2023 兵庫ユースカップ レポート
2023年03月02日(木)
2003年に創設されたが、その後2013~2018年の6年間休止を挟んで、2019年に復活。
過去の優勝馬にはオオエライジンやジンギといった兵庫を代表する名馬達も名を連ね、昨年の兵庫ダービー馬バウチェイサーもこのレースを勝つなど、クラシックへ直結する登竜門レースとして知られる。
2021年に東海・北陸・近畿地区交流戦から高知・佐賀勢も出走可能な西日本地区交流戦と生まれ変わり、同時に「兵庫ユースカップ」とレース名称が変わった。
昨年は出走全馬が地元馬だったが、今年は佐賀勢が初めて1頭参戦し10頭立て。今年は2年ぶりに姫路競馬場が戦いの舞台となった。
まず、注目の的は、門別4勝の実績馬ニシケンボブ。
兵庫の高本友芳厩舎への移籍初戦となった3歳AB特別ではのちに兵庫クイーンセレクションを勝つサラキャサリンに完勝し、続く笠松のゴールドジュニアも好位から抜け出すレースで重賞初制覇。
勝負所で遊ぶところがあり少しもたつく面を見せるが、エンジンがかかれば他馬を凌駕する末脚を見せる。
その豪快な勝ちっぷりからファンの期待を集め、単勝1.2倍という断然の1番人気となった。
もう一頭の重賞ホース、デビューから3連勝で兵庫若駒賞を制したベラジオソノダラブにも注目が集まった。
距離が伸びた1700m戦で連敗したものの、園田ジュニアカップは最後までスマイルミーシャに食い下がる走りを見せての2着。
デビューから手綱を取り続けた田中学騎手に替わって、坂本厩舎所属の竹村達也騎手と初めてタッグを組むことに。
レース当日は朝からずっと3番人気に甘んじていたが、締め切り間際で逆転して最終的には2番人気(単勝5.3倍)だった。
JRAの芝で未勝利戦を勝ち上がったが中央1勝クラスで苦戦、しかし兵庫移籍後に鋭い末脚を繰り出してオープン連勝を飾ったビキニボーイが3番人気(単勝5.6倍)の支持を受けた。
2度にわたる中1週での出走という強行軍が懸念材料ではあったが、田中学騎手が継続騎乗ということもあって重賞馬ベラジオソノダラブと差のない人気を集めた。
あとは佐賀のテクノゴールドが大きく離れた単勝21.2倍の4番人気で続き、オッズの上では、横綱ニシケンボブにベラジオソノダラブとビキニボーイの2大関がどこまでやれるのか・・・そんな戦前の雰囲気だった。
スタートは、ニシケンボブとベラジオソノダラブは五分に出た一方で、ビキニボーイはやや出遅れてダッシュもつかなかった。
1コーナーまでにディオスメッセージがハナを奪うと、ベラジオソノダラブがその外2番手へ。ニシケンボブはやや進みが悪く、出鞭が数発入って中団ポジション。ビキニボーイは馬群から離れた最後方追走となった。
いつも勝負所でエンジンのかかりが遅いニシケンボブは、それを見越して吉村騎手が向正面入口から早目の仕掛け。一気に中団から好位に押し上げると、その動きを気にしていた竹村騎手も残り600m標識でベラジオソノダラブに鞭を入れてゴーサインを出した。3コーナー手前で逃げるディオスメッセージを抜いて先頭に立ったベラジオソノダラブが、最後の直線もそのまま後続の追い上げを封じ切り優勝。
3頭大激戦の2着争いは、道中インをロスなく立ち回ったビキニボーイがハナ差2着に上がり、3着にニシケンボブ。2頭の真ん中で逃げ粘ったディオスメッセージがアタマ差で4着だった。
ベラジオソノダラブが兵庫若駒賞に続く2度目の重賞制覇を果たした。
鞍上の竹村達也騎手は前日(3/1)に40歳の誕生日を迎えたばかり。師匠である坂本和也調教師の「弟子にタイトルを取らせてあげたい」という想いから回ってきたチャンス。師匠とオーナーの期待に、“勝利”の一発回答できっちり応え、30代は取れなかった重賞タイトルを12年ぶりに掴んだ。
ベラジオソノダラブは、昨年の兵庫若駒賞以来となる重賞2勝目。
1400m戦はこれで4戦4勝となった。
獲得タイトル
2022 兵庫若駒賞
2023 兵庫ユースカップ
竹村達也騎手は重賞3勝目。
2011年に当時福山競馬場で行われていた若草賞をリジョウクラウンで制して以来、12年ぶりとなる重賞制覇。
地元重賞は2010年の園田プリンセスカップ(リジョウクラウン)以来の勝利。
姫路の重賞は初制覇。
坂本和也厩舎は重賞7勝目。
ベラジオソノダラブで勝利した昨年の兵庫若駒賞以来の重賞制覇。
姫路の重賞は2021年の兵庫ウインターカップをナリタミニスターで制して以来となる2勝目。
出走馬
レース
前日は実況席の温度計でも17℃くらいまで上がって春の陽気だったが、前夜の雨を境に気温は低下。レース発走時には7℃まで冷え込んだ。お天気は回復したが、馬場状態「やや重」でスタートを迎えた。
スタート
3ディオスメッセージが好スタート。人気の4ニシケンボブと5ベラジオソノダラブは五分のスタート。1ビキニボーイがやや立ち遅れダッシュもつかず最後方に。
1周目スタンド前
好発の3ディオスメッセージが逃げ、その外に5ベラジオソノダラブがつけた。さらに外から佐賀の7テクノゴールドが3番手。好位に2スマルト、6ブエラフェルテとなった。
