2024 白鷺賞 レポート

2024年02月15日(木)

2020年姫路競馬の再開と同時に15年ぶりに復活した古馬重賞「白鷺賞」。西日本交流の戦いは今年で復活から5年目を迎えた。昨年は佐賀のヒストリーメイカーがジンギとの激闘を制して、他地区馬初勝利を飾った。

今年は、高知から2頭、名古屋と笠松から1頭ずつの他地区馬4頭を加えた11頭で争われた。

1番人気は、ラッキードリームで単勝オッズは1.7倍。
これまで重賞10勝を挙げており、一昨年の秋から中距離界を牽引する存在となったが、前走の園田金盃は3着と地元馬に初黒星を喫した。「蹄の状態が芳しくなく状態面にやや不安があった」とのことで敗因はハッキリ。前走後は放牧に出て立て直され、今回は万全の態勢で臨む。

2番人気は、ツムタイザンで単勝3.8倍。
昨夏の摂津盃を優勝して完全復活。園田金盃ではラッキードリームに先着を果たすも、スマイルミーシャとアタマ差の2着。4角と直線で内から寄られる不利もあった。前走の新春賞4着は勝負所で内に閉じ込められて力を出し切れなかった。もどかしいレースが続いたが、状態面は好調をキープ。重賞4勝目を狙う。

3番人気は、単勝6.6倍のグリードパルフェ(高知)。
昨年の白鷺賞で差のない3着に好走すると、はがくれ大賞典(佐賀)で久々の重賞勝利。六甲盃ではラッキードリームとの大接戦を制して重賞3勝目を挙げた。昨夏以来5ヶ月半ぶりのレースとなるが、昨年のリベンジを懸けて今年も参戦。

さらに 元JRAオープン馬が上位人気で続いた。
移籍初戦快勝も前走は折り合いを欠いて4着に敗れたミステリオーソが単勝8.0倍の4番人気、前走南関東からの移籍初戦で低評価を覆しセンス良く勝ったリッターシュラークが17.7倍の5番人気だった。

出走馬

1番  (高)グリードパルフェ (高)赤岡修次騎手
2番 シェナキング 竹村達也騎手
3番 (笠)ルヴァン (金)服部大地騎手
4番 リッターシュラーク 広瀬航騎手
5番 (高)メガゴールド (高)宮川実騎手
6番 メイプルブラザー  永井孝典騎手
7番 ミステリオーソ 吉村智洋騎手
8番 トリプルスリル 大山真吾騎手
9番 ラッキードリーム  下原理騎手
10番 (高)トランセンデンス (高)吉原寛人騎手
11番 ツムタイザン 杉浦健太騎手

レース

スタート
1周目向正面
1周目4コーナー
1周目スタンド前①
1周目スタンド前②
2周目2コーナー
2周目向正面
2周目3コーナー
4コーナー~最後の直線
最後の直線①
最後の直線②

ゴールイン

姫路開催も後半戦に突入。姫路5週目の3日間開催は春を感じさせる暖かさに恵まれ、気温も15度を超える日が続いていた。

重賞デーの木曜日は前2日と異なり、朝から曇天。5レースくらいから降り方は弱いものの雨がぱらつき始めた。降ったり止んだりを繰り返しながら白鷺賞の時間を迎えたが、ちょうどレースと雨の降るタイミングが重なってしまった。ただ馬場状態にそれほど影響を与える雨量ではなく、良馬場でのレースとなった。

白鷺賞のスタートは、ミステリオーソが出遅れた以外はほぼ揃った飛び出しだった。ゲートの中での駐立に不安があるラッキードリームだが、今回はトップスタートを決め、逃げ馬不在のメンバー構成の中そのまま逃げの展開へ持ち込んだ。すぐ外にはツムタイザンが取り付き、人気馬2頭が序盤からポジションを取りに行く展開で幕を開けた。

3番手集団はリッターシュラーク、メイプルブラザー、トランセンデンスの3頭が並び、グリードパルフェは中団の内、トリプルスリルがその外に並んで追走。後方にはシェナキング、メガゴールド、ルヴァンと続き、出遅れたミステリオーソはやや折り合いに苦労しながら離れた最後方を進んだ。

ペースは落ち着き、馬群全長10馬身ぐらいで2周目の向正面へ。

向正面に出たところから徐々にペースが上がり始めるが、逃げるラッキードリームは始終余裕の手応え。2番手のツムタイザンが3~4角で鞭を入れて追いすがるが、並ばせることなく直線へ。

下原騎手が背後の様子を確認しながら直線入口で追い出すと、あっという間にラッキードリームは4~5馬身のリードをとった。4角で一旦置かれかけた3番手のトランセンデンスだったが、直線末脚を繰り出し残り100mでツムタイザンを抜いて2番手に浮上。後続から前の3頭を脅かす馬はいなかった。

最後は2馬身半差でラッキードリームが優勝のゴールイン。高知のトランセンデンスが2着。共に所属場は変わったが、奇しくも2歳時の第1回JBC2歳優駿(門別)と同じワンツーとなった。自ら勝ちに行ったツムタイザンは早めに仕掛けた分でラストがやや甘くなってしまい4馬身差の3着。後続はさらに4馬身後方、4着に名古屋のメガゴールド、休み明けが響いたかグリードパルフェは5着だった。

◆ラッキードリームはこれで29戦17勝、重賞は11勝目。これで2歳から5年連続の重賞勝利となった。

獲得タイトル

2020 サッポロクラシックカップ(門別), JBC2歳優駿 (門別 Jpn3)
2021 北斗盃(門別), 北海優駿(門別), 王冠賞(門別)
2022 姫山菊花賞, 園田金盃
2023 兵庫大賞典, イヌワシ賞(金沢), 姫山菊花賞
2024 白鷺賞

