2025 園田金盃 レポート
2025年11月27日(木)
2025年の中距離No.1が決定する暮れの大一番「園田金盃」。2003年以来22年ぶりに11月の決戦となった。今年も事前にファン投票が実施され、5000票超えでの1位に輝いたのは無敗の三冠馬オケマルだった。
ファン投票の結果は以下の通りで、出走意思を示した5位アラジンバローズ、6位マルカイグアス、8位ラッキードリーム、12位ナムラタタ、13位ラヴィアンの6頭がまずは選出された。(ラヴィアンは直前回避)
さらに記者選抜でオディロンとフラフの2頭が選出。残りは自場収得賞金順で選ばれ、12頭が出走。重賞勝ち馬8頭(合計重賞勝利数38勝)の豪華メンバーとなった。
三冠馬オケマルは初めての古馬戦。ラッキードリーム、スマイルミーシャ、マルカイグアスと過去3年の覇者が全て顔を揃え、ダートグレードホースのアラジンバローズも参戦して、3歳馬オケマルの前に立ちはだかる。

騎手も他地区の名手が参戦する豪華な顔ぶれ。
下原騎手がオケマルに騎乗するため、アラジンバローズには高知の赤岡修次騎手。フラフには落合玄太騎手、ブラックバトラーには過去に重賞タイトルを獲ったコンビの阿部龍騎手という門別の実力者二人も参戦。ナムラタタには、過去に兵庫で冬期短期騎乗の経験もある岩手の高松亮騎手が騎乗した。

1番人気は、単勝1.3倍でオケマル。
菊水賞8馬身、兵庫優駿8馬身、園田オータムトロフィー大差勝ち。8戦8勝での兵庫史上初の無敗の3歳三冠馬に輝いた。前走後もさらにトモがパワーアップしたとのことで、胸を張って、初の古馬戦に挑む。
2番人気は、単勝4.5倍でアラジンバローズ。
昨年、佐賀のサマーチャンピオン(Jpn3)を勝利するなど短距離路線を歩んでいたが、今秋再び中長距離へ路線変更。鳥栖大賞を勝利し、前走JBCクラシック(Jpn1)でも6着と力を見せた。当初は次走東京大賞典の予定だったが、状態が良く、グランプリ参戦を決めた。
3番人気は、単勝5.8倍でマルカイグアス。
昨年の二冠馬にしてグランプリホース。今年は、冬場は勝ちきれないレースが続いたが、全国交流の六甲盃と姫山菊花賞を勝利し、古馬中距離戦線を牽引してきた。昨年に続く金盃連覇を狙う。
姫路の白鷺賞を勝った後、古傷を痛めて休養に入り、秋初戦は2着だったオディロンが単勝13.8倍で4番人気。夏に喉のポリープ手術を施し不振脱却を図る3年前の覇者ラッキードリームが47.9倍の5番人気で続いた。6番人気以下は単勝万馬券のオッズだった。
出走馬












レース
















ゴールイン
2008年のJBCデー以来、17年ぶりに1日に複数の重賞が組まれたこの日。最終12Rが園田金盃だった。
2日前の午前中にも雨が降り、一時「重」となった馬場は、完全には乾かず「稍重」のコンディション。晴れていた空も、午後からは徐々に雲が広がった。11Rの兵庫ジュニアグランプリの直前に通り雨はあったが、その雨もすぐに上がってくれた。
ブラスバンドH.B.B.の皆さんによる約2年ぶりとなる“通常重賞ファンファーレ”の生演奏に場内は盛り上がり、スムーズにゲート入りが完了した。
ゲートオープンと同時に、大外12番枠からラッキードリームが発馬良く逃げていくと、オケマルはすかさず2番手へ。3番手の好位組は、内ブラックバトラー、中オディロン、外マルカイグアス。その直後にアラジンバローズで、ナムラタタ、テーオーターナーと続く。フラフ、メイショウハクサンが並び、タイキフォースとスマイルミーシャは末脚にかける展開となった。スタンド前では、ペースは落ち着き、馬群全長10馬身弱で向正面へ。
残り800m過ぎからラッキードリームとオケマルがペースを上げると、3番手外にいたマルカイグアスにいち早く鞭が飛ぶ。しかし、ついていけずにポジションを下げてしまった。ブラックバトラーも後退し、代わって外からアラジンバローズが進出。オディロンと共に3番手で3コーナーを迎えた。
残り400m。2番手のオケマルは、逃げるラッキードリームに並ぼうと下原騎手が手を動かすが、1馬身差をなかなか詰められない。外に切り替えたオディロンがオケマルに1馬身差と迫る一方でアラジンバローズが後退。前3頭が後続を5馬身離して直線に入った。
内にラッキードリーム、真ん中にオケマル、外オディロンと広がって残り200mを迎えたが、勢いの差は歴然。外のオディロンが力強く抜け出し、2馬身差で優勝のゴールを駆け抜けた。
2着はオケマル。デビュー9戦目、初の古馬戦でついに初黒星。3着は1馬身半差でラッキードリーム。復活の兆しを見せる逃走劇だった。
マルカイグアスは3着馬から5馬身離された4着。最後は巻き返したものの、勝負所でペースが上がった時にすっと反応できなかったのが痛かった。5着はフラフ。摂津盃3着に続き、重賞で掲示板確保。
2番人気の期待を集めたアラジンバローズは、向正面で好位に取りつくも、コーナーで置かれてしまい9着に終わった。

