2025 兵庫ゴールドカップ レポート
2025年10月17日(金)
2025年度の「その金ナイター」も今年度いよいよあと2週。ナイター23週目は、日本唯一の1230m重賞「兵庫ゴールドカップ」がナイター重賞として施行された。昨年は地元兵庫のエコロクラージュが優勝し、その後のダートグレードレースでの活躍はご存知の通りである。
創設9回目の今年、他地区は南関東から4頭(船橋3頭、浦和1頭)、高知から1頭の計5頭が参戦。迎え撃つ地元兵庫勢が6頭の合計11頭がエントリーした。

1番人気は、単勝2.3倍で船橋のコパノパサディナ。
中央で3勝クラス なにわSを勝ちオープン入り。ダートグレード挑戦は2024年佐賀のサマーチャンピオン1回のみ(6着)であったが、直近2走がオープン競走で3着、2着と好走。上り調子のまま船橋・新井清重厩舎へ転入し、注目の初戦を意欲の遠征競馬で迎える形となった。厩舎としてはコパノフィーリングで2021、2022年の同レース勝利実績があり、2022年勝利の際に背中にいたのが吉村智洋騎手であったことも支持を集めた要因だろうか。
単勝3.6倍で2番人気となったのも船橋の馬、ストライクオン。
前走ダートグレードのオーバルスプリント(浦和1400m)では8着と崩れてしまったが、船橋・山下貴之厩舎に転入後は南関東の1000~1200mで、「5-2-0-0」という安定した成績を残しており高い評価が得られた。
3番人気は、地元兵庫のサイレンスタイムで単勝5.9倍。
何といっても園田の1230m戦で5戦5勝のスペシャリスト。9月12日のA1A2特別では当時断然人気のスマートセプターを破っての勝利。ここにきて充実一途の5歳馬が1230m重賞のタイトルを狙う。
4番人気が同じく地元のスマートセプターで単勝8.1倍。
前走はサイレンスタイムの後塵を拝したものの、この馬にしても前走までは園田1230mで6戦6勝の輝かしい戦績があった。前走の雪辱に燃える。
デビューから11連勝の記録がある船橋の6歳牝馬ジゼルが5番人気(11.0倍)、3歳時に重賞2勝し今期に入って復調の兆しを見せていた浦和のポリゴンウェイヴが6番人気(11.2倍)、昨年のこのレースで2着と健闘した高知のイモータルスモークが7番人気(16.6倍)となっていた。
出走馬











レース









ゴールイン
ようやく気候が秋めいてきて涼しさを感じられるようになってきた。日照の時間には30度へ迫るものの、一時前の蒸し暑さと比較すると人も馬もだいぶ過ごしやすくなったのではないだろうか。避暑対策の一環として行われてきたパドック周回時間短縮もこの週までと発表された。ナイター当日は朝方パラっとした雨が降ったもののその影響は少なく、天候は「晴」、馬場状態「良」でのスタートとなった。
スタートは若干のバラつきはあったものの大きな出遅れはなし。躓きかけたスマートセプターの下原騎手が右ムチを一発入れてハナを狙う。しかしその隣でもっと左ムチを放っていたのが落合騎手とポリゴンウェイヴだ。火が出るような激しい先行争いとなってゴール板前を過ぎていく。
2馬身後ろにルクスランページ、その内コパノパサディナ、最内ストライクオンが差がなく追走。1馬身差でサイレンスタイムとイモータルスモークが外をまわって1コーナーのカーブへと進入する。3馬身後ろにホクザンバーリイ、さらに3馬身離れてスタートでややダッシュがつかなかったジゼル。そしてナリタシンとドンフクリンが後方で2コーナーへ入った。
馬群全長は10馬身とちょっと、前が速いペースで引っ張り向正面へと出ていく。
「ハナは絶対に譲らない」そんな落合玄太の気迫がポリゴンウェイヴに火をつけた。スマートセプターは控えて2番手を進む形となる。直後からコパノパサディナは中から、ストライクオンは内から、イモータルスモークは外から、スルスルと上位を窺う。サイレンスタイムは一旦ポジションを下げる形となりジョッキーが気合いをつける姿を見せる。後方のジゼルは大外を回って進出を図る。残り400mを通過する頃には番手追走組が苦しくなる中、ポリゴンウェイブがスイスイと逃げてこれをコパノパサディナとストライクオンが追う形、昨年好走のイモータルスモークが食らいつこうとするがやや離され気味。サイレンスタイムはようやくエンジンがかかって外から追撃し、最後の直線勝負へ。
粘るポリゴンウェイヴの内を突いたストライクオンが交わす勢いを見せて残り150m。しかしポリゴンウェイヴも負けじと抵抗する。コパノパサディナはこの2頭から少し離された。大外からサイレンスタイム、ナリタシン、ジゼルが良い脚で追い込んでくるが、前も止まらずに競り合っている。一旦は内から出たようにも見えたストライクオンだが、ゴール前で伸びていたのは、なんとポリゴンウェイヴの方だった。根性を振り絞って完全に前に出たポリゴンウェイヴがもうひと伸びを見せ、歓喜のゴールを通過した。
ストライクオンは3/4馬身差の惜しい2着。1 3/4差の3着がコパノパサディナ。大外から追い込んだジゼルがクビ差の4着となり、南関東から出走してきた4頭が上位を独占する結果となった。5着のサイレンスタイムが地元馬最先着。ハナ争いに敗れて道中苦しくなり、上位争いから姿を消したスマートセプターは8着だった。
2020年から地方全国交流となってから今年で6年目を迎えたが、南関東所属馬の勝利はコパノフィーリングによる2021、2022の連覇に続いて3例目となった。

