2025 白鷺賞 レポート
2025年2月13日(木)
2020年、姫路競馬が7年半ぶりに再開されたのと同時に復活した古馬重賞「白鷺賞」。2021年からは高知と佐賀にも門戸が開かれ、西日本交流重賞となった。
昨年の交流重賞は他地区の馬に勝たれることが多かったが、この白鷺賞はラッキードリームが地元の期待に応えて勝利した。交流重賞として復活し、この5年間で地元馬が4勝1敗と力を示している舞台だ。
今年は、新春賞の1~5着馬が全て顔を揃え、他地区からも高知から2頭、名古屋から2頭、佐賀から1頭の計5頭が参戦し、フルゲート12頭で争われた。

※ 3コスモファルネーゼ(佐賀)は、当初予定されていた馬主服を着用できず枠服で出走。
1番人気は、単勝2.8倍で名古屋のフークピグマリオン。
昨年の東海三冠馬(駿蹄賞、東海ダービー、岐阜金賞)で、園田への遠征となった楠賞では豪華メンバーが揃う中で5着に健闘。他馬と比べて1400mは距離が少し短い印象もその中で力の一端を見せた。その後、地元の東海地区ではウインター争覇、東海ゴールドカップと連勝を飾り、ここまで重賞8勝。まずは西日本を制圧し、全国進出へ向けての足がかりにしたい。
2番人気は、単勝3.6倍でインベルシオン。
昨年の園田金盃では9番人気と伏兵の域を出なかったが2番手から粘って2着と好走。マルカイグアスに敗れたレース内容を踏まえて、前走の新春賞では自ら積極的に動いていって後続を突き放し3馬身半差の快勝。重賞初制覇を果たした。松浦聡志調教師の涙で感動を呼んだ戦いから1ヶ月半の今回は定量戦。中距離界の主役を担うべく、重賞連勝を狙う。
3番人気は、単勝4.2倍でオディロン。
元中央オープン馬で、オープンでも3連続4着があった実力馬だが、近年は2度の長期休養で使い込めなかった。そんな中で森澤厩舎に移籍し、初戦は年末の2400m戦。火花が散るリーディングトレーナー争いの中、貴重な1勝を求めて多少余裕残しの体での参戦だったが見事に勝利。森澤厩舎の初リーディングに繋がる値千金の勝利だった。前走からの上積みも必至で、今回の方がより距離も向く。中距離界に新しい風を吹かせるか。
4番人気は、単勝5.0倍でマルカイグアス。
昨年の兵庫二冠馬(兵庫優駿、園田オータムトロフィー)で、園田金盃では古馬を撃破しグランプリホースに。4歳初戦の新春賞はポジションが後方3番手とデビュー以降最も後ろからのレースになってしまい、道中も動くに動けなかったことが災いした。しかし、直線の伸びは鮮やかで2着は確保して面目を保った。インベルシオンとの三度目の直接対決に加え、同世代である東海三冠馬フークピグマリオンとの対決も見ものだ。
人気は4頭卍巴の様相。それに次ぐ5番人気が重賞4勝馬ツムタイザンで18.9倍、大晦日に高知県知事賞2着で頭角を現したロッキーサンダー(高知)が22.2倍の6番人気で続いた。
出走馬












レース















ゴールイン
今年の姫路開催前半戦は全て良馬場でレースが行われたが、後半戦スタートとなった白鷺賞デーは稍重。前日の雨が残っていた。天候は曇りで気温7℃、前週の寒波を思えば比較的過ごしやすい気候の中スタートが切られた。
スタートはややバラついたものの、大きな出遅れはなし。逃げ馬不在の中、まずはインベルシオンが気合付けでハナを奪い、2年半ぶり自身2度目の逃げを打った。前走の新春賞では後方待機となったマルカイグアスだが、今回は好スタートからすかさず2番手を奪取。3番手インにオディロンが潜り込んで、1周目3コーナーで早くも絶好のポジションを取った。
フークピグマリオンが外から4番手につけ、フレスコバルディ、コンドリュールが中団。ツムタイザンは差しに構え、コスモファルネーゼ、グリードパルフェ、サンライズホープが横並びで1周目の4コーナー。最後方はロッキーサンダーとベストオブラックと位置は決まった。
馬群全長10馬身ほどの隊列。若干前進気勢強めの走りでインベルシオンがレースを引っ張り、極端なスローペースになることなく1~2コーナーへ。大外を回るフークピグマリオンは今井騎手にやや押っ付けられながら進んでいく。
ペースが上がり始めた向正面でツムタイザンが2頭を抜いて5番手へ。2番手にいたマルカイグアスはペースアップにつけていけず3コーナー手前で4番手に後退してしまう。
最終コーナー、逃げるインベルシオンの外から激しく今井騎手の手が動いてフークピグマリオンが2番手に進出するが、内では下原騎手のオディロンが持ったままの対照的な手応え。
直線入口でインベルシオンとフークピグマリオンの間をこじ開けて外に持ち出されたオディロンが溜まった末脚を一気に発揮すると、3頭の追い比べから残り100mで抜け出し、最後は1馬身差でゴールイン。鮮やかに重賞初制覇を果たした。
2着はフークピグマリオン、道中反応の鈍さも見せながらも東海三冠馬の意地を見せた。3着は2馬身半差でインベルシオン、慣れない逃げの競馬で少しハミを噛むシーンもあったことが影響したか重賞連勝とはならなかった。マルカイグアスはツムタイザンとロッキーサンダーに迫られたが直線再び巻き返す脚を見せて4着を死守した。

