2025 園田プリンセスカップレポート

2025年09月18日(木)

今年も兵庫の2歳重賞は牝馬限定の第27回園田プリンセスカップから始まる。グランダムジャパン2025の2歳シーズン開幕戦としてもお馴染みの競走だ。初戦を勝ってシリーズを優位に進めるのはどの馬になるのか注目を集める。

フルゲート12頭の予定だったが、北海道のイイデヒロインが出走取消で11頭となった(北海道3頭、川崎1頭、兵庫7頭)。どの馬が勝っても重賞初制覇となる。

単勝1番人気(1.2倍)は北海道のミスティライズ。1100mの新馬戦を勝つと、直近2走は重賞へ挑戦。勝ち馬には離されたがリリーカップ(門別1000m)2着、フルールカップ(門別1200m)2着と連対は外していない。今回は初の長距離輸送に距離延長、初コースと課題はあるが、鞍上には園田を知り尽くす吉村智洋騎手を確保。最内枠からどういった立ち回りをみせるのか注目だ。

地元兵庫のココキュンキュンが2番人気の5.9倍。新馬戦(820m)は3着に敗れたが、距離を1400mに延ばした次戦で初勝利をマーク。2着馬に大差をつけてインパクトを残すパフォーマンスをみせた。その後も豪快な競馬を披露して連勝を「3」まで伸ばす。牡馬の一線級と戦った前走は3着に敗れたが、これまでの経験を牝馬限定の舞台で発揮したいところだ。

川崎から参戦のサラサチャレンジが3番人気で単勝8.0倍。7月の新馬戦(川崎1400m)は2番手から抜け出して初陣を飾った。次走の初陣賞(準重賞)は果敢にハナを奪うと直線もしぶとい走りで3着と好走。前回は控える競馬でポジションを下げる所もあったが4着にまとめた。厳しいレースを経験できたことは今後に向けて大きな財産になる。初の遠征競馬、初の右回りがどうかだが侮れない存在だ。

上位3頭までが単勝10倍以下。あとはアップタウン、ハーティパーティ、ヴィルユキヒメの順で続いた。

重賞初騎乗の“ルーキー”小谷哲平騎手はナンチャッテセレブとのコンビで挑む。11年前に父・周平騎手が初重賞制覇を飾った「園田プリンセスカップ」で大舞台に立つ。

出走馬

1番  (北)ミスティライズ 吉村智洋騎手
2番 アオイアルザード 永井孝典騎手
3番 ハーティパーティ 川原正一騎手
4番 ヴィルユキヒメ 広瀬航騎手
5番 ココキュンキュン 山本咲希到騎手
6番 (川)サラサチャレンジ  (川)伊藤裕人騎手
7番 ハッピーコールズ 新庄海誠騎手
9番 スマイルフレイヤ 松木大地騎手
10番 (北)アップタウン 鴨宮祥行騎手
11番 クリスタルピット 大山龍太郎騎手
12番 ナンチャッテセレブ 小谷哲平騎手

レース

スタート直後

正面スタンド前

1コーナー手前

2コーナー向正面

向正面

3コーナー

3~4コーナー中間

4コーナー~直線入口

最後の直線

最後の直線②

最後の直線

最後の直線④

ゴールイン

レース当日は15時前後に雨雲が通過したものの、馬場を変化させるような雨量にはならなかった。雨が降った影響で32℃まで上がった気温が29℃台まで低下。暑さは和らぎ過ごしやすい環境の中でレースが実施された。パドックでうるさい面をみせる馬はいたが、ゲート入りは順調ですぐにスタートが切られた。

飛び出しは若干バラついたが大きな遅れはない。発馬五分のミスティライズは無理せず控える競馬を選択。行きたい馬を行かせて外へ持ち出そうとしている。逃げ馬不在で序盤戦は各馬様子をみながらスタンド前を通過。押し出される形で内からアオイアルザード、ヴィルユキヒメ、ハーティパーティが前に浮上。外からサラサチャレンジ、ナンチャッテセレブが続く。その直後の6番手インにココキュンキュンがつける。外へ切り替えたミスティライズは中団の7番手を追走。その後ろにアップタウン、ハッピーコールズが続く。後方2頭はクリスタルピット、スマイルフレイヤの順で1コーナーを通過した。先頭から最後方まで10馬身圏内。11頭固まった状態でスパイラルカーブを曲がっていく。

