2024 園田金盃 レポート

2024年12月05日(木)

今年の中距離No.1を決める、暮れの大一番「園田金盃」。兵庫版有馬記念とも称されるグランプリレースは、事前にファン投票が実施され、今年もイグナイターが1位となった。2位アラジンバローズ、3位キリンジを含め、佐賀のJBCでも好走した新子厩舎3頭がファン投票上位独占を果たした。

ファン投票の結果は以下の通りで、出走意思を示した3位キリンジ、4位マルカイグアス、6位スマイルミーシャ、7位ツムタイザン、9位ミステリーボックス、11位エントラップメントの6頭がまずは選出された。

さらに記者選抜でインベルシオンとサンビュートの2頭が選ばれ、残りの4頭は自場収得賞金順で選ばれた。

騎手もグランプリらしく豪華な顔ぶれ。ミステリーボックスには高知の赤岡修次騎手、サンビュートには門別の落合玄太騎手(現在浦和競馬で短期騎乗中)、ドンカポノには金沢の吉原寛人騎手と各地の名手も参戦。
さらに今年デビューしたJRAのルーキー吉村誠之助騎手もエントラップメントに騎乗することに。父・智洋騎手と重賞での初競演となる。

1番人気は、単勝1.8倍でキリンジ。
3歳時からダートグレードで4度馬券に絡み、屈指の実力を引っさげて兵庫へ移籍。しかし、摂津盃3着、姫山菊花賞3着と地元重賞で勝ち切れなかった。前走は佐賀のJBCクラシック(Jpn1)に挑み3着。調教の強度を変え、メンコとチークピーシズを外し、ハミをゴム製のものに変えるなど馬具の工夫も施して一定の手応えを得た。Jpn13着は力の証、地元では負けられない。無冠返上への期待が集まった。

2番人気は、単勝3.7倍でマルカイグアス。
今年の3歳二冠馬。兵庫優駿を向正面で一気に動く豪快な競馬で勝利すると、秋初戦の園田オータムトロフィーも同様に向正面スパートで完勝。世代最強の栄誉を得た。そこから金盃へ向けて2ヶ月近く間隔を空けて、初の古馬戦が大一番。年長馬より1kg軽い55kgの斤量は有利になる。昨年のスマイルミーシャに続いて3歳馬の勝利なるか。

3番人気は、単勝7.7倍でスマイルミーシャ。
今年初戦のコウノトリ賞で重賞6勝目を挙げたが、その後勝利から遠ざかる。六甲盃12着とよもやの大敗でリフレッシュ放牧へ。復帰戦の兵庫クイーンカップはハクサンアマゾネスに敗れるも2着は確保、復活の兆しを見せた。ただ近走ゲートの駐立が悪いとのこと。スタートをしっかり決めて自分のレースさえできれば、連覇が見えてくる。

さらに、真夏の摂津盃で初タイトルを手にしたミステリーボックスが単勝11.3倍で4番人気、 昨年アタマ差の2着と悔し涙を呑んだツムタイザンが13.9倍の5番人気で続いた。あとは28倍以上と差が開いていた。

出走馬

1番 メイショウハクサン 小牧太騎手
2番 ミステリーボックス (高)赤岡修次騎手
3番 サンビュート (北)落合玄太騎手
4番 エントラップメント (J)吉村誠之助騎手
5番 ベストオブラック 田野豊三騎手
6番 スマイルミーシャ 吉村智洋騎手
7番 テーオーターナー 大柿一真騎手
8番 マルカイグアス 鴨宮祥行騎手
9番 ツムタイザン 杉浦健太騎手
10番 インベルシオン 廣瀬航騎手
11番 ドンカポノ (金)吉原寛人騎手
12番 キリンジ 下原理騎手

レース

スタート
1周目向正面
1周目3~4コーナー
1周目スタンド前
1周目スタンド前
2周目2コーナー~向正面
向正面
3~コーナー
4コーナー~最後の直線
最後の直線
最後の直線
最後の直線

ゴールイン

週初めの雨の影響が残り、火曜からずっと稍重で行われていた馬場もこの日の4Rからようやく良に回復。気温は12℃と平年をやや下回り、北西風も吹いて寒く感じられるコンディションだった。

注目のスタートは、ツムタイザンが一番速く、クビ~半馬身ほどの利。その外でインベルシオンもダッシュを利かせる。逆に、一歩目でバランスを崩したドンカポノが大きく遅れてしまったほか、メイショウハクサン、ベストオブラック、スマイルミーシャの3頭もやや出負け。

