2025 コウノトリ賞 レポート

2025年1月16日(木)

昨年、兵庫の県鳥に指定されている“コウノトリ”の名を冠した重賞レースが14年ぶりに復活。4月の兵庫女王盃(Jpn3)へのステップレースという位置付けで行われる古馬牝馬の一戦は、昨年の9頭に対し今年はフルゲート。牝馬の層がなかなか厚くならないという往年の課題がある中、路線の充実によって今年は地元馬だけで12頭の枠が全て埋まった。

1番人気は、単勝1.6倍でサンオークレア。
中央時代は未勝利に終わったが、地方で末脚に磨きをかけて力をつけ、昨年門別で重賞2勝。前走グランシャリオクイーンズの初代女王に輝いたあと、オフシーズンに入った門別から兵庫に移籍してきた。移籍初戦ということで出走順位は最下位だったが、12番目の椅子に滑り込む形で出走が叶った。広い門別から小回りの園田に変わっての対応が鍵となるが、抜けた1番人気に支持された。

2番人気は、単勝3.0倍でスマイルミーシャ。
昨年のコウノトリ賞で重賞6勝目を挙げたが、その後1年間勝利なし。兵庫クイーンカップで金沢の女傑ハクサンアマゾネスの2着もあったが、近走はゲート内駐立がうまくいかずスタートで後手を踏み、位置取りが悪くなって力を出せない悪循環に陥っている。ゲートの課題を克服できれば連覇が見える。今回は吉村騎手が療養中のため、杉浦騎手と初めてコンビを組む。

3番人気は、単勝5.6倍でラヴィアン。
ここまで13戦11勝、敗れた2戦も共に2着ということで連対率100%を続ける。今回は初めての1870m戦、前進気勢が強いタイプだけに距離克服が課題となることに加え、前走B1クラスを勝ったばかりで一気に相手が強化された。超えるべきハードルは決して低くないが、底を見せていない未完の大器に期待が集まった。

さらに、昨年の2着馬クリノメガミエースが単勝22.9倍で4番人気、前走で2023年の新春賞以来となる勝利を挙げたアキュートガールが25.2倍の5番人気、グランダム3歳女王で明け5歳となったマルグリッドが38.6倍の6番人気で続いた。

出走馬

1番 ララランド 田野豊三騎手
2番 ラヴィアン 廣瀬航騎手
3番 マルグリッド 下原理騎手
4番 メロディメーカー 川原正一騎手
5番 エントラップメント 大山龍太郎騎手
6番 クリノメガミエース 笹田知宏騎手
7番 アキュートガール 小牧太騎手
8番 ブルレスカ  山本咲希到騎手
9番 アイヤナ 永井孝典騎手
10番 オズモポリタン 大山真吾騎手
11番 スマイルミーシャ 杉浦健太騎手
12番 サンオークレア (北)石川倭騎手

レース

スタート
1周目向正面
1周目3~4コーナー
1周目スタンド前
1周目スタンド前
2周目2コーナー~向正面
向正面
コーナー
3~4コーナー
4コーナー~最後の直線
最後の直線
最後の直線②

ゴールイン

週の初め、月曜日早朝の調教中に3頭の馬が衝突する痛ましい事故が起こり、松本幸祐騎手が逝去。この3日間開催は松本騎手に弔意を示す半旗が場内に掲げられ、騎手は喪章をつけて騎乗をした。スタンド内に設置された献花台、記帳台には多くのファンが訪れ、在りし日の松本騎手に思いを馳せながら手を合わせていた。

コウノトリ賞当日は、朝から冬晴れで気温も13℃と寒さが和らぎ過ごしやすかった。前日は短時間雨が降る時間帯もあったが、良馬場でレースが行われた。

注目されたスマイルミーシャのスタートだったが、後ろで尻尾を持つ対策が奏功して今回は良い飛び出しを見せた。アイヤナ以外はほぼ揃ったスタートだったが、中でもアキュートガールがスタートを決め、一昨年の六甲盃以来となる逃げに持ち込んだ。
スマイルミーシャが外から2番手に上がり、手綱を押してポジションを取りに行ったラヴィアンが内から3番手を確保。序盤はクリノメガミエースが好位を取ったが、エントラップメントがかかりながらポジションを押し上げ、1周目3コーナーでは3番手の外に並ぶ。
中団ではララランド、マルグリッド、サンオークレアが固まり、その後ろにブルレスカ、メロディメーカー。最後方はアイヤナとオズモポリタンという展開でスタンド前へ向いた。

逃げるアキュートガールがペースを落としたため、何頭もかかる馬がいたが、中でも3番手インで強めの前進気勢を見せるラヴィアンが始終折り合い面に苦労していた。
馬群全長13~4馬身の隊列で向正面へ出ると徐々にペースアップ。中団の外からサンオークレアが早目に4番手に進出し、エントラップメントが後退した以外は順位に大きな変化はなく4コーナーへ。

やや折り合いを欠き、ずっと引っ張りきりの手応えを見せていたラヴィアンだったが、廣瀬騎手に促されるとスッと反応を見せ、内をすくってあっという間に先頭へ。直線は独擅場となり、後続を4馬身ちぎって重賞初挑戦初制覇を果たした。
2着は結果的にずっと外を回る展開となったスマイルミーシャ、連覇はならなかったが復調の兆しを見せるレースだった。1番人気のサンオークレアは、向正面で一旦4番手に取り付くも、4コーナーでもたついてしまい前との差が広がってしまったのが痛恨。直線差を詰めるも3着が精一杯だった。

