2025 兵庫ジュベナイルカップ レポート
2025年09月25日(木)
第1回の覇者がマミエミモモタロー、第2回の覇者がラピドフィオーレ、今年で3回目を迎える2歳重賞「兵庫ジュベナイルカップ」。昨年、一昨年の覇者に続き出世街道を歩むことになるのはどの馬か。昨年はゴールデンジョッキーカップと同一日に施行され2000勝以上を挙げた騎手達の祭典直後に行われたが、今年はゴールデンジョッキーカップが水曜日に、この2歳重賞が木曜日に開催された。
今年は7月の1400mデビュー戦New Beginningで1分31秒台の好時計で駆けたゴッドフェンサー(1分31秒7)、リーガルタイム(1分31秒3)、アングレ(1分31秒3)、この3頭に大きな注目が集まった。
まだ数戦しか消化していない若駒、馬によっては2戦目の競馬、しかしながらそのレースぶりや時計面からもそう遠くない近未来に活躍を予感させるハイレベルなメンバー10頭が集結した。

その中で単勝1番人気(単勝2.1倍)に支持されたのがリーガルタイム。7月31日のデビュー戦(1400m)は、スタートしてから少し若さを見せる部分がありながらも、勝負所から当時深いと言われていた内の馬場を巧みに進んで今回再戦となるアングレとのマッチレースに持ち込み、クビ差で勝利をものにした。1分31秒3という時計は園田競馬場が白砂に変わった2020年以降の新馬戦(兵庫のレース名としては初出走)では最速タイムという記録のおまけつきであった。
管理する西脇・柏原誠路調教師は、「デビュー前からある程度イケるのではないかと評価は高かった。初戦はやや深い内を突く形にはなったけど2着の大本命の馬(アングレ)を競り落として絶賛の競馬ですよ。時計はあとで聞いて本当に驚きました。中8週空きましたが調整は順調で、調教もレースも鴨宮騎手に任せています。最終追い切りも好感触で彼も自信を持っています」と自信の表情を浮かべていた。果たしてどのようなレースを見せるのか、勝負所でどのようなコースを通ってくるのか興味は尽きない。
2番人気(単勝3.3倍)はゴッドフェンサー。7月4日のデビュー戦(1400m)は、楽な手応えで番手から抜け出し1分31秒7という時計を出していた。
管理する西脇・盛本信春調教師は、「とにかく能力検査でセンスのある動きを見せてくれていた。初戦は今後のこともふまえてレースを教えるということに主眼を置いていて、鞍上の吉村智洋騎手もそのように乗ってくれた。しかし夏負けもあったのか普段の様子から比較するとややおとなしくて、吉村騎手もこんなもんじゃないもっと走るよ、と辛口でした。レース後はすぐに牧場に出してここに直行するつもりで調整しました。どこからでも競馬できる強みはあり素質を感じている馬です」と高評価。今回10頭立ての1番枠からどのようなレース運びを見せてくれるのだろうか。
3番人気(単勝5.1倍)はゴッドフェンサーと同じく西脇・盛本信春厩舎が送り出すアングレ。デビュー前からかなりの評判馬、半兄のレイピアはJRA所属で今年の葵S(G3)で3着という成績を収め血統の裏付けも十分。それを知ってか知らずかなかなか1400mの新馬戦が成立せずにデビューが7月31日までずれこんだ。そのデビュー戦では抜群のスタートセンスを見せて先行したが前述のリーガルタイムに内をすくわれる形でタイム差なし(1分31秒3)の2着だった。8月20日のアッパートライ(1400m)では残り400m標識のところでジャンプする若さを見せながらも上がりを38秒1でまとめて逃げ切り勝ち。3戦目での重賞制覇に挑んだ。
盛本調教師は「デビュー前の動きから能力は感じていたがソエが出たり、出走が叶わなかったりで調整は難しかった。初戦は思い描いたようなレースでいい時計ではあったが、内をすくわれてしまった。2戦目は下原理騎手も考えて早めにスパートする形になった。ジャンプに関しては何かに驚いたのかなと思っているが普段そういう仕草や悪さを見せる馬ではないので大丈夫だと思っている。レースぶりに関して、逃げにはこだわっていない。まだまだ幼い面もあるが能力はあるのはわかっているので期待している」と語っていた。この世代も盛本厩舎から世に羽ばたくスターホースが誕生するか。
4番人気(単勝9.0倍)はミルトイブニング。6月12日のデビュー戦(820m)に勝利し、7月24日のオープン特別に出走予定も左前肢挫傷のため出走取消、しかし返す刀で8月7日のアッパートライ競走(1400m)に出走すると粘り強い走りを見せて勝利しメンバー中唯一の2勝馬として出走にこぎつけた。
5番人気(単勝9.4倍)は北海道の門別競馬場でデビューしたエイシンイワハシル。早々と5月22日にフレッシュチャレンジ(1100m)で初戦勝ちを収め、6月24日の重賞・栄冠賞(1200m)では3着、8月7日の重賞・サッポロクラシックカップ(1200m)7着のあと兵庫県競馬へ移籍しここで当地初戦を迎えた。
6番人気のポアゾンポレスターは単勝29.4倍となり6番人気以降はオッズの観点では上位5頭と差が開いた。
出走馬










