2025 ネクストスター園田 レポート

2025年10月29日(水)

未来優駿2025シリーズ、今年で3回目を迎えた2歳重賞「ネクストスター園田」。

初代王者はマミエミモモタロー。そして昨年の覇者はオケマル。一昨年、昨年ともに1番人気の無敗馬が制した。オケマルはその後も重賞を勝ち続け、兵庫県競馬史上初となる無敗の三冠馬となったことは記憶に新しい。

今年は無敗でここに駒を進めた馬は不在。ハイレベルの大接戦となった兵庫ジュベナイルカップの再戦ムードが漂う中、10月1日のJRA認定戦アッパートライに出走した2頭も大きな注目を集め、レースぶりや時計面からも将来を嘱望される8頭が顔を揃えた。

1番人気に推されたのはリーガルタイムで単勝1.6倍の支持を集めた。
初戦勝利後の2戦目兵庫ジュベナイルカップは、3コーナーで痛恨の不利を受けて後退、万事休すかと思われたシーンから馬群を縫ってスルスル、直線は一番外から猛然と伸びてきた。ハナ差2着ながら負けて強しの印象を受けた敗戦だった。管理する柏原調教師、騎乗する鴨宮騎手も自信を覗かせ、今度こそ一番強いことを証明できるか。

単勝2番人気(3.0倍)はその兵庫ジュベナイルカップを制したエイシンイワハシル。
門別で3戦1勝。栄冠賞3着の実績を引っ提げてこちらへ転入、初戦から結果を残して兄エイシンハリアー(兵庫ユースカップ勝ち馬)に続いてその血の兵庫適性を示した。転入2戦目で更なる上積みを見込んで重賞連勝を狙う。

3番人気は少し離れて単勝7.2倍でエイシンリガーズとなった。
門別で3戦1勝。こちらは栄冠賞4着、サッポロクラシックカップ3着の成績を残し西脇・橋本忠明厩舎へと転入。輸送熱と夏負けの徴候があり体調が万全ではなかった10月1日のアッパートライを逃げ切り勝利。状態アップの今回は展開面を考えても脅威の存在となる。

デビューから3戦全て3着以内でしっかり力は示しているアングレ、兵庫ジュベナイルカップ5着後に1700メートル戦で勝利し中1週で意欲の参戦ゴッドフェンサー、前走エイシンリガーズとコンマ2秒差2着だったサザンウォリアーが人気面では続いた。

出走馬

1番 アングレ 下原理騎手
2番 リーガルタイム 鴨宮祥行騎手
3番 ゴッドフェンサー 吉村智洋騎手
4番 サザンウォリアー 廣瀬航騎手
5番 エイシンリガーズ 小牧太騎手
6番 ミルトイブニング 大山真吾騎手
7番 ワローテル 杉浦健太騎手
8番 エイシンイワハシル 大山龍太郎騎手

レース

スタート

スタンド前

2コーナー~向正面

向正面~3コーナー

3~4コーナー

4コーナー~最後の直線

最後の直線①

最後の直線②

最後の直線③

ゴールイン

ときおりひんやりとした秋風が通る一日だった。しかしこの日の園田競馬場は元プロ野球選手、糸井嘉男さんのトークショーに盛り上がり、さらに大日本プロレスの催しで熱気を帯びており、水曜日の開催にしては多くのお客様がつめかけた中でメイン競走「ネクストスター園田」を迎えた。前日は雨の影響で稍重だったが当日は朝から天候「晴」馬場状態「良」でレースが進んだ。

枠入りはゆっくり進行し、一番外8番ゲートのエイシンイワハシルが最後にゲートインをすませ、発走合図が切られた。

スタートの瞬間は若干バラついたものの各々二完歩目が問題なくほぼ互角の出だしとなった。出ムチをくれたり、ジョッキーが必死にしごいたりという先行争いにはならず、スッとエイシンリガーズが出ていく流れとなり、大外枠から発進したエイシンイワハシルが2番手を確保して同じ勝負服2騎が先行する形となった。アングレは3番手の内に控え、1馬身圏内の4番手集団の外にミルトイブニング、その内にリーガルタイムが入り、中にサザンウォリアーが控える。2馬身後ろにゴッドフェンサーが追走して最後方からワローテルが追撃。馬群全長は8~9馬身となって1コーナーへと入った。ペースはそこまで上がらず8頭が2コーナーへと向かう。