アオイアルザード、ヴィルユキヒメの並びで残り800mを通過するとサラサチャレンジがじわっと浮上。内にいたハーティパーティと3番手は並走となる。中団にいたミスティライズも早めに動いて4~5番手の外へと押し上げる。その内にいたココキュンキュンはじっと脚を温存。その後ろも切れ目なくアップタウン、ナンチャッテセレブ、ハッピーコールズ、クリスタルピットと続く。2馬身遅れてスマイルフレイヤが最後方のまま勝負どころに差し掛かる。

3コーナーの坂を上りきるとサラサチャレンジが仕掛ける。前の2頭を捕まえて先頭に出ると、ミスティライズも外から離れずに続く。レースを牽引したアオイアルザード、ヴィルユキヒメは苦しくなった。早めに動いた2頭を見ながらココキュンキュンも徐々に前との差を詰めていく。その後ろはハーティパーティ、アップタウンが続き、後方待機のクリスタルピットも加速を始めて7番手に押し上げた。後続の馬達は徐々に置かれていき脱落。優勝争いは7頭に絞られ4コーナーに入る。

先頭のサラサチャレンジは脚色を保ったまま直線に入った。馬場の真ん中へと持ち出したココキュンキュンが良い勢いで迫り、1着争いはこの2頭によるマッチレースとなる。ミスティライズは馬場の四分どころを通るが勢いが鈍って後退。ハーティパーティ、クリスタルピットとの3着争いとなる。アップタウンは伸びを欠き後退した。先頭争いは残り100mを過ぎてもお互い譲らず激しい追い比べが継続。しかし、ココキュンキュンの決め手が優り、ゴール手前できっちりサラサチャレンジを差し切った。

1馬身半差の2着は早めに動いて見せ場を作ったサラサチャレンジ。初の遠征競馬、初の右回りと乗り越えなければならない課題はあったが、持ち前のしぶとさを遺憾なく発揮した。3着争いは大外から鋭い脚を披露したクリスタルピットが先着。これまでとは違う差す競馬だったが上がりの脚は一際目立っていた。4着は終始インをロスなくまわったハーティパーティ。1番人気のミスティライズは5着で門別でみせていた鋭い末脚は影を潜めた。

勝ち時計は1分31秒9。園田プリンセスカップの地元馬勝利は2022年のアドワン以来、3年ぶりだった。

◆ココキュンキュンは2018年の皐月賞を制したエポカドーロの産駒。通算成績6戦4勝。

獲得タイトル

2025 園田プリンセスカップ

◆山本咲希到騎手は重賞通算6勝目。昨年のウインターチャンピオン(佐賀)以来の重賞勝利。北海道から兵庫に移籍して3年目で園田・姫路の重賞初制覇。

◆長南和宏厩舎は重賞通算5勝目。2022年の摂津盃以来、3年ぶりの重賞制覇。

◆山本咲希到騎手 優勝インタビュー◆
 (そのだけいば・ひめじけいば 公式YouTubeより)

「ポジション取りも完璧でしたし、あとは追い出すタイミングだけでした」と、重賞の舞台で渾身の騎乗をみせたレースを振り返った山本咲希到騎手。序盤のポジションは4~5番手。先行勢をみながら競馬を進めた。

「先生とも話し合ってそのポジションを取ろうということになりました。実際にその場所を取れて良いリズムで走ってくれましたね」

前走は牡馬の一線級と戦って敗れたが、3連勝時にみせていたあの末脚が牝馬限定の一戦で蘇り、直線で粘るサラサチャレンジをきっちり捕らえた。

「これまでのレースをみてもラストは絶対脚を使ってくれる馬なので届くと思っていました。馬体も立派ですし、2歳牝馬らしからぬ前向きさがある所は強みです」

デビュー戦(5月29日)の馬体重は480kg。その後は体重を維持しながら夏のレースへと挑み勝利を積み重ねていった。暑さ負けすることなく今回は過去最高体重の490kg。牡馬に負けない恵まれた体格の持ち主だ。

