2025 楠賞 レポート

2025年11月6日(木)

2018年に3歳限定の全国交流重賞として復活した楠賞。過去にはイグナイター、エコロクラージュ、リンゾウチャネルなど地方を代表する馬達が勝利している出世レースだ。この舞台に進むにはこれまでの重賞レースで実績を残し選定されなければならない。厳しい競走を勝ち抜いた精鋭達が集結した。


今年も他地区から5頭の遠征馬が参戦。重賞勝ち馬は12頭中8頭。勝利はないものの善戦を続けている実績馬もいる。この時期恒例の3歳短距離最強馬決定戦は激戦ムードだ。

1番人気は、単勝1.7倍で名古屋のケイズレーヴ。メンバー中最多の重賞5勝。420kg前後の馬体重だが大型馬相手でも屈しない勝負強さを持つ。前走のゴールド争覇では古馬を一蹴して現在重賞4連勝中。最も勢いのある状態で兵庫へとやってくる。園田は5月の兵庫チャンピオンシップ(5着)で既に経験済。中2週での出走となるが引き続き鞍上は主戦の吉原寛人騎手(金沢)。前日に門別で重賞勝ち地方重賞199勝目を挙げて節目に王手を掛けた。勝てば、笠松所属時代の安藤勝己騎手が持つ地方最多重賞勝利記録である200勝に並ぶ。偉業を兵庫の地で決めるのか期待が集まる。

単勝2番人気(5.2倍)は大井のスマイルマンボ。重賞初挑戦だった昨年のハイセイコー記念で重賞初制覇。素早く先手を奪って後続を離す強い内容だった。その後は3歳ダートクラシック路線に矛先を向けるとダート三冠全てに出走。今回は距離短縮、初の園田コースとなるが、鞍上には兵庫のトップジョッキー吉村智洋騎手を鞍上に迎える。どういった化学反応が見られるのか注目したい。

単勝5.2倍の同率2番人気となったのが高知のジュゲムーン。昨年12月に道営から高知へ移籍すると川崎、船橋でダートグレードに挑戦して5着と健闘。古馬混合の条件戦を勝つとその後は重賞3連勝をマークして高知二冠を獲得。三冠目は兵庫のラピドフィオーレに阻まれたが、前走のサマーチャンピオン(佐賀 JpnⅢ)はJRA所属馬相手に差のない競馬で入着を果たした。楠賞を目標にじっくり時間を掛けて調整し兵庫へ乗り込んでくる。

4番人気は、単勝8.7倍で地元兵庫のべラジオドリーム。重賞は未勝利だが、これまで重賞2着6回、3着1回と大舞台でも堅実に走ってきている。前回の自己条件戦(C1)は勝たないと楠賞に出られないという状況だったが、危なげない競馬で勝利し目標としていたレースへの出走が叶った。これまでは兵庫無敗の三冠馬となったオケマル、今回も戦うケイズレーヴと名勝負を演じてきた馬だけに軽視は禁物だ。

その後はホーリーグレイル、ハーフブルー、ラピドフィオーレの順で人気が続く。3頭とも重賞勝ちのある実績馬で侮れない存在だ。

出走馬

1番  タンバブショウ 竹村達也騎手
2番 (大)ハーフブルー (大)笹川翼騎手
3番 ジーニアスレノン 広瀬航騎手
4番 (愛)ケイズレーヴ (金)吉原寛人騎手
5番 リオンダリーナ 下原理騎手
6番 エイシンハリアー 大山龍太郎騎手
7番 (川)ホーリーグレイル (大)矢野貴之騎手
8番 ベラジオドリーム 小牧太騎手
9番 (大)スマイルマンボ 吉村智洋騎手
10番 ラピドフィオーレ 田野豊三騎手
11番 (高)ジュゲムーン (高)赤岡修次騎手
12番 キングスピカ 笹田知宏騎手

レース

スタート
1周目スタンド前①
1周目スタンド前②
2コーナー~向正面
向正面
向正面~3コーナー
3~4コーナー
4コーナー~最後の直線
最後の直線①
最後の直線②
最後の直線③
ゴールイン

4年前に同レースを制したイグナイターの引退式が全レース終了後に行われるとあって場内は大いに賑わった。馬場コンディションは「良」。天気にも恵まれ最高気温は20℃台まで上昇。絶好の競馬日和の中で究極の戦いが行われる。ファンファーレが鳴り終わると場内からは大きな拍手が起きた。枠入りもスムーズで重賞のゲートが開いた。

