2024 西日本クラシック レポート
2024年05月01日(水)
全国的なダート競走の体系整備に伴い、南関東の三冠からJRA交流戦へと変わった今年からのダート三冠路線。
その三冠の第2戦「東京ダービー」に向けた西日本地区の前哨戦、東京ダービー指定競走として今年誕生したのが「西日本クラシック」だ。
地元兵庫の馬にとっては、7月4日の兵庫優駿と同じ1870mの舞台設定とあって、そのステップレースの意味合いもある。
記念すべき第1回西日本クラシックは、高知から4頭、笠松から1頭が遠征、それに地元馬6頭を加えた計11頭で争われた。
1番人気は、単勝2.1倍で地元兵庫の無敗馬オーシンロクゼロ。
昨年11月とデビューは遅れたが、そこから底を見せぬ走りでここまで破竹の4連勝中。前走の菊水賞では、相変わらず駐立の危うさは見られたが、スタートをしっかりと決め、直線は好位のインから鋭く抜け出し重賞初制覇。休み明け、距離延長、相手強化など多くの課題を乗り越えての一冠奪取となった。
2番人気の3.3倍が高知の無敗馬シンメデージー。こちらは昨年12月末というさらに遅いデビューながら、無敗街道を突き進み、無傷の5連勝。前走の土佐春花賞で重賞初制覇を果たした。しかしここまでの戦績で特筆すべきはJRA交流の足摺盃の勝ちっぷりであろう。先頭を走る中央のクリノキングマンとは、直線半ばの時点で6、7馬身の差。そこからただ1頭、別次元の末脚を繰り出しての差し切り勝ち。同じ打越勇児厩舎の重賞2勝馬、7戦6勝のプリフロオールインと共に高知3歳世代最強の双璧と目されているが、初の他場遠征、距離延長など課題を克服し、無敗記録を伸ばせるか。
3番人気の単勝4.6倍は高知のワンウォリアー。ここ2戦は兵庫ユースカップ、ネクストスター西日本と兵庫遠征で2着続き。もはや天敵になりつつあるその時の勝ち馬、同じ高知のリケアサブルが不在の上、さらに好走している中距離戦に変わるとあってチャンス到来。脇役返上の機を伺う。
その後は、地元のウェラーマンが単勝7.4倍の4番人気で続いた。前走の菊水賞では内枠が仇となり後方からのレースを強いられ3着。それでも先行勢が残る展開でただ1頭、勝ち馬と並ぶ上がり最速の脚を見せ、地力の高さは証明した。
直近2戦の重賞では1番人気の支持に応えられていないが、今回は真ん中より外の枠を引き、好機が巡ってきた。悲願の重賞制覇なるか。
そして5番人気の13.2倍に兵庫のマルカイグアス。昨年の大晦日、園田ジュニアカップは4、5頭ひしめく直線の攻防の中、鮮やかな差し切り勝利。故障で戦線離脱中の重賞3勝馬マミエミモモタローと並ぶ2歳王者に君臨した。
今年緒戦のスプリングカップ(名古屋)では地元の勝ち馬には屈するも人気馬を抑えて2着は確保。その後、菊水賞を目指して調整されていたが、歩様に若干乱れが生じたということで大事をとって出走を回避。
今回2ヶ月半ぶりのレースで兵庫3歳トップクラスの力を発揮できるか、菊水賞馬との初対決にも注目が集まる。
出走馬
レース
ゴールイン
今週GW4日間連続開催の3日目となったこの日は、初日、2日目よりも天気が悪く、朝から1日雨が降り続いた。前日の蒸し暑さから一転、16時現在で実況席の気温は15.2℃、風も冷たく肌寒い中、記念すべき第1回のファンファーレが鳴り響いた。
好発を決めたのはオーシンロクゼロと高知のアグロドルチェ。一方、同じく高知勢のワンウォリアーとホーリーバローズが出遅れ、マルカイグアスも後方からのスタートとなった。
二の脚で先手を取ったミスターダーリン。前走は控える競馬で持ち味が出なかったが今回は積極策。オーシンロクゼロはすんなり2番手に控え、それをマークするように高知の大将角シンメデージーが3番手で続いた。
スタート後手からすぐに巻き返したマルカイグアスが外の4番手、高知勢のアグロドルチェとホーリーバローズ、そしてウェラーマンと固まって中団馬群を形成し、1周目の3、4コーナー中間点へ。
後方からはレイアンドダンス、ワンウォリアー、ゴールデンロンドンが差がなく追走。1頭遅れて最後方に、人馬共に紅一点、笠松のアンバーシュガーと佐々木世麗騎手が続いて、スタンド前に入る。
ホームストレートで先頭のミスターダーリンがペースを落とし、隊列が短くなる中、オーシンロクゼロは折り合いをつけて2番手をキープ。それを見ながらシンメデージーが3番手の外、マルカイグアスがその内に潜り込んで好位を追走。その後方は内にウェラーマン、外にアグロドルチェ、さらにワンウォリアー、ホーリーバローズと高知の3頭が固まって前を追う。
ペースは落ちついて向正面へ。気持ちよく逃げるミスターダーリンに、離れずついていくオーシンロクゼロ。バックストレッチも半ばに差し掛かるあたりでレースは動く。
3番手シンメデージーの吉村騎手が早めに仕掛けると、それに応戦するようにオーシンロクゼロの廣瀬騎手も促して、早くも先頭へ。