まずは向正面での先行争い。スタートダッシュを決めたツムタイザンが、内から気合いをつけられて上がってきたエントラップメントを抑え込んでハナを主張。昨年の兵庫大賞典以来1年半ぶりの逃げに持ち込んだ。インベルシオンが2番手に上がり、一旦ハナをうかがったエントラップメントは3番手に抑えざるを得ない展開となった。

マルカイグアスはスタートからの行きっぷりも良く4番手好位を取り、サンビュートがその直後。テーオーターナーがいて、中団の外にキリンジがポジションを取った。ミステリーボックスが今回は抑えて中団の後ろ、スマイルミーシャも位置が取れずに後方4番手。メイショウハクサン、ベストオブラック、ドンカポノと続いて1周目のスタンド前へ。

それほどペースが上がらない中、スタンド前でキリンジが大外から少しポジションを上げてマルカイグアスに並ぶと、3番手に上がったマルカも前の2頭を突く形となり1コーナー入口ではツムタイザンとインベルシオンもペースアップ。馬群全長12馬身程度で向正面へと入った。

向正面に入るともう各馬が仕掛けを開始。逃げるツムタイザンはインベルシオンにずっと突かれる展開が仇となったか3コーナー入口で脱落。先頭に躍り出たインベルシオンにマルカイグアスがぐんぐん迫っていく一方、ややもたつきを見せるキリンジ。4コーナーではマルカの3馬身後ろ、テーオーターナーと並ぶ3~4番手で直線を向いた。

追い比べから残り150mでマルカイグアスがインベルシオンを抜いて先頭、そのまま半馬身差抜け出して優勝のゴールイン。3歳二冠馬が強豪古馬を一蹴し、重賞4勝目を挙げた。
2着はインベルシオン、9番人気の低評価を覆す見事な粘りを見せた。そこから2馬身半差でキリンジはまたしても3着。テーオーターナーこそねじ伏せたが、今回も勝負所でなかなかトップギアに入らずに前と離されてしまい、エンジンがかかった頃にゴールを迎えた感じ。なんとももどかしい4連続の3着。

最低人気だったテーオーターナーが最後までキリンジと競り合って健闘の4着。末脚確実なベストオブラックが内から5着に伸びてきた。

ミステリーボックスは持ち味活かせず8着。また、連覇を狙ったスマイルミーシャは10着、ツムタイザンは11着と去年の1,2着馬は思わぬ大敗となってしまった。

◆マルカイグアスはこれで10戦5勝。重賞4勝目。重賞3連勝で中距離No.1ホースに輝いた。
昨年のスマイルミーシャに続いて2年連続で3歳馬が金盃を制した。3歳馬の優勝はサラブレッド導入後5頭目。(過去優勝した3歳馬は、2003マイネルエクソン、2011ホクセツサンデー、2014トーコーニーケ、2023スマイルミーシャ)

獲得タイトル

2023 園田ジュニアカップ
2024 兵庫優駿、園田オータムトロフィー、園田金盃

◆鴨宮祥行騎手は重賞通算10勝目(今年4勝)。園田金盃初制覇。

◆橋本忠明厩舎は重賞通算45勝目(今年4勝)。園田金盃は3勝目、2020,21年のジンギでの連覇に続く勝利となった。

◆鴨宮祥行騎手 優勝インタビュー◆
 (そのだけいば・ひめじけいば 公式YouTubeより)

勝利騎手インタビューで、「凄い馬です。世代最強馬が現役最強馬になった瞬間に居れて、非常に嬉しいです」と鴨宮騎手は顔を綻ばせた。

今回が初めての古馬戦。古馬の一線級相手だったが、「やれるとは思っていました。胸を借りるつもりで、すごくワクワクしていました」と不安よりも楽しみの方が大きかった。

戦前、橋本忠明調教師は「相手はキリンジとスマイルミーシャだと思う。この2頭よりも前で競馬できればチャンスがあると思う。このメンバーでも好位につけられれば良いね」と話していたが、4番手からの競馬でまさにその通りの展開となった。

「前回からスタートも上手になってきて、今日くらいの位置には取り付けると思っていました。最初のコーナーは非常に良い入りでした。キリンジが外枠だったので、どの辺まで来るかなと思っていました」と鴨宮騎手は絶好位を取った後、外のライバルの動向を気にしながら進めていた。

キリンジは正面スタンド前でポジションを上げ、一旦マルカイグアスの外に併せてきた。しかし、鴨宮騎手もそこは想定内。
「キリンジは正面で流してくるなと思っていたので、それだけケアしながら。馬もムキにならずに1~2コーナー入ってくれた」とこの時点で好走できる予感があった。

