2023 園田チャレンジカップ レポート
2023年09月15日(金)
前日には、中央、地方の通算2000勝以上の名手ら12名が腕を競う「ゴールデンジョッキーカップ」が行われ、大きな盛り上がりを見せた園田競馬場。
その翌日の15日には、これまた注目の西日本交流重賞「園田チャレンジカップ」が行われたが、
特に今年は昨年のNARグランプリ年度代表馬であるイグナイターが参戦するとあって例年以上の話題を集めた。
実績的には断然の1強ムード。しかしそれに待ったをかけるべく、去年に続いて連覇を狙う高知からは3頭、金沢からは2頭の遠征馬が参戦し、計8頭が顔を揃えた。
ダートグレード3勝、前走のさきたま杯(浦和)では兵庫所属馬で初めてJpn2を制するという大偉業を成し遂げたイグナイターが堂々の地元凱旋、秋緒戦を迎えた。
園田で走るのは、去年5着と苦杯をなめた兵庫ゴールドトロフィー以来9ヶ月ぶり。
陣営が早々に「次走は南部杯、今回の仕上げは7割程度」と公言したこともあってか、オッズの上では2強ムードに近く、単勝は1.2倍の1番人気。後述するアポロティアモは2番人気の3.6倍と、実績ほど差のない人気となった。
馬体重は前走から+9の517キロ。
去年5着に敗れた兵庫ゴールドトロフィー時の「+23キロ」に関しては「久々の地元戦で作り方を間違えた」と振り返った新子調教師。今回は先を見据えた仕上がりも、「あの時よりは馬体もスッキリしていて問題ない」と、自信を持って送り出した。
また3走ぶりのコンビ復活となる田中学騎手の手綱でどんな走りを見せてくれるのか、注目を集めた。
2番人気は、高知で重賞を含む目下5連勝中のアポロティアモ。3頭遠征してきた高知勢の中にあって勢いは1番だ。過去には中央で3勝している実力馬が見事に高知で復調、破竹の勢いで園田に乗り込んできた。
イグナイターとは今年1月の地元重賞黒潮スプリンターズカップで13馬身千切られての4着と完敗だったが、その後は福永洋一記念、トレノ賞、建依別賞といった重賞3勝の快進撃。力をつけ、年度代表馬に雪辱を誓う。
その2頭からは大きく差のある3番人気の25.1倍に金沢のスピーディクール。これまで中央、南関東、高知と渡り歩いたセン馬9歳は今年の6月に金沢に転入。移籍後は4戦3勝と復活の走りを見せていた。かつては中央で3連勝もあったベテランがメンバー最年長の意地を見せるか。
それとは差のない4番人気が連覇を狙う高知のダノンジャスティス。
去年はイン前有利の極端なバイアスのかかった重馬場を味方に、7番人気の低評価を覆す見事な逃げ切りを見せた。今年は7歳という年齢もあってか、最高着順が3着止まりとやや粘りを欠くが、それでも園田は去年も本レースを制したように(1,1,2,2)と好相性、変わり身を十分に秘める。
5番人気はこちらも高知のダノングリスターで28.3倍。重賞初挑戦も中央で4勝と侮れぬ実績を持つ。
いずれにせよ、それら遠征馬を迎え撃つ地元兵庫のイグナイターが年度代表馬としてどんな走りを見せてくれるのかに注目は集まった。
出走馬
レース
スタート
正面スタンド前①
正面スタンド前②
向正面①
向正面②
3〜4コーナー
4コーナー手前
最後の直線①
最後の直線②
最後の直線③
ゴールイン
夜の7時を回っても気温は31℃超えと残暑厳しい中、集まった多くのお客さんの視線は年度代表馬に注がれた。地元ではあまり走る機会がなくなってしまったイグナイター。その姿をひと目見ようと多くの競馬ファンが詰めかけた。
「ひょっとするとこれが地元園田で最後のレースになるかもしれない」という野田オーナーのSNS上での発言も影響していたかもしれない。
年度代表馬が期待に応える走りを見せるのか、それとも遠征馬、他の地元馬による金星はあるのか。
蒸し暑さの残る闇夜に高らかに響きわたるファンファーレ。沸き上がる拍手と歓声の中、スタートは切られた。
全馬ほぼ揃った飛び出しの中、田中騎手がやや気合いをつけてイグナイターが前へ。すると内で並んでいたダノンジャスティスはすっと引く構えを見せ、イグナイターが労せずハナに立つ。そのまま楽に先陣を切るかに思われた矢先、2番枠のアポロティアモが外に切り替え、1コーナーでイグナイターに馬体を合わせに行く。
金沢の名手吉原騎手は徹底マークの構えだ。
去年逃げ切ったダノンジャスティスは前の2頭から3馬身遅れの3番手に控え、4番手にスピーディクール、5番手にダノングリスターが続き、そこから離れてモズファヴォリートとプレイヤーズハイの地元馬2頭が追走、さらに紅一点のマラッカがそこからさらに5馬身遅れで最後方を形成し、2コーナーへ。
向正面中程にさしかかる頃には、早くも隊列は20馬身以上、縦長の展開となっていた。
逃げるイグナイターと田中学、プレッシャーをかけ続けるアポロティアモと吉原寛人。前日も場内を沸かせた二人のゴールデンジョッキーによるマッチレースの様相を呈して向正面半ば。他馬は追走に手一杯。
