2024 兵庫ゴールドトロフィー レポート

2024年12月25日(水)

兵庫県競馬のダートグレード競走のトリを飾る恒例のハンデ重賞、「兵庫ゴールドトロフィー(Jpn3)」。ここまで地方所属馬の勝利がなく、2001年のレース創設以来、JRA所属馬が23連勝中となっている。
地方馬は過去に2着が最高成績だが、今年初勝利を決めて、歴史に新たな1ページを刻む馬は出てくるのか。
遠征馬はJRA4頭、船橋2頭、さらに大井、川崎、北海道が1頭ずつ、そして地元兵庫から3頭を加えた総勢12頭が激突した。

1番人気は、単勝3.2倍でJRAのサンライズホーク。
昨年のこのレースは、2番手追走から抜け出し、混戦を断つ堂々の勝利。その後、年が明けて2月の名古屋でかきつばた記念(Jpn3)を制し、ダートグレード3連勝を決めたが、それ以降勝ち星からは遠ざかっている。砂を被るのを嫌うということで最内枠が試練となるが、それらを克服し連覇を飾れるか。

2番人気は、同じくJRAのエートラックスで単勝3.8倍。
今年2戦目のネモフィラ賞(1勝クラス)、続くバイオレットステークス(OP)と連勝の勢いで挑んだ4月の兵庫チャンピオンシップ(Jpn2)では、名手ジョアン・モレイラ騎手を背に後続を寄せつけぬ逃げ切り勝利。その後も活躍を見せるチカッパらを振り切り、見事3連勝を飾った。前走の東京盃(大井)こそ、初の古馬相手、ハイペースの競馬の中で12着と大敗を喫したが、そこから3ヶ月の休養を挟み、陣営は立て直しを図った。春に快勝したこの舞台で巻き返しなるか。

3番人気は、単勝4.8倍で地元兵庫のアラジンバローズ。
今年9月、得意の佐賀で行われたサマーチャンピオン(Jpn3)を制し、見事ダートグレードホースに輝いた同馬。続く南部杯(盛岡)で5着、前走JBCスプリント(佐賀)では僚馬イグナイターを捕らえての3着とJpn1でも好走が続いており、短距離戦にシフトしてから安定感が出てきた。強敵相手に力を付けた今、半年ぶりの地元戦で兵庫勢悲願の初制覇を狙う。

4番人気は、単勝9.4倍で川崎のフォーヴィスムが続いた。
昨年の暮れに中央から川崎に転入後、重賞戦線でも堅実駆けを見せ、8月のスパーキングサマーカップでついに重賞初制覇。中団ポジションから上がり最速の脚で快勝した。
前走マイルグランプリ(大井)は出遅れが痛かったが、それでも5着と入着。JRA4勝の実力馬が、初の園田、久々の1400戦でダートグレードのタイトルを射止めるか。金沢の名手、吉原寛人騎手との継続コンビにも期待が高まる。

5〜8番人気はほとんど差がなく、大井のマックス(単勝13.4倍)、北海道のスペシャルエックス(単勝13.9倍)、JRAのラプタス(単勝15.4倍)、船橋のギガース(単勝17.2倍)の順で続き、中央馬、他地区馬が上位を占めた。

出走馬

1番 (J)サンライズホーク ()ミルコ・デムーロ騎手
2番 (船)ギガース (船)本田正重騎手
3番 (北)スペシャルエックス 吉村智洋騎手
4番 アラジンバローズ 下原理騎手
5番 ()ラプタス ()幸英明騎手
6番 エコロクラージュ 小牧太騎手
7番 ()ヘリオス ()坂井瑠星騎手
8番 サイレンスタイム 鴨宮祥行騎手
9番 ()エートラックス ()鮫島克駿騎手
10番 (川)フォーヴィスム (金)吉原寛人騎手
11番 (大)マックス (大)御神本訓史騎手
12番 (船)パワーブローキング (船)山中悠希騎手

レース

スタート
スタンド前①
スタンド前②
スタンド前
2コーナー
向正面
向正面②
3~4コーナー
4コーナー
最後の直線①
最後の直線②
最後の直線③
最後の直線
最後の直線
ゴールイン

