2025 西日本クラシック レポート
2025年5月8日(木)
全日本的な3歳ダート路線の変革に伴って、昨年から新設された西日本交流の重賞「西日本クラシック」。6月11日(水)に大井競馬場で行われる「東京ダービー(Jpn1)」の指定競走となっている。
初代王者に輝いた高知のシンメデージーは、その後の東京ダービーで4着、ジャパンダートクラシックでも5着と強敵相手に健闘。直近では名古屋グランプリ(Jpn2)で2着に入るなど、地方競馬を代表する1頭にまで成長した。躍進を続ける先輩馬に続くのはどの馬か?注目の一戦となる。
今年の遠征馬は笠松から参戦のスターサンドビーチのみで、残りの11頭は地元馬となった。菊水賞を制したオケマルが兵庫優駿へ直行で不在。どの馬が勝っても重賞初制覇となるメンバーだ。

1番人気は、単勝3.6倍でラズライトタッカー。
ジーニアスレノンと同じ保利良平厩舎に在籍。好時計で1400m新馬戦を勝つと次戦から中距離へ矛先を向ける。園田ジュニアカップでは3着同着。距離短縮の一戦だった前回の兵庫ユースカップも3着と健闘をみせた。姫路遠征で減っていた体重も一息入れて回復。決め手がある馬だけに道中の位置取りに注目だ。
2番人気は笠松から参戦のスターサンドビーチ(単勝3.8倍)。
道営から笠松へ移籍すると条件戦、準重賞のジュニアクラウンまで3連勝と勢いに乗る。重賞戦線では辛酸をなめる結果が続いたが、距離を延ばした前走では、中団から追走から追走し捲り切って快勝。駿蹄賞(名古屋)の出走権を獲得したが、陣営は西日本クラシックを選択してきた。東海地区の猛者と戦ってきた経験があるだけに侮れない存在だ。
3番人気は単勝4.5倍でジーニアスレノン。
新馬戦を勝った後は6戦連続で重賞に出走。世代のトップクラスと戦って善戦を続けてきた。過去3戦は無敗馬のオケマルに敗れたが、兵庫若駒賞で2着、菊水賞を3着と上位を確保している。良い末脚を秘めているだけに最内枠から自分のリズムを崩さずに運べるかがポイントだ。これまでの経験を武器に悲願の初タイトルを狙う。
4番人気はレイヤーで単勝6.9倍。
JRAでデビューして去年の12月に兵庫へ移籍。キャリア4戦目で初勝利を挙げた。2月の姫路戦以降は馬券圏内でまとめている。ここ3戦は中距離のJRA交流戦、3歳A級戦でも好レースを展開。実戦経験を積む中で競馬に慣れて器用さも出てきた。何度もコンビを組んでいる小牧太騎手が騎乗するのも心強い。地道に力をつけている上がり馬から目が離せない。
5番人気は牝馬のキミノハート(単勝7.5倍)。
新馬戦は2着に敗れたが2戦目を逃げ切りで初勝利を挙げた。兵庫ジュベナイルカップも逃げる競馬で2着。牡馬と互角の戦いを繰り広げた。調教、レースでも気難しい面をみせる馬で成績にムラはあるが、休養明けの前走(1700m)は主導権を握って快勝。後続に5馬身差をつける強い内容をみせた。今回も自分との戦いになるが高いポテンシャルを持つだけに軽視は禁物だ。
実力伯仲のメンバー構成で時間によって人気順が入れ替わっていた。最終的に上位5頭までが単勝10倍以下。以降はアマノハバキリ、フセノオーロラ、ピコブルーの順で続いた。
出走馬