オーシンロクゼロとシンメデージー、兵庫と高知の無敗馬が並んで3コーナーのカーブに入る。ミスターダーリンが後退し、代わってマルカイグアスが外に切り替えて3番手に浮上。それを追って2馬身後ろにウェラーマンが続く形で残り400m。
後ろを離し、完全に一騎打ちムードの2頭。残り300mを迎えたところでシンメデージーが若干前へ出ると、オーシンロクゼロも盛り返して直線へ。
前の2頭から4馬身離れてマルカイグアス。さらにウェラーマン、ワンウォリアーが続いて残り100mを迎える。
熾烈な叩き合いが続くゴール前、早め先頭から押し切りを図るシンメデージーがここで1馬身、2馬身と突き放す。必死に抵抗を続けるオーシンロクゼロもついに一杯になり、離されての2番手、追い込んできたマルカイグアスが3番手。
シンメデージーは最後後続を3馬身半離して1着のゴールイン。
高知3歳最強の1頭といわれる逸材が、西の無敗馬対決を制した。
距離延長、初の遠征、当日の馬体重がマイナス17キロという様々な懸念材料も、終わってみればどこ吹く風とばかりの完勝だった。
地元のオーシンロクゼロはキャリア5戦目にして初めて土がついたが、兵庫トップの意地を見せて2着を守った。
3着にマルカイグアスが入り、復帰緒戦ながらこちらも2歳王者の力を示す内容だった。
4着に高知のワンウォリアー、5着にウェラーマンが入った。
◆シンメデージーはこれで通算6戦6勝、重賞2勝目を連勝で決めた。
獲得タイトル
2024 土佐春花賞(高知)
2024 西日本クラシック
◆吉村智洋騎手は重賞通算48勝目。今年は1月のコウノトリ賞(スマイルミーシャ)に続いて2勝目。
◆打越勇児厩舎は3月に地元高知の土佐春花賞(シンメデージー)を制したのに続き、今年の重賞5勝目。これが他場重賞初制覇となった。
◆吉村智洋騎手 優勝インタビュー◆
(そのだけいば・ひめじけいば 公式YouTubeより)
真っ向勝負で無敗馬対決を制したシンメデージーの吉村智洋騎手。
高知3歳世代最強の1頭を、兵庫のトップジョッキーが重賞連勝へと導いた。
地元の無敗馬をねじ伏せたレースっぷりに、吉村騎手は開口一番、「もう完勝と言える内容でした」と一言。
続けて、「高知の最強馬の依頼をいただいて光栄だなと思って、しっかり結果だけ出そうと思って乗ってました」と騎乗にあたっての思いを口にした。
シンメデージーはオーシンロクゼロの背後、道中3番手から競馬を進め、向正面半ばあたりから早めに進出、一騎打ちに持ち込んだ。
「スタートも良かったですし、本来は逃げ馬の後ろに入るのが園田でのセオリーなんですけど、2番手の後ろ、王道で小細工なしで勝負しても勝てるであろうと思っていたので、上手くいったかなと思います」と、馬の力を信じての騎乗だった。
コーナーで若干もたついたそうだが、直線では後ろを突き放す伸びを見せた。
2着に3馬身半つける快勝だったが、それでもまだ追えば追うほど伸びる感覚があったというから恐れ入る。
この馬の将来性については、「まだ無敗ですし、園田に輸送してきてもイレ込む感じもなかったので全然まだまだ伸びしろがあると思います」と太鼓判を押した。
吉村騎手はこのレースが地方通算3400勝のメモリアル勝利となった。
総評
意外にも他場重賞は初勝利。これに触れると「素直に嬉しいですね」と破顔一笑。
初輸送で馬体重がマイナス17キロになっていたことについては、「数字だけは気になったんですけどね。ただ馬体も雰囲気も悪くなかったですし、覇気もありました。レースでもすごく良い脚を使ってくれましたね」と安堵の表情を見せた。
砂の質の違いなのか、馬が成長したのか、現状では分かりませんが。
距離はむしろ長い方が良いですね」と今後に向けて手応えも掴んだようだ。
「プリフロオールインが高知優駿、シンメデージーが東京ダービーになるかなという感じですが…今後オーナーと相談して決めたいと思います」と、次走はまだ検討段階とのことだ。
そして最後に打越師は「南関東は甘くないですけど、ウルトラノホシみたいになってくれたら」と、中央馬相手に善戦を続ける佐賀の雄を引き合いに出して、将来の希望を語ってくれた。
今回アウェーの競馬でこれだけの強さを見せたシンメデージーだが、聞けば、馬の状態面は7、8割位だったというから驚きだ。一体どれほど強いのか、地方トップクラスの存在として今後が楽しみになる。
そして、敗れはしたが、やはり兵庫ではトップの力があることを示したオーシンロクゼロ。
レース後、廣瀬騎手は「いやー強かったですね、相手が。ただこの馬もしっかり走ってくれました。スタートも決まって、前走よりも動きは良かったですね。兵庫優駿に向けて良いんじゃないですか」と、次走への手応えも口にした。
取材の最後に「土をつけときました(笑)」と悔しさを滲ませつつ、冗談混じりに放った言葉が印象的だった。
無敗の重圧からはこれで解放、夏の大一番では伸び伸びと走ってもらいたい。
こちらもまだまだ成長途上、まずは目の前の二冠目、そして、いつの日か、”高知最強”へのリベンジも期待したいところだ。
文:木村寿伸
写真:齋藤寿一