2025 兵庫クイーンカップ レポート

2025年10月24日(金)

24週にわたって行われた今年の“その金ナイター”の締めくくり、西日本交流重賞「第22回兵庫クイーンカップ」。昨年、金沢の女傑ハクサンアマゾネスが連覇を決めて、重賞勝利数の日本タイ記録(ばんえい競馬を除けば単独1位)となる25勝目を挙げたことがまだ記憶に新しい。今年は装いを変えてナイター重賞として実施された。
今回はなんといっても、2025グランダム・ジャパン3歳シーズンの覇者である名古屋のコパノエミリアの参戦が目玉と言っていいだろう。そのほかの他地区からは石川優駿の覇者・金沢のビバロジータ、佐賀のA2クラスで好走中のヘクトパスカルが遠征し、地元馬7頭を合わせた全10頭が激突した。

尚、マルグリッドは残念ながら馬体故障で出走取消。加えて引退の報も届いた。
2023年の佐賀のル・プランタン賞で重賞制覇、続く関東オークス(Jpn2)では5着と健闘し、見事3歳グランダム女王に輝いた。今後は故障を治したのち、生まれ故郷の日高に戻り繁殖牝馬になる予定とのこと。いつの日か、その産駒が兵庫でデビューすることを心待ちにしたい。

1番人気は、単勝1.1倍と抜けた支持を集めた名古屋のコパノエミリア。元々は門別デビューで、その後笠松や中央に移籍し、今年の春に名古屋へ。転入初戦となったグランダム・ジャパン3歳シーズン第3戦の名古屋・東海クイーンカップを勝利すると、第6戦の兵庫・のじぎく賞では8馬身差の圧勝。最終戦の川崎・関東オークス(Jpn2)はJRA所属馬を相手に2着と奮闘し、見事3歳グランダム女王に輝いた。前走の船橋・マリーンカップ(Jpn3)でも5着に入り、ダートグレードで好走が続く。今回は初の古馬相手となるが、春にまざまざとその力を見せつけた園田で再び他馬を一蹴するか。

2番人気は、単勝9.1倍でラヴィアン。2023年5月にデビューするとそこから無傷の8連勝。その後も連対を外さぬほぼパーフェクトな成績のまま、今年1月のコウノトリ賞で重賞初挑戦。スマイルミーシャら実力馬をねじ伏せて、あっさり重賞タイトルをも手にした。このまま兵庫の古馬牝馬を牽引していく存在になるのかと思いきや、他地区遠征以降は発馬に課題が見られるようになり、近走は善戦止まり。10月6日の能検ではスタートがある程度決まっていたが、果たして実戦でどうか。

3番人気は、単勝9.4倍でアキュートガール。2023年の新春賞以来重賞は勝てていないが、強敵相手に入着前後の競馬は続けている。小牧騎手の手綱に変わってからは逃げの戦法で安定感が向上してきたが、前走6月の六甲盃では主導権を握るも、途中からの急激なペースアップに苦しみ大敗を喫した。そこから4ヶ月半の休養を挟んでの臨戦となる。帰厩後も残暑が堪えて回復が遅れたようだが、自主能検後は上昇気配。自分の競馬に持ち込みさえすれば、牝馬限定戦で気後れすることはないだろう。

4番人気(単勝22.9倍)は3月の復帰後、8戦5勝と高いレベルで安定してきたマジーク、5番人気(単勝30.8倍)は佐賀のル・プランタン賞勝ち馬オモチチャンのB1クラスの2頭。オモチチャンは目の外傷を負って休養が長引いた点がどう出るか。

出走馬

1番 (金)ビバロジータ 杉浦健太騎手 
2番 (佐)ヘクトパスカル (佐)飛田愛斗騎手
3番 ブルレスカ 山本咲希到騎手
4番 (名)コパノエミリア 吉村智洋騎手
5番 アキュートガール 小牧太騎手
7番 マジーク 田野豊三騎手
8番 ラヴィアン 廣瀬航騎手
9番 オモチチャン 永井孝典騎手
10番 エントラップメント 鴨宮祥行騎手
11番 マダムホーク 大柿一真騎手

レース

スタート
1周目向正面
1周目3コーナー
1周目スタンド前
1周目スタンド前
2周目向正面
2周目向正面
〜4コーナー
4コーナー〜最後の直線
最後の直線①
最後の直線
最後の直線

ゴールイン

一昨日は秋を通り越して初冬の寒さ、昨日は気持ちのいい秋晴れ、そして今年のラストナイターとなったこの日は多少湿気を感じるものの、日中の気温23℃台と比較的過ごしやすかった。馬場は前日までの「やや重」から「良」に回復、メインレースを迎える頃にはお客さんの数も増えて、ナイターらしい賑わいに。今年最後のナイターを惜しむかのように大きな歓声と拍手がファンファーレとともに夜空へ響きわたった。

スタートが切られ、逃げると目されていたアキュートガールがまさかの出遅れ。ラヴィアンも結局発馬が決まらず後方からとなる。こうなると何が主導権を握るかという雰囲気の中、なんと名古屋のコパノエミリアがハナを叩く。2番手にエントラップメント、3番手のインに佐賀のヘクトパスカル、外の4番手にマジーク、直後にオモチチャンが付ける形で最初の3コーナーへ。隊列は2馬身切れて金沢のビバロジータ、ブルレスカ、そしてラヴィアンが固まって中団を形成。後方はポツンと離れてマダムホーク、さらに大きく離れてアキュートガールがシンガリ追走でホームストレートに入る。