レース

スタート

1周目向正面①

1周目向正面②

1周目3~4コーナー

1周目スタンド前①

1周目スタンド前②

2コーナー〜向正面

向正面

3コーナー

4コーナー~最後の直線

最後の直線①

最後の直線②

最後の直線③

ゴールイン
ゴールデンウィークシリーズの最終日。朝から青空が広がり良い天気となった。気温は26℃まで上昇したが、カラっとした過ごしやすい気候。馬場状態は「やや重」で始まったが9Rで「良」に回復。最高のコンディションで西日本クラシックの発走時刻を迎える。
スムーズな枠入りでスタートが切られた。ピコブルー、スターサンドビーチが出負けして後方。ラズライトタッカーもダッシュがつかず後ろからの競馬を余儀なくされる。先陣争いはキミノハート、ドリタル、アマノハバキリの3頭。最初の200mまでは競り合うが、内を利してキミノハートが先手を奪う。アマノハバキリは2番手の外。ドリタルは引いて3番手を選択。ジーニアスレノンは4番手の好位置につける。一列後ろには出負けを巻き返したピコブルーが内、外にフセノオーロラが追走。中団7番手は3頭が併走。内からレイヤー、チョッパスニー、イザグリーンライトの順。ラズライトタッカーは10番手。直後にスターサンドビーチが続き、最後方がアタリマエで1周目の3コーナーから4コーナーへと向かっていく。
馬群全体は12馬身弱。落ち着いたペースでスタンド前を通過した。フセノオーロラが外から位置を上げて3番手の外へ。ジーニアスレノンは外へと切り替えて4番手。動きやすい位置につけて1コーナーを過ぎていった。
淡々とした流れのまま2コーナーから向正面に入る。前を行くキミノハート、アマノハバキリが徐々にペースアップ。ジーニアスレノンもじわじわ浮上を始めて3番手。外々をまわりながら3コーナーを過ぎていった。中団にいたレイヤーも追い上げを開始。さらに後ろのスターサンドビーチも動きをみせるが先頭との差は10馬身。ラズライトタッカーは動きが鈍く後方のままで早々と勝負圏から脱落してしまった。
スイスイと逃げるキミノハートが先頭のまま4コーナーへ。粘りをみせるアマノハバキリの外からジーニアスレノンが接近。直後にピコブルー、フセノオーロラ、レイヤーの3頭。背後にスターサンドビーチがつけて直線に入る。残り200mを切ってキミノハートのリードは2馬身。一杯になりながらも懸命に粘る。2番手以降の各馬も脚色が鈍く中々差が詰まらない。残り100m手前で馬混みから外へと持ち出したスターサンドビーチ。ここから強烈な末脚を繰り出す。2番手に浮上して逃げ馬に襲い掛かるが時すでに遅し。キミノハートが半馬身差残して押し切った。
上がり39秒台の脚で迫った笠松のスターサンドビーチが2着。じわじわ脚を伸ばしたレイヤーが3着。以降はアマノハバキリ、ピコブルーの順でゴールを通過した。直線で伸びを欠いたジーニアスレノンは6着に終わり、ラズライトタッカーは見せ場なく9着に敗れた。

◆兵庫生え抜きのキミノハートはルヴァンスレーヴ産駒の3歳牝馬。6度目の重賞挑戦で初制覇。通算成績は11戦4勝。
獲得タイトル
2025 西日本クラシック


◆田野豊三騎手は重賞通算2勝目。2022年の園田プリンセスカップ(アドワン)以来、約3年ぶりの重賞勝ち。
◆開業3年目の吉見真幸厩舎は嬉しい重賞初制覇。
◆田野豊三騎手 優勝インタビュー◆
(そのだけいば・ひめじけいば 公式YouTubeより)

初のタイトルを射止めたのは「キミノハート」だった。鞍上は今回2度目のタッグとなった田野豊三騎手。前走同様に先手を主張して押し切った。
「理想の逃げに持ち込めたので良かったです。最後は脚が上がっていましたけど残ってくれましたね。『後ろから来ないで』と、願いながら乗っていました」
ニコやかな表情でレースを振り返る田野騎手。気難しさのある牝馬をうまくエスコートした。
「前回は無かったのですが、コーナーで外に張り気味で走っていたので『どうかな?』と、思っていました。中1週でしたけど良い状態できていましたよ」
自身の課題に厳しいローテーションと乗り越えなければならない壁があったが、大一番で本来の力を十二分に発揮した。
「引き続き気性面は課題ですが、まだまだ成長してくれると思いますし、次走以降も楽しみです。吉見先生の所には主戦ジョッキーが多くいる中で私にチャンスを与えてくださって感謝しかないですね。先生も厩務員さんも喜んでいただいて良かったです」
普段の調教でキミノハートに跨り馬とコンタクトを取っている田野騎手。コンビ継続で見事結果を残した。自身は2度目の重賞制覇。2022年の園田プリンセスカップ以来。約3年ぶりの美酒を味わった。
「3年近く空いてしまいましたけど嬉しいです。陣営にタイトルをプレゼントできて良かったですね」
開業3年目の吉見真幸厩舎に初重賞制覇。新進気鋭の若手調教師が厩舎期待の牝馬で栄冠を手に入れた。