レース

スタート

スタンド前

2コーナー~向正面

向正面

3~4コーナー

4コーナー~最後の直線

最後の直線①

最後の直線②

最後の直線③

ゴールイン
ようやく気候は秋めいて、日中30℃を超えることが少なくなりこの日も最高気温は28℃台。午前中に少し雨がパラつくシーンも見られたがそれも数十分程度、厚い雲に覆われながらもその後は雨に見舞われずに天候は曇り、馬場状態は良で第3回兵庫ジュベナイルカップのスタートを待った。ゲートが開く直前で内枠の2頭、マルカボヌールとゴッドフェンサーが脚をバタつかせ首を下げるなど少しうるさい仕草を見せながらも事なきを得て、いよいよゲートが開く。
後手を踏んだのはマルカボヌール。ゴッドフェンサーはまずまずの出を見せたが外枠の先行勢のダッシュが速い。メヘラーンガルが積極的に前へと上がり、さらに外のヤクモドリームが抜群の出脚でハナを叩いていった。ゴッドフェンサーが3番手集団のインコース、外からアングレ、間のエイシンイワハシル、やや外目のポアゾンポレスターと共に3番手集団を形成した。それらを2馬身近く後方で見る形でリーガルタイムとミルトイブニングが息を潜めて1周目ゴール板の前を通過していった。
後方集団にはマルカボヌールとパズー、決して縦長の展開ではなく馬群の全長は8馬身程度であったが淀みない流れで1コーナーから2コーナーのカーブへと入っていく。
紅一点のヤクモドリームが軽快なスピードでレースを進める。これにメヘラーンガルもつかず離れずついていく。
3番手集団の外にいたアングレが先頭集団を追う体勢を作り、その内にエイシンイワハシルが入った。5番手集団になったゴッドフェンサー、ポアゾンポレスター、その間を割っていくリーガルタイムは上昇気配を見せる。そしてここで一気にレースを動かしていったのは大山真吾騎手だった。好位集団の直後で大外に出たミルトイブニングがスパートを見せて先頭グループに接近してきたのだ。この間に一番内にいたゴッドフェンサーはややポジションを下げる形になった。これにマルカボヌールが接近し、パズーはやや遅れた最後方となり3コーナーへ殺到。
園田競馬場では8月に入ってから820m、1230mなどの短距離戦を除いて勝負所の3コーナー(1700mや1870mでは2周目の3コーナー)の攻防をパトロールタワーからのカメラが捉えている。ぜひこのレースの勝負所のカメラワークをご覧いただきたい。3コーナーに入るところで先団にいる7頭がほぼ一塊となっているが、ここで各馬各ジョッキーの思惑が交錯し、リーガルタイムはやや狭くなりきもち後退、空いたスペースにうまり潜り込むエイシンイワハシルの姿が見られる。この攻防がこのレースのキモとなったといっても過言ではない。
まくりに出たミルトイブニングにアングレが抵抗してこの2頭が先導して4コーナーへと向かう。先行していたヤクモドリームとメヘラーンガルは食い下がるも後退気味となる。その背後から手応え良くエイシンイワハシルが迫る。
立て直したリーガルタイムが初戦とは違い馬群の中から外を回る形でスパートをかけた。ゴッドフェンサーは内からようやく外に持ち出して追い上げの構えで4コーナーから直線の勝負へ。
直線に入ってアングレがミルトイブニングを振り切って逃げ込みに入る。しかしその外に出てきたエイシンイワハシルが伸びてくる。そのさらに外からエンジンかかったリーガルタイムも末脚を繰り出してきた。この3頭が完全に抜け出して残り150mの激闘へ。
道中で脚を使ったミルトイブニングはさすがに苦しくなってここまで。内からゴッドフェンサーがじわじわ伸び、最後方にいたパズーも脚を見せているが4番手争いまでの様相であった。
激闘の中、内でこらえていたアングレが力尽きて外の2頭に優勝争いは絞られた。最後の激しい追い比べはエイシンイワハシルか、それともリーガルタイムか!?
レースを制したのは・・・外の2頭の中では内にいたエイシンイワハシルの方であった。外のリーガルタイムがハナ差で2着。1馬身半差の3着がアングレという結果に終わった。そこから6馬身離れた4着がパズー。ゴッドフェンサーが5着で入線した。
門別競馬で3戦を消化して西脇・坂本和也厩舎に移籍し兵庫県競馬所属となったエイシンイワハシルが転入初戦で鮮やかな離れ業をやってのけた。ワンターンのレースしか経験していなかった同馬ではあったが、ずば抜けたそのセンスと馬場適性に思わず舌を巻いた。
そしてさらに驚いたのは勝ち時計。1分30秒2(良)。過去2年と比べても1秒以上速い決着で、ダートグレードや不良馬場を除けば白砂最速時計で駆け抜けたことになる。

