2025 新春賞 レポート

2025年1月3日(金)

新春恒例伝統のハンデ重賞「新春賞」。フルゲート割れが残念ではあったが、今年は兵庫から退厩したキリンジを除く、暮れの園田金盃上位組が顔をそろえた。

園田金盃からは1ヶ月しか経っていないが、今回はハンデ戦とあって斤量の面では逆転も見られる。前走金盃組の順位に変動はあるのか。また別路線組も連勝中の上がり馬や復調を見せる実績馬など注目の顔ぶれとなっている。果たして今年最初の重賞タイトルを射止めるのはどの馬か。
新庄海誠騎手と土方颯太騎手は共にこれが重賞初騎乗、その手腕にも期待が高まる。

尚、キングレジェンドは12月31日の10Rで落馬負傷した吉村智洋騎手に代わって、杉浦健太騎手に騎乗変更となった。

1番人気は、マルカイグアスで単勝1.7倍。
昨年は、道中でまくる競馬を体得し、兵庫優駿と園田オータムトロフィーを完勝。3歳兵庫二冠を達成し、世代最強を証明した。余勢を駆って挑んだ暮れの園田金盃では、並みいる古馬を一蹴し、一気に兵庫中距離界の主役に躍り出た。
金盃の再戦メンバーが多くを占めるが、今回はハンデ戦。前走の55kgから今回は56.5kgと1.5kg増える。
さらに、主戦の鴨宮祥行騎手がオーストラリアへ武者修行中ということで、今回は小牧太騎手との初コンビとなる。諸々の変化を乗り越え、年を跨いで重賞4連勝を決められるか。今年は他地区遠征も視野に入っているとのことで、地元では負けられない。

2番人気は、単勝4.8倍でインベルシオン。
昨夏の転入初戦からここまで4戦全てで3着内と安定した走りを見せる。特に重賞初挑戦となった前走の園田金盃では、単勝9番人気の低評価を覆す激走を見せ、勝ったマルカイグアスと半馬身差の2着と好走した。そのマルカイグアスの斤量が増えるのに対し、こちらは据え置きの56kg。逆転したハンデ差と、身上の粘りでグランプリの雪辱を狙う。

3番人気は、単勝7.2倍でサンライズホープ。
中央在籍時に2021年のシリウスステークス(G3)と2022年のみやこステークス(G3)を勝っており、メンバー屈指の実績馬だ。
昨年春の転入後は、善戦するも勝利はなく、実績ほどの走りを見せられなかったが、ルーキー新庄海誠騎手とのコンビに変わった昨年の冬から一変。11月のA1、12月のA1A2戦を連勝し、復活の狼煙を上げた。その新庄騎手は同期の土方颯太騎手とともに今回が重賞初挑戦。若きホープが古豪を復活Vへと導けるか。

4番人気は、同じ単勝7.2倍のオッズでフラフ。
一昨年の春に兵庫転入後4連勝を飾り、そのまま重賞戦線での活躍も期待されたが、骨片除去手術のために一時休養へ。しかし復帰後も勢いは衰えず、昨年6月のB1戦での2着以外は全て勝利し、兵庫はここまで12戦11勝とほぼパーフェクトな戦績だ。
連勝の勢いそのままに一気に戴冠となるか、待望の重賞初舞台での素質開花に期待が高まる。松浦聡志厩舎はインベルシオンとフラフの2頭出しで、どちらも上位人気となっていた。

5番人気以降は大きくオッズが乖離し、土方騎手騎乗のウインディーパレスが単勝19.8倍で続いた。こちらもデビュー6連勝を飾ったときの輝きを取り戻せるか、未来を担うルーキーの手綱に託された。

出走馬

1番 テーオーターナー 大柿一真騎手
2番 ツムタイザン 笹田知宏騎手
3番 フラフ 下原理騎手
4番 マルカイグアス 小牧太騎手
5番 ウインディーパレス 土方颯太騎手
6番 インベルシオン 廣瀬航騎手
7番 メイショウハクサン 大山真吾騎手
8番 ベストオブラック 田野豊三騎手
9番 キングレジェンド 杉浦健太騎手
10番 サンライズホープ 新庄海誠騎手

レース

スタート
1周目向正面
1周目3~4コーナー
1周目スタンド前
1周目スタンド前
2周目2コーナー~向正面
向正面
コーナー
3〜4コーナー
最後の直線
最後の直線

ゴールイン

レース発走前、午後4時現在の実況席は11.6℃。この時期としては気温が高く、朝から陽の温もりを感じられたが、午後になってからは北西の風が強めに吹き、この時間帯になってくると寒さを感じるようになった。