スタートは多少バラつくも大きな遅れはない。先陣争いは内からハーフブルー、リオンダリーナ、べラジオドリーム、スマイルマンボの4頭。内を利してハーフブルーが逃げる展開。直後に内へ入れたホーリーグレイル、外にラピドフィオーレが続き、ゴール前を通過。一列後ろに3頭が並んで外からジュゲムーン、エイシンハリアー、ケイズレーヴの順。後方はキングスピカ、タンバブショウ、ジーニアスレノンの並びで1コーナーを通過した。

馬群全長は12馬身で向正面へ。並びに目立った変化がないまま残り600mを通過するとリオンダリーナのみが勢いを失い後退。その他の各馬はまだ余力がありそうで馬場の三分どころを通りながら仕掛けるタイミングを伺っている。すると、3コーナー手前で中団8番手付近にいたケイズレーヴが動く。空いている内ラチ沿いに入れて進出を開始。その動きを見たホーリーグレイルも同じルートを通って浮上を試みる。

残り400mを通過して前からハーフブルー、べラジオドリーム、スマイルマンボ、ラピドフィオーレの並び。そこにインからケイズレーヴが接近する。直後にホーリーグレイル、外にジュゲムーンが続いて4コーナーのカーブに入った。イン捲りを見せたケイズレーヴはぐんぐんスピードに乗り、直線の入り口では先頭を捕らえる。不意を突かれた先行勢も必死に抵抗。ホーリーグレイルは引き続きインを回る。ジュゲムーンは大外に持ち出して直線に入った。

勢いが衰えないケイズレーヴは残り200m手前で先頭に立つ。その背後にいたホーリーグレイルは内ラチ沿いから脚を伸ばし、首位争いはこの2頭に絞られた。ラピドフィオーレ、スマイルマンボも必死に食らいつくが、大外から伸びてきたジュゲムーンとの3着争いまで。ハーフブルー、べラジオドリームは勝負圏から脱落した。

経済コースを通ったホーリーグレイルが前を行くケイズレーヴとの差を徐々に詰めていく。残り50m付近で捕まえるとさらにもうひと伸びをみせてクビ差先着。直線の伸び比べを制して、地方3歳短距離ナンバーワンの称号を獲得した。

強気な競馬を見せたケイズレーヴは2着。敗れはしたが負けて強しの内容でこの先のさらなる成長を期待したい1頭だ。
3着争いを制したのは馬場の真ん中から追い込んだジュゲムーン。終始外を回りながらも長く良い脚を使って高知二冠馬の力を示してくれた。
アタマ差の4着は地元兵庫のラピドフィオーレ。久しぶりの1400m戦だったが、全国交流の強豪相手に引けを取らない走りで意地を見せた。人気上位のスマイルマンボは5着、べラジオドリームは6着と悔し涙を呑んだ。

川崎勢は楠賞初制覇。昨年のフジユージーン(岩手)に続いて今年も他地区の馬が勝利。これで全国交流戦として復活してから楠賞は、地元2勝、他地区6勝となった。

◆川崎のホーリーグレイルは重賞2勝目。1月のニューイヤーカップ(浦和)以来の重賞制覇。

獲得タイトル

2025 ニューイヤーカップ(浦和)、楠賞

◆大井の矢野貴之騎手は重賞通算66勝目。兵庫重賞は初制覇。

◆川崎の内田勝義厩舎は重賞通算40勝目。兵庫重賞は2勝目。2024年の兵庫ゴールドトロフィー(フォーヴィスム)以来の勝利。

◆矢野貴之騎手 優勝インタビュー◆
 (そのだけいば・ひめじけいば 公式YouTubeより)

「吉原騎手の地方重賞200勝を阻止できて嬉しい。喜びを感じています」

インタビューの冒頭で矢野騎手の口から飛び出した言葉に西ウイナーズサークル前に集まったファンから笑いが起きた。

今年も豪華メンバー集まった3歳短距離最強馬決定戦の「楠賞」。直線の伸び比べを制したのは、川崎のホーリーグレイルだった。最初のスタンド前ではインに入れて6番手を追走。終始ロスなく立ち回り脚をためていた。