◆エイシンイワハシルは門別3戦1勝。兵庫県競馬(園田)で1戦1勝。トータルでは4戦2勝。兵庫の一員となって即、重賞勝ち馬という肩書きがついた。
父はアジアエクスプレス、母はエイシンヒマワリ。一歳上の半兄エイシンハリアー(父エイシンヒカリ・2025兵庫ユースカップ)に続いて、兄弟で兵庫重賞制覇となった。
獲得タイトル
2025 兵庫ジュベナイルカップ


◆デビュー5年目の大山龍太郎騎手は重賞2勝目。昨年の9月園田チャレンジカップ以来、ちょうど1年ぶりの重賞制覇となった。2024年の園田チャレンジカップは高知競馬に所属するイモータルスモークでの優勝、今回は自厩舎である坂本和也厩舎の管理馬での嬉しい重賞制覇となった。
◆西脇・坂本和也厩舎は重賞10勝目。エイシンイワハシルの半兄エイシンハリアーが勝利した本年兵庫ユースカップ(姫路1400m)に続いて今年重賞2勝目。大山龍太郎騎手とのコンビでの重賞勝利は初。
◆大山龍太郎騎手 優勝インタビュー◆
(そのだけいば・ひめじけいば 公式YouTubeより)

大山龍太郎騎手に言わせると「調教のときから反応の良い馬という印象があったのでレース感や適性という意味ではあまり心配していなかった」とのこと。やはり強者揃いの門別で戦ってきた成果もあるのだろうが、その血筋が示す兵庫の馬場適性というところも無視できない。人気の上では5番人気ではあったが「マイナス8キロという馬体重も特に気になっていなかったし、調教同様しっかりとした走りで返し馬をできたので手応えを感じていた」と案外、自信を持っての一戦だったのかもしれない。
「人気馬が前に行くと思っていたのでそれについていこうと思っていた。レースは流れていたし、途中で動く馬もいてちょっと早いかなとも思ったのですが、十分手応えはあったので安心して追い出しました」
勝負所での激流に惑わされることなく、さらについていくことができたというのも周りを見た上で自分の馬の手応えを図って冷静な判断ができている証拠であろう。
「自分の中でマークしていた馬が後ろにもいたので少し心配しましたが手応えはよかったのでイケるかなと思った」
その脚色判断も功を奏し、激戦を制した立役者は静かに微笑んだ。

ただ、距離に関しては多少の不安があったようだ。「実は距離が心配だったのですが、全然問題なく適応してくれました。1700mだと長い可能性はありますが、これから鍛えて成長してくれたらこなせないことはないと思っています。これからも期待できます!」と彼にしてみればかなり力強く語ってくれた。