◆オディロンはこれで21戦6勝(地方3戦2勝)。兵庫移籍後は連勝となり、重賞初制覇を果たした。
獲得タイトル
2025 白鷺賞


◆下原理騎手は重賞通算95勝目。2013年から13年連続重賞勝利。兵庫生え抜き騎手の兵庫県最多重賞勝利記録を更新中。
初重賞制覇が1999年の白鷺賞(ユウターヒロボーイ)だった下原騎手。白鷺賞は2020年タガノゴールド、昨年ラッキードリームに続く4勝目。
◆森澤友貴厩舎は重賞通算4勝目。2022年の金沢スプリントカップをハナブサで制して以来2年半ぶりのタイトル奪取。地元兵庫での重賞制覇は、2011年の姫山菊花賞(タガノサイクロン)以来13年半ぶりとなった。姫路での重賞制覇は初。
◆下原理騎手 優勝インタビュー◆
(そのだけいば・ひめじけいば 公式YouTubeより)

前回の移籍初戦は吉村智洋騎手で勝ったオディロンだったが、吉村騎手は大晦日の落馬負傷により長期休養中、今回は下原理騎手が初めて手綱を取った。
「完璧に馬も仕上がっていたみたいで良いレースができました」と開口一番、状態面の良さを口にした。
年末に飯田厩舎との激しいリーディングトレーナー争いを繰り広げていた森澤厩舎は、所属馬総動員で初タイトルを狙いに行った。オディロンもその1頭で、「本来は1870mを使いたかったが年内に番組がなかったので2400mに出走した」(森澤師) と、仕上がり途上でかつ距離適性的にも少し長めの舞台に前倒して出走させて勝利を掴んでいた。
それだけに前走からの上積みに自信を滲ませていた森澤師だったが、実際に騎乗した下原騎手も馬から伝わる状態面の良さを感じながらのレースだった。
「乗りやすくて癖もなさそうだったので、良い位置を取りたいと思っていました。インベルシオンが逃げるか2番手にいるだろうと思っていて、その廣瀬の後ろくらい入りたいなと思っていたけど、楽に取れました」と思っていたよりも1つ前のポジションで、目標を見ながらレースを進めることができた。
「マルカイグアスも目標の1頭でしたが早目に(手応えが)なくなったんで、その外の名古屋のフーク(ピグマリオン)が良い勝負するんじゃないかなと思って3~4コーナー回っていました。行くところ悩んでいるくらい手応えがあって、直線も先頭に立ってソラ使いましたけれどもセフティーリードでした」と、1馬身差の着差以上の内容での完勝だった。

「一発は狙ってましたけど、思った以上に操縦性も良いし、前に行けるのが強いですね。園田姫路だけではなく、もう少しペースの速いところでもやっていけそうです。地方競馬だったらどこの競馬場に行っても対応できそうですし、地方馬同士だったらどこでも良いレースできると思うくらい力がありますね。溜めとけば溜めとくだけ伸びるイメージで、他の競馬場でも他が行くなら行かせておいて、上がり競馬にしても対応できそうなイメージで自在性がありそう。これから走る、重賞を勝っていく1頭だと思います」と賛辞を贈った。
元々、白鷺賞の出走枠に入るかどうか微妙だったこともあり、前週の佐賀記念を目指して調整されていたオディロン。
ダートグレードでの可能性を問われると、「やっぱりJRAはねぇ・・・JRAの馬は強いんでね。その辺はやってみないと分からないところはあります」と苦笑いを見せた。
ただ、「この馬は1周半とか地方競馬が合う器用なところがある。JRAはどうしてもテンに急ぐ馬も多いので、そういうのが止まる前提で乗ったら面白いかも」と地方の小回り馬場でJRA馬が戸惑う間隙を突いて一発を狙える可能性はあると話した。
下原騎手は、1999年にユウターヒロボーイに騎乗した白鷺賞で重賞初制覇を果たしている。その後、2020年タガノゴールド、昨年ラッキードリームと勝利し、今回で4度目の白鷺賞制覇となった。そして重賞勝利数も95まで伸ばし、大台へあと5勝と迫った。
「(白鷺賞は)すごく思い入れあるレースで勝つたびに嬉しいです。そういう馬(重賞を勝てる馬)に乗せていただいているので、今年中にあと5つ、難しいとは思いますが頑張りたいと思います」
兵庫生え抜きひとすじの騎手として史上初となる重賞100勝にまた一つ近づいた。

総評

「下原騎手も良い位置につけてくれましたし、ペースも良い方に流れたと思います。予想以上に強い勝ち方でした」と振り返った。
「嬉し恥ずかしですけどね。これからどんどん地元でも勝っていきたいですし、それだけの馬が揃っていると思います。またしっかり仕上げていきたい」と今後を見据えた。

オディロンの今後については、「はがくれ大賞典を視野に入れます。この時期は、なかなか適距離が他場もないのでそこくらいかなと」と3/30(日)に佐賀競馬場の2000mで行われる重賞に向けて調整される。交流重賞と変わってから過去11年で兵庫勢7勝と、兵庫には相性抜群のレースでもあり、重賞連勝の期待が高まる。
混沌とした中距離界に新たな風を吹き込ませるオディロンの勝利だった。
新春賞馬インベルシオンはやや行きたがる面を見せたことが影響したか3着、グランプリホースのマルカイグアスは3角で置かれてしまって4着に敗れた。ただこの2頭は重賞の連戦が続いていたことに加え、寒い時期は増えやすい馬体重の調整にも難しさがあった。次は巻き返し必至だろう。
メンバーが揃ってきた中距離戦線、次の頂上決戦は6/5(木)の六甲盃(園田1870m)。今から再戦が楽しみだ。
文:三宅きみひと
写真:齋藤寿一