2024 菊水賞 レポート
2024年04月03日(水)
兵庫3歳三冠レースの第1戦。
全国的なダート競走の体系整備に伴い、今年から兵庫チャンピオンシップ(Jpn2)が1400m戦に変更、3歳短距離戦線の頂点を決める位置付けとなった。
これを受け、兵庫三冠も、4月の菊水賞、7月の兵庫優駿 (旧兵庫ダービー)、10月の園田オータムトロフィーの3競走へと生まれ変わった。
改革元年となった今年の菊水賞は、昨年重賞3勝を挙げ、世代の王者となったマミエミモモタローが故障のため戦線離脱。暮れの園田ジュニアカップを制したマルカイグアスも出走しないとあって、タイトルホース不在の中、大混戦ムードが漂っていた。
悪天候の影響で高知からの飛行機が欠航となったため、遠征予定だった赤岡、永森両騎手は急遽乗り替わり。トウケイカッタローに笹田騎手、スターダストレインは川原騎手に騎乗変更となった。
上位5頭までが単勝10倍以下の混戦ムードの中、単勝3.1倍の1番人気となったのはウェラーマン。
デビューから無傷の2連勝で臨んだ暮れの園田ジュニアカップでは1番人気の支持を集めたが、スタートの出遅れからいつもの先行競馬ができず、6着に敗れた。
続く前走の菊水賞トライアル”ニュージェネレーション”では序盤からミスターダーリンらにマークされる形の中、直線ではこれらを振り切り、最後は3馬身離しての快勝。きっちり巻き返して本番に駒を進めた。
2番人気は牝馬3頭のうちの1頭、モンゲーギフトで単勝4.5倍。
昨年12月29日と遅いデビューとなったが、そこから3戦は2着にそれぞれ8馬身、10馬身、7馬身差をつける圧巻の勝利。
しかし前哨戦の菊水賞トライアルでは、初めて戦う一戦級の牡馬の壁に阻まれて3着に敗れ、初めて土がついた。
ポテンシャルは高く、将来は”重賞を獲れる器”と陣営の評価は高いが、少々前向きさに欠ける気性など課題はまだ多い。
3番人気は単勝5.0倍のグランレザンドール。
中央から転入後、兵庫では無傷の2連勝。
好位から早めに抜け出し、後続を8馬身ちぎった転入初戦、好位の内から4角で先頭に並ぶと直線だけで4馬身離した2戦目と、その勝ちっぷりからはまだ底が見えない。
4番人気はミスターダーリンで単勝5.5倍。
昨年12月のアッパートライでは7番人気ながら、最後はマミエミモモタローにクビ差迫る2着。重賞初挑戦となった園田ジュニアカップではマルカイグアスの3/4馬身差の2着。さらに前走の菊水賞トライアルではウェラーマンの後塵を拝してまたもや2着とここまで悔しいレースが続く。
甘さを克服し、脇役返上となるか。
5番人気は昨年11月28日のデビューから3戦無敗で駒を進めたオーシンロクゼロで8.1倍。
昨年6月の能検では後の重賞3勝馬マミエミモモタローをちぎるなど、デビュー前から評判が高かったという本馬。夏場にうまく調整できなかったため、一旦休養に出てから、11月末に満を持して初陣を迎えた。
デビュー後はいずれも好位から上がり最速の脚で抜け出しての勝利で、こちらもまだ底を見せていない。
ゲート内で落ち着かない駐立の不安や、仕掛けてからややズブさを見せる面、トモのゆるさなど課題はあるが、ここまで噂に違わぬ結果を残している。
3ヶ月の休養明け、初の距離延長、初の重賞舞台と超えなければならないハードルは高く、今回が試金石の一戦となった。
以下、ここまで重賞2、3着のトウケイカッタローが6番人気の単勝10.9倍。
通算5勝を挙げ、前走ネクストスター西日本4着からの連闘策で挑むクラウドノイズが7番人気の単勝14.1倍で続いた。
出走馬
レース
スタート
1周目3、4コーナー
1周目スタンド前①
1周目スタンド前②
2周目2コーナー
2周目2コーナー~向正面
2周目3、4コーナー
2周目4コーナー
4コーナー~最後の直線
最後の直線①
最後の直線②
ゴールイン
