2025 兵庫ウインターカップ レポート

2025年1月30日(木)

今年の姫路開催は重賞が5つと豪華なラインナップ。その2戦目となる全国交流重賞「兵庫ウインターカップ」が1月開催最終日のメインとして行われた。今年は北海道、船橋、大井、高知、佐賀から遠征馬5頭、そしてこの日がJRAからの転入初戦となるオールパルフェなど地元馬7頭が集結。12頭中重賞ウイナーが8頭と、今年は豪華メンバーの競演となった。

1番人気(単勝2.3倍)は北海道のスペシャルエックス。2歳時から毎年地元の門別で重賞を勝っており、ここまでで重賞4勝。ダートグレード競走でも最高2着と善戦を見せる、道営を代表する馬の1頭だ。前走は兵庫ゴールドトロフィー(Jpn3)で他地区や中央の強敵相手に4着と健闘。ただ道中キックバックを気にしながらのレースで、理想的な競馬とはならなかった。今年初戦、初の姫路でリベンジを狙う。およそ1年ぶりの手綱を託された地元兵庫、杉浦健太騎手がチャンスをものにするか。

2番人気(単勝5.4倍)は大井のロードグラディオ。中央時代は芝、ダートで通算4勝を挙げ、2022年に大井へ転入。初戦こそ着外に敗れるが、その後10戦4勝、全て3着内の堅実駆けを見せる。球節の手術を経て、実戦は約半年ぶりとなるが、9歳にして重賞初制覇を飾れるか。

3番人気(単勝7.1倍)が地元兵庫のスマートセプター。中央在籍時に2勝を挙げ、昨年の半ばで兵庫に転入すると、そこから無傷の5連勝。前走は転入後のレースでは初めてハナを奪われる形となったが、2番手から抜け出しての完勝とまだまだ底を見せていない。
兵庫の勝ち星のうち4勝が1230mだが、3走ぶりの1400m戦、そして試練の最内枠を克服して重賞初挑戦初制覇決められるか。

4番人気(単勝7.5倍)は同じく地元兵庫のエコロクラージュが続いた。
昨秋は全国交流重賞「兵庫ゴールドカップ」でクビ差の接戦を制し、3歳時に「楠賞」を勝って以来、約2年ぶり3度目の重賞制覇を飾った。前走の兵庫ゴールドトロフィーでは勝負所で進路がなくなり不完全燃焼となったが、今回2戦2勝の姫路で巻き返しとなるか、地元生え抜き馬が再び全国の強豪に挑む。

5番人気(単勝7.6倍)は船橋のカジノフォンテン。2021年は中央勢を相手に川崎記念とかしわ記念を制し、交流G1で2勝を挙げた実績馬。前走のゴールドスプリント(佐賀)ではそのかしわ記念以来、実に3年8ヵ月ぶりの勝利を決め、重賞6勝目を挙げた。前述のビッグタイトルを共に手にした張田昂騎手との復活Vで、レース後に見せた鞍上の涙も印象的だった。9歳の大ベテランとなったが、その圧倒的な実績と復活勝利の余勢を駆って姫路制圧に臨む。


上位5頭が単勝10倍以下の人気で、あとはサイレンスタイムと高知のイモータルスモークが10倍台で続いた。

出走馬

1番  スマートセプター 下原理騎手
2番 サイレンスタイム 田野豊三騎手
3番 ハナブサ 廣瀬航騎手
4番 オルダージュ 永井孝典騎手
5番 (北)スペシャルエックス 杉浦健太騎手
6番 (大)ロードグラディオ (大)御神本訓史騎手
7番 スマイルサルファー 大山真吾騎手
8番 (佐)ダイリンウルフ (北)石川倭騎手
9番 エコロクラージュ 小牧太騎手
10番 オールパルフェ 山本咲希到騎手
11番 (高)イモータルスモーク 大山龍太郎騎手
12番 (船)カジノフォンテン (船)張田昂騎手

