2025 姫山菊花賞 レポート
2025年10月2日(木)
JBC指定競走の「姫山菊花賞」。今年で65回目を迎える兵庫伝統の中距離重賞だ。南関東・北陸・東海・近畿地区の交流戦だが、今回のエントリーは6頭(南関東3頭、地元兵庫3頭)のみ。各地で中距離の重賞レースが組まれた影響もあり、少頭数での戦いとなったが実績馬が顔を揃えた。ここを勝って今後へ弾みをつけるのはどの馬になるのか?注目の一戦となる。

1番人気は地元兵庫のマルカイグアスで単勝1.6倍。6月の六甲盃制覇後は盛岡のマーキュリーカップ(Jpn3)に挑戦。7着と結果は振るわなかったが目標としていたダートグレードを初めて経験した。その後は休養先で遠征の疲れを取りながら入念に調整。回復に時間を要したが秋の重賞舞台には間に合った。兵庫中距離路線の王者がどこまで調子を戻せているのかポイントとなる。南関東からの刺客もいるが、今回は走り慣れた地元園田での戦いだけにここは落とせない一戦だ。
JRAから大井に転入したヴィクティファルスが単勝2番人気(単勝3.5倍)。JRA時代の2021年にスプリングステークス(G2・中山芝1800m)を勝利して牡馬三冠クラシックにも進んだ経歴がある。2年前にダート路線へ矛先を向けると初戦でいきなり勝利を挙げ、砂の適性能力もみせた。地方全国リーディングの笹川翼騎手(大井)とのタッグでどういった戦いを見せるのか注目だ。
3番人気(単勝4.1倍)は船橋から参戦のシシュフォス。昨年のクラウンカップ(川崎)で重賞初制覇を挙げると、その後も南関東の3歳重賞戦線を賑わす存在として活躍をみせた。その後も堅実な走りを続け、前走のスパーキングサマーカップ(川崎)で2着と好走している。右回りは久々だが南関東の一線級と戦ってきた実績は侮れない。地元兵庫の下原騎手とのタッグで2つ目のタイトルを狙う。
上位3頭が単勝10倍以下の人気。同レース2勝のラッキードリームは4番人気の評価。夏の休養中に喉のポリープ除去手術を施した。復帰戦でどんなパフォーマンスをみせてくれるのか期待したい。
出走馬






レース

スタート直後

1周目3コーナー

1周目スタンド前①

1周目スタンド前②

2コーナー~向正面

向正面

3コーナー

4コーナー

最後の直線①

最後の直線②

最後の直線③

最後の直線④

ゴールイン
この日の最高気温は30℃に届かず、これまでの猛暑から解放されて秋らしい気候となった。天候は「晴れ」、馬場状態は「やや重」の発表。開催前と前日の雨で少し水分を含んだ馬場で決戦を迎える。向正面中央での枠入りは円滑に進みスタートが切られた。
6頭がほぼ揃って飛び出す。まずダッシュを利かせたのがラッキードリーム。しかし、内からヴィクティファルスが出てきて2頭の主導権争いとなる。3コーナーの手前でラッキードリームがすんなり引いてヴィクティファルスが逃げる形となった。直後にラッキードリーム、内にシシュフォスが続く。ウインドケーヴは4番手。これまで逃げて好走の多かった馬が今回は控える競馬となった。その外にマルカイグアスが追走。最後方がノットリグレットで4コーナーへと入っていく。
淡々とした流れで馬群全長は8馬身弱で正面スタンド前に入った。ゴール板前を過ぎるとマルカイグアスが4番手の外にポジションを上げて1コーナーへと進入。動きやすいポジションを確保した。2コーナー付近から先頭のヴィクティファルスが徐々にペースアップ。ラッキードリーム、シシュフォスの後ろからマルカイグアスも徐々に加速して前に接近。向正面中央では3番手に浮上する。シシュフォスはペースアップに対応できず後退。勝負圏外となってしまった。後方でじっくり脚をためていたノットリグレットは位置を上げていくが先頭との差はまだ6馬身ある。ウインドケーヴが最後方に後退して3コーナーの手前に差し掛かる。
逃げるヴィクティファルスを兵庫のラッキードリームとマルカイグアスが併走状態で追いかける。残り400mを過ぎたところでマルカイグアスが2番手に浮上。じわじわ前走馬との差を詰めて4コーナーではすぐ背後にまで迫った。3番手に下がったラッキードリームは巻き返す余力はなくトップ争いから脱落。その後ろにノットリグレットが接近して最後の直線コースへと入った。
しぶとく粘るヴィクティファルスだが、長く良い脚を使うマルカイグアスが外から接近。残り100m付近で捕らえるとマルカイグアスが抜け出して先頭に立つ。苦戦は強いられたがきっちり差し切ってファンの期待に応えた。勝ち時計は1分52秒4。
2着は逃げた大井のヴィクティファルス。逃げる競馬は初めてだったが、鞍上の絶妙なペース配分に導かれて最後までよく粘った。船橋のノットリグレットがラッキードリームを抜き去って3着を確保。上がり最速タイの脚を披露して馬券圏内に入ってきた。ラッキードリームは4着。シシュフォスは5着に終わった。

