2024 兵庫クイーンカップ レポート
2024年10月30日(水)
西日本交流重賞となって5回目となる秋の女王決定戦「第21回兵庫クイーンカップ」。距離は去年より1700m戦から1870戦に変更されている。
その去年、「兵庫サマークイーン賞」と「兵庫クイーンカップ」を連勝した“金沢の女傑”ハクサンアマゾネスが、今年も同じように兵庫サマークイーン賞を勝利したあと、夏秋連覇に向けて来訪した。
さらに笠松から3歳馬の重賞ウイナー、ワラシベチョウジャが参戦。去年2着の重賞6勝馬のスマイルミーシャ、去年の3歳グランダム女王マルグリッドなど、それらを迎え撃つ地元勢6頭を含む少頭数8頭で争われた。
西日本交流重賞となって以降、2020年(第17回)のマコトパパヴェロ以外は、愛知、金沢、金沢と遠征馬が3連勝中。
今年も遠征馬が強いのか、それとも地元馬が意地を見せるのか。偉大な記録もかかる一戦に注目が集まった。
1番人気は、去年の覇者ハクサンアマゾネス(金沢)で単勝1.3倍。
去年同様、夏の兵庫サマークイーン賞を勝利しての臨戦。その間、2戦は地元金沢と名古屋の重賞で3着、2着と勝ち切れてはいないが、相手も他場の強敵だった。通算重賞勝利数はここまで24。国内平地重賞勝利記録はすでに自身で更新中だが、ここを勝って25勝となれば、ばんえい競馬を含めた日本記録タイとなる。園田はここまで3戦無敗。今年も圧倒するか。
単勝2番人気(3.1倍)は、地元の筆頭格スマイルミーシャ。去年は兵庫ダービー馬、グランプリホースに輝いた名牝だが、その去年の中で唯一力負けの感があったのが、ハクサンアマゾネスの3馬身差2着に敗れた兵庫クイーンカップだ。
今年は年初にコウノトリ賞を制したあと、兵庫女王盃(Jpn3)で6着など勝ち星から遠ざかっている。特に前走の六甲盃ではまさかの12着とシンガリ負けを喫した。その後は蓄積された疲労を取り除くべく、北海道に長期休養へ。
リフレッシュ効果で充電完了、再び金沢の女傑に挑戦する。
人気は完全に2強ムード。離れた3番人気の単勝17.1倍がマルグリッド。
去年は佐賀のル・プランタン賞を勝利、関東オークス(Jpn2)でも5着と善戦し、見事グランダムジャパン3歳シーズンの覇者となった。今年も比較的堅実駆けを見せており、前走はA2B1の混合戦(1700m)で差し切り勝利と勢いに乗る。
距離延長こそ望むところ、今年すでに重賞8勝の下原理騎手と2つ目のタイトルを狙う。
4番人気は、単勝22.6倍でワラシベチョウジャ(笠松)。
2歳時はデビュー5連勝で重賞ネクストスター笠松を制するなど輝きを放ったが、今年に入ってからは重賞戦線で2着4回など勝利から遠ざかっている。唯一の3歳馬が歴戦の古馬相手に久々の勝ち星を挙げられるか。
さらに、単勝34.7倍の5番人気にはこのレースをもって引退、繁殖入りとなるネネが続いた。
出走馬
レース
ゴールイン
今週の開催前に降った雨の影響で、前日は「不良」馬場、この日も「不良」でスタートして8R以降「重」に回復した。16時現在で実況席の気温は20℃、風があってやや肌寒さが感じられた。
今年は残暑が例年よりも異常なほど長く続いていたが、ようやく季節が暦に追いついてきた形だ。気持ちのいい秋晴れの下、ファンファーレが高らかに鳴り響いた。
スタートはバラバラ。なんとハクサンアマゾネスが出遅れ、スマイルミーシャも立ち上がるようなスタートで後方からと、人気の2頭が後手を踏み、場内がどよめく中の幕開けとなった。
一方、好発を決めたのは大外のブルレスカ。しかしこちらは内の馬たちに先へ行かせて、すぐさま折り合いに専念。二の脚で先手を奪ったのはエントラップメント、そしてこのレースがラストランとなるネネが2番手、大方の予想通り、盛本厩舎の2頭がレースを引っ張る。
1馬身差の3番手に笠松のワラシベチョウジャ、差のない内の4番手にマルグリッドがつけて1周目の3コーナーへ。スタート後手から巻き返したスマイルミーシャが中団5番手に上がり、直後にアイヤナ、ブルレスカ、そのあと2馬身差の最後方からハクサンアマゾネスが追走する形で1周目の4コーナーに入る。
この時点で先頭とシンガリの差は12馬身ほど、ペースが緩んでホームストレートへ。
エントラップメントが逃げてマイペースに持ち込むと、背後のネネはかかり気味になって、半馬身差で外の2番手に。マルグリッドはいつもより前目、労せず3番手の内をキープ。以下、ワラシベチョウジャ、スマイルミーシャ、アイヤナが中団を形成、1コーナーに入るところでハクサンアマゾネスが動き出し、ブルレスカを交わして後方2頭目から前を追う。
2コーナーに入る間にぐんぐん上昇するハクサンアマゾネス、先頭のエントラップメント、ネネがほぼ並んで向正面に入る頃には3番手まで浮上する。
一気にレースが動く中、好位にいたマルグリッド、そして前に出られたスマイルミーシャらがすぐさまハクサンアマゾネスを追いかける態勢に。
後方グループはそこから4馬身置かれ、ポジションを下げたワラシベチョウジャ、それを抜いて手応えよくブルレスカが追い上げ開始、最後方はアイヤナに変わって、隊列は縦長、3、4コーナー中間へ。
