2025 兵庫ユースカップ レポート
2025年2月20日(木)
今シーズン5週目の姫路競馬場は、予報の上ではまたしても寒波の到来で極寒も覚悟してのスタートとなったが、ときおり小雪は舞っても冷たい突風による観戦への支障やレースへの大きな影響はなかった。木曜日の実況席は8℃台まで気温が上昇し穏やかな気候で「兵庫ユースカップ」を迎えた。今年は高知からの遠征馬が1頭、地元馬5頭の6頭立てという顔触れになったが春から初夏に向けて重要かつ楽しみな一戦として施行された。

1番人気は当初予備登録の時点で5頭もいた高知所属馬の中から唯一遠征してやってきたリケアマキアート(単勝1.7倍)。高知競馬に転入後4連勝で金の鞍賞を制覇。兵庫クイーンセレクションで大差勝ちを収めたドライブアウェイを下しているだけに実力は確か。年末の重賞に続いてここ姫路で2つ目のタイトルを狙っての参戦となった。田中守調教師としては昨年のリケアサブルに続いての連覇がかかる。
兵庫勢は、西脇・坂本和也厩舎のエイシンハリアーが2番人気(単勝3.3倍)。門別で5戦1勝。兵庫県競馬に所属を移してからいずれも小牧太騎手が騎乗し3戦消化して2勝。このレースまでに姫路をすでに2回使っており、中1週の連続でこの舞台に駒を進めた。逃げる競馬での勝利もあれば、後方から追い込み鋭い脚を使うような競馬も見せており、どんな競馬を見せるかに注目が集まった。
3番人気(単勝4.0倍)はこの競走2頭出しで挑む保利良平厩舎からラズライトタッカー。大晦日の園田ジュニアCで3着と好走しており、4戦1勝ながら全てのレースで馬券内に入る安定味があり、ここは強敵と戦ってきた経験を生かしたいところだ。鞍上の廣瀬航騎手は今年に入り新春賞、コウノトリ賞と幸先良く重賞を制覇し、姫路に開催が移ってからも好調を維持して騎手リーディング争いを演じ、その波に乗って重賞制覇を狙う。
上位3頭が単勝10倍以下の人気。兵庫ジュベナイルカップの勝ち馬ラピドフィオーレが4番人気、前走でエイシンハリアーを破っているセッティングサンが5番人気、そしてこの世代の一番星であるジューンコメットの順で人気は続いた。
出走馬






レース

スタート直後

スタンド前

2コーナー

向正面

3コーナー

4コーナー~最後の直線

最後の直線①

最後の直線②

ゴールイン
天候晴、馬場状態は良でスタート時刻を迎えた。姫路で今年4回目の重賞ファンファーレが響いてゲート入りが始まり、6番エイシンハリアーが最後に収まってゲートが開いた。
6頭がほぼ揃って飛び出した中でまずダッシュを利かせたのが高知のリケアマキアート。先行しようという姿勢を見せる中、今日はゲートをスムーズに飛び出たエイシンハリアーが並びかけて併走しながら1コーナーへ突入していく。ラズライトタッカーはこの2頭を前に見ながら3番手を追走。内にジューンコメット、外にラピドフィオーレが続いて、最後方からセッティングサンが構えた。6頭立ての少頭数ながら前の2頭がややとばしたことで縦長の展開となり馬群全長は8馬身程度で2コーナーへと入っていく。
高知からやってきた騙馬リケアマキアートがわずかに先頭を守って向正面に立ち上がる。必死に小牧騎手が抑えながらも前進気勢が強いエイシンハリアーは終始リケアマキアートの外にピッタリつける形になった。4馬身後ろのラズライトタッカーが前を追いかけると、外からラピドフィオーレも少し早めに動いていく。内に控えるジューンコメット、後方で息を潜めるセッティングサンという追走隊形となった。
3コーナーに入ったところで依然先行するリケアマキアートとエイシンハリアーに対して3番手グループにいたラズライトタッカーとラピドフィオーレが徐々に差を詰めてきた。ジューンコメットとセッティングサンがやや離されて4コーナーから直線へと向かった。
手応え優勢というよりは手綱を必死に抑える状態で最後のコーナーを回った小牧太騎手騎乗のエイシンハリアーが直線の入り口で単独先頭に立つ。内で粘らんとこらえていた高知のリケアマキアートであったがここまで。抵抗できずに後退となる。それに代わって外から追い込んできたのはラピドフィオーレ。重賞勝ち馬がさすがの脚を披露してきた。内でラズライトタッカーも必死に辛抱していたものの最後は抜け出したエイシンハリアーとこれに迫るラピドフィオーレによる2頭の優勝争いに絞られた。
内外離れた体勢となったが内のエイシンハリアーがラピドフィオーレの追い込みをクビ差退けて栄光のゴール板を通過し重賞初制覇を飾った。勝ち時計は1分31秒5(良)だった。
2着は道中早めに動いて長く良い脚を使ったラピドフィオーレ。近3走は気性の難しさや手前をなかなか変えない課題も重なり結果が出ていなかったが、重賞勝ち馬の面目躍如を果たす快走を見せた。
うまく立ち回ったラズライトタッカーは今回も馬券圏内にはしっかりと入って3着を確保した。今後も相手なりに走るその安定感で世代の物差しという存在になるかもしれない。最後方から追い込んできたセッティングサンが4着で、ジューンコメットが5着。1番人気の高知リケアマキアートは結果的に競り潰される形で直線は末をなくし6着に終わった。
勝ったエイシンハリアーは重賞初挑戦にして初めてのタイトルを獲得。外枠からスムーズに流れに乗ったとはいえ、前進気勢旺盛でジョッキーがなだめながらも直線入り口早め先頭の競馬で押し切る強い内容だった。勝ち時計の1分31秒5は今季の姫路競馬の3歳限定1400m戦では最速の時計で、兵庫ウインターカップが1分30秒8であったことを考えても秀逸であったことが想像できる。