正面のビジョンに目をやりつつ、ペースを落とすコパノエミリアの吉村騎手。馬群全長13馬身ほど、ほぼ動きがないままスローペースで2コーナーのカーブから向正面へ。
向正面の中央に入るあたりで後方にいたラヴィアンがじわじわ進出、3コーナー坂の下りで好位4番手に浮上する。

残り400m、ペースアップで各騎手の手綱が大きく動き始める中、後続に2馬身つけて先頭をキープするコパノエミリア。2番手は外からラヴィアン、真ん中マジーク、内で懸命に粘るエントラップメントの3頭が広がって4コーナーから最後に直線へ。

逃げ粘るコパノエミリアを必死に追って差を詰めるラヴィアン。3番手にマジーク、4番手のエントラップメントに後方からアミュートガールが接近して残り100m。

果敢に迫ったラヴィアンだったが、追い上げもここまで。コパノエミリアが1馬身1/4差を守り、逃げ切り勝利。着差はわずかも3歳グランダム女王がいつもとは違う戦法で後続の追撃を振り切り、その威厳を保った。

スタートの後手が悔やまれるものの、良い伸びを見せたラヴィアンが2着。格上相手に先行して粘りを見せたマジークも3着と健闘を見せた。

アキュートガールはスタートの出遅れが大きく響いての4着だった。

◆名古屋のコパノエミリアはこれで17戦4勝、重賞3勝目。兵庫重賞は5月ののじぎく賞に続き2勝目。

獲得タイトル

2025 東海クイーンカップ(名古屋)、のじぎく賞、兵庫クイーンカップ

◆吉村智洋騎手は重賞通算52勝目。8月の摂津盃(ナムラタタ)に続いて今年の重賞3勝目。兵庫クイーンカップは2018年(ナナヨンハーバー)以来の2勝目。

◆宇都英樹厩舎は重賞通算13勝目。兵庫重賞は5月ののじぎく賞(コパノエミリア)に続き、2勝目。

◆吉村智洋騎手 優勝インタビュー◆
 (そのだけいば・ひめじけいば 公式YouTubeより)

1強ムードの中、見事人気に応えてコパノエミリアを勝利に導いた吉村智洋騎手は、「勝てるなとは思っていたんで、よかったと思います」と、まずはクールに一言。

今回は逃げると目されていた馬が後手を踏んだことで、近走では見せていない“自ら逃げる”戦法に出た。

「特にレース前も何も考えてなかったんですけど、スタートして隣(のアキュートガール)が遅れていたんで、行けるなら行っちゃおうかなという感じで」

スローに落とし、マイペースで運んでいたコパノエミリア。実際「ずっと手応えよく、道中を進んでいた」と鞍上は話すが、「思ったよりは弾けなかったかなという感じですね」と、追ってからの反応は案外だった様子だ。

「逃げたのが裏目だったのか、地力の分で残せたかなという感じです。今日は馬に助けられましたね」と、思いのほか弾けなかった要因をハナに立つ競馬に求めた。

「すごく扱いやすいですし、操縦性もいいですし、誰が乗っても勝てるんじゃないかなという感じはしますね。僕の力じゃなく、馬の力なんで馬を褒めてあげてください」

そう答える吉村騎手の表情に笑顔はなかった。この馬の力を知っているからこそ、今回の走りに納得していないところもあるのだろう。

それでも鞍上は、

「しっかり休養明けから体重も増えてきてましたし、今回マイナス1キロでしたけど、締まった感じで、ちょうどいいぐらいじゃないかと思うんで、これから先もっと強いところとやっていって力を付けていければ、もっと上を目指せるんじゃないかなと思います」

と、今後の将来性に関しては太鼓判を押していた。

総評

管理する名古屋の宇都英樹調教師は、「吉村君とも喋ってたんだけど、もっと楽に勝つかなと思ってたから。体重は前走増えた分からあまり変わってないけど、成長分もあるからね。背も上に伸びているし、腹回りもすっきりしているしね。多分、ハナに行ったらいつものかかりじゃないの、前進気勢がなく、大人しい感じで」と、いまいち弾けなかった要因を吉村騎手同様“逃げ”に求めた。
「前走の船橋の後、腰あたりに少し疲れも残っている
から、その影響もあるのかな。治療はしたけど。冬になると女の子特有の硬さが増すのかもしれない。だから距離としても短いよりは1700m、2000mとかそのあたりかな。脚のさばきが硬いところがあるから、笠松とか忙しい競馬は合わないんじゃないかと。だから中距離とか忙しくないレースの方がいいでしょうね。中団ぐらいにつけて差す競馬の方がいいのかな、今日のレースを見る限りは。でもこういうレースをしていたら刺激にはなりますよ」と付け加えた宇都師。
課題は見えたが、それでも中央相手にダートグレード競走で好走してきた馬。その素質については疑う余地がない。実際、宇都師に訊ねてみると、
「終いの脚がしっかりしているのが強みですし、手前もきれいに変える。道中も折り合いがつくし、大人しいし、物怖じもしない。エサ食いもいいですしね、細いっていうのがないから。だから逆に絞るのに苦労するけどね」と、長所を挙げれば枚挙にいとまがないといった感じだ。
次走は状態面を見たあと、小林祥晃オーナーと相談した上で決めるとのこと。名古屋にとどまらず、地方の星として、今後も大舞台で活躍を見せてほしい。

そして敗れはしたが、良い頃の伸びで“あわや”と思わせた地元ラヴィアンらの反撃にも注目したい。

文:木村寿伸  
写真:齋藤寿一  

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