今日も逃げたエイシンリガーズ。小牧騎手が後続を引きつけながら絶妙なペース配分で向正面に入る。エイシンイワハシルがこれを見ながらつかず離れずついていき、その外に4番手集団から進出したミルトイブニング、今回は3コーナー手前でスパートする形ではなく早め先団につける作戦に出た。この3頭がレースを引っ張る。少し離れた内にいたアングレは気合いをつけながらの追走となりやや手応えが怪しい。先頭までは5馬身差の5番手から前を見ていたのがリーガルタイムだ。4番手集団からミルトイブニングが早めに前に出たところでうまく外に出て1頭だけで動けるスペースを作った。そこから5馬身差離れる位置になったのがゴッドフェンサー、これも外に出して上がっていこうとしている。1コーナーに入る手前で4番手集団にいたはずのサザンウォリアーはその後ろまでポジションを下げてしまい、ヤネが叱咤激励を続ける。その外にワローテルという後方集団の配置となった。

3コーナーに入ってエイシン2騎は快調にとばし、後続をじわじわ離しにかかる。あと400m標識を過ぎるところでは3馬身差に接近したリーガルタイムが3番手に上がって前を追う。ミルトイブニング、アングレは厳しい情勢となり、後方からはゴッドフェンサーの姿が近づき直線コースに入ってきた。

楽に運んだエイシンリガーズが逃げ込みを図るが、道中からリズム良く運んできたエイシンイワハシルが捕らえる態勢になった。1番人気のリーガルタイムが必死に追ってくるもののなかなか差が詰まってこない。それはゴッドフェンサーにしても同様だ。道中後退したサザンウォリアーも懸命に脚を伸ばすも時すでに遅し。ゴール前エイシンイワハシルが完全に抜け出し、エイシンリガーズの粘りに対してリーガルタイムの勢いが勝ったところでゴールを迎えた。エイシンイワハシルは転入後重賞2連勝となった。

2着はゴール前でリーガルタイムに変わった。前回の反省点をふまえ、できるだけ不利を受けないような位置でレースを進めることはできたが、前回のリベンジとはならなかった。鴨宮騎手は「悔しいけど力負けです」と唇をかんだ。
逃げたエイシンリガーズが3着。勝ち馬に交わされてからひるんだ面を見せたが、門別の砂で磨いたスピード、ダッシュ力は見せた。

4着入線のゴッドフェンサー吉村騎手は「位置取りの差が出た。道中は前の2頭にうまく運ばれてしまった」と語った。そして最後は5着まで追い上げていたサザンウォリアー、廣瀬騎手によると砂をまともに被り嫌がる面を出して下がってしまったとのことである。4番人気アングレは7着に終わった。

◆エイシンイワハシルはアジアエクスプレス産駒の牡馬。戦績はこれで5戦3勝、兵庫転入後は2戦2勝の負けなしで、兵庫ジュベナイルカップに続いて重賞連勝となった。


獲得タイトル

2025 兵庫ジュベナイルカップ、ネクストスター園田

◆大山龍太郎騎手は重賞3勝目。9月25日の兵庫ジュベナイルカップに続き今年重賞2勝目となった。

◆坂本和也厩舎は重賞通算11勝目。兵庫ジュベナイルカップ、そしてエイシンイワハシルの兄エイシンハリアーで勝利した兵庫ユースカップに続き今年重賞3勝目。

◆大山龍太郎騎手 優勝インタビュー◆
 (そのだけいば・ひめじけいば 公式YouTubeより)

転入初戦の前走は北海道からの長期輸送後、一カ月足らずでのレースになったようで様子をみながらの調整だったと関係者は語っている。一度使ったことでこの中間は馬なり主体の調整ながら息の入り方が良くなり、安定している良い意味でのワンテンポな走りでだんだん良くなっているのが調教からも理解できていたようだ。前回もいざレースにいってみての反応の良さを強調していた大山龍太郎騎手は「前回よりも落ち着きがあってレースに慣れている感じがしてすごいと思いました」と語っている。

「おそらく行くのはアングレかエイシンリガーズだと思っていたので、今回は良い枠があたったのでそれについていこうと思っていました。あとは後ろのリーガルタイムを意識しながら乗っていこうと考えていました」。事前に練っていたレースプランにもうまく順応でき、「エイシンリガーズが楽に逃げていたので残ってしまうという不安もありましたが、自分の馬も全然力が有り余っていたので安心して直線まで進んで行けました」と手応え良く導けていた様子であった。

今後は強い相手にぶつけるのか、それとも距離を延ばすのか、そのあたりの展望について伺うと「どんな競馬もできるのは強みです。砂を被っても嫌がらないし、しっかりハミをとってほしいときにとってくれるのでどこからでも仕掛けられる。どんな相手でも全力を出せると思います」そう語る姿には逞しさすら感じた。

