2025 園田オータムトロフィー レポート
2025年10月9日(木)
菊水賞、兵庫優駿、園田オータムトロフィー。
昨年から新たにリニューアルされた兵庫3歳三冠路線は、初年度にマルカイグアスが二冠を制し、大きな注目を集めた。
そして迎えた2年目――。
園田オータムトロフィーは、全国から耳目を集める舞台へと進化した。
その主役は、ここまで8戦8勝。春の二冠を無傷で制したオケマル。
兵庫競馬史上初となる“無敗の三冠制覇”に挑む。

1番人気はオケマル。菊水賞、兵庫優駿に続いて、ここでも単勝1.0倍という圧倒的支持を集めた。
デビューから無傷の7連勝。菊水賞、兵庫優駿はいずれも8馬身差という圧勝劇だった。兵庫優駿は、暑さの影響で万全の状態ではなかったものの、直線で少しバテながらも圧倒的なパフォーマンス。そして迎えたこの秋――ひと夏を越えてトモの力強さが増し、「これまでで一番の状態」と盛本調教師も胸を張る。勝てば、兵庫競馬史上初の“無敗の三冠馬”が誕生する。
2番人気は、ラピドフィオーレで単勝8.4倍。
2歳時に兵庫ジュベナイルカップで重賞初制覇を果たしたが、手前を替えずに走ってしまう課題があり、勝利が遠ざかっていた。しかし、2度の高知遠征で覚醒する。8月の黒潮菊花賞で初めて手前を替え、高知三冠に王手をかけていたジュゲムーンを6馬身差で破ると、西日本3歳優駿も勝利。重賞連勝の勢いそのままに、宿敵オケマルとの4度目の対決に挑む。
3番人気マカセナハレは、単勝31.0倍という大きく開いたオッズ。
トライアルのクリスタル賞を勝利し、連勝を飾って大一番へ。後方待機から長く良い脚を使うタイプで、前々走のC1戦は向正面で一気にまくり切って勝負を決め、前走はエンジンのかかりは遅かったが直線の競り合いを制した。
以下、トライアル2着のアマノハバキリが4番人気、古馬相手にB2連勝したタンバブショウが5番人気で続いた。
出走馬








レース











ゴールイン
無敗の三冠馬誕生が期待されたこの日は、雲一つない秋晴れ。好天に恵まれ、馬場状態は「良」。
午後3時55分――歴史的瞬間へのプロローグ、ファンファーレが鳴り響くと共に、大記録を見届けようと集まったファンから大きな拍手が起こった。
まず抜群のスタートを決めたのはラピドフィオーレ。そのままオケマルを横目に見ながらハナを奪い、昨年のネクストスター園田以来2度目の逃げに持ち込んだ。
オケマルは無理に競り合うことなく2番手に付け、ピッタリ前をマークしながら進めていく。
出ムチを飛ばした最内枠のアマノハバキリだったがハナまでは行けず3番手となり、4番手のタンバブショウはスタンド前でやや行きたがるシーンを見せていた。3馬身ほど離れて、ラズライトタッカー、シャナオウ、イザグリーンライトが3頭並び、最後方にマカセナハレの隊列。
オケマルは下原騎手が手綱を抑えつつも、ラピドフィオーレにプレッシャーを与えながらレースを進め、馬群全長10馬身ほどで向正面へ。
向正面に入ると、下原騎手がわずかに手を動かし、オケマルがスピードを上げる。残り600mでラピドフィオーレに並ぶと、もうあっという間に先頭へ。自らのペースを守って走るラピドフィオーレに対し、3コーナー入口では早くも2馬身と差を広げたオケマルの姿に場内から早くも歓声が上がった。
3番手にはアマノハバキリを抜いてタンバブショウが上がり、最後の直線へ。
この段階でリードは4馬身に広がり、もう早くも勝負あり!
直線はオケマルの独走!下原騎手は大型ビジョンで後ろとの差を確認し、念のため外も見て、もう勝利を確信。あとはゴールを駆け抜けるのみだった。
はるか後方ではラピドフィオーレが2着を粘らんとし、その後ろでタンバブショウが懸命に食い下がっていたが、オケマルとの差は開く一方。
最後は持ったまま、2着以下に10馬身以上の大差(1.7秒差)をつけてゴールイン!
兵庫県競馬史上初、“無敗の三冠馬”がここに誕生した。
菊水賞8馬身、兵庫優駿8馬身と来て、園田オータムトロフィーは大差勝ち。兵庫の3歳馬の中で傑出した力を改めて示した。三冠レース全てで単勝100円の元返しというのは、全国的に見ても極めて稀有な記録と言えるだろう。
この勝利で、下原理騎手は、地方通算3,900勝と重賞100勝のWメモリアルを三冠達成と同時に決めて見せた。
2着はラピドフィオーレ。宿敵オケマルに4度敗れる結果とはなったが、課題だった手前替えを園田でも見せたとのことで、今後に繋がる内容となった。
3着はタンバブショウ。序盤行きたがるところを見せた面は課題だが、菊水賞4着、兵庫優駿10着からの成長を感じられた。