1~2コーナー
4ニシケンボブは序盤出鞭も入っていたが中団となり、その外に9スネークアイズ。後方に8ヤシロケンチャンと10ウィンチップで、最後方にポツンと1ビキニボーイ。馬群全長は10馬身ほど。
向正面入口
向正面に入る手前から最後方にいた1ビキニボーイが内から上がる構えを見せ、4ニシケンボブにも残り800m過ぎで早くも鞭が飛んだ。人気馬2頭が早くも仕掛ける展開に。
3コーナー手前
盛んに後ろを警戒していた5ベラジオソノダラブの竹村騎手だったが、外の4ニシケンボブの上昇を確認するとこちらもスパート、鞭を入れて一気に先頭を奪う。4ニシケンボブが外3番手、1ビキニボーイも中団まで浮上。
3~4コーナー
5ベラジオソノダラブが2馬身リードを広げて先頭。2番手に3ディオスメッセージと4ニシケンボブ。1ビキニボーイは内を捌いて4番手へ。
最後の直線①
残り200m、馬場の真ん中に持ち出された5ベラジオソノダラブが2馬身のリード。2番手は内中外で3頭が横に広がって並ぶ。
最後の直線②
早目先頭の5ベラジオソノダラブが粘る。2番手争いは依然として横一線。逃げ粘る3ディオスメッセージの内から1ビキニボーイ、大外4ニシケンボブ。
最後の直線③
5ベラジオソノダラブの脚が止まらない。竹村騎手の12年ぶりの栄冠が目前。
5ベラジオソノダラブが後続に2馬身半差をつけて優勝。兵庫若駒賞に続く重賞2勝目を挙げた。大激戦の2着争いは、最内の1ビキニボーイが制し、外の4ニシケンボブが3着。人気薄ながら良く粘った3ディオスメッセージが4着だった。
ベラジオソノダラブが2番手追走から早目に先頭立って、そのまま押し切り重賞2勝目を挙げた。
デビューから手綱を取り続けた田中学騎手に替わって、今回は竹村達也騎手との初コンビだった。
竹村騎手は、溝橋一秀厩舎所属時代の2010年にリジョウクラウンで園田プリンセスカップを制し、デビュー10年目にして重賞初制覇を果たした。翌年には、同じくリジョウクラウンで福山の若草賞を制し重賞2勝目を挙げたが、その後タイトルとは無縁の30代を過ごした。
この間、松浦正勝厩舎、盛本信春厩舎と所属厩舎を変え、2020年2月から坂本和也厩舎所属となっていた。
それから丸3年、厩舎の一員として努力している姿を見続けていた坂本師は、年末の園田ジュニアカップのあとオーナーに「年明けの一発目はうちの竹村で行かせてください」と打診、「弟子に重賞を取らせたい」という想いを酌んでオーナーサイドも快諾したという。
かくして兵庫ユースカップに臨んだベラジオソノダラブと竹村騎手。
「調教からしっかり乗っているので、レースでは馬の気持ちを崩さずリズムよく走ることを意識していた。スタートだけは集中して、出れば前に行けると思っていた」という竹村騎手の言葉通り、スタートを決めて2番手で流れに乗る理想的な展開に持ち込んだ。
「逃げか2番手で進めて、3コーナーから離していけば勝てる」と坂本師から指示を受けていた竹村騎手は、ニシケンボブの仕掛けのタイミングを気にして、向正面で何度も外を確認。そして、外からライバルが上がってきたタイミングに合わせて鞭を入れてスパートした。
「後ろから来るのは分かっていたので、早目に仕掛けるイメージはしていました。3コーナーで振り切れば、(ゴールまで)押し切れると考えて乗りました」と、きっちり役目を果たした。
前日が40歳誕生日。“不惑”を迎えた竹村騎手は、まさに“迷いのない”騎乗ぶりで12年ぶりとなるタイトルを手にした。
「所属騎手を使って勝ちたい」という師とその決断を信じたオーナーが見つめる中でレースに臨んだ竹村騎手。
勝利騎手インタビューでは「素直に嬉しい気持ちです。オーナーさんと先生にチャンスをいただいたことに感謝しています。プレッシャーもあったんで、ホッとした気持ちが大きいです」と話し、安堵の表情を浮かべていたのが印象的だった。
竹村達也騎手 優勝インタビュー
(そのだけいば・ひめじけいば 公式YouTubeより)
一方の坂本師も、「普段は重賞でもそんなに緊張しないけど、今回はドキドキした。1回のチャンスを活かすも殺すも彼次第。もし負けたら色々と言われるかもしれないが、それも覚悟の上で決断した」と、弟子の騎乗を固唾を呑んで見守っていた。
「大きなプレッシャーの中で勝ったら成長に繋がる」という言葉は、竹村騎手にもそして坂本師自身にも言えることなのだろう。
「難の有る人生の方が”有難い”」と、敢えての挑戦をこれからも続けていく。
総評
竹村騎手は、「距離も問わない。(ポイントは)折り合いだけ。乗りやすい馬で、また活躍すると思うので応援よろしくお願いします」と愛馬の将来性を語った。
兵庫三冠の初戦でもある菊水賞には、園田ジュニアカップで接戦の末に敗れた相手スマイルミーシャが休み明けで出走を予定している。
また、今回は3着に敗れたものの管理する高本師が戦前「千七から千八の方が良いタイプ」と話していたニシケンボブや、中1週ずつの厳しいローテーションで出遅れながら2着に好走したビキニボーイも1700m戦ではさらに上積みがありそうだ。
写真:齋藤寿一
文:三宅きみひと