2023 姫山菊花賞 レポート
2023年09月28日(木)
Road to JBCの一戦として行われる重賞「姫山菊花賞」。
南関東・北陸・東海・近畿交流となっているが、今年は南関東からの遠征馬1頭のみを加えた8頭で争われた。
1番人気はラッキードリーム。単勝1.1倍のダントツ人気。
昨年、門別三冠馬の看板を引っ提げて兵庫に移籍。兵庫重賞に初参戦となったのが1年前の当レース、ジンギやシェダルとの対決に注目が集まる中で見事に優勝を果たした。
そこから地元馬相手にはずっと負けなし。秋初戦のイヌワシ賞(金沢)も勝利して重賞タイトルは9つ、今回も中長距離界のエースに大きな期待が集まった。
2番人気にはタイガーインディ、単勝5.3倍。
元々JRA4勝の実績馬が、昨夏から1年に及ぶ休養を経て今年7月に実戦に復帰。兵庫に移籍をして2戦目となった前走摂津盃は、一旦は逃げの形に持ち込むも、1周目4角から他馬に競られてハナを奪われる厳しい展開。それでも粘りを見せて2着に健闘した。
3番人気は単勝14.6倍のベストオブラック。
一昨年から昨年にかけて8連勝があった馬。当時は1400mを中心に使われていたが、スタートはゆっくりのタイプだけにいつも後ろから。少しでも前のポジションにつけたいと使ったA1の1700m戦で勝利して、そこから中距離路線を歩んでいるが安定感は抜群。前走はのちに摂津盃を勝つツムタイザンにクビ差迫る豪脚を見せた。今回はそこから3ヶ月休んでの復帰戦。
六甲盃5着、摂津盃4着のナムラタタが4番人気、春に兵庫大賞典3着があったタガノキングロードが5番人気。
唯一の遠征馬アイアムレジェンド(川崎)は、一昨年と昨年のイヌワシ賞連覇がありながら近走の不振もあって6番人気に甘んじた。
出走馬
レース
スタート
1周目3コーナー
1周目スタンド前①
1周目スタンド前②
2周目2コーナー
2周目2コーナー~向正面
2周目向正面
2周目3コーナー
4コーナー~最後の直線
最後の直線①
最後の直線②
最後の直線③
最後の直線④
ゴールイン
9月も下旬に入っているというのに、相変わらず昼間は連日30℃超の真夏日が続く。この日も日差しはなかったが湿度が高くて蒸し暑いコンディション、馬場状態は「良」でレースが行われた。
スタートはベストオブラックがいつものように出負けした以外はまずまず。ゲートの中で一度立ち上がりかけたというラッキードリームだったが、発馬は五分に決めた。
トップスタートを決めたエイシンダンシャクにまずは外からエイシンビッグボスが並ぶ。ラッキードリームは競り合わず好位に控えたところに、大外から勢いをつけてタイガーインディが一気にハナへ。3コーナー入口で先頭に立つと、前進気勢が強いままにスタンド前へ。
エイシンビッグボスが2番手、エイシンダンシャクが3番手で続き、ペースが落ちかけたところ、外からアイアムレジェンドが一気に勢いをつけて先頭へ。逃げているタイガーインディにとっては前走に続く誤算となった。
ラッキードリームは1コーナーまでにエイシンダンシャクを抜いて4番手に上がり、先頭から6馬身の位置をキープ。タガノキングロードが後方3番手を進み、最後方でナムラタタとベストオブラックが並んだ。馬群全長は12馬身ほど。
向正面入口では前2頭が5馬身離していたが、これ早くも3番手にいたエイシンビッグボスが捕まえに行く。ラッキードリームもその後ろから一緒に上昇開始。
先頭に立っていたアイアムレジェンドが後退し、タイガーインディとエイシンビッグボスが並んで4コーナー。その2馬身背後にラッキードリームが迫って直線へ。
3~4コーナーの勝負所では思ったほどは前との差が詰まらなかったラッキードリームだったが、さすがに直線の末脚は秀逸。
残り100m、叩き合いを繰り広げる内の2頭を外から難なく差し切り、姫山菊花賞連覇達成。重賞は節目の10勝目となった。2着とは1馬身半差だったが着差以上の完勝だった。
2着はエイシンビッグボス。一昨年の園田オータムトロフィーを勝って以降は短距離戦線にシフトしていたが、重賞勝ちの1700mで復活の兆しを見せた。
クビ差の3着にタイガーインディ。今回も逃げに持ち込めそうなところから競りかけられてしまい自分のリズムでは走れず。それでも粘りを見せたのだから改めて実力を示した。
ここから4馬身差が開いて、重賞初挑戦のベストオブラック4着。ナムラタタが5着だった。
◆ラッキードリームはこれで27戦16勝。重賞は10勝目。
姫山菊花賞連覇は、2009,2010年のマルヨフェニックス(笠松)以来13年ぶり2頭目。地元馬の連覇は史上初となった。
獲得タイトル
2020 サッポロクラシックカップ(門別), JBC2歳優駿 (門別 Jpn3)
2021 北斗盃(門別), 北海優駿(門別), 王冠賞(門別)
2022 姫山菊花賞, 園田金盃
2023 兵庫大賞典, イヌワシ賞(金沢), 姫山菊花賞
◆下原理騎手は重賞85勝目(今年7勝目)。
姫山菊花賞は、2018タガノゴールド、2022ラッキードリームに続き3勝目。
◆新子雅司厩舎は重賞63勝目。
姫山菊花賞は、2014タガノジンガロ、2018タガノゴールド、2022ラッキードリームに続き4勝目。
今年だけで重賞11勝目となり、兵庫県競馬における年間最多重賞勝利の新記録。
<参考>
【兵庫県競馬 調教師 年間重賞勝利数】
1.新子雅司 11勝 (2023年) ←New!!