◆マルカイグアスは6月の六甲盃に続いて重賞6勝目。生涯獲得賞金1億0555万円とし、ついに1億円を突破した。
獲得タイトル
2023 園田ジュニアカップ
2024 兵庫優駿、園田オータムトロフィー、園田金盃
2025 六甲盃、姫山菊花賞


◆鴨宮祥行騎手は重賞12勝目。六甲盃に続き今年重賞2勝目。姫山菊花賞は初制覇。
◆橋本忠明厩舎は重賞47勝目。今年の六甲盃に続き今年重賞2勝目。姫山菊花賞は5勝目(15エーシンクリアー、17,20エイシンニシパ、21ジンギ、25マルカイグアス)。
◆鴨宮祥行騎手 優勝インタビュー◆
(そのだけいば・ひめじけいば 公式YouTubeより)

「底力で何とかしてくれましたね。ホッとしています」と、汗をぬぐいながら勝利ジョッキーインタビューに答えた鴨宮騎手。
「スタートは今一つでしたが、休み明け初戦という感じでしたね。普段の調教の感じは少し物足りなかったですけど、競馬場に着いたら大丈夫かなと思っていました」
状態面の不安と同時に今回は少頭数で仕掛けるタイミングも難しい競馬となった。
「考える中で一番嫌な展開になりましたね。団子状態で動きたい所で動けなくなるのは避けたかったです。でも、することはいつも同じなのでエンジンが掛かってくれるかどうかでしたね」
徐々に加速すると先行勢のすぐ背後まで迫った。だが、そこから前を捕まえるまでには時間を要した。
「エンジンは掛かりましたけど、前も楽をしていましたからね。相手に伸びられたら負けるかなと思っていました。最後は一杯一杯になりながらも何とか頑張ってくれました」
これまでのような圧巻の走りは影を潜めたが、それでも勝ち切るところはさすが兵庫中距離路線のエース。苦難を乗り越えて秋初戦を勝利した。
「馬の状態次第にはなりますが、来年からまた他場へ遠征するかと思うので応援を宜しくお願いします」
大きな試練を乗り越えたマルカイグアス。躍動感のある本来の走りを連覇が掛かる園田金盃の舞台でみせてほしい。

「とにかく勝てて良かったですね。ホッとしました」と、表彰式から戻ってきた橋本忠明調教師は安堵の表情だった。
「今日はスタートからの反応も悪かったです。正面スタンド前から動いて向正面で早めに仕掛けたことにより馬も応えてくれた。鴨宮騎手の好プレーですね」と、ジョッキーの好判断を評価した。
「遠征の疲れと夏バテもあって体調もギリギリ戻せた感じでしたね。本当は白山大賞典やJBC競走に向かいたかったが、まだこの先チャンスがありますし地元の姫山菊花賞を選択しました。休養先でケアしながら乗ってもらっていましたが、良い時と比べて中々調子が戻らなかったみたいですね」
酷暑の中での長距離輸送、初めての場所でのレースと厳しい環境下でのレースで心身ともに激しく消耗。そこから時間を掛けながら立て直して姫山菊花賞出走にこぎつけた。
「予定通り1ヵ月前に帰厩して調整しましたけどよく使える状態まで戻せたなと思います。姫山菊花賞も使えるかどうかという感じでした。ここ数日で涼しくなってくれたことも大きくて元気さが出ましたね」
9月末になってようやく秋らしい気温となってきた近畿地方。この気温の低下がマルカイグアスとって追い風になった。

総評

次走は連覇を目指す第68回園田金盃(11月27日)だ。再びダートグレード戦線へ進むには負けられない戦いとなる。その一大決戦まではまだ時間がある。入念に調整を進めて本来の姿で当日を迎えてほしいところだ。

さらには今年の白鷺賞を制したオディロン、重賞常連のメイショウハクサンなど兵庫中距離ナンバーワンの称号を奪い取ろうとする猛者達も休養から戻ってきた。頂上決戦を制してさらに上のステージに進むのはどの馬か?グランプリは一瞬たりとも目が離せない戦いとなる。
文:鈴木セイヤ
写真:齋藤寿一