◆エイシンハリアーは重賞初挑戦にして初勝利。デビューの地、門別で1勝。兵庫にきてからは4戦3勝。通算成績を9戦4勝とした。
獲得タイトル
2025 兵庫ユースカップ


◆小牧太騎手(高知)は兵庫復帰後の重賞2勝目。昨年10月の兵庫ゴールドカップ(エコロクラージュ)以来で2025年重賞初勝利。生涯合計はJRA重賞34勝、地方重賞は77勝となり、通算111勝目。姫路の重賞競走は2002年の姫山菊花賞(ロードバクシン)以来22年4ヶ月ぶりの勝利となった。兵庫ユースカップは初制覇。
◆西脇・坂本和也厩舎はべラジオソノダラブで制した2023年菊水賞以来の重賞制覇で重賞通算9勝目。兵庫ユースカップは同馬で勝利した2023年以来の2勝目となった。
◆小牧太騎手 優勝インタビュー◆
(そのだけいば・ひめじけいば 公式YouTubeより)

「人気している馬と結果的に競り合っていく形になったけど同期の田中守厩舎の馬だったからね。邪魔をしないようにと思いながら乗っていました。」とはにかむ小牧太騎手。
「競り潰すような格好になったけど、僕の馬の方がかなり力が上だったということだと思います。先頭に立ったらソラを使うのであとはもう必死に追うだけでした」
ただゲートにはかなり不安のある馬のようで、今回は最後入れの大外6番枠というのも吉兆だったようだ。
「どうなるか、ゲートを出てみないとわからない馬だけど、今日は素直に出てくれてよかった。本当はもうちょっと折り合いをつけて乗りたかったんだけど半分持っていかれるような感じになって結構無茶なレースになってしまったね。今後もゲートが課題になります。今日は一番外枠があたってツイていたと思うので、真ん中の枠や内枠が当たったときにどういう競馬になるかは心配な面もありますね」

昨夏に兵庫県競馬の騎手として再出発を果たした小牧太騎手。姫路の重賞制覇はいつ以来か覚えていますかという問いに対しては
「わからないです。覚えてません!」
ウィナーズサークルに詰めかけたファンもこのやりとりに思わず笑みを浮かべる中、2002年10月にロードバクシンで勝利した姫山菊花賞以来であることが分かると、「長く乗っていますからね。だけどいつ勝っても嬉しいです」と笑顔を見せた。

「中1週続きで馬はローテーション的にしんどかったかもしれないけど、元気いっぱいだったから今回の出走にこぎつけました。外枠が当たったし良いポジションをとることができればやれると思っていました。厩務員にとっても思い入れの強い馬でつきっきりでやってくれているのでその気持ちも伝わったんだろうね。今後のことはオーナーと相談するけど、小牧騎手も距離は持つんじゃないかという話だったからね。また楽しみです」

エイシンハリアーを担当する厩務員の浅沼傑(あさぬますぐる)さんは高崎・佐賀でジョッキーをされていた腕利きで、兵庫県競馬の厩務員になる前は岡山のエイシンステーブルに在籍しており、エイシンハリアーの母・エイシンヒマワリに騎乗して育成を行っていたというただならぬ縁があった。運命に導かれ、エイシンヒマワリの息子であるエイシンハリアーの厩務員となった浅沼さんの喜びもひとしおだったのではないだろうか。
中1週が続いたエイシンハリアーは今後、春に向けて充電に入るのか。あるいは勢いに乗って新たな直近のステップを目指すのか。しかしいずれにせよ課題のゲートを克服して、春には距離も克服して3歳王道路線への台頭に期待したい。

総評

その後は牧場職員などを経て、兵庫県競馬の厩務員として歩み始めた中、ジョッキー時代には夢のままとなってしまっていた念願の重賞制覇を厩務員として叶えてみせた。
暦の上では立春・雨水を過ぎて春を迎えたばかり。2月20日、大明日の大安吉日に行われた重賞競走を制したエイシンハリアーの輝かしい未来にどうか幸あれ!

JRAとの交流戦においても2024年は兵庫県競馬所属馬が未勝利に終わっていたが、今年に入って多紀連山特別(園田1400m)でサンジュウロウが、そして書写山特別(姫路1400m)でレイチェルペガサスが制し、兵庫生え抜きの馬たちが意地を見せている。これからの交流戦でも兵庫県競馬勢の奮闘に期待したい。
2025年の姫路開催も残すは2週間、2月の最終週は祝日から始まる4日間の連続開催、24日はトークショーなどのイベントもご用意して皆様のご来場をお待ちしております。
3月に入り、4,5,6日が今シーズン最後の姫路。3月6日(木)には3歳限定の1800mで行われる重賞「兵庫若駒賞」が控えています。
あと7日間となった姫路競馬場での熱いダートレースにどうぞご期待ください。
文:井関 隼
写真:齋藤寿一