2024 園田オータムトロフィー レポート
2024年10月10日(木)
全国的なダート競走の体系整備が行われ、今年から、「菊水賞」、「兵庫優駿」、そして、この「園田オータムトロフィー」に新装された兵庫3歳三冠。
最後の一冠に駒を進めた顔ぶれは、7月の兵庫優駿後、夏場を休養に充てた馬、夏に力をつけた馬、中央から転入してきた新興勢力と多士済々だ。
兵庫優駿で2着に入るなど常にこの世代で上位の走りを見せていたウェラーマンこそ残念ながら怪我で引退となったが、春の二冠を分けあった菊水賞馬のオーシンロクゼロ、兵庫優駿の覇者マルカイグアスらを筆頭に役者は揃った。
1番人気の単勝1.7倍となったマルカイグアス。
2歳時までこの世代の中心は、怪我で離脱するまで無敗の重賞3勝馬マミエミモモタローだったが、暮れの園田ジュニアカップを勝利し、2歳王者となってからは、この馬も主役候補の一角を担った。その後の重賞戦線でも善戦を続け、前走の兵庫優駿では、陣営のメイチの仕上げに加え、鞍上鴨宮祥行騎手の向正面からの強気の騎乗で8馬身差の圧勝劇。堂々世代の頂点に立った。
デビュー後、初めて放牧に出され、充電完了。リフレッシュして二冠に臨む。
2番人気は、ウインディーパレスで単勝4.3倍。
デビューから無敗の6連勝を飾り、堂々1番人気で挑んだ前走の兵庫優駿では、マルカイグアスの早めの仕掛けに抵抗できず、5着と敗れて初黒星。陣営は「夏負けのきらいもあったかな」とその状態面を主な敗因に挙げた。こちらもレース後は牧場で英気を養い、直行での参戦。今回は小牧太騎手との初コンビ、毅トレーナーと兄弟タッグでの初重賞制覇がかかる。
3番人気は、単勝7.0倍で オーシンロクゼロ。
デビュー時からの評判馬で、無傷の4連勝で第一冠の菊水賞を制すると、続く西日本クラシックでも高知の実力馬シンメデージーに食い下がっての2着と健闘。
二冠達成へ注目を集めた前走の兵庫優駿だったが、これまでずっと課題とされてきたゲートの駐立が上手くいかず、スタートで出遅れ。その後も後方ポジションのまま見せ場なく、よもやの8着に敗れた。
9月末のゲート再検査でなんとか合格して、三冠最後の舞台に間に合ったが、今回はスタートを決めて本来の力を見せることができるか。
4番人気はクラウドノイズで9.3倍。
兵庫優駿12着から臨んだ前走のB2戦(1400m)では、ラヴィアンら古馬を相手に5馬身差の圧勝。やはり自分の流れに持ち込むと強いところを証明した。
これまで重賞では菊水賞の2着が最高着順。重賞9度目の挑戦で悲願のVとなるか。9月に園田チャレンジカップを制し、デビュー4年目で重賞初制覇を決めた大山龍太郎騎手が今度は自厩舎での重賞勝利を狙う。
さらに、5番人気は中央からの転入組のファッシネイトパイで14.9倍。
前走は転入2走目となったトライアルのクリスタル賞を快勝し2連勝。まだ兵庫では底を見せていない。今回は、先月兵庫ジュベナイルカップを勝った、高知の赤岡修次騎手が騎乗。名手と共に一気に3歳の勢力図を塗り替えるか。
6番人気は中央から転入2戦目のナリタセレーノで23.1倍。人気の上では春の実績馬が上位を固めた。
出走馬
レース
ゴールイン
この日は朝から気持ちのいい秋晴れとなった園田競馬場。今週の開催前に降った雨の影響が多少残り、やや重のコンディションで秋の大一番を迎えた。
ゲートの駐立に課題のあるオーシンロクゼロが、最後に誘導を受けて12番ゲートへ。これがスムーズに収まってゲートが開く。
大きく出遅れたのはガイアエクスプレス。一方、好発を決めたのはプリムロゼ、そしてそれをあっさり交わしてクラウドノイズがハナを叩く。
今回はスタートを決めたオーシンロクゼロが促して2番手につける。プリムロゼが3番手の内、並んで外にウインディーパレスで1周目の3、4コーナー中間点。
前4頭が3馬身の圏内、一団となって引っ張る。それらを見ながら2馬身後方、5番手の外にマルカイグアス。さらにファッシネイトパイがそれをマークするように内にいて、中団グループは内からメロディメーカー、インテンシーヴォ、レイアンドダンスと3頭併走、後方はワンダーグリーとナリタセレーノ、そこから2馬身差でガイアエクスプレスが最後方となり、1コーナーに入っていく。
流れは落ち着き、馬群全長12馬身、クラウドノイズのペースで向正面へ。2番手には体半分差でオーシンロクゼロが続き、プリムロゼ、ウインディーパレスも馬順変わらず差がなく追走、2コーナー過ぎからペースが上がる。
中団にファッシネイトパイ、そしてスタンド前でポジションを上げた吉村騎手のレイアンドダンスが続き、その動きで一旦位置が下がったマルカイグアスが、このあたりで兵庫優駿のときのように早めに発進する。
鞍上に促されると1頭、2頭、3頭とあっという間に抜いていくマルカイグアス。
ゴールまで残り600mで、クラウドノイズが先頭、オーシンロクゼロが2番手、そしてマルカイグアスが、ウインディーパレスと共に2番手の外まで上昇、若干包まれる形となったプリムロゼは5番手に下がって3コーナーへ。