この日は重賞デーにも関わらず1日中、雨が降り続くあいにくの天気。
馬場状態「重」のコンディションでレースを迎えた。
雨の中行われる菊水賞は2016年、新子厩舎のシュエットが紅一点で制した時以来、8年ぶりだ。
ほぼ揃ったスタートを切った12頭だが、その中でもやや後手を踏んだ形となったのはウェラーマンとスターダストレイン。
先行争いはまずモンゲーギフトが前へ。オーシンロクゼロも好スタートを切り、促して一瞬先頭も、大外からクラウドノイズが瞬く間に抜き去り、1周目の3コーナーでハナに立つ。やや距離をとってモンゲーギフトとオーシンロクゼロが2番手、3番手。グランレザンドールが好位の4番手。その後ろは中団控える形のミスターダーリン、スノークローバー、トウケイカッタロー、そして内々、後ろから5頭目の追走となってしまったウェラーマンが続く。
ミナックシアター、エイシンフォトン、スターダストレインが後方を固め、少し離れてホクザンバーリイが最後方を形成してスタンド前から1コーナーへと入る。
ホームストレートからペースを落としたクラウドノイズの大山龍太郎騎手。
そのままペースは落ちついて2コーナーへと入る。
クラウドノイズの直後にモンゲーギフト、3番手並走で外にグランレザンドール、内にオーシンロクゼロと隊列変わらず、向正面へ。
好位の後ろにトウケイカッタロー、スノークローバーが続き、差がなく、内にミスターダーリン、外にミナックシアター、真ん中にウェラーマンが入り、このあたりは先頭との差7馬身で向正面半ばに向かう。
3コーナー手前で、モンゲーギフトの吉村騎手が2番手から促し始めると、先頭を行くクラウドノイズの大山龍太郎騎手も応戦してややペースアップ。
これに手綱を押してついていくオーシンロクゼロとグランレザンドール。
その後ろ、ミスターダーリンなどはやや遅れ加減で、3、4コーナー中間へ。
変わらず後方5頭目を追走していたウェラーマンはここから内を進んで一気に加速、4コーナーでは大外に出して直線に入る。
ここまで良い流れで逃げていたクラウドノイズが粘りを見せ、先頭をキープ。
しかし、その内からオーシンロクゼロがじわじわと迫る。
モンゲーギフト、グランレザンドールが3番手追走も、それらの外からウェラーマンが猛然と追い込んで残り100m。
前2頭の争いは、先頭に並んだオーシンロクゼロがゴール前、一気に内から抜けてゴールイン。
ゴールの瞬間、廣瀬騎手からはガッツポーズが飛び出した。
休み明け、初めての1700m、一気の相手強化、様々な試練を乗り越えたオーシンロクゼロ。
デビュー前から注目を集めていた素質馬が、無敗の4連勝で最初の一冠、菊水賞を制した。
1馬身3/4差の2着は逃げ粘ったクラウドノイズ。ネクストスター西日本からの連闘策となったが、自分の形に持ち込むとやはり強いということを証明して見せた。
そして1馬身半差の3着にウェラーマン。スタートは元々速い方ではなく、
内枠も災いして後方からの競馬を強いられたが、最後の直線はさすがの脚を見せた。
クビ差の4着にグランレザンドール、そこから3馬身差の5着にモンゲーギフト、以下離れてミスターダーリン、トウケイカッタローらが続いた。
◆オーシンロクゼロは重賞初挑戦となったここも無傷で突破し、4戦4勝。無敗の菊水賞馬が誕生した。
無敗での菊水賞制覇は、2012年のポアゾンブラック、2015年のインディウム、2017年のマジックカーペットに続き、サラブレッド導入後では7年ぶり、史上4頭目の快挙となった。
獲得タイトル
2024 菊水賞
◆廣瀬航騎手は重賞5勝目(今年2勝目)。
菊水賞は初制覇。(兵庫3歳三冠レース勝利も初)
◆玉垣光章厩舎は重賞初制覇。
厩舎は2015年1月13日の初出走以来、開業から9年余りで初タイトル奪取。
◆廣瀬航騎手 優勝インタビュー◆
(そのだけいば・ひめじけいば 公式YouTubeより)