並み居る重賞ホースたちを蹴散らして、格上挑戦のラヴィアンがその素質を一気に開花させた。

◆ラヴィアンはこれで14戦12勝(2着2回)、連対率100%を続けている。B1クラス所属の身で、重賞初挑戦初制覇を果たした。

獲得タイトル

2025 コウノトリ賞

◆廣瀬航騎手は重賞通算9勝目。新春賞に続き重賞連勝となった。コウノトリ賞初制覇。

◆保利良平厩舎も重賞通算9勝目。昨年の兵庫ゴールドカップ(エコロクラージュ)以来の重賞勝利。コウノトリ賞初制覇。

◆廣瀬航騎手 優勝インタビュー◆
 (そのだけいば・ひめじけいば 公式YouTubeより)

「デビューからずっとコンビを組んでいる馬なんで嬉しいですね」と廣瀬騎手の笑顔がはじけた。

ここまで13戦11勝とほぼパーフェクトな成績を残してきたが、今回は一気の相手強化と初めての1870mという大きなハードルがあった。
「ハミを取っていく馬なので、距離も長くなって半信半疑だったんですけど、力的には足りると思っていました」という思いで臨んだ一戦は、保利師から乗り方についての指示があったという。
「かかるのは分かるけど、位置を取りに行って競馬をして欲しい」という騎手にとってなかなか難しい指示。序盤から位置を取るために押して行くと、スピードを落とそうとしても馬が行きたがり折り合いが付きづらくなるというリスクがあるが、あえて良いポジション取りを優先する作戦だった。

かくして、廣瀬騎手はスタートから手綱を押して3番手の絶好ポジションを確保した。しかし、「ガッツリ(ハミを)取られました」と道中は折り合いにかなり苦労した。
「あんまりうまくは乗れていないですけど、能力がありました。(4コーナーの手応えも)ガンガン来てました、追ってからどれくらい伸びるのかというのはありましたが、4馬身差ですか、勝ちきるまで行ったらすごいと思います」と廣瀬騎手もラヴィアンの秘めたる能力に舌を巻いた。

「1400mの方が乗りやすいです」と行きたがる気性面は課題だが、1870mでもやれることを示したのは大きな収穫だった。

廣瀬騎手は去年、同じ保利良平厩舎のタイガーインディとのコンビで重賞3勝。菊水賞も加えて、年間重賞4勝とさらに飛躍した。
そして今年はインベルシオンで勝った新春賞に続き、新年早々重賞を連勝。当たり前のように重賞を勝つ騎手になった。
「こんな時が来るとは思ってもなかったです。毎回メッチャ嬉しいです」と表彰台の上から“ワタルスマイル”を振りまいた。

総評

まずは第一声「完璧やったね!」と保利師。
「ひとつ後ろやったらちょっとかかるかなと思って、普通にスタート出たら100mだけでも主張していって折り合いつけて乗ってくれという指示だったんですけど上手くいったね。いつもより力んでいたけど初めての千八でしたからね。千七、千八を使い続ければ、力みは取れてくると思う。真ん中くらいが良いと思っていた枠も、結果的にはちょうど良かったかな」とレースを振り返った。
「前走で強いと思っての出走でしたが、調子の良さでどこまでというのが正直あったんです。能力は高いですね。僕、ラヴィアンのおばあちゃん(マッキーロイヤル)に乗っていたんですよ。だからめっちゃ嬉しい」と縁のある馬での重賞制覇に喜びも一入だった。
「オーナーさんが調子良い時に使わせてくれているのでありがたいです。悪くなったら休ませてくださいと言ってもらえているので」と、馬のコンディションに合わせてじっくりと調整してきたことが実を結んだ。

元々はJRA入厩だったが、体質が弱くてデビューまで時間がかかった。
デビューは3歳の5月と遅かったが、いきなり後続を2.7秒ちぎる大差勝ちを収めた。1分31秒9の時計も優秀だった。
2戦目も楽勝したが、3走目で山特別(JRA交流)使おうとしたら追い切りで膝を痛めてしまった。結局、半年以上の休養となり、復帰は明け4歳の1月。勝ちだしてから破竹の勢いで連勝を8まで伸ばした。2度の2着はあったが、敗れた相手はトウケイカッタローとクラウドノイズという重賞でも好走歴のある馬たち。ラヴィアンの評価を落とすものではなかった。
連対率100%のまま迎えた重賞初挑戦で、並み居る重賞ホースを破って女王の座についた。

「走ってくるとは思っていたけど、馬を見てもまだ華奢でしょ。体重の変動も大きい馬なので、その辺りを考えつつ使っていこうかなと思います」

コウノトリ賞を勝ってもまだ所属はA2クラス。今後は自己条件に出るのか、引き続き重賞を狙っていくのか。得意の1400mに戻すのかあるいは中距離戦を続けて馬にレースを覚えさせるのか、選択肢が広がった。
「今日みたいな競馬ができるんだったら兵庫女王盃も面白いかな。トライアルくらいは使おうかな」とレース後に話していたが、グランダムジャパン古馬春シーズンに組み込まれているレジーナディンヴェルノ賞(高知)や若草賞土古記念(名古屋)などの選択も考えられそうだ。

牝馬路線に5歳の新女王誕生。
奇しくもスマイルミーシャやマルグリッドと同世代。3歳時に名を馳せた実績馬たちもこのまま引き下がるわけにはいかないだろう。
勢力図が書き換わりつつある古馬牝馬路線にも注目していただきたい。


 文:三宅きみひと
写真:齋藤寿一  

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