レース

スタート

1周目スタンド前

2コーナー

向正面

3コーナー

3〜4コーナー

4コーナー〜最後の直線

最後の直線①

最後の直線②

最後の直線③

最後の直線④

ゴールイン

先週の暖かさとは一転、今週は開催日3日間とも冷たい西風が吹きつけ、特に最終日となったこの日が一番寒かった姫路競馬場。開門前は4℃台、日中も7℃台ほどしか気温が上がらなかった。そんなひんやりとした空気の中、兵庫ウインターカップのスタートが切られた。

ほぼそろった飛び出しではあったが、前に行きたいスペシャルエックスはやや後手、サイレンスタイム、オールパルフェなども後方からとなる。

対して好発を決めたのはスマートセプター。砂の深い最内枠から果敢に先手を取ると、その外からロードグラディオが2番手に、その間を進む形でスペシャルエックスが巻き返していく。さらには大外からカジノフォンテンも先団に取りつき、1コーナーのカーブへ。

差がなくイモータルスモーク、スタートを五分に決めたエコロクラージュ、その内からスマイルサルファーが続き中団グループを形成。そこから2馬身ほど離れ、後方には、オールパルフェ、ハナブサ、さらにオルダージュが続き、サイレンスタイムとダイリンウルフが並んで最後方追走、馬群全長12馬身ほどで2コーナーから向正面に入る。

注文通り先手が取れたスマートセプター、それを半馬身差で追うロードグラディオ、序盤積極的に押し上げたカジノフォンテンが3番手でバックストレート中央へ。

4番手インコースのスペシャルエックスは進みが悪く、杉浦騎手がかなり促して追走する形に。そこに並ぶイモータルスモーク、2馬身とやや離れてスマイルサルファーとエコロクラージュが変わらず中団、このあたりで隊列はやや縦長になり3コーナーに向かう。
オールパルフェ、ハナブサ、サイレンスタイム、ダイリンウルフが一団となってその後ろのグループを形成。1頭遅れてオルダージュが最後方と変わり、3~4コーナー中間へ。

内のスマートセプター、外のロードグラディオが並んで先頭、それらの外3番手のカジノフォンテンにイモータルスモークが手応えよく内から並んで前の2頭に接近、4コーナーから直線に入る。

3番手混戦模様の中、進路を探しながらスペシャルエックスが追いすがり、内からスマイルサルファーが接近、さらに馬群の真っ只中から外に切り替えたエコロクラージュも差し脚伸ばして残り100m。

大混戦の中、先頭はロードグラディオ、スマートセプターも粘って2番手、しかし前が開いたスペシャルエックスが3番手グループから一気に伸びて抜け出すと、外からイモータルスモークとエコロクラージュがそれを追い、さらには後方からダイリンウルフも差を詰めて前の3頭に接近。

熾烈な直線の追い比べは、先頭のスペシャルエックスにエコロクラージュがクビ差と迫ったところでゴール。北海道のスペシャルエックスが振り切り、見事1番人気に応えた。

道中の動きも悪く、直線半ばまで進路も厳しかったが、スペースを見出してからの加速力は素晴らしく、さすがは重賞4勝馬といった走りだった。鞍上の杉浦健太騎手もプレッシャーを跳ねのけ、チャンスをものにした。

エコロクラージュは、直線で外に切り替えるロスが痛かったが、さすがの末脚を見せて惜しい2着。地元馬の意地を見せてくれた。好位をうまく立ち回った高知のイモータルスモークが3着、後方から追い込んだ佐賀のダイリンウルフはそこにクビ差と迫る4着だった。

◆北海道のスペシャルエックスはこれで20戦8勝、重賞5勝目。4年連続の重賞制覇に。昨年の道営スプリント以来の重賞勝利、初の姫路で他地区重賞初制覇となった。

獲得タイトル

2022 イノセントカップ
2023 グランシャリオ門別スプリント
2024 ポラリスサマースプリント、道営スプリント
2025 兵庫ウインターカップ

◆杉浦健太騎手は重賞17勝目。2024年笠松のマーチカップ(ツムタイザン)以来の重賞勝利で、姫路重賞は初制覇となった。
◆田中淳司調教師(北海道)は重賞103勝目。2024年笠松グランプリ(ストリーム)以来の重賞勝利で、今年最初の重賞制覇。兵庫重賞は、2021年園田プリンセスカップ(グラーツィア)以来の6勝目。姫路重賞は初V。