年末年始開催は好天に恵まれ、連日多くの来場者で賑わった園田競馬場。
この日は今年最初の重賞デーとあって、今回の年末年始シリーズ最多となる7195人の入場人員を記録した。
馬場状態は良。青い空と白い雲、そして西日が照らす夕焼け色の場内に、今年最初の重賞ファンファーレが響き渡った。

スタートが切られ、注目の先行争い。最も良いスタートを決めたのはキングレジェンド。すかさずインベルシオンやウインディーパレス、ツムタイザンも前へと上がる。スタート後、後方に下がったのがサンライズホープ。メイショウハクサンとベストオブラックも後手。マルカイグアスも今日はスタートが決まらず後方から4番手の位置で1周目の3コーナーに向かう。

結局ハナは、二の脚で先手を奪ったウインディーパレス。1馬身差でインベルシオンが2番手、3番手のインコースに同じ松浦厩舎のフラフがつける。キングレジェンド、テーオーターナー、ツムタイザンが好位から中団グループを形成。
サンライズホープが1頭抜いて後方から4番手、注目のマルカイグアスはその直後、先頭と13馬身差あたりのポジションで追走する。末脚に賭ける2頭、メイショウハクサン、ベストオブラックが最後方グループとなって、1周目のスタンド前へ。

序盤から淀みなく流れたが、ホームストレートに入ったところでペースはやや落ち着く。
大きな歓声に別れを告げ、隊列に動きがないまま2コーナーのカーブへと向かっていく。馬群全長10馬身ちょっとで向正面へ。

このあたりで逃げるウインディーパレスは手綱が動き始め、2番手のインベルシオンが早くもそこに並んでいく。単騎3番手にフラフ、4番手以下はそこから若干離れてキングレジェンド、ツムタイザン、テーオーターナー、さらに追い上げてきたサンライズホープも加わって一団となり、3コーナーのカーブへ。その直後のマルカイグアスも上昇を見せて、残り400mを切る。

早めに先頭を捕まえて、2馬身抜け出したインベルシオン。2番手のフラフが伸びあぐねている間に外からサンライズホープが押し寄せる。その2頭の間を突くツムタイザン、さらに内を立ち回るキングレジェンドと、2番手は4頭横並び。そしてそれらの馬群を割ろうとマルカイグアスも懸命に追い上げ、最後の直線へ。

勢いが衰えるどころか、逆に後続を離すインベルシオン。あと100mの時点で3馬身以上のリードをつける。2番手争いは馬群を割いてきたマルカイグアス、差がなくツムタイザンとサンライズホープも粘る中、大外からベストオブラックも突っ込んでここは大混戦。

それを尻目に、先頭のインベルシオンは悠々押し切ってのゴール。廣瀬航騎手のダイナミックなガッツポーズも飛び出した。2着はなんとかマルカイグアスが死守。そこからハナ差の3着は最後方から追い込んできたベストオブラックだった。トップハンデ57kgのツムタイザン、重賞初騎乗となった新庄騎手のサンライズホープがそれぞれ4、5着で入線した。

道中2番手の理想的なポジションから、早めに抜け出し押し切ったインベルシオン。前走は人気薄の立場で激走を見せたが、今回は人気を背負う中でも結果を出した。見事園田金盃の雪辱を果たして重賞初制覇、完勝といえる内容だった。

◆インベルシオンはこれで23戦5勝。前走の園田金盃に続く2度目の重賞挑戦で初タイトルを手にした。兵庫転入後は5戦2勝、2着2回、3着1回と全て3着内の走りで堅実さが光る。
中央で3勝を挙げた実力馬が、兵庫中距離界の主役の1頭へ名乗りを上げた。

獲得タイトル

2025 新春賞

◆廣瀬航騎手は重賞通算8勝目。昨年5月のオグリキャップ記念(笠松)をタイガーインディで制して以来の重賞制覇となった。新春賞は初制覇。

◆松浦聡志厩舎は重賞通算4勝目。2019年霧島賞(キヨマサ)以来の重賞制覇で、地元兵庫の重賞は初制覇。これまで3つの重賞は全て佐賀でのものだった。

◆廣瀬航騎手 優勝インタビュー◆
 (そのだけいば・ひめじけいば 公式YouTubeより)