年末年始の変則開催初日となったこの日。誘導馬のストラディヴァリオ号、そして誘導員の皆さんも、サンタクロースやトナカイなど様々な装いで、このクリスマス開催を盛り上げていた。16時現在の実況席は14℃、上空は薄く雲がかかる程度で風もなく、とても穏やかな気候の下、レースを迎える。

兵庫でお馴染み、BrassBand H.B.B.(ブラスバンド エイチビービー)の皆さんによるダートグレード競走のファンファーレ生演奏が、大きな拍手や歓声と共に師走の空に響き渡った。

注目のスタート、大きな出遅れはなかったものの、内のサンライズホークとギガース、中の方ではエコロクラージュとサイレンスタイム、さらに外のフォーヴィスムとパワーブローキングあたりはダッシュがつかず後方からとなる。

スタンド前の先行争いでは、好発からスペシャルエックスが一旦前に出るが、すぐさま中央勢が押し寄せて、エートラックスがハナ、これに応戦するようにヘリオスが2番手、スペシャルエックスは結局3番手、あとはラプタス、マックスが続き好位集団を形成。
隊列は切れ目なく、サイレンスタイムとアラジンバローズ、エコロクラージュの兵庫勢が中団につけて、1、2コーナー中間点へ。

フォーヴィスム、ギガース、パワーブローキングらが後方に位置し、昨年の覇者サンライズホークは最後方からこれらを追う展開に。馬群全長15馬身ほどで向正面に入る。

序盤こそやや流れたかに見えたが、中盤は落ち着き、先行勢の馬順は変わらず、エートラックス、ヘリオスが先頭、2番手。ラプタスが外の3番手。内の4番手スペシャルエックスはこのあたりで吉村騎手の手綱が大きく動き始める。

サイレンスタイムやマックスなど中団から後方いる各馬も促し始めて3コーナーへ。
アラジンバローズが中団内で包まれている間に、勢いよく上昇してきたのがフォーヴィスムとサンライズホークの2頭だった。

4コーナー手前、あっという間に先頭のエートラックスに並びかけるフォーヴィスム、その外からまくってくるサンライズホーク。そして馬場の内側でアラジンバローズとスペシャルエックスが4番手争いを繰り広げて、直線の攻防は残り150m。

直線半ばで、ついにエートラックスが捕まり、勝負の行方はフォーヴィスムとサンライズホークの2頭に絞られる。

残り100mから続く、フォーヴィスムとサンライズホークの叩き合い。
連覇か、それとも地方馬初制覇か、馬体がびっしり合ったところでゴールを迎えるも、軍配はわずかハナ差で川崎のフォーヴィスムに上がった。

この瞬間、創設以来続いたJRA勢の連勝がストップ。金沢の、いや、全国を代表する名手、吉原寛人騎手がフォーヴィスムを見事勝利に導いた。
これで、このレースにおける地方馬の連敗にピリオド、新たな歴史の1ページが刻まれることとなった。

サンライズホークは最後方から脅威のまくりを見せたが、惜しくも連覇には届かず2着。3着には逃げたエートラックスが入り、前走からの復調は見せた。

4〜6着にスペシャルエックス、ギガース、パワーブローキングと他地区馬が続き、地元兵庫勢はエコロクラージュ7着、アラジンバローズ8着、サイレンスタイム10着という悔しい結果に終わった。

◆川崎のフォーヴィスムは2走前の地元重賞「スパーキングサマーカップ」に続く重賞2勝目で、ダートグレードは初制覇。並み居る中央勢、他地区の有力馬を破って、レース史に残る勝利を挙げた。昨年の暮れに中央から川崎に転入し、通算成績は22戦7勝。年が明ければ7歳になるが、馬齢で見るとまだキャリアは浅い。これを機に今後も活躍を見せてくれそうだ。

獲得タイトル

2024 スパーキングサマーカップ、兵庫ゴールドトロフィー(Jpn3)