◆杉浦健太騎手 優勝インタビュー◆
 (そのだけいば・ひめじけいば 公式YouTubeより)

一昨年の兵庫ゴールドトロフィー3着以来、1年ぶりにスペシャルエックスの手綱を任された杉浦騎手。混戦を断ち、見事人気に応えた。

「直線に向いて進路が開いてからは、本当にいい反応で、いい脚で突き抜けてくれました」と、勝利インタビューでは白い歯がこぼれ、こちらにも安堵感が伝わってきた。


スマートセプターがハナを主張し、その後ろに付けるというある程度自身のイメージ通りのレース運びができたという道中。

その道中では早めから促すなど反応は一息に見えたが…。

「ずっといいポジションをキープしながら4コーナーまで来れたので、あとは道が開いたらと思って乗っていました。砂を被ってちょっと怯むという面は聞いていたんですけど、それでもしっかり最後まで走ってくれていたんでそこは成長かなと思います」

キックバックを嫌がりながらも、最後は底力を見せた同馬に鞍上は感心しきりだった。

「若手も成長してきて自分も負けていられないなっていう気持ちと、先輩ジョッキーたちにも負けていられないんで、もっともっと頑張りたいと思います」と、最後は今後の飛躍を誓った。

若手の勢い、同世代の覚醒、ベテラン勢の安定した活躍の中にあって、杉浦騎手も次世代のエース候補として期待される1人だ。重賞17勝は中堅の中でもきらりと光る実績、近年は年に1度の重賞勝利にとどまっているが、今年は更なる躍進に期待したい。

総評

レース後、管理する田中淳司調教師は「初めての姫路で、人気にもなっていましたし、勝ててよかったです。ほっとしました。
理想は番手かなと思ってたんですけど、スタートで後手踏んじゃったんで。あとは杉浦騎手が上手く乗ってくれてたんでしょうけど、3コーナーぐらいで手応え的にも…キックバックを嫌がる馬なんでね、ポジションを下げちゃったんで、今日は苦しいかなと思ったんですけど」と道中を振り返る。
道中では前向きさを欠きながらも、杉浦騎手が懸命に促し、前を射程圏に入れると狭いところから最後はすごい脚で抜け出してきた。
「良いところが開いて、杉浦くんも内に行こうか迷ったと思うんですけど、最後までどこか開くと信じて乗ってくれたのは、よかったかなと思います」
状態面に関しては「夏場無理させなかったんで、前走から1ヶ月ちょっとでしたけど調整的にもうまくいきましたし、疲れもなく良い状態で臨めたと思います」と語った。
他地区重賞初制覇について触れられると「(これまで)この仔で重賞4つ勝たせてもらいましたけど、いつも良いメンバー(の中)で惜しいところで負けていたんで嬉しいですね」と頬を緩めた。

「以前は逃げないとダメな馬だったんですけど、調教を工夫したりして、スタッフもうまく調整してくれたんで、そういうところがレースでも活きるようになってきたのがよかったかなと思います」と確かな成長を口にした田中師。

「まだ道営が開幕じゃないんで。この仔で交流重賞(のタイトル)をなんとか手にしたいというのはあるんで。いいレースがあれば目指していきたいと思います」と、悲願のダートグレード制覇に意欲を示した。

北海道のみならず、地方の雄として今後も中央勢らに果敢に挑んでもらいたい。

ちなみに表彰式後、この日の場内イベントの出演および表彰式のプレゼンターを務めた俳優の石原良純さんとツーショット写真を撮っていた田中師。その満面の笑みが印象的だった。


それにしても交流重賞でまたしても他地区馬に敗れてしまった地元兵庫勢。
ただ、エコロクラージュは紙一重の敗戦であったし、兵庫ゴールドカップ同様、全国相手