2024 園田ジュニアカップ レポート
2024年12月31日(火)
大晦日恒例の2歳王者決定戦「園田ジュニアカップ」。ロードバクシンやオオエライジンなど兵庫を代表する名馬が勝利している伝統の重賞。過去2年の勝ち馬(スマイルミーシャ、マルカイグアス)は翌年の兵庫優駿(旧兵庫ダービー)を制すと、師走の園田金盃で並み居る古馬を撃破している。そのほかの歴代優勝馬も翌年以降に重賞勝ちをしている馬が多く、今後に向けて見逃せない一戦だ。今年も傑出馬12頭が名を連ねる。
1番人気(単勝1.3倍)は無敗馬のオケマル。10月のネクストスター園田を3戦無敗で制覇。砂を被って怯む面をみせながらも直線で前の2頭を豪快に差し切る強い内容。絶望的な状況から上がり最速の脚を披露し能力の高さを証明した。前走後は育成牧場へ移動して入念に乗り込まれ、さらにパワーアップして帰ってきたとのこと。初めての1700m戦だが万全の仕上げでライバルの挑戦を受ける。
単勝2番人気(4.7倍)は兵庫ジュベナイルカップの覇者ラピドフィオーレ。前回の兵庫ジュニアグランプリ(Jpn2)は7着に敗れたが、終い勝負に徹して自分の走りはできた。実戦でも手前をスムーズに替えられるか、初距離への対応など課題はあるが、能力は兵庫でトップクラスの存在。オケマルへのリベンジを果たし世代のトップ奪還を目指す。
キングスピカは単勝3番人気(5.2倍)。ネクストスター園田は早めに動く積極的な競馬で3着。重賞勝ち馬相手に差のない競馬をした。前走のアッパートライ競走は初めての1700mだったが、4番手追走から良い手応えのまま浮上を開始。先行勢を楽々捕らえ後続に3馬身差をつける快勝だった。ネクストスター園田で敗れた悔しさをこの舞台で晴らす。
上位3頭までが単勝10倍以下。重賞初挑戦のラズライトタッカーとジーニアスレノンが10倍台で続く。
※吉村智洋騎手は負傷のため7番のキミノハートは小谷周平騎手に変更となりました。
出走馬
レース
スタート
1周目向正面
1周目3~4コーナー
1周目スタンド前
2コーナー~向正面
向正面
3コーナー
4コーナー
最後の直線①
最後の直線②
最後の直線③
ゴールイン
大晦日の尼崎市は最高気温が11℃台。雲は多めだったが天気の崩れはなかった。風向きは西風。風速4~5m前後の冷たい風で気温以上の寒さを感じたが、4500名を超えるギャラリーの熱気が寒さを忘れさせてくれる。
園田ジュニアカップ直前の10Rで3頭の落馬が発生。メインに騎乗予定だった吉村智洋騎手が負傷により7番のキミノハートは小谷周平騎手に変更となった。事故の影響で馬場整備に時間を要し、出走馬の入場や発走地点の準備が遅れ、当初の予定より10分程度遅れてファンファーレが鳴り響いた。重賞の舞台に駒を進めた精鋭12頭はスムーズに枠へ収まりゲートが開く。
全馬ほぼ揃ったスタートを切る。良い飛び出しをみせたのはキングスピカ、ジーニアスレノン、オケマルの人気馬3頭とドリタルだった。外から勢いよくオケマルが前に出て先頭に立つ。自身初の逃げの手に出る意外な展開。同じく外枠のドリタルが2番手で続き、インの3番手にキングスピカがつける。差がなくキミノハート、ラズライトタッカーが追走。好発のラピドフィオーレは無理せず中団。折り合ってじっと脚をためている。7番手はフセノオーロラ、レイチェルペガサス、ジーニアスレノンの3頭が併走。ジーニアスレノンは少し行きたがる所をみせていた。後方はエロイムエッサイム、セッティングサン、ヒロノラファールが続いて1周目のスタンド前へ。馬群全長は14馬身ぐらいでゴール板前を通過。ゆったりとした流れで1コーナーへ突入する。
2コーナーからバックストレートに入っても馬順に大きな変化はない。気分良く逃げるオケマルが徐々にペースを上げながら3コーナーの坂を迎える。2番手を追走するドリタルは鞍上の動きが大きくなり始めたが、内にいたキングスピカは手応えが良さそうだ。いつでも動ける雰囲気でオケマルをマーク。5番手にいたラズライトタッカーがキミノハートと共に外へ切り替えながら先行集団に接近。ジーニアスレノン、フセノオーロラも追い上げ態勢に入り4コーナーへ向かう。中団にいたラピドフィオーレは動きが鈍く後退。勝負圏内から脱落してしまった。
11頭を引き連れて逃げるオケマルは勝負どころでも余裕たっぷり。下原騎手が後ろの様子を見ながらスパートに入る。ゴーサインに反応したオケマルは直線の入り口で加速。ライバルを一瞬で置き去りにする豪脚を披露してリードを広げる。残り200m付近で2番手に浮上したキングスピカも良い脚で追いかけたがオケマルの切れ味には敵わない。背中がどんどん遠ざかっていく。2馬身後ろではしぶとく粘るドリタルにラズライトタッカーが接近しての3着争い。ジーニアスレノン、キミノハートは脚色が鈍り後退した。