「器用な馬なので出たなりに我慢できれば良い所があるかなと思っていましたが、よく我慢してくれました。自分のリズムで運べたのも良かったですね。向正面でどこが開くのか分からない状況で、その間に脚をためることができたのも大きかったです」と、振り返る。

この開催は外差しが決まりやすい馬場傾向だったこともあり、先行勢は深い内を避けながらの走行だった。勝負どころで吉原寛人騎手が、空いているインコースから進出を開始。ホーリーグレイルも同じルートを通ってその背中を追いかけた。この意表を突いた大胆な騎乗が勝利に結びつくことになる。

「『内から行くんだ。ズルいな』と思っていましたが、ひと呼吸入れられたことで最後の伸びに繋がりましたね。この馬の勝負根性には頭が下がる思いです」

相手強化の一戦だったが牡馬相手でも怯むことなかった。展開不問のレース巧者ぶりを発揮して1着2000万円という高額賞金の全国交流重賞を手中に収めた。

前走は船橋の1700mで勝ち馬とはアタマ差の2着。久々の実戦だったが適距離より長いレースでも良い走りを披露していた。

「前回は休み明けで仕上がり途上でしたが、陣営の皆さんがここに向けて仕上げてくれたので最高の結果を残せました」

ライトウォーリアなど数多くの重賞勝ち馬を輩出している川崎の内田勝義厩舎。昨年は園田ゴールドトロフィー(JpnⅢ)をフォーヴィスムで兵庫の重賞を勝っている。叩き2走目の大一番で万全の状態に仕上げてくるところはさすが川崎の名門厩舎だ。

「まだ3歳なのでこれからさらに良くなっていくと思います。この勝利を弾みにさらに大きい所で頑張ってほしいです」と、今後への期待を述べた。

矢野貴之騎手は今年9月のコリアカップを大井のディクテオンで勝利すると、初出場となった園田のゴールデンジョッキーカップも優勝している。楠賞の3日後に行われた北國王冠(金沢)でも重賞を制して乗りに乗っている状態だ。今年の楠賞は矢野騎手のここ一番の勝負強さが優ったが、各地の名手による見ごたえたっぷりの攻防が見られた一戦だった。

総評

「浦和に使いに行くと待機馬房で入れ込みますが、園田では到着後にカイバもぺろりと食べて、凄く落ち着いていましたね。状態としては一番良かったですよ。距離は合うのであとは馬場が合うかどうかでした」と、笑みを浮かべながら内田師が答えた。
今後は、「兵庫ゴールドトロフィー(12月25日・園田)か、東京シンデレラマイル(12月30日・大井)。オーナーと相談します」とのこと。深くて重た園田の馬場に順応した若き乙女。来月再び園田で見られるか、今後の動向に注目したい。
上位3着までは遠征勢が占める結果となったが、地元馬はラピドフィオーレが4着と奮闘を見せた。高知の重賞(黒潮菊花賞、西日本三歳優駿)で連勝したことをきっかけに一皮向けた走りを続けている。課題だった手前替えは1400m戦でもしっかりクリアした。
園田オータムトロフィーでは2着だったが、オケマルに挑んだ姿は記憶に新しい。強い相手と戦ってきた経験は今後にも繋がることだろう。この先はどの路線を歩んでいくのか今後に注目したい。

6着のべラジオドリームは持ち前のスピードで良いポジションを確保したが、後続からのプレッシャーも早く、最後は力尽きてしまった。しかし、これまで重賞戦線で差のない競馬をしてきているだけに、自分の展開に持ち込むことができれば強さを発揮するはずだ。現在はB2クラスに在籍しているため、まずは条件戦を勝ってクラスを上げなければならない。いずれ悲願の重賞制覇を見たいものだ。

フォーエバーヤングがアメリカのBCカップクラシックを制覇するなど、日本のダート競馬は年々レベルが上がっている。ダート改革の効果もあって地方競馬も負けじと各地でスターホースが登場。
兵庫では生え抜きのオケマルが無敗の兵庫三冠馬に輝いた。次走は園田金盃(11月27日)でマルカイグアス、アラジンバローズなどの古馬と激突する予定で、見逃せない一戦となる。

現2歳世代も兵庫は素晴らしい素質馬がデビューし大舞台でしのぎを削っている。
楠賞を制したイグナイター、エコロクラージュに続く逸材の登場に期待したい。


 文:鈴木セイヤ  
写真:齋藤寿一  

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