レースを終えて厩舎スタッフに出迎えられる場所で、大山龍太郎騎手は左手を大きく上げてガッツポーズを見せていた。自厩舎での重賞初制覇に関してはかなり思うところがあったのだろう。「重賞制覇はもちろんですが、とにかく自厩舎で勝てたのは初めてなのでとても嬉しいです。ホントにデビューしてからずっと、迷惑ばかりかけているのでこれからもっともっと恩返しができるよう頑張りたい」と、素直に感情を吐露した。
「この秋から冬にかけても楽しみな馬が揃っているのでしっかりと結果を出せるように、真剣にがんばっていきたいです!」
そう最後は力を込めて意気込んだ。
大山龍太郎騎手がやや苦手とするファンへの一言に対してははにかみながら「えーと、、、もっとがんばります!!」と彼らしいかわいらしさも出して締めくくってくれた。
この夏から秋にかけてますます好調の坂本和也厩舎、そしてこれからさらに大事な舞台での起用が増えて結果を出していくことが期待される大山龍太郎騎手。このコンビから目が離せない。

総評

笑顔の坂本調教師から「なんで手ぶらでくるんや~!」と叱責を受けていた。
これも彼らしい一面なのかもしれない。
「馬にとって今日は距離が未知数な部分があったんだけど、ヤネがうまく誘導してくれたよね。彼(大山龍太郎騎手)をこれからますます成長させていきたい。
頭をしっかり使えばもっと乗れるジョッキーになると思っている」と期待は大きい。

「門別の2戦目の重賞でレース内容が良かったので期待はしていたけれど、こちらに来てからまた一ヶ月も経っていないし追切は一本だけ。ただその追切の印象が良くてそこから毛ヅヤも良くなった」と兵庫に来てから短期間ではあるが状態アップを感じていたようだ。
「今後まだ良くなる余地を残している。ここで賞金も加算できたし、これから重賞路線を進んでいこうと考えています」と、伸びしろを残してこの怪時計。ダートグレード挑戦も視界に入ったか。
3コーナーで不利を受けながら僅差2着リーガルタイムの鴨宮騎手は「2歳戦だし、レースだし、仕方ないんだけど不利は痛かった。改めて強い馬であることはよくわかったので次に期待してください」と前を向いた。
「早く動かされた分、最後はしんどくなった」と下原騎手が語る3着アングレもこのレースの主役級を担ったことは間違いない。
最後方から追い込んだ4着パズー、揉まれる競馬を経験できた5着ゴッドフェンサー、勝負のまくりを見せた6着ミルトイブニング、さらに7着ポアゾンポレスターまで時計は1分31秒台。
ハイレベルなレースを実体験した2歳馬。これからの戦いに楽しみは膨らむばかり。ここから将来に向けて大切なレースがいくつも控えている若馬たちがどこでまた顔を揃えるのか。心躍らせながらその時を待ちたい。
文:井関隼
写真:齋藤寿一