◆下原理騎手は重賞通算87勝目。兵庫生え抜き騎手の兵庫県最多重賞勝利記録を更新中。
初重賞制覇が1999年の白鷺賞(ユウターヒロボーイ)だった下原騎手。白鷺賞は2020年にタガノゴールドでも勝っており、それ以来となる3勝目。

◆新子雅司厩舎は重賞通算66勝目。曾和直榮師が持つ兵庫県の最多重賞勝利記録に並んだ。白鷺賞は2020年のタガノゴールドに続き2勝目。

<歴代 重賞勝利数>
1位 曾和直榮 66勝
1位 新子雅司 66勝 ※現役
3位 田中範雄 58勝 ※現役
4位 橋本忠男 52勝
5位 橋本忠明 41勝 ※現役

◆下原理騎手 優勝インタビュー◆
 (そのだけいば・ひめじけいば 公式YouTubeより)

園田金盃で3着に敗れ、地元馬に初黒星となってしまったラッキードリームは、この中間は放牧に出されて立て直された。不安があった蹄の状態も良くなり、今回は「ゲートさえ普通に出れば負けることはない」と新子師も胸を張る仕上げだった。

ゲートの中で立ち上がろうとするなどテンションの高さがある馬。「元気一杯だと聞いていたのでちょっと不安はありました」(下原騎手)というスタートをしっかりと決めて、兵庫移籍後は初めてとなる逃げを選択。

「ゲートが決まったら積極的に行ってみようと思っていました。もし行く馬がいれば2番手でもいいかなと。道中はかなりハミを外してリラックスしながら走っていました。ところどころでフワッとする所があり、4コーナーでもそんなところを出しかけたので一気に加速しました。やっぱりしっかり走って、僕もうまく乗れたらこれだけ走る馬ですね」と下原騎手も目を細めた。

逃げの作戦については、「南関東時代は逃げた時が一番強かったですし、逃げても強いかなと思っていたんですが、しっかり強さをアピールできました。行く癖をつけたらもっと強いかもしれません。後ろから来たらいくらでも行きそうな感覚で、逃げたら誰にも負けないんじゃないですか」と新しい一面を下原騎手も掴んだ様子だった。

これまでのレースは確固たる逃げ馬がいたためになかなかできる戦法ではなかったようだが、今回逃げ馬不在の中で一度試したいと思っていた作戦がバッチリ決まった。

常にゲートの課題はあるが、今後のラッキードリームの作戦面にも注目だ。

週末の日曜日には、同じ新子厩舎のイグナイターがJRAのフェブラリーS(G1)へ。1999年に岩手のメイセイオペラが勝って以来、25年ぶりに地方馬によるJRAG1勝利を目指しての出走となる。ラッキードリームとイグナイターは同じ野田善己オーナーの6歳馬、戦いに挑む同僚馬にエールを送る勝利ともなった。

下原騎手も「僕はその気持ちがかなりあったのでホッとしました。(イグナイターには)頑張って欲しいです。日曜日も応援をよろしくお願い致します」とファンに呼び掛けた。

また、新子調教師は重賞66勝としてついに曾和直榮元調教師の兵庫県記録に並んだ。もしイグナイターがフェブラリーSを勝てば、JRAG1初制覇という快挙と同時に兵庫県の新記録更新というドラマティックな瞬間も訪れる。

姫路から府中へ勝利のバトンは繋がった。決戦の時を楽しみに待とう。

総評

前走は調子を上げ切らず不本意なレースとなった悔しさが新子師にはあった。最終追い切りを終えた時点で、今回は勝利を確信できるだけの状態に仕上げることができた。
兵庫では初めての逃げだったが、「南関東時代は逃げた時しか勝てていなかったし、逃げたら強いレースをしていたのでね。神経質な面があって少し怖がりなところもあるので、逃げて後ろから他の馬が来て突き放すレースが合っている」と分析した。
今回は姫路への輸送競馬だった。輸送を伴う競馬ではあまり結果が出ていなかったが、今回は姫路でもしっかり結果を出した。
しかし、輸送が苦手なのではなく、“厩舎装鞍”できるか否かが大きな鍵なのだそう。

決まった場所で装鞍しなければならない競馬場は多く、例外的に厩舎内で鞍を付けさせてもらえる競馬場は兵庫以外では金沢・大井・川崎くらいだという。
装鞍所ではなかなか鞍がつけられず、テンションが上がってしまってレース前に消耗してしまうため、輸送があっても厩舎で鞍がつけられる競馬場では問題なしと陣営は見ている。
実際に昨年の金沢でのイヌワシ賞は厩舎装鞍が叶って、テンションが上がりすぎることなく勝利できたし、今回の姫路でも快勝した。

こういった制約がある馬のため、次走は「使えるレースがない」とのことで未定。
今年から兵庫大賞典が1400mに変わるため、地元の古馬中距離重賞は6/6の六甲盃(1870m)まで4ヶ月近く間隔が空く。「地元のオープン(A1戦)を走るか、南関東でいいレースがあれば」と指揮官は話した。


新子厩舎の古馬中距離の2枚看板、ラッキードリームとアラジンバローズ。新春賞を勝ったアラジンバローズは佐賀記念を回避し、はがくれ大賞典(佐賀)に照準を切り替えた。ラッキードリームの動向にも注目だ。

短距離界で輝きを放ち続けるイグナイターに続けとばかりに、中距離界のWエースも次走へ向けてまた牙を研ぐ。そしてツムタイザンをはじめ今回敗れた馬たちも黙ってはいまい。レース数が減ってしまった中長距離界だが、次なる激突を楽しみに待ちたい。


 文:三宅きみひと
写真:齋藤寿一  

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