隊列は伸びに伸びて3コーナーへと入る。
ここでアポロティアモを振り切りにかかるイグナイター。その差が2馬身、3馬身と開いていく。こうなるともう独壇場。後続を突き放して直線に向くと、最後は鞍上が勝ちを確信するかのように流してゴールを決めた。
2着のアポロティアモもしぶとく追い上げ2馬身半差まで詰め寄ったが、勝ち馬が着差以上の強さを印象付ける走りだった。
そこから大きく離されること7馬身差の3着争いは去年の覇者ダノンジャスティスが制し、半馬身差でダノングリスターが続いた。結局2着から4着は高知勢が占める形となった。
序盤から徹底マークにあいながらも、勝負所でギアを上げるとこれを難なく振り切ったイグナイター。先を見据えた仕上がりとは言えど、やはり地力は2枚も3枚も上だった。危なげない走りで”さすがは年度代表馬”と言わしめる強さを地元のファンに見せつけた。
ゴールイン後も惜しみない拍手と歓声が、ナイター照明で煌めく茶褐色の馬体に送られた。
◆イグナイターは前走のさきたま杯に続き重賞連勝、通算7つ目のタイトル奪取となった。地元戦は約9ヶ月ぶり、地元での勝利は2年前の楠賞で重賞初制覇を決めて以来。兵庫では2つ目の重賞勝利となった。
獲得タイトル
2021 楠賞
2022 黒潮スプリンターズカップ(高知)、黒船賞(高知 Jpn3)、かきつばた記念(名古屋 Jpn3)
2023 黒潮スプリンターズカップ(高知)、さきたま杯(浦和 Jpn2)、園田チャレンジカップ
◆田中学騎手は先月8月の読売レディス杯(金沢)をクーファアチャラ(門別)で制したのに続いて今年の重賞4勝目。重賞通算79勝目とした。
園田チャレンジカップは自身初勝利。
◆新子雅司厩舎は先月8月のイヌワシ賞(金沢)をラッキードリームで制したのに続き、今年の重賞9勝目、通算61勝目とした。
園田チャレンジカップは新子調教師にとっても初勝利となった。
◆田中学騎手 優勝インタビュー◆
(そのだけいば・ひめじけいば 公式YouTubeより)
ウイナーズサークルへと姿を現した田中学騎手は、傍で勝利を讃えるそのたんと少し戯れた後、ゆっくりと壇上へ。
多くの歓声を浴びながら、「めちゃめちゃ緊張しました」とまずは一言。
「イグナイターに乗せてもらって初めてぐらい緊張しましたね。
ここでは普通に競馬できればね、負けてはだめな馬だと思っていて、勝負になると一つのミスでも致命的になる恐れがあるので。ましてや休み明けっていうので、それもあったんですけど。(一瞬、目を閉じ、一息吸って)ほっとしてます」と、田中騎手は安堵の表情で語った。
まさに仕事人が緊張感から解き放たれた瞬間だった。
目標はあくまで次のJpn1南部杯。7割程度の仕上げで次走につながる走り、そして年度代表馬に恥じぬ勝ち方も同時に求められる。
どれだけの重圧があったのかは計り知れないが、相当なものを背負っていたんだとインタビュー中の空気を通して伝わってくる。
通算成績は4700勝を超え、これで重賞勝利は80勝に王手をかけた。
兵庫生え抜きの騎手として最多勝利記録を更新し続けている田中騎手の言葉だけに余計に重い。歴戦の勇士といえど、この特殊なシチュエーションは相当に神経をすり減らしたのであろう。
そんな中にあって「今日はすごく落ち着いていて。返し馬の時に”久しぶりの背中だな”とすごくニヤニヤしてましたね」と、愛馬との久々の時間に笑みもこぼした。
ハナに行ったのは作戦通りだったが、序盤からアポロティアモの徹底マークにあった。
「早めに吉原くんが来たのは誤算だった。その分ちょっと折り合いを欠いた部分があったんでしんどいレースはさせたと思ったんですけど、さすが年度代表馬ですね」と厳しいレースを強いられながらもきっちり王者の貫禄を見せつけた相棒を労った。
年齢とともにパドックでの落ち着きとゲートの駐立で成長が見られるようになったというイグナイター。進化を見せて本番へと向かう。
「僕もそんなにもうチャンスはないと思うので、一つでも大きいレースを地元馬で獲りたいですね。もう園田で走ることも少なくなってくるので。他場に来てくださったら励みになるので、じゃんじゃん応援してください!」と地元ファンに呼びかけた。
総評
レース後のSNSでも「負けられないレースを勝つのは皆さんが思っている数倍疲れます」と吐露したように、負けられぬ一戦に神経を消耗させたのは新子調教師もまた然りといったところだろう。
もちろん次の南部杯も狙うけれど、来年の(Jpn1に格上げされる)さきたま杯とJBCが最大目標です」と語り、来年はさらに高い本気度でビッグタイトルに挑む考えだ。
「とにかくJpn1を獲りたい!それしか頭にないくらいです」と話すオーナーを初め、陣営の、そして兵庫のホースマンにとっての悲願成就なるか。
次走予定の南部杯は去年勝ち馬と差のない4着と夢を見せてくれた舞台。歴史の扉は開かれるか、10月9日の盛岡が今から待ち遠しい。
文:木村寿伸
写真:齋藤寿一