◆浦和のポリゴンウェイヴは重賞3勝目。これで29戦7勝となった。これまでの重賞勝利は3歳時の1月、4月に挙げたものであり、古馬となってからは初めてのタイトル奪取となった。
獲得タイトル
2023 ニューイヤーカップ(浦和)、クラウンカップ(川崎)
2025 兵庫ゴールドカップ


◆北海道の落合玄太騎手は重賞通算26勝目(すべて地方競馬)で、園田競馬場では初の重賞制覇を果たした。
◆浦和の小久保智厩舎は重賞通算91勝目。ここ園田では2014年兵庫ジュニアグランプリ(ジャジャウマナラシ)、2022年兵庫サマークイーン賞(ダノンレジーナ)に続く3勝目となった。
◆落合玄太騎手 優勝インタビュー◆
(そのだけいば・ひめじけいば 公式YouTubeより)

殊勲の手綱、落合玄太騎手はレース後「調教師の方から何がなんでもハナへ行ってくれという指示だったので、ちょっと時間はかかったけれど、行ききれてよかったと思います」と笑顔で語ってくれた。スタートしてから1コーナーへ入るまでの気迫が、ダッシュ力に繋がり、ハナを奪い切ったことが大きかった。
2歳の頃から同馬に跨ってきたことも生かされた。「2歳のときから乗せていただいていた馬ですが、もともと道中は変に力むことがないタイプではあったので、向正面では良い意味で力が抜けて走ってくれていたと思います。最後は追い比べになりましたが、2着馬が内から来たらもう1回反応してくれました」と道中の適度な息抜きが、直線での勝負根性再燃につながったのであろう。
この馬が門別にいた当時のことも述懐し、「2歳の頃からすごく期待していた馬でしたが僕が重賞を勝たせてあげることができなかったので…ただ、今回ご縁をいただいて勝つことができたので嬉しく思います」と力を込めた。
この日は重賞を含めて8鞍の騎乗、前半のレースでは同期である石堂響騎手と叩き合う白熱したシーン(5レース:石堂騎手騎乗のギャランが1着、落合騎手騎乗のリリーハートが2着)も見られた。久しぶりの園田の空気に触れたことに関して問うと「そのレースは負けてしまいましたけどね(苦笑)。園田の皆さんはいつも乗りにくると暖かく迎えてくださって、とても楽しい一日でした」とにこやかに振り返ってくれた。
2022年春に門別の田中淳司厩舎からデビューしたポリゴンウェイヴ。そのときの主戦は落合玄太騎手。このコンビが3戦目に挑んだのが重賞、栄冠賞である。このレースを勝利したのはコルドゥアン。そう、短期免許で門別で騎乗していた石堂響騎手がコルドゥアンで1番枠からの大外一気で単勝万馬券、大穴を開けたレースで覚えているファンの方も多いだろう。そのときの3着がこの馬だったのだ。ポリゴンウェイヴは4戦を消化した後、南関東に身を置き、落合玄太騎手とは物理的にも離れざるを得なかったが、その後も2戦で手綱をとったものの、重賞制覇には手が届かなかった。栄冠賞から3年の時が流れ、今や北海道でリーディング争いをしている落合玄太騎手がこのタイミングでポリゴンウェイヴ復活の起爆剤になるとは競馬の神様も粋な演出をするものである。検量で下馬する際には石堂響騎手とグータッチを交わすシーンが見られたことも付け加えたい。
人も馬も、まずは地元に戻って次の戦いに備えることになる。これから彼らの重賞戦線での活躍がますます楽しみになった。
総評

その後の北海道での活躍は周知の事実で、この10月には地方競馬通算900勝も達成している。ここぞという勝負所での手綱さばきが光り、園田で重賞初制覇を果たした。
今回は園田へ臨場されていなかったが管理する小久保智調教師は当日が54歳のお誕生日。嬉しいバースデー重賞Vとなった。
2着は船橋のストライクオン、3着にも船橋のコパノパサディナが、そして4着には同じく船橋のジゼルが入線し、南関東勢が上位を独占する結果となった。この距離適性もさることながら、南関東の層の厚さをまざまざと見せつけられる結果となった。

文:井関隼
写真:齋藤寿一