◆キタサンブラック産駒の6歳牡馬、オディロンはこれで24戦7勝。元中央オープン馬で、兵庫転入後は5戦3勝(2着2回)に。今年の白鷺賞に続いて重賞2勝目。
獲得タイトル
2025 白鷺賞、園田金盃


◆吉村智洋騎手は重賞通算53勝目(今年4勝)。園田金盃は2勝目(2023年スマイルミーシャ以来)。
◆森澤友貴厩舎は重賞通算5勝目(今年2勝)。園田金盃は初制覇。
◆吉村智洋騎手 優勝インタビュー◆
(そのだけいば・ひめじけいば 公式YouTubeより)

レースを終え、引き揚げてきたオディロンと吉村智洋騎手は、まっすぐ引き上げず一度ファンの前へ。吉村騎手は大きく手を挙げ、その声援に応えた。
豪華メンバーの一戦を制した吉村騎手は、
「力があるのは分かっていたので、どれだけ信じて乗れるかっていうだけでした。うまくいきました」と顔をほころばせた。
「比較的人気馬が前を固めるんじゃないかなと思っていたので、人気馬のどれかの後ろ、できればオケマルの後ろを取りたかった。スタートもポンと出て、何もすることなくあのポジション、一番良いところを取れたかなと思います」とプラン通りにレースを進めた。

「もう抜群に折り合ってましたし、すごく手応えも良かったです。自分から動こうとは思っていなかった。前が動いてからどれか手応えのいい馬の後ろをついていって、直線は一番外に出して軽いところを走らしてあげれば、“突き抜け”まであると。4角回る時には、これはきっちり差せるなと思いました」と、盤石のレースを振り返った。
オディロンの長所については、「すごく操縦性がいいですし、しっかり反応もしてくれます。直線もしっかり伸びて、特に言うことがない馬」と愛馬に全幅の信頼を置いている。
盤石のレースに導いた吉村騎手の手腕もさすがだったが、
インタビューで「好騎乗でしたね!」と水を向けても、「そんなことないですよ。最高の騎乗というより、馬がしっかり力を出して走ってくれました。やっぱりオディロンだぞっていうのを見せられたんで良かったかなと思います」と吉村騎手はあくまで馬を褒め称えていた。

今回はトップジョッキーらしく、吉村騎手はお手馬が何頭か被ってしまった。摂津盃を抜群の騎乗で勝ったナムラタタの最終追い切りには、西脇まで赴いて騎乗し、主戦としての責任を果たした。
そんな中、騎乗馬にオディロンを選んだ。
「実力をきっちり出してくれるのがこの馬じゃないかなと思って。オディロンに乗ったことで、申し訳ないなって思う気持ちも結構ありますが、無事に勝てたんで許してください」と他陣営への気遣いも忘れなかった。

昨年大晦日の落馬による大怪我で、今年のスタートは3月末だった。復帰2日目に1日5勝を挙げるなど“さすが吉村”と思わせる騎乗を見せてきた。
勝ち星も伸ばし、今年163勝。11月末に廣瀬騎手を抜いて2位に浮上した。
トップの小牧騎手との差も詰めてはきたが、現在35勝差。8年連続のリーディング獲得はちょっと難しい状況だが・・・。(数字は11月末時点)