残り400m付近、マルカイグアスがまくりきって先頭へ。クラウドノイズも一瞬抵抗は見せるが、あっという間に1馬身、2馬身と離されていく。
先頭と5馬身離れた内からプリムロゼが追い上げて3番手、3コーナー手前からマルカイグアスと動いていったウインディーパレスは勢い鈍って4番手に後退。内で脚をためていた赤岡騎手のファッシネイトパイが直線外に出して3番手争いへ。
4コーナーを回って残り200m、2馬身のリードでマルカイグアスが堂々先頭。
食い下がるクラウドノイズ、それに並んでくるプリムロゼ、さらにその後方からファッシネイトパイが差し脚を伸ばし、それにウインディーパレスもしぶとくついていく。
早め先頭のマルカイグアスは勢いが衰えるどころか、逆にその差が開き、悠々ゴールイン。これで堂々の二冠達成。鞍上の鴨宮祥行騎手はゴール後、高々と右拳を天に突き上げた。
離れた4馬身差の2着はプリムロゼ、クビ差迫ったファッシネイトパイが3着。
そこから4馬身離れた4着にウインディーパレス、差のない5着でクラウドノイズが入線、菊水賞馬オーシンロクゼロは8着に敗れた。
◆マルカイグアスは兵庫優駿に続いて兵庫二冠達成。これで9戦4勝、重賞は3勝目となった。夏を越えても王座は揺るがず、世代最強を証明した。
獲得タイトル
2023 園田ジュニアカップ
2024 兵庫優駿
2024 園田オータムトロフィー
◆鴨宮祥行騎手は重賞通算9勝目。マルカイグアスと共に制した兵庫優駿に続いての重賞制覇で二冠達成。これで今年の重賞3勝目となり、年間の重賞勝利数でもキャリアハイとなった。
◆橋本忠明厩舎は重賞通算44勝目で、こちらも兵庫優駿に続いて今年の重賞3勝目。園田オータムトロフィーは、2018年(第1回)のクリノヒビキ、2021年(第4回)のエイシンビッグボス以来、3度目の勝利となった。
◆鴨宮祥行騎手 優勝インタビュー◆
(そのだけいば・ひめじけいば 公式YouTubeより)
見事な二冠達成に「ありがとうございます!もう強かったです、はい!」と白い歯をこぼした鴨宮騎手。
ゴール後、そして口取りで見せた二冠を表すVサインが印象的だったが、「気分が良いもんですね」と笑顔で答えた。
前走の兵庫優駿と同じような形で向正面から早めの進出、まくる競馬で勝負を決めたマルカイグアス。
「兵庫優駿のときは、(まくりきった後の)3コーナーから僕が不安で、慌てちゃってたんですけど、今日は自信を持って強気でいって最後も止まることはないだろうという感じで追ってたんで」とレース中の心境を振り返った。
道中は先団4頭を見る形の5番手追走。思ったほど外からのプレッシャーもなく、理想通りの流れで序盤を迎えた。スタンド前で吉村騎手のレイアンドダンスがマルカイグアスの外から進出、そのためポジションが少し後ろに下がったが、
「それをパスしても、向正面で一気に動いていけるという自信はあったんで」と、それに慌てることなく、冷静にやり過ごし、追い出しの機を待った鴨宮騎手。
仕掛けて上昇する中、「3コーナーでは息が入る感じで回れた」というから、結構余裕はあったようだ。
ゴール後の鞍上は、兵庫優駿の時の”喜び爆発”というよりも、この馬の強さを確信していたかのような堂々たる振る舞いに見えたが、今回はやはりそういった自信、相棒に対する信頼が表に出ていたのかもしれない。
夏を越えての成長面に関しては、「非常に良くて、一度叩いてからという声もあったんですけど、そんなのは全然。牧場でもしっかり乗ってくれてましたし、1ヶ月厩舎でしっかり仕上げてたのがさすがだなと思います」と好感触。
続けて「これだけの馬に乗せてもらっているんで、恥じないように頑張るだけです」と、兵庫優駿制覇後、たびたび聞かれる”(ダービージョッキーとして)恥じないように”のフレーズがここでも飛び出した。
今後について陣営は、園田金盃に向かうプランを話していたが、「古馬との対戦になると今日のような大味な競馬は苦しいと思うんですけど、それでも斤量差とかもありますので、すごく楽しみな存在になってくれると思います」と、鞍上は相棒との次なるステージにも自信をのぞかせた。
総評
”ダービージョッキー”の称号が人を成長させるのかと思うような覚醒ぶりだ。前述のインタビューのとおり、技術面云々というより”恥じないような姿を”という気持ちの部分が今年のブレイクスルーにつながっている。
前走から10キロ増えた馬体重には、「うーん、ちょっと緩くも見えたけど…」とコメント。多少余裕残しだったのかなという感じだが、それであのパフォーマンスなのだから末恐ろしい。
この後は、また一旦放牧に出て、12月5日の園田金盃を目指すとのこと。
世代最強を証明し、次は古馬の一戦級が相手となる。古馬中距離界は今、確固たる主役不在で群雄割拠の状況だ。ここ2戦で見せた豪快な競馬が通用するのか、容易ではないかもしれないが、鞍上共々成長した今なら一気に頂点に駆け上がり、”兵庫の顔”になるのも夢ではない。
厩舎を去った偉大な先輩ジンギの背を追って、若き王者は突き進む。
文:木村寿伸
写真:齋藤寿一