◆優勝馬オケマルはこれで8戦8勝、重賞6連勝。
2001年のロードバクシン以来、24年ぶりの兵庫三冠馬となった。
アラブ時代を含め、三冠馬誕生は4頭目。無敗での三冠達成は史上初。
<兵庫三冠馬>
1970年 アサヒマロツト (菊水賞→楠賞→六甲盃)※兵庫アラブ三冠
1996年 ケイエスヨシゼン (菊水賞→楠賞全日本アラブ優駿→六甲盃)※兵庫アラブ三冠
2001年 ロードバクシン (園田ダービー→兵庫チャンピオンシップ(G3)→菊水賞)
2025年 オケマル (菊水賞→兵庫優駿→園田オータムトロフィー) ←New!!
獲得タイトル
2024 ネクストスター園田、園田ジュニアカップ
2025 兵庫若駒賞、菊水賞、兵庫優駿、園田オータムトロフィー (兵庫三冠馬)


◆下原理騎手は重賞通算100勝目のメモリアル。これは兵庫一筋の騎手として史上初の快挙。今年重賞6勝目。園田ATは3勝目(20ステラモナーク、21エイシンビッグボスに続く)。
◆盛本信春厩舎は重賞通算15勝目。今年重賞4勝目。園田ATは初勝利。

◆下原理騎手 優勝インタビュー◆
(そのだけいば・ひめじけいば 公式YouTubeより)

無敗での三冠達成に、下原騎手も盛本調教師も第一声は「ホッとしました――」。
率直な思いは同じだった。
単勝100円とは、すなわち「勝って当たり前の馬」と同義。しかし、関係者にはとてつもない重圧がのしかかる。
競馬は何があるかわからない――。
だからこそ驕ることなく、手を抜くことなく、細心の注意を払いながら今日を迎えた。
レース前は、「とりあえず勝つことだけイメージしました」と下原騎手。余計なことは考えず、しっかりと精神を集中させて臨んだ大一番。それが最高の結果となって表れた安堵感が言葉から滲み出ていた。

ラピドフィオーレが逃げる展開には「正直びっくりしました」と下原騎手。
菊水賞は逃げ切り、兵庫優駿は3番手で競馬をしたオケマル。三冠最終戦は2番手でラピドフィオーレをすぐ前に見ながらの競馬となった。
「(ラピドフィオーレ)と一騎討ちになると思っていた」という中、目下の相手が逃げる展開に「緩いペースでは行きたくないなと思ったんで少し流しました」とプレッシャーをかけながらレースを進めた。
仕掛けは2周目の向正面、軽く促すともう残り600mでラピドフィオーレに並び、あっという間に先頭に立った。
「早めに勝負を挑んでいったんですけど、思いのほか強すぎました。ビックリです!」とそのシーンを振り返る。
「ビジョンを見ながら直線は追っていたんですけど、すごい馬に出会ったっていう気持ちで一杯ですね」と特別な瞬間を噛みしめながら、三冠達成のゴールを迎えた。

チャンストウライや晩年のオオエライジンといった幾多の名馬の背中を知る下原騎手をして“騎手人生最後の宝物かもしれない”と表現したオケマル。
「休養を挟んで帰ってきた時に、あのダービー(兵庫優駿)の時より、また馬が一段と良くなっていたんで、また楽しみだなと思っていました」との言葉の通り、さらに春よりもさらに後続を引き離しての圧勝劇だった。
「もう素晴らしい馬。グレード勝てたらいいなっていう馬ですね」と今後にも大きな期待を寄せた。

下原騎手の騎手デビューは1995年10月10日。翌日でちょうど丸30年となる節目のタイミングで、地方通算3,900勝と重賞100勝も決めてみせた。
重賞100勝は兵庫一筋の騎手としては史上初の快挙となった。
インタビューでそのことを問われると、
「ありがとうございます。そうですね・・・」と話した後、胸に手を当て言葉を詰まらせた。
「・・・言葉にならないですね」と男泣き。