勝利騎手インタビューで、喜び爆発のゴールの瞬間を問われると、「はい、チャンスをもらってたんで決められてよかったです」と白い歯をこぼした廣瀬騎手。

レースは思惑通り行きたい馬を行かせて、2番手につけるという理想的な展開に。

「2コーナーを回るまでは、(先頭の)後ろでじっとしてと思ってましたけど、一気に行こうと思ってたんで」

その言葉通り、向正面半ばで逃げるウインディーパレスに並んでいくと、それを交わして早めに先頭に立つ積極的な競馬を見せたインベルシオン。

「前走、(マルカイグアスら後続を)待っちゃった分、追い合いで負けちゃったんで。もう待つのはやめてという指示だったんで、ハマったんじゃないでしょうか」

そして検量室前に引き上げてくる際には、感極まった松浦聡志調教師と熱い抱擁を交わす場面もあった。

「騎手時代からお世話になっていた人なんで。恩返しできたらいいなと思ってました」と、この話題になると一層顔がほころんだ。

インベルシオンは重賞2度目の挑戦で見事初制覇。しかも現役最強と目されていたマルカイグアスにリベンジを果たしての勝利ということで、「これから先も楽しみ」と今後に向けても太鼓判を押した。

この日は地方通算1100勝も達成していた廣瀬騎手。5年連続で年間勝利のキャリアハイを更新し、今や堂々トップジョッキーの1人に成長したが、昔と変わらず調教にも数多く乗り、ハードワークをこなすと聞く。

「また一つ一つ大事に乗りたい」という今年の抱負には、リーディング上位常連となっても決して浮き足立つことのない、競馬への真摯な姿勢が表れていたように思う。

時折飛び出す冗談もひっくるめて、人間味のある魅力的な人だ。進化を続ける遅咲きのベテランに今年も注目したい。

それにしても、この日最も多くの祝福を受けていたのは松浦調教師ではなかったかと思う。

2着に敗れて悔しいはずの橋本調教師、このレースに出走のなかった新子調教師らも出てきて、男泣きの松浦調教師を祝福。

ちなみに松浦調教師の騎手時代、唯一の重賞勝ちが2015年の新春賞(エーシンスパイシー)で、橋本忠明厩舎の重賞初制覇でもあった。

そういった歴史を知ると、一層この結末が味わい深く感じる。

周りにいた競馬関係者らみんなが、微笑ましくその様子を見守っていた。
松浦調教師がいかに愛されているかを知る、とても良い光景だった。

総評

レース後、「おめでとうございます」と声をかけると、松浦師は目に涙を浮かべ、こう答えた。
「本当に辛かった。しんどかったです…」と。
「やりました!」でも「嬉しいです!」でもないちょっと意外な言葉に一瞬驚いたが、きっと我々が想像できないような重圧の中、レースに臨んでいたんだろう。その姿を見て、こちらも思わずもらい泣きしそうになった。普段からとても気さくで、冗談を交えながら周りを常に楽しい空気にさせる人だからこそ、余計にグッとくるものがあった。
検量前に来ていた新子師も「なんかちょっと感動したわ」と話していたが、おそらく周りにいた人たちも同じような気持ちだったのではないだろうか。

表彰式が終わった後も、松浦師への取材は続く。
「展開にも恵まれたかなというのもありますし、ハンデ差を考えたら勝たないといけないところなのかもしれませんしね。まぁでも本当に廣瀬ジョッキーと厩務員がよく頑張ってくれました。
(レース後に多くの人たちから祝福されたことについては)新子先生には開業当初から面倒見てもらいましたし、下原騎手も調教を手伝ってもらいながら、レースでは良い結果を出してくれていますし、勝ったときに喜んでくれたのは嬉しいですね」と振り返った。

続けて松浦師は「(ノースヒルズ代表の)前田(幸治)会長をはじめ開業当初から皆さんに見てもらってますし、苦労もかけましたからね。それがこういう風な結果になって、もう募るものがありましたね。本当にようやく恩返しができたかなと。まだまだ足りませんけど」と、前述した「辛かった」の言葉の意味を教えてくれた。

取材を続けている間にも、松浦師の携帯電話にはひっきりなしにお祝いのメッセージが届き、この時点でその数は100件を超えていたそう。このあとはゆっくりと勝利の余韻に浸っていただきたい。尚、インベルシオンの今後については、レース後の様子を見て判断するとのこと。兵庫中距離界の主役の1頭としてこれからの活躍にも期待が高まる。

敗れたマルカイグアスは、今回後方からの苦しい競馬になってしまったが、それでも地力を見せて2着は確保。次走以降また反撃してくれるだろう。重賞でもさすがの末脚を披露したベストオブラックや、前走の大敗から巻き返したツムタイザン、復調なったサンライズホープなど、まだまだ中距離界の覇権争いは続いていきそうだ。


 文:木村寿伸  
写真:齋藤寿一  

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