幅も示した。レース前に一頓挫あったという前走とは違い、この中間も順調で、軽めの調整ながら迫力のある動きも披露した。実質的な最重量ハンデとなる牝馬の55.5キロを跳ね除け、今度は牡馬を相手に重賞連勝となるか。
2番人気(単勝3.3倍)は、こちらも今年に入って無傷の5連勝と勢いがあるA2のエイシンレオ。
前走のB1B2の混合戦では、スタート後手を踏み、道中外々回りながら追い上げ、最後は粘るソニックをねじ伏せた。このレースを制したことで摂津盃への出走がなんとか叶い、陣営も安堵。今回は前回の59キロから54キロと斤量も軽くなり、重賞初挑戦初制覇のムードも高まる。父エイシンヒカリ譲りの気性から調教するのも一苦労のようだが、状態面は問題なし。兵庫生え抜き17戦14勝という今後も楽しみな素材が、格上相手にタイトルを手にできるか。
3番人気は、単勝6.4倍でエイシンレジューム。
中央3勝の実績を持って、この夏兵庫に転入。転入初戦のA1A2混合戦では発馬で出遅れながらも、外を回って3角から早め先頭、後続をちぎって圧巻の勝利を見せた。前走は2着に敗れたが、相手はダートグレード勝ちもあるオマツリオトコとあって悲観の色はない。中央在籍時を含めてここのところの主戦場は1400mだが、距離延長もトップハンデ57キロも跳ね返し、兵庫中距離戦線の主役に名乗り出る。
4番人気は、単勝8.9倍でブラックバトラーが続いた。
道営三冠では北斗盃を制し、残り2レースでも2着と好走。準三冠馬的実績を引っ提げて兵庫に転入してきた。兵庫籍になって、ここ5戦は全て3着内と安定した成績だ。抜け出すと遊ぶ面があるが、そうした課題を克服し、今度は兵庫で輝きを放つか。
それ以降は人気が乖離し、5番人気の単勝17.5倍でフラフが続いた。A2までは連勝街道を歩んでいたが、A1昇格後の近走は若干勢いが鈍っている。今回オープンの壁を超えられるか注目だ。
出走馬












レース














ゴールイン
ここ最近は連日の猛暑に加え、夕方から天気が急変し短時間の集中豪雨に見舞われることがしばしばだが、この日も5レースのパドック前に横なぐりの雨が降り、本馬場入場を終える頃にもう雨は止んでいた。この雨の影響で馬場状態は「やや重」から「重」に一段階悪化した。
お盆シリーズの3日間連続開催最終日とあって、5400人を超える来場者で大いに賑わったその金ナイター。そのメインレースのファンファーレが割れんばかりの拍手、歓声と共に夏の夜空に響き渡った。
好スタートを決めたのは外のウインドケーヴと最内のヴィーリヤ。ウインドケーヴの田野騎手がじわっと行く構えを見せると、ヴィーリヤの杉浦騎手はすぐに引いて、前走同様2番手を選択。大方の予想通り、この2頭が先行する展開になった。3番手グループにはフラフ、ブラックバトラー、メイショウシマトの3頭が続き、それらに接近しながらエイシンレジューム、タイキフォースが中団を形成。サンライズホープが差がなく追走し、そこから2馬身差でスマートビクター、ナムラタタ、そして最後方にコンドリュールがつける展開でスタンド前へと出る。
馬群全長15馬身ほど、序盤はさほど速くない流れで1周目のゴール板前を通過。
各馬が大きな歓声を背に受けて1コーナーのカーブへと向かう。今年も逃げの形を作ったウインドケーヴが先頭、切れ目なく2番手にヴィーリヤ、3番手にフラフとメイショウシマトが続き、向正面に入ると徐々に各ジョッキーの手が動き始めてペースが上がってきた。
ブラックバトラーの背後、中団から押し上げようというエイシンレオだが、なかなか前との差が詰まらない。それよりも勢いよく外からエイシンレジュームが上昇して3コーナーのカーブへと入る。
この時点でハナを切っていたウインドケーヴが早くも後退し、ヴィーリヤが先頭に変わる。半馬身差でフラフが続き、その外から前を捕らえんとエイシンレジュームが一気に追い込み、4コーナー手前で僅かにヴィーリヤの前に出た。そこから2馬身差の4番手グループも3頭広がり、エイシンレオ、ブラックバトラー、そしてその間を通ってナムラタタがいい勢いで単独4番手に浮上し、直線の攻防へ。
早め先頭から押し切りを図るエイシンレジューム、その内で食い下がるフラフ。最内のヴィーリヤは3番手に後退、そして外からナムラタタがぐんぐん差を詰めて残り150m。
フラフを振り切ってエイシンレジュームが2馬身リード、するとすかさず外から迫ってくるナムラタタ。最後はこの2頭の争いに。ゴール前、ついに前を捕らえたナムラタタ。
最終的には後ろを1馬身1/4離して、鮮やかな差し切り勝利を決めた。ゴールの瞬間は右手で、そしてナムラタタの首筋を撫でて労った後は、左手のガッツポーズで歓声に応えた吉村騎手。その喜びようから会心の騎乗だったことが窺える。メンバー中、ただ1頭上がり38秒台の末脚を繰り出したナムラタタ。相棒の一脚を信じた吉村騎手の見事な騎乗だった。
2着は、勝利まであと少しだったエイシンレジューム。中1週の臨戦も問題なし、負けはしたが早めに自ら動いて押し切りを図る強い内容だった。3着は先行勢で唯一残ったフラフ。こちらも後続に早めに来られてからしぶとく粘った。
2番人気のエイシンレオは4着、古豪サンライズホープが5着。1番人気のヴィーリヤは7着で兵庫で初めて土が付いた。
9番人気、3番人気、5番人気の決着で3連単の配当は71万7390円と、ハンデ重賞らしく、今年も波乱の結末となった。