「最近、僕自身目標を失って乗っていて。仕事を淡々とこなすというか・・・」
インタビューで今の思いを吐露した。昨年を上回る重賞4勝を挙げており、しっかりと存在感は見せているものの本人の中ではモヤモヤしたものがあるようだ。
「やっぱり全盛期の輝きをやっぱりもう一度取り戻したいなと思ってますし、今日はその第一歩でしかないですから。まだまだ勉強するところが多いです。上を目指して頑張りますので、応援のほどよろしくお願いします」
力強くファンに宣言をして、インタビューを締めくくった。

総評

3月のはがくれ大賞典の後、古傷を痛めて放牧へ。夏場は調子を崩したため、復帰は10月だった。
「前走は勝ち馬も強かったですが、金盃に余力残してっていうイメージでした。脚元に不安があるので、前走後も2週間弱ほど坂路のある牧場で乗り込んでもらい、それも良かった。(前走からの)上積みは、精神面、一叩きして引き締まった点、両方でしょう」

「この勝利は価値がありますし、夢が広がってくると思います。いくつか選択肢はありますが、これだけの競馬をしてくれたのでゆっくり考えたいです」
距離については2400mくらいまでは十分やれることのことで、地元か他場かを含め、ダートグレードも視野に入れながら模索する。
(12/2追記)
森澤師の話では、次走は12/31(水)の「高知県知事賞」(高知2400m)を目標に調整するとのこと。同レースは1着賞金2000万円、今年から高知・兵庫・佐賀の交流戦として行われる。
無敗の三冠馬オケマルは、初めての古馬戦で2着。
下原騎手、盛本師共に、現時点での力負けを認めるコメントだった。
戦前ライバル陣営の調教師からは、「素質はとてつもないものを秘めている」「ちょっと次元が違う馬」などという高い評価がある一方で、「ここまでオケマルは同世代相手の楽な競馬しかしてきていない。古馬のレースは流れがまた違うしそれに対応できるかどうか」という懸念の声もあった。
今回敗れたとはいえ2着。経験値の差が出た敗戦で、決して悲観するものではなく、能力の一端をしっかり見せた。
世界を見渡しても、過去の歴史を紐解いても、デビューから引退まで全戦全勝なんて馬はそうはいない。
勝ち進めば、強い相手と対峙し、仮に敗れてもそこから多くのものを学んでさらに強くなっていく。
今回の極上メンバーを相手にした経験は、オケマルにとって大きな糧となることだろう。さらなる成長に期待しよう。
(12/2追記)
オケマル 下原騎手
「まず乗った時に、過去一番の出来だと感じました。抜群のスタートを決めてくれましたが、元々逃げる気はあまりなかったので、スローペースの2番手という展開も絶好。『これは勝ち負けできる』という手応えを感じながら進めていました。最後の直線では、これまで一杯に追われたことがなかった分で、ちょっと戸惑って少しフラついていました。勝ち馬は上がり37.5秒ですからね、相手が強かったです。これを経験してまた一段と強くなって欲しいですね」
オケマル 盛本師
「仕上がりは良かったですが、仕方ないです。力負けでしたね。逃げていたラッキードリームの手応えが良かったので、それを自分で追いかけないといけない形になったのも厳しかったです。でもよく頑張ってくれたと思います。レース後の上がりも問題なかったですし、もう乗り始めています。相手は強くなりますが、選ばれれば、次走は12/24(水)「名古屋大賞典(Jpn3)」(名古屋2000m・ハンデ)を予定しています」
3着馬ラッキードリームは、喉の手術で本来の息遣いが戻ったことで、レース前から新子師が自信のコメントを残していた。その通りの走りを見せ、完全復活秒読みを予感させた。
4着マルカイグアスもこのまま黙ってはいないだろうし、中距離戦線に戻ってきたアラジンバローズも今回は9着に敗れたがJBCクラシック(Jpn1)6着馬の実力に疑いはない。
来年の中距離戦線での再戦がもう今から楽しみだ。
引退したイグナイターに続く、兵庫を背負う次代のヒーロー誕生に期待したい。
文:三宅きみひと
写真:齋藤寿一