2024 ネクストスター西日本 レポート
2024年3月28日(木)
全日本的なダート路線の改革の一環で、今年から兵庫チャンピオンシップ(Jpn2) が1400m戦に変更され、3歳ダート短距離王決定戦という位置づけとなった。
3歳ダート短距離王の座を競うシリーズ競走は「3歳スプリントシリーズ」と銘打たれ、園田競馬場で4/29(祝月)に行われる本番に向け、全国を北日本・東日本・中日本・西日本と4ブロックに分けて「ネクストスター競走」が設定された。各ブロックのネクストスター競走の1着馬には、兵庫チャンピオンシップへの優先出走権が与えられる。
ネクストスター西日本は、兵庫・高知・佐賀の3つに所属する馬たちが出走資格を持ち、それぞれの競馬場が毎年持ち回りでレースを行うが、
今年の記念すべき第1回は本番と同じ園田競馬場での開催となり、兵庫3頭、高知5頭、佐賀2頭の計10頭で争われた。
1番人気(単勝2.4倍)は高知のリケアサブル。
2歳秋に地元重賞で連続2着と好走していた馬が、初めて遠征競馬となった姫路での兵庫ユースカップで重賞初制覇。好位から抜け出す強い内容で吉原寛人騎手の地方競馬全場重賞制覇の立役者となった。重賞連勝を目論み、今回は鞍上にJRA小牧太騎手を迎えて話題を集めた。
2番人気(単勝3.1倍)は高知生え抜きのワンウォリアー。
これまで5勝を挙げており、高知実力馬の一頭。前走の兵庫ユースカップはリケアサブルとの差を詰め切れずに2着。姫路の借りを園田で返さんと再びの遠征となった。
3番人気(単勝6.1倍)はホーリーバローズ。こちらも高知生え抜きの5勝馬。
スタートに安定感が出てきた中、ここ2走は逃げる競馬で連続好走。主戦を務めていた金沢・中島龍也騎手が短期騎乗を終えたため、今回初めて永森大智騎手が手綱を取る。
4番人気が牝馬のウオタカ(高知)で8.1倍、5番人気が佐賀の重賞2勝馬トゥールリーで8.9倍。単勝10倍以下が5頭いる混戦ムードだったが、上位はいずれも他地区からの遠征馬たち。地元馬クラウドノイズが6番人気の18.6倍で続いた。
出走馬
レース
スタート
スタンド前①
スタンド前②
2コーナー~向正面
向正面
3~4コーナー
4コーナー
4コーナー~最後の直線
最後の直線①
最後の直線②
最後の直線③
ゴールイン
この日は、メインの一つ前10RにJRA交流・水晶山特別が組まれていたことがのちに起こる劇的なドラマの始まりだった。
JRA所属騎手は、JRA交流戦がある日に限り騎乗馬と共に遠征してきて兵庫での騎乗が可能となる。そして依頼があれば、JRA交流を含めて計8鞍までそれ以外のレースにエキストラ騎乗できる規定となっている。
この日はJRAルーキーの吉村誠之助騎手が園田で初騎乗。父が吉村智洋騎手で、自身も中学生まで育った愛着のあるで園田での凱旋騎乗となる1日。直近の日曜日には、阪神競馬場メインレースの六甲S(リステッド)で初勝利を飾って脚光を浴びる中、親子初競演にも注目が集まっていた。
そして、もう一人、たくさんの耳目を集めたのがJRA小牧太騎手。岩田康誠騎手と共に兵庫で一時代を築き、地方通算3376勝の実績をひっさげて2004年にJRAへ移籍した兵庫のレジェンドだ。
1年8ヶ月ぶりの兵庫遠征となった今回は、重賞を含めたエキストラ騎乗もあって計6鞍の騎乗。エキストラ騎乗は6年ぶり、兵庫で1日6鞍乗るのはJRA移籍後初めてのことだった。
最初の騎乗となった2Rで、弟の小牧毅調教師が管理するメイショウマサカリに騎乗して好位から鮮やかに抜け出して勝利。兄弟がタッグを組んでのレースは12年半前にただ1度あったのみ。滅多とない機会で勝利をものにするのだからやはり役者が違う。
しかも今回は「胴緑・赤山形一本輪、袖赤」の往年の騎手服を身にまとっての勝利。兄がJRAへ移籍をした後は、弟がこの服色を受け継いで着ていた過去がある。兄弟揃って思い出深いカラーリングでの勝利に、小牧ファミリーにとってかけがえのない大きな1勝となった。
かくして序盤から盛り上がりを見せる中迎えたメインレース。この週は月曜に一晩で50mmの大雨が降り、火曜が不良、水曜が重、木曜が稍重と少しずつ馬場は乾いてきていた。火曜朝に砂の補充がコース一部であったものの、全体的に内を通った馬と先行馬が有利の馬場傾向が続いていた。
お天気は下り坂の予報で一日中曇天。ポツリポツリと雨粒が落ち始めた中、令和5年度最後の重賞ファンファーレが鳴り響いた。
ウオタカが発走直前に前扉を開けて飛び出すアクシデントはあったが、走りださずに事なきを得た。
スタートはバラバラ。ゲートの中で落ち着かなかったアグロドルチェが立ち上がるような格好で出てしまい大きな出遅れ。ウェンティ、ウオタカ、ヤシロボーイもやや後手。
逃げ争いを制したのは手綱を押して出て行ったクラウドノイズ。外からホーリーバローズが2番手で、3馬身離れた3番手にトゥールリーとなったが、こちらは序盤かなり行きたがるシーンが見られた。その外からリケアサブルが併せて1コーナーカーブへ。
さらに5馬身差でワンウォリアーが5番手でポツンと一頭。後方にかけてウオタカ、グランゲレーロ、アグロドルチェ、ウェンティが続き、一頭離れた最後方にヤシロボーイとなった。レース序盤で流れた分、馬群全長20馬身以上の縦長に。