「馬の後ろに入れば折り合いもつきます。あとは気性面の成長が出てきてくれたら距離が延びても対応できるかと思いますね」

乗り越えなければならない課題はあるが、まだまだ伸び盛りの2歳馬。これまでの勝ち馬はここをステップにさらに上のステージへ駆け上がった馬も多い。更なる成長を期待すると共に兵庫のファンに夢をみせてほしいものだ。

北海道から兵庫へ移籍して3年目の山本咲希到騎手は重賞通算6勝目。兵庫移籍後は2勝目。昨年は佐賀のウインターチャンピオンを制していたが、園田・姫路では初めての重賞勝利となった。

「嬉しく思いますし、またこの場に来られるように頑張ります」と、簡潔に喜びを語った。名手揃いの兵庫で苦しむ時期もあったがこの勝利をきっかけに飛躍を遂げてほしい。

「個人的な話なんですが、今日(9月18日)は妻の誕生日で勝てて良かったなと思います。『いつもありがとう』と伝えたいです。お誕生日おめでとう!」と、お立ち台で妻へバースデーメッセージを送った。

勝利という名の最高のプレゼントを贈り、弾みをつけた山本咲希到騎手。この後も続く秋の重賞戦線での活躍が期待される。

「思い描いた通りの競馬でしたね」と、表彰式を終えた長南和宏調教師が微笑みながら語った。

「なるべく前に強い馬を目標にしていってくれと伝えていました。位置取りによって向正面で早めに仕掛けるか、遅らせてスパートするのかのどちらかでしたが、騎手が上手く乗ってくれて安心して見ていられました」

完璧なエスコートに導かれたココキュンキュン。同世代の牡馬を一蹴した上がりの脚は遠征馬相手にも通用した。

「流れる競馬の方が折り合いはつきやすいのかもしれない。強いメンバーと戦った方が能力を発揮できるタイプでしょうね。ラストはバテずに長く良い脚を使えるのも武器です。血統的に距離は長い方が良いかもね。ただ、気性が激しいのでこの先も折り合い面が課題になると思います」

どの馬もデビューしてすぐ完璧にレースができるわけではない。実戦を積みながら短所を改善し、長所をさらに磨くこともできる。夏の終わりに兵庫のニューヒロインが誕生。園田・姫路のファンを魅了する走りに期待したい。

総評

重賞勝利を掴むまでの道のりは決して楽なものではなかった。
「中間にトラブルがあって立て直すために間隔を空けました。ただ、調教メニューをこなしていくにつれて良い動きをみせてくれていたんですね。一発あるなと思っていましたよ」
僅かな期間で立て直し、良い状態で挑めたのは陣営による努力の賜物だ。
「使う度に心身ともに成長しているので、まだ伸び代はありそうですね。今後はオーナーと相談して決めます。大晦日の園田ジュニアカップ、グランダムジャパンのレースも視野に入れていますよ。牝馬で名を轟かせる位置までいってみたいです」と、今後の目標も語ってくれた。重賞の称号を獲得したと同時に賞金の上積みにも成功。この先は余裕を持って秋以降の戦いへ向かえる。
今年は地元勢が奮闘をみせた。3着のクリスタルピットは実戦経験豊富で今回は差す競馬で上位に食い込んだ。重賞舞台で新境地を切り開き戦法に幅が出たのは収穫だ。4着のハーティパーティはインをロスなく立ち回って善戦。器用に競馬ができるのは今後に向けて大きな武器になるだろう。

ここ数年は高素質馬が兵庫でデビューしてレベルの高いレースを披露している。特に今年の2歳馬は新馬戦から好時計をマークする馬が次々と出現。9月25日(木)の兵庫ジュベナイルカップでは期待馬達が激突する。ココキュンキュンに続いて重賞タイトルを手に入れるのはどの馬か?2歳路線から目が離せない。


 文:鈴木セイヤ
写真:齋藤寿一 

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