上がり3F最速(37秒8)の脚で駆け抜けたオケマル。力の違いを見せつけて2着馬に7馬身差をつける圧勝。4戦無敗で園田ジュニアカップを制覇して兵庫2歳王者に輝いた。2着はキングスピカ。オケマルには屈したが3着馬には4馬身差をつけており、持てる力を発揮した内容だった。3着争いはラズライトタッカー、ドリタルの2頭が並んでゴールを通過。お互い一歩も引かない争いは写真判定の結果同着となった。初距離のフセノオーロラが5着。2番人気のラピドフィオーレは直線で巻き返したが6着だった。
◆オケマルは4戦4勝で園田ジュニアカップを無敗で制覇。ネクストスター園田に続き重賞2勝目。
園田ジュニアカップの無敗優勝は、サラブレッド導入後7頭目。
(2010オオエラジン、11ポアゾンブラック、14インディウム、16マジックカーペット、21ガリバーストーム、22スマイルミーシャに続く)
獲得タイトル
2024 ネクストスター園田、園田ジュニアカップ
◆下原理騎手は重賞94勝目。10月のネクストスター園田に続く勝利で、2024年は年間で重賞9勝。デビュー30年目で初めての園田ジュニアカップを制覇。
◆盛本信春厩舎はネクストスター園田に続いて重賞11勝目。園田ジュニアカップ初制覇。
◆下原理騎手 優勝インタビュー◆
(そのだけいば・ひめじけいば 公式YouTubeより)
好発を決めたオケマルが逃げの手に出た。鞍上の下原騎手は「追い切りの動きが抜群だったので、あとは自分次第かなと思っていました。予定外の展開でしたけど想像していた以上の力を発揮してくれました」と、オケマル自身初めての逃げる競馬でも強さをみせつけた。
「枠内が今までで一番落ち着いていて抜群のスタートが切れました。本番前に盛本さん、厩務員さんとゲート練習をした成果が出てよかったです」
どんなに強い馬でも発馬のミスが命取りになることもある。陣営が一丸となってゲート内駐立の課題に取り組み、その結果があのスタートに繋がった。
「序盤は力みがみられましたけど、1~2コーナーではリラックスして走っていました。あとは後続をどれくらい寄せ付けずに行けるかなと。気になる馬がいたので警戒しながら乗りましたが、いつ仕掛けても弾けそうな手応えでした」と、初の中距離でも危なげない横綱相撲で無敗のまま3歳を迎える。
兵庫の出世レースを制したオケマルは2025年兵庫クラシックの最有力候補となった。今回よりも長い距離設定もあるが「距離は延びてもいけると思いますよ。まだまだ成長するでしょうし、とにかく無事でいってくれたらいいですね」と、笑顔で下原騎手は語った。
大一番での勝負強さが光る下原騎手だが園田ジュニアカップを勝つのは今回が初めて。ネクストスター園田の勝利騎手インタビューで「園田ジュニアカップを勝ちたい」とのコメントを残していたが、その2ヵ月後に勝利を掴んだ。
「涙が出そうでしたね。30年目にしてやっと勝てましたよ。競馬場に来てくれた家族の前で決められて良かったです。声援が力になりました」
取れそうで取れなかったタイトルを節目の30年で獲得。家族が見守る前でかっこいい父の姿をみせた。
2024年の下原騎手は9月にサマーチャンピオン(Jpn3・佐賀)をアラジンバローズで勝利するなど年間で重賞9勝。重賞通算94勝目で自身の兵庫生え抜き騎手の最多重賞勝利記録をまた一つ更新した。
「重賞を9つも勝たせていただいて感謝の気持ちで一杯です。来年もこの位の感じで勝てるように頑張りたいです」と、重賞100勝の大台が近づく兵庫の優勝請負人は直後の最終レースも勝利。充実した1年を2連勝で締めくくった。
総評
「スタート地点にいてレースは見ていないんですよ。まさか逃げるとは意外な展開でしたね。前回は届かないと思って馬を信じてあげられなかったので、今日は負けないと思って臨みました。去年のウェラーマンは1番人気で勝てなかったので良かったですね」と、1年越しのリベンジを果たした。
2025年の兵庫3歳クラシックはオケマルが中心的存在になるがライバル達も黙ってはいない。園田ジュニアカップ2着馬のキングスピカは若馬らしからぬ器用さを武器にクラシックでの逆襲を誓う。今回は敗れたがラピドフィオーレ、ジーニアスレノンの反撃にも期待したい。さらに道営からの移籍初戦を快勝したべラジオドリームをはじめ、転入組の存在も気になる。重賞への出走枠を争う戦いが年始開催からスタート。兵庫3歳路線の動向に注目していただきたい。
文:鈴木セイヤ
写真:齋藤寿一