雨天のため、屋外の表彰式は中止に。屋内で表彰式と勝利騎手インタビューが行われた。
今日はスタート決めて、好位の内につけたオーシンロクゼロ。
そこからウェラーマンと並ぶ上がり最速37秒9の脚で抜け出しての勝利となった。
「初めての距離だったんですけど、追い出したときに『伸びてるなー』と思うぐらい切れてくれたんで良かったです」と笑顔で振り返った廣瀬騎手。
様々な課題があった中でも、特に気をつけたのがスタート時の駐立だ。
この日もゲート内で首を上下させるなどヒヤヒヤさせたオーシンロクゼロ。
「もうそれだけ考えて乗ってたんで、初め。レース展開は出てみないと分からないんで。とりあえず落ちついて出てくれたのが一番結果につながったんではないでしょうか」と鞍上も苦笑混じりに話してくれた。
「絶好のスタートが決まったんで良いところにつけようと思って」との言葉通り、
結果的に道中は内の3、4番手に付けられたオーシンロクゼロ。
クラウドノイズが作り出す淡々とした流れの中、内でじっと我慢ができた。
「4コーナーまでは辛抱する馬だと思ってたんで、そこから考えようと思ったら内がきれいに空いたんで」
直線半ば、先頭のクラウドノイズの内から並びかけると、そこから一気に抜け出してゴールに飛び込んだ。
「楽しみですね、これから。課題もあるんですけど、どんどん上で戦っていけるのではないでしょうか」と自信を口にした廣瀬騎手。
玉垣厩舎の重賞初制覇については「たくさん勝たせてもらっている厩舎なんでね。本当にありがたいですけど」とこちらに関しても嬉しそうだった。
”操縦性があり、乗りやすく、追うと伸びてくれる”と本馬を評価した廣瀬騎手。
この先の兵庫優駿に向けても「全然(二冠達成は)あると思います。距離は全く問題ないと思うんで」と今後に向けて確かな手応えを感じているようだ。
廣瀬騎手には翌日も改めて話を聞いた。
雨も、距離も、休み明けも全く関係なかった。
これまで見せていたズブさは今回感じられなかったそうで、そのあたりは成長と言えるかもしれないと廣瀬騎手。
大型馬でストライドが大きいためか、体感よりスピードが出ている印象とのこと。最後の直線でも追えばまだ伸びそうだったということで、まだ底が見えない。
ちなみにゴールの瞬間の大きなガッツポーズについて触れると、「あれは、思わずですね。重賞に限らず、どんなレースでも勝ったら嬉しいんでね」とハニカミながら振り返った。
近年は毎年年間のキャリアハイを更新し、今年はすでに重賞2勝と好調も、
「リーディング上位にいれば良い馬も回ってくるんでね」と本人は至って冷静だ。
あくまで自然体、その上で進化を続けるベテラン、廣瀬航騎手の今後の活躍にも期待したい。
総評
愛馬に対しては「能力の高さは分かっていたし、距離も大丈夫だと思っていた。相変わらずゲートには課題がありますが、馬体が良いし、まだゆるさもあって今後も楽しみです」と期待を滲ませた。
マミエミモモタローとマルカイグアス、2頭のタイトルホースが不在、群雄割拠の三冠レースの第一章は、オーシンロクゼロの勝利で幕を閉じた。
レース後に聞いた「三冠も狙える器だと思います」という陣営の言葉。
新たな三冠創設元年にいきなり三冠馬が誕生するのかと早くも期待を抱かせる。
マミエミモモタローとの対戦はまだまだ先になりそうだが、2頭との今後の激突が楽しみだ。
そして、ネクストスター西日本からのタイトな日程でも2着に入ったクラウドノイズ、厳しい枠、後方からでも最後に脚を見せたウェラーマンらは敗れはしたものの改めて力を示した。
他の陣営も含めて「まだまだ勝負付けは終わっていない」とリベンジに燃えているはずだ。
菊水賞に間に合わなかった馬も含めて、今後各馬がどのような歩みで大一番に臨むのか、7月4日の兵庫優駿が今から待ち遠しい。
文:木村寿伸
写真:齋藤寿一