「丸30年と聞いたら、ふっと寺嶋先生の顔が浮かんできて――」
恩師・寺嶋正勝調教師。騎手時代は2,457勝を挙げたゴールデンジョッキーであり、調教師としてもチャンストウライや晩年のオオエライジンを手掛けるなど多くの名馬を育て上げた。しかし、2015年3月に63歳の若さでこの世を去った。
下原騎手の紫の勝負服は、その恩師が騎手時代に纏っていた勝負服をモチーフにしている。
悲しみに暮れた当時の下原騎手は、まだ通算1,700勝ほど。リーディング4位の座が長く続いていた時期だった。
あれから10年――。
この間、飛躍的に勝利数を伸ばし、2017年の全国リーディングを含め、兵庫リーディングにも2度輝いた。通算3,900勝は兵庫生え抜きの騎手としては田中学元騎手に次いで史上2位の記録。そして重賞100勝はまさに前人未踏の金字塔である。
元来、プレッシャーに強いタイプではなかったという下原騎手。
それでも、大きな重圧をはねのけて手にした“三冠ジョッキー”の称号。
「30年」と聞いた瞬間、厳しくも深い愛情で導いてくれた恩師の姿が目に浮かび、感謝が自然とこみ上げ、積年の想いが涙となった。
大きく成長した愛弟子の最高の瞬間を、
この日ばかりは――寺嶋氏もきっと、スタンドのどこかで見守っていたに違いない。

総評

西脇からの輸送も無事にクリアし、「園田に来てからは待機馬房でも普段と変わらずボーっとしてました。装鞍所でもそんなに雰囲気は変わらず、パドック出るぐらいからやっと気が入ってきたかな」と、大記録を前にしてもオケマルは平常心だった。
「下原には溜め過ぎるなよと言ってましたし、下原もそういう考えでした。ちょうど前に相手ができたのは、かえって競馬がしやすくなったのかもしれません。(3コーナーで)先頭に立った時はもう大丈夫だろうと思って見ていましたが、もう途中で色んな人からおめでとうと声をかけられました。オケマルが頑張ってくれて本当に誇らしいです」

「トモの状態もだいぶ良くなってきましたが、すんなりした流れになった時にどういう動きになるのかなっていうのは今後の課題かなと思います。今後はメンバーも強くなりますし、外を回って通用するような相手じゃなくなってくると思うので。馬群の中に入った時にどういう動きができるか」と、今後の強豪メンバーとの戦いを見据えた。
今後については、11/27(木)の園田金盃(園田1870m)と12/24(水)の名古屋大賞典(Jpn3/名古屋2000m)の名前が上がった。
「2回行くとなると相当調子が良くないと行けないと思います。どちらに絞るかは、ちょっと考えていきたいです」と話したが、「金盃をパスして大賞典は可能性的には低い」とのことで、次走は園田金盃でマルカイグアスなどの古馬勢と初対決となる可能性が高い。
昨年の二冠馬にして現中距離王者のマルカイグアスと、今年の三冠馬オケマルが参戦しての“マルマル対決”は注目を集めそうだ。
「あまりしたくない対決だと僕は思うんですけど、勝ちを意識して“一緒に頑張っていきたい”と思います」という下原騎手の言葉からは、兵庫生え抜きのエース同士で切磋琢磨しながら、兵庫県競馬をもっと盛り上げていきたいという思いを感じた。
下原騎手にとっての“騎手人生最後の宝物”は、兵庫のファンにとっても“宝物”になりつつある。
三冠達成の瞬間を見にたくさんのファンが詰めかけ、口取り式や表彰式にも多くのファンが集まっていた。
「ファンの人がオケマルを見に、大勢いるなっていうのは感じてました。ありがとうございます。この馬、もっともっと走ってくると思うのでこれからもたくさん応援よろしくお願いします」と下原騎手もその熱気を肌で感じ取っていたが――。
偉業を成し遂げた主役のオケマルは――レース後もケロっとしていた。
口取り式で暴れたり、人の手を焼かせることなど一切ない。
大人しくファンのカメラに目線を送っていた。
大事を成した後、ファンの歓声を受けても無駄なエネルギーを使うことなく泰然自若な姿に、なお凄みを感じた。
オケマルに見る無限大の夢――無敗の三冠、これは序章に過ぎない。

文:三宅きみひと
写真:齋藤寿一