3コーナー手前からクラウドノイズにホーリーバローズが馬体を併せていき、2頭並走で4コーナーへ。リケアサブルは外から前2頭の楽に並びかけて行き、ワンウォリアーもその直後に迫って直線へ。
残り200mで先頭に立ったリケアサブル、その2馬身後方からワンウォリアーが迫ってくる。一旦1馬身近くまで詰め寄られたが、残り100mで勝負あり。ここから再び2馬身リードをとったリケアサブルが1着でゴール板を駆け抜け、重賞連勝を飾った。ワンウォリアーはまたしても2着。まさに前走の兵庫ユースカップをそのまま再現したような直線の攻防となった。3着は6馬身後方でホーリーバローズ。高知勢が1,2,3着を独占し、地元最先着はクラウドノイズの4着だった。
◆高知のリケアサブルは、これで10戦4勝。兵庫ユースカップに続く重賞連勝となった。
兵庫からJRAに再転入後、福島民友C(リステッド)1着、エルムS(G3)2着など活躍中の現役オープン馬ワールドタキオンが半兄にいる血統。
獲得タイトル
2024 兵庫ユースカップ
ネクストスター西日本
◆JRA小牧太騎手は、兵庫在籍時に地方重賞63勝(ほかJRA重賞2勝)を記録。JRA移籍後は、JRA重賞32勝に加え、地方他地区のダートグレードを9勝していた。
重賞制覇は、2016年のサマーチャンピオン(佐賀 Jpn3)を グレイスフルリープで制して以来8年ぶり。
園田では移籍後に、2004年の園田ダービー(ホクセツガーデン)と姫山菊花賞(カネトシパッション)を勝利しており、兵庫重賞は今回20年ぶりの勝利となった。
◆高知の田中守厩舎は兵庫の重賞4勝目。兵庫ユースカップに続いて今年2勝目。園田の重賞勝利は去年の六甲盃(グリードパルフェ)に続いて3度目。
◆小牧太騎手 優勝インタビュー◆
(そのだけいば・ひめじけいば 公式YouTubeより)
感動の光景が広がったネクストスター西日本。
その発端は小牧太騎手から旧知の仲である田中守調教師への一本の電話からだった。
「その日、交流もあって乗れるんやけどな」
2人は1985年騎手デビューの同期。小牧騎手が鹿児島出身で兵庫デビュー、田中師が宮崎出身で和歌山の紀三井寺(1988年に廃止)デビュー。共に故郷の九州を出て関西へ、意気投合するのに時間はかからなかった。小牧騎手が「同期でも一番仲が良かった」と言えば、田中師も「試験受けに行った時から、学校時代もずっと一緒にいた」という間柄。今でも年1回くらい連絡は取っているとのことだが、「(リケアサブルに)乗れるんやけどな」という突然のコールに田中師もビックリ仰天だった。
「オーナーさん(稲場澄氏)に連絡して、こういう話があるんですって訊いてみたら、快く『行きましょう』と言ってくださって。大丈夫かな~って思いましたよ、はっきり言って。あんまりJRAで数乗ってない感じだったし、とにかく体整えといてよって。ドキドキですよ(笑) 」
レースに向けては「映像見といて」と言ったくらいで、「色んな事言っても仕方ないし」と、田中師からは特に指示は出さなかったという。
「1~2コーナーだけ行きたがる面があると聞いていました。ちょっと行きたがったんですけど、辛抱してくれた分最後まで伸びてくれました。強い馬で跨っていただけです」と小牧騎手は謙遜したが、長年培ってきた勝負勘と手腕はさすが。きっちり一発回答の仕事を完遂した。
「同期の田中調教師の馬で勝つっていうのが思ってもみないことだったので、それが実現できて本当に良かったです。田中の馬で園田で勝ったというのが嬉しいですね」と目を細めた。
小牧太騎手にはやはり緑と赤の勝負服がよく似合う。
「やっぱりこの勝負服を着たらいつも以上に燃えるところがあるというか、昔の20年前の僕に今日1日朝から戻ったような気がしました。まだまだ乗れるなと実感しました」と56歳ベテランは闘志を漲らせた。
この日は、娘のひかりさんがバレットとして帯同、栗東での調教を終えた息子の加矢太騎手も応援に駆け付けていた。口取り写真は小牧家にとっても記念の1枚になったことだろう。
JRAでは騎乗数が減り、土日で1頭か多くても2頭という日が多い。この日最初に乗った第2レースで勝利した後に囲み取材で語った「強い馬に乗せてください!」という言葉が印象に残っている。
『腕は錆びついていない!俺はまだまだやれますよ!!』
緑赤の背中から1日を通してそんな声が聞こえてきた。
総評
「馬の状態も良かったですし、勝ってくれるのが一番いいなとは思ったけど、本当に勝ってくれたんで良かったなって。なにもかもがうまく絵に描いたような感じで・・・ホッとひと安心です。(小牧太騎手は)緊張したと思いますよ。うまく乗ってくれました。ゴールの時はちょっとウルウルっと来ましたね」
今回の勝利で、西日本3歳短距離王の称号を得て、兵庫チャンピオンシップの優先出走権も獲得した。ただ次走は、5/5の黒潮皐月賞(高知1400m)に出走予定とのことだ。
兵庫ユースカップ、ネクストスター西日本と完敗を喫してしまった地元勢。ここから力を付けて、秋の大舞台では堂々と迎え撃てる馬が出てきて欲しい。
文:三宅きみひと
写真:齋藤寿一