◆吉原寛人騎手は重賞通算177勝目(地方176勝、中央1勝)で、今年の26勝目。兵庫重賞は今年の兵庫クイーンカップ(ハクサンアマゾネス)に続き、通算11勝目。今年だけで4勝と驚異的な活躍を見せた。兵庫のダートグレードは今回が初制覇となった。

◆内田勝義厩舎は重賞通算36勝目で、今年の4勝目。兵庫重賞は初制覇。
吉原寛人騎手とのタッグで制したJpn1の川崎記念(ライトウォーリア)に続く、今年2度目のダートグレード制覇となった。

◆吉原寛人騎手 優勝インタビュー◆
 (そのだけいば・ひめじけいば 公式YouTubeより)

地方所属馬の勝利というレース史上初の快挙を成し遂げた吉原寛人騎手は、検量に引きあげると、陣営や競馬関係者らから多くの祝福を受けた。

表彰台では「ありがとうございまーす!」と、右手でガッツポーズを作って場内の拍手に応えた吉原騎手。ハナ差の大接戦を制した鞍上は「確定が出るまで全く分からなかったので、なんならちょっと負けているのかなと思って心配してましたけど、勝ててよかったです」と安堵の表情でゴール後の気持ちを語ってくれた。

揉まれるのを避け、先団に行かせてその後ろを追走するというイメージ通りのレース運び、勝負所では前を射程圏に捉えて、最後は追いすがるサンライズホークとの激闘を制した。

「4コーナーで抜群の手応えで上がっていけたので、焦らず一呼吸入れてと思って、追い出しも2、3完歩我慢してから追ったので、それが最後に活きてくれたかなと思います」

勝負の機微を熟知する名手の絶妙な仕掛けが歴史的快挙を生んだ。

レース創設24年目の地方馬初戴冠に「本当にありがとうございます。嬉しいですね、記録にも残ったと思います」と笑顔で答えた吉原騎手。

前走の大井では、脚は見せるも後方からのレースを強いられ、消化不良な結果に終わってしまったが、今回はその鬱憤を晴らす勝利となった。

園田競馬場は吉原騎手にとって、「兵庫サマークイーン賞」と「兵庫クイーンカップ」を昨年今年とハクサンアマゾネスで2年連続で制している舞台。

「(ハクサン)アマゾネスの2連覇、2連覇もあって相性の良い競馬場で、本当に園田に感謝しています」と、今年の園田での戦いを笑顔で振り返った。

表彰式では、この日場内イベントで来場された、俳優の宮川一朗太さんと司会の大恵陽子さんが特別にプレゼンターを務め、殊勲の勝利に花を添えた。

総評

これで今年の吉原寛人騎手は、兵庫で4度目の表彰台。2月の姫路で兵庫ユースカップ(リケアサブル)を勝ち、現存する平地の地方競馬全14場で重賞制覇を達成すると、10月の兵庫クイーンカップではハクサンアマゾネスの重賞25勝、重賞最多勝の日本タイ記録を樹立した。
そして今回は地方所属馬の勝利というレース史上初の快挙と、そのどれもが記録にも記憶にも残るものだった。来年も兵庫でどんな神騎乗を見せてくれるか楽しみだ。
フォーヴィスムを管理する内田勝義調教師も「めちゃくちゃうまくいきました。ちょっと出遅れたけど、最近はこういう競馬もできるようになって、レースに幅が出てきたので。地方の馬がこのレースを初めて勝ったと聞いて、すごいことだと思いました。嬉しいですね、今年の最高の締めくくりになりました」と笑顔が溢れた。
わずかハナ差で連覇を逃したサンライズホークだったが、今回は最後方からのまくりと、去年とは全く違う競馬で地力の高さを証明した。名勝負を見せてくれたこの馬にも賛辞を送りたい。

中団の内で包まれて、出しどころがなかったアラジンバローズなど、地元兵庫勢にとっては厳しい結果となったが、レース創設24年目にして歴史が動いたように、来年はさらにもう一歩、今度は地元馬での勝利を待ちたい。


文:木村寿伸  
写真:齋藤寿一  

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