表彰式を終えた吉見真幸調教師は安堵の表情で囲み取材に応じた。
「外から凄い勢いで差し馬が来ていましたけど、残ってくれと思うしかなかったです。レースはジョッキーに一任して、『思い切った競走をしてくれ』とだけ伝えていました。思い切ったレースをしてくれたので『あれで負けたらしょうがない』という気持ちでした」
前回の4月22日のオープンを鮮やかに逃げ切って快勝。2カ月半のリフレッシュ休養が結果に結びついた。
「姫路戦後は淡路島のGMステーブルに移動して調整していただきました。気持ちの面でもリセットできたようで、今回はパドックで落ち着きがあって凄く良い雰囲気でした。その期間で充実した良い時間が過ごせたのかもしれません」
淡路島での気分転換、坂路調整が功を奏した。翌月には3歳牝馬限定の「のじぎく賞」があるが、中1週の西日本クラシックに参戦を決めた。
「メンバー構成もあるんですが、気性面を考えて起用を決めました。厩舎での滞在期間が長くなると、強い追い切りをする回数も増えてしまいます。キミノハートの場合はそれが良くない方向に行く可能性がありました。前走後もいい雰囲気を保っていましたので出走に踏み切りました」と、西日本クラシックを選択した経緯を語ってくれた。
不安要素は残っているが、能力は兵庫の3歳牝馬の中ではトップクラスだ。
「今後も気性面が課題になります。ただ、まだ幼さもあって今後さらに成長していくのではと思える部分がありますね。今は無事にこのレースを終えたことにホッとしています」
デビューから携わってきた馬で厩舎最初の称号を獲得。伸び代十分の牝馬が今後が非常に楽しみだ。

総評

「今のところ夏場は無理させずに休養させる予定ではいます。まだ馬の状態を確認していないので何とも言えませんが、のじぎく賞は視野に入れていますよ」と、状態次第では参戦する可能性があるとの事だ。3歳牝馬路線は佐賀のル・プランタン賞(佐賀)を制したオモチチャン、キミノハートが牽引していくことになる。現時点では南関東の実績馬が名を連ねているだけに熾烈な戦いになることが予想される。
「先生のチームロゴを残したかったので、引き継ぐ形で使わせていただいています。基本的なマークは変えていません。日々必死ですが、少しでも親方に近づけるように頑張ります。」と、今後への意気込みを語ってくれた。
尊敬する師匠の意志を継ぐ注目の若手厩舎。今後はどのような馬を輩出するのか期待していきたい。

同馬担当の後藤厩務員にお話しを聞くと20年近く厩務員をしていて初めての重賞制覇だったとのことだ。
「彼は途中加入で強い志を持ってきてくれた人です。試行錯誤しながらも必死に馬と向き合っていました。1週前は緊張している感じに見えましたが、苦労が報われて良かったですね」と、担当厩務員を労った。
兵庫の3歳路線は「オケマル」という絶対的な存在がいる。しかし、次位争いが激戦だ。菊水賞2着のべラジオドリームは短期休養中。今後はどのようなローテーションを歩むのか動向に注視したい。そして兵庫にはまだ重賞舞台に駒を進めていない5戦無敗のアリュールレーヴをはじめ、素質馬が多数在籍。上がり馬達がオケマルを脅かす存在になるのかも注目していきたい。
文:鈴木セイヤ
写真:斎藤寿一