2.橋本忠男 10勝 (2012年)
2.吉行龍穂 10勝 (2014年)
2.新子雅司 10勝 (2020年)
5.曾和直榮 9勝 (1998年)
5.新子雅司 9勝 (2022年)
7.曾和直榮 8勝 (2001年)
7.新子雅司 8勝 (2019年)
◆下原理騎手 優勝インタビュー◆
(そのだけいば・ひめじけいば 公式YouTubeより)
春に兵庫大賞典を制した後、六甲盃は惜しくも2着に敗れたラッキードリーム。
北海道での夏休みを経て、秋初戦に選ばれたのが金沢のイヌワシ賞だった。仕上がりとしては7分程度だったとのことだが、アタマ差でなんとか勝ち切った。
これまで遠征競馬になるとテンションが上がりすぎてしまって、装鞍が難しくなることが度々あったというが、金沢ではスムーズにいったという。
ただ、これは気性面で成長したというよりは、まだ調教でそこまで強い負荷を掛けていなかった分で馬が大人しかったという方が適しているようだった。
そこから一段階上の仕上げを施した今回、姫山菊花賞。
前走からの上積みを問われた下原騎手は、「今日はゲートの中の雰囲気がピリッとしていましたね」との回答。「テンションは戻ってくる方がいい」とレース前に新子師も話していたが、テンションの変化で本来のラッキードリームに一歩近づいたことを感じながらのレースとなった。
「ゲートさえ無事に切ってくれれば大丈夫だと思います」
レース前のインタビューでも新子師が口にした「ゲート」。実力は一枚も二枚も抜けているが、テンションが上がりすぎることによって実力が発揮できない不安がある・・・これがラッキードリームにとって常につきまとう課題だ。
「今日はゲートもちょっと危なかったんで、余計にホッとしました。リラックスしていたんですけど、ゲート裏に行くとスイッチが入ってきて、正直怖かったですね」と勝利騎手インタビューでの下原騎手。
今回はゲートの中で一度立ち上がりかけたというが、スーツ姿の新子師がいつものように懸命の尾持ちで後方支援をし、事なきを得た。
スタートは五分に出た。
下原騎手は「行く馬はだいたい決まっていたんでそのペースを見ながら」という思惑でレースに臨んでいた。スタート後も無理に前を追いかけることなく、「スタンド前でさらにペースが上がった時も慌てずに」4番手でじっくりレースを進めた。
「向正面で行こうかなと思った時に(エイシン)ビッグボスが先に動いていったんで、控えて一回後ろで休憩してという形でした」と話したように一旦動きかけて、少し溜めを作ってから3コーナーでゴーサイン。
以前から勝負所でややモタつく面を見せることもあり、一旦溜めを作った場合にはすぐにスイッチが入らない可能性もあるが「馬の力を信じるのみでした」と下原騎手。
実際、追い出された3~4角では鞍上のアクションほどにはなかなか先頭との差が詰まっていかず、一瞬ドキッとさせられたが、直線外に持ち出されるといつもの伸びを披露した。
「今日はちょっとズブいところは出ていたんですけど、しっかり差し切ってくれるんで力はかなりあると思います。いつも大きくは勝てないんですけど、きっちり勝ち負けしてくれるんでその辺は安心しています」と高い性能を改めて再確認した一戦となった。
総評
ちょうど1年前にジンギ、シェダルなどを破って一気に中長距離界の主役に躍り出て、そこから地元馬には負けしらずで1年間を過ごしてきた。
この秋の最大目標は12/7(木)に行われる園田金盃連覇に据えているとのことで、今回も必ずしも目一杯の仕上げではなかった。
それでもきっちり勝ち切るのだから毎度恐れ入る。
現状は、ここに直行するプランと11/3(祝金)のJBCクラシック(大井)を挟むプランの両睨みということだ。
中長距離界のエースも健在。短距離の主砲イグナイターと共に今秋もラッキードリームが兵庫を牽引する。
文:三宅きみひと
写真:齋藤寿一