残り400m手前で、楽々と先頭に立ったハクサンアマゾネス。エントラップメントとネネが苦しくなって後方に下がり、代わってスマイルミーシャが外から追い上げ2番手に。伸びを欠くマルグリッドは中団のまま、対して大外からブルレスカが脚を伸ばして3番手グループに接近し、4コーナーから直線コースへ。
早め先頭から押し切りを図るハクサンアマゾネス、2馬身差でこれを追うスマイルミーシャ、去年同様2頭の一騎討ちとなるも差は詰まらない。
残り100mを切ってブルレスカが前の2頭から離れた3番手に浮上。
先頭を走るハクサンアマゾネスの脚色は衰えることなく、そのまま2馬身半差でゴールイン。これで兵庫は負けなしの4戦4勝。今夏の兵庫サマークイーン賞に続き、この兵庫クイーンカップも見事連覇を果たした。
2着にスマイルミーシャが入り、去年同様、この2頭のワンツーフィニッシュ。去年は3馬身、今年は2馬身半とその差は今年も埋まることはなかった。3着には後方から自分の競馬に徹した“最下位人気”のブルレスカが入った。
◆ハクサンアマゾネスはこれで43戦30勝、重賞通算25勝目となり、ばんえい競馬のオレノココロが持つ重賞最多勝の日本記録についに並んだ。
ちなみに平地競走における重賞最多勝記録は名古屋のカツゲキキトキトが持つ20勝を超えてからは自ら更新し続けている。
獲得タイトル
2020 ノトキリシマ賞、石川ダービー、加賀友禅賞、お松の方賞、中日杯
2021 JBCイヤー記念、利家盃、百万石賞、北國王冠、読売レディス杯、中日杯
2022 利家盃、百万石賞、お松の方賞
2023 金沢競馬移転50周年記念、利家盃、百万石賞、兵庫サマークイーン賞、
兵庫クイーンカップ、中日杯、金沢ファンセレクトC
2024 利家盃、百万石賞、兵庫サマークイーン賞、兵庫クイーンカップ
◆吉原寛人騎手は、重賞通算175勝目(地方174勝、中央1勝)。今年の重賞24勝目。 兵庫重賞は、今年の兵庫サマークイーン賞(ハクサンアマゾネス)に続く10勝目。このレースは、2022年(第19回)のベニスビーチ(金沢)、去年、今年はハクサンアマゾネスで勝利し、3連覇を果たした。
◆加藤和義厩舎は重賞通算35勝目(今年7勝目)で、兵庫の重賞は今年の兵庫サマークイーン賞(ハクサンアマゾネス)に続く4勝目となった。
◆吉原寛人騎手 優勝インタビュー◆
(そのだけいば・ひめじけいば 公式YouTubeより)
スタート出遅れからの見事な巻き返し、今年も改めてその強さを見せつけたハクサンアマゾネス。勝利騎手インタビューで吉原騎手は、「ほっとしました」と苦笑まじりにまず一言、そして安堵の表情を浮かべた。
「ちょっときょうは機嫌が悪かったみたいで、なかなかトモがしっかり着地しなかったんで、僕もちょっといじってたんですけど、それがまた馬は気に食わなかったみたいで、暴れるそぶりになってしまったんですけど」
そのゲート内の駐立の悪さがそのまま、スタートの出遅れにつながってしまったが、そこからは鞍上は慌てず騒がず最後方からレースを進めた。
「極端な枠だったので位置取りを考えないでいいと思って、逆に後ろの方から行けると腹括って乗りました」
同じく出遅れたスマイルミーシャはすぐに巻き返して中団へ、それを後ろでマークしながら進むハクサンアマゾネス。そして1コーナーのあたりから早めに動き出した。
「(スマイル)ミーシャが一瞬動きが悪そうなところを見せたので、そこで一気にそれだけはさばいておこうと思って3番手まで行きました」
さすがは全国を股にかける名手、一瞬の隙も逃さない。その後、他馬との手応えの差を感じた吉原騎手は「もう気分よく行ってしまおうと思って」と、3コーナーすぎで早め先頭に立った。
そこから直線も脚色は衰えず、スマイルミーシャらを完封。見事、兵庫サマークイーン賞に続く、夏秋連覇を2年連続で達成した。
この勝利で重賞通算25勝となり、ばんえい競馬のオレノココロが持つ重賞最多勝の日本記録に並んだ。
「改めて(ハクサン)アマゾネスの凄さを実感しました」とパートナーに感心しきりの名手は、続けて「本当にすごい記録だと思いますし、あと年内でもう1つ積み重ねて26にしたいなという思いはあります」と、今度は日本記録の更新に意欲を示した。
ハクサンアマゾネスの強さはもちろんだが、“名手・吉原寛人”の柔軟な状況判断や勝負勘が光る一戦だったとも言える。
総評
「20数年(騎手を)やってきた中でいろんな経験をさせてもらって、それを全てこのアマゾネスに注ぎ込んでいるんで。調教からさせてもらっていますし、そういう意味でも僕の集大成的なものはありますね。まだ僕のここからのキャリアがどれだけあるか分からないですけど、今の中では一つの作品、代表馬ですね」
全国を代表する名手にここまで言わしめる存在、それがハクサンアマゾネスということか。
次走は12月1日、地元金沢の中日杯を見据えているとのこと。引退まであと1、2戦とのことで、残すチャンスもあとわずか、ぜひ次で日本記録の更新という歴史的快挙を見てみたい。
文:木村寿伸
写真:齋藤寿一