◆ナムラタタはこれで39戦8勝。馬主が福盛訓之氏に変わり、そして石橋満厩舎に転入後、3戦目で待望の重賞初制覇。重賞挑戦は9回目、摂津盃は2023年4着、2024年8着、そして今年三度目の正直で見事戴冠となった。
ザファクターの産駒としては、日本では中央、地方通じて重賞初勝利となった。
獲得タイトル
2025 摂津盃


◆吉村智洋騎手は、地方重賞通算51勝目。名古屋所属のコパノエミリアに騎乗して勝利した5月ののじぎく賞に続き、今年重賞2勝目。摂津盃は2022年にシェダルで制して以来、2勝目。
◆石橋満厩舎は、2022年に笠松のぎふ清流カップをクリノメガミエースで優勝して以来、重賞通算2勝目。今回が地元重賞初制覇となった。
◆吉村智洋騎手 優勝インタビュー◆
(そのだけいば・ひめじけいば 公式YouTubeより)

「いやー素直に嬉しいですね。久々に嬉しいです」と第一声、笑顔で答えた吉村騎手。
「かなり上手いこといったなと思って」と、何度も見せたガッツポーズの理由も添えた。
ナムラタタ自身も落ち着きはらって、発走前からやれそうな雰囲気を醸し出していたようだ。
前半は後方でじっくり構えていたが、
「(以前は)変にポジション取りにいくとハミ噛んじゃうと上がり向いて全然伸びなかったんで、一発狙うなら脚ためて、前半だけリラックスさせてあげないと脚は使えないと思ってたんで。上手いこといったかなと思います」と、最後の一脚に賭ける思惑通りの競馬ができたようだ。

道中や勝負所でも外を回さず、馬群の間を縫うように進むロスのない立ち回りから、最後は外に出していい脚を繰り出した。
「そうですね。向正面ぐらいから“光の道筋”が見えちゃったんで、これは来たなと」
と、この日一番のパワーワードが飛び出すとここから吉村節が止まらない。
これが中央、地方通じて初めての重賞制覇となった福盛オーナーとのレース後の熱い抱擁については
「いやー勝手に抱きにこられたんで、まぁされるがまま身を委ねましたけど(笑)」と、頬が緩む。
※ちなみに実際は吉村騎手が先に大きく手を広げてオーナーを迎え、抱き合っていた(笑)

「途中ゲリラの雨もありましたけど、最後まで残っていただいて、なおかつ僕が勝つところまで見ていただいて、お金も増えてこのまま帰ってもらえたら嬉しいなと思います」
と、最後のファンへのメッセージまで、その饒舌っぷりは止まらなかった。
レース運びも馬場読みも全てにおいて上手くいった会心の騎乗。
勝利インタビューではいつもクールな印象の吉村騎手だが、この時ばかりは終始ご機嫌、よほど思惑通りの騎乗ができたのだろう、その喜びが伝わってくる。
幾多のレースを勝ってきた兵庫のキングオブキングスにとってもこの勝利は特別なものになったようだ。
ちなみに単勝人気82.6倍での勝利は吉村騎手にとって重賞では過去最高配当となった。

総評


ちなみに、レース後しばらくしてから福盛氏と連絡を取ると、「石橋調教師と摂津盃を目標にしてきて、(それが)実ってよかったです。50回くらいレース映像を見直しています。吉村くんは100回くらい見てます(笑)」と返信が。今も喜びを噛みしめている様子だ。
ナムラタタの今後について石橋師は「(主戦場は)正直1400mでって考えていたんで。転厩前の競馬を見ていると1700mではちょっとかかるイメージがありましたし。でも今日はジョッキーも上手く乗ってくれたし、馬の状態が戻って折り合いがつけばこういう競馬もできるんだと分かりました。そうなってくると1700mも守備範囲になってきますし、距離の融通性も出て、選択肢が広がりました」と、嬉しい誤算もあり、とても収穫の多いレースとなったようだ。次走は馬の状態を見てから決めるとのことだが、ベテラン6歳にして輝き、そして可能性も広がったナムラタタの活躍にこれからも注目していきたい。
そして今回は壁に跳ね返されたヴィーリヤ、エイシンレオらの反撃にも期待だ。
文:木村寿伸
写真:齋藤寿一