あとはスパートのタイミング。兵庫優駿と園田オータムトロフィーは、向正面で一気に先頭に立つ豪快な競馬を見せたが、今回は初の古馬戦ということも考えて馬を誘導した。
「1~2コーナーで脚を使った」ことも考慮に入れ、「早目に行くつもりではいましたけど、古馬も強いですし余力を残しながら行ったという感じ」という言葉の通り、じっくりと前との差を詰めていった。

そして、4コーナーで手応え良くインベルシオンに馬体を併せるとそこから一気にねじ伏せた。「直線に向いてもう一段階ハミを取ったんで、『はぁすげぇな』と思って乗っていました。本当にすごいです」と愛馬を称賛しきりだった。

兵庫優駿、園田オータムトロフィー、そして園田金盃と3連勝を飾り、中距離界現役最強を宣言した。勝利の後、ファンの前までマルカイグアスを誘導した鴨宮騎手は指を3本高らかに掲げて勝利をアピールした。「今年重賞3勝したぞと、あと3000万と(笑)」しっかりとファンの笑いも取った。

鴨宮騎手は来年早々にはオーストラリアへと旅立つ。言葉の通じない環境に身を置いて、4ヶ月間の予定で自己研鑽に励む。

「マルカイグアスの背中に相応しいジョッキーになってオーストラリアから帰ってこられるように一所懸命やってきます。ファン投票でたくさんの票数いただいて、その結果に応えることができました。来年以降もっと大きいところを目指していける馬だと思いますので、応援よろしくお願いします」とインタビューを締め括った。

人馬とも2025年の飛躍が本当に楽しみだ。

総評

管理する橋本師は、「今、馬が成長しようとしてるんです。それを許してしまうと太ってしまうので馬体重をキープしながらの難しい調整でしたが、許容範囲の+6kgで出走できた」と調教段階での苦労を語った。

調教をハードにやりすぎるわけにもいかないし、かといって普通の調整だと体が増えてしまう。汗を掻きづらい冬場という時期的な難しさもある中、その匙加減の難しさを乗り越えて掴み取った金盃勝利だった。
「ポジションは思ったより前でした。鴨宮君には『一つでも前取れたら。できるだけ前で』とは話していました。まさかキリンジとスマイルミーシャより前で(レースできるとは)。後ろから追いかけるよりは、(前で受ける方が)チャンスあるとは話していたんですけど。強いですね、3歳相手じゃなくて古馬一線級相手なんで。相手も強かったですけどうちのも強かったですね」と指揮官もその器用なレースぶり、強さに舌を巻いた。
次走について、来年2/6(木)の佐賀記念(Jpn3・佐賀2000m)を目指したいとのこと。「距離はもっとあった方が良いでしょう」と初の2000m戦も全く不安はない。厩舎の先輩ジンギやエイシンニシパが成しえなかったダートグレード制覇も視野に入れる1年となる。

「ジンギとかとはタイプが違うので、その前に一回新春賞を使いたいなという気持ちもあります。負けたら新春賞と考えていたけど、勝ったからね・・・」とも。
出走となればハンデも背負わされることになりそうだが、「でも今回じゃないと出られないでしょ」と来年さらなる活躍をすればさらなる重量を課せられることから、出るなら今回という思いもあるよう。
金盃の勝利でA2クラスへ昇級。新春賞は、まずA1クラス所属馬が優先となるため、出走順の問題も出てくるが、どこを使うか「今から考えます」とのことだ。


ラッキードリームが移籍したことで、兵庫中距離界の王座が空席となった中、園田金盃を制したのは新進気鋭の3歳馬マルカイグアス。世代最強馬は現役最強馬だった。
JRAから転入4戦目、強力メンバー相手に2着に粘ったインベルシオンも来年は主役の座を狙う1頭になりそうだ。そして、今回もまた脇役に終わってしまったキリンジ。ダートグレードの走りから潜在能力は申し分なし、来年こそ一皮剥けた姿を見たいものだ。

2024年の中距離路線はこれにて終了。今回見せ場なく敗れてしまったスマイルミーシャ、ツムタイザン、サンビュート、ミステリーボックスといった重賞ホースたちも来年は巻き返しを図る。

新時代到来。来たる2025年は、年明け1/3(金)の新春賞からマルカイグアスを巡っての戦いが始まる。


 文:三宅きみひと
写真:齋藤寿一  

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