かねてから師匠の坂本和也調教師から「彼の能力を伸ばしてあげたい。彼はもうちょっとよく考えて乗ればもっと良い成績をあげられるはずなんだよ。もちろん、しゃべりもね」と聞いていた筆者は思わず「しっかり考えてしゃべっていますね!」と向けると「ですよね~??」と思わず笑みがこぼれ、そこから龍ちゃんワールド全開のインタビューとなった。

兵庫ジュベナイルカップでもマイクで聞こえるか聞こえないかギリギリの声で「これが難しい・・・」とこぼしたファンの皆様への一言という問いに対しては最終的な回答まで1分の時間を要しウィナーズサークルに集まったファンも温かな笑い声と拍手が飛び交った。

2024年の園田チャレンジカップ(イモータルスモーク)で重賞初制覇を決めた大山龍太郎騎手。次の重賞制覇まで1年を要したが、その兵庫ジュベナイルカップで自厩舎での重賞初勝利を皮切りにこの9月と10月だけでも、クリスタル賞(マカセナハレ)、DASHよかわ開設17周年記念(トップヴィヴィット)に続いて4回目のお立ち台となり、すっかり表彰台が似合う男と変貌しつつある龍ちゃん。その独特な喋り口と共にファンの数と関係者の信頼を一気にアゲていってほしいものだ。

坂本和也調教師は「今回の調整はシンプルに馬なりだけで調整してきましたが、一回使ったことで格段に良くなっていて、少し余裕残しの中でも、競馬場での立ち姿も締まっているように見えて、良い感じだった」と自信を持って臨めたようだ。前回は大接戦であったのに対し、今回は快勝を決めた愛馬や弟子に対しては「この1カ月でも馬の成長は見られたし順応力にも目を見張るものがあった。そして龍太郎自身も成長している姿が見える。もっとレース展開とかでも視野を拡げて引き出しを増やしてくれれば、勝利数や順位も上がってくるんじゃないかと思うよ」と称賛を惜しまなかった。

最後、エイシンイワハシルの今後に関して「兵庫ジュニアグランプリ(JpnⅡ)に向かいます。相手は強くなるけどそこにぶつけて挑戦していきたいですね」と力強い言葉で締めくくってくれた。この翌日に門別で行われたエーデルワイス賞(JpnⅢ)では地元ホッカイドウ競馬のリュウノフライトが中央勢を返り討ちにした。この時期の仕上がりが早い地方競馬の所属馬はダート適性がまだハッキリとしていない中央所属馬相手にしっかり太刀打ちできている。エイシンイワハシルもその一端を担うことができるはずだ。あと一ヶ月、さらなる上積みを期待せずにはいられない。

総評

大山龍太郎らしさ全開のインタビューの少し前、重賞勝利の記念写真では大山騎手がゼッケンを逆向きで持っており、カメラマンからも「龍太郎!逆!!」と声が飛んでいた。
これには坂本和也調教師も「いつも通りやな」とニヤリ。
「大山龍太郎騎手とは、おそらく同じ馬主さんの馬が逃げるだろうからその2番手を目指して、そこからは任せるという話をしていました」と、作戦もうまくハマった様子で破顔一笑だった。

この重賞連勝で次のステージが見えたエイシンイワハシル、次の舞台はダートグレード「兵庫ジュニアグランプリ(JpnⅡ)」を見据えている。
勝ち時計は1分30秒6。ペースの違いもあり、時計での単純比較がタブーであることは百も承知の世界ではあるが、マミエミモモタローが1分32秒9。オケマルが1分31秒6。今回も好時計で駆けた馬たちの能力はまだ計り知れない。
今回も勝ち馬に後塵を拝すことになったリーガルタイムとて小差、3着以下の敗戦の談を聞くとそれぞれの陣営にはそれぞれの理由があり、決して力負けというわけではない気がしてならない。まだ勝負付けは終わっていないはずだ。来年の兵庫3歳クラシックに向けて各陣営がまたそれぞれのステップを目指すことになる。

年末の園田ジュニアカップ(1700メートル)も視野に入っているというエイシンイワハシルではあるが、園田ジュニアカップには「兵庫県で初出走し他地区への転出期間のない馬を優先する」という出走条件があるため、賞金を稼いでいても出走が叶わない可能性がある。そういう意味では11月のダートグレード、園田ジュニアグランプリ(1400メートル)に全力投球ということになろう。

11月にまた歓喜と笑顔のお立ち台が見られるのを心して待ちたい。


 文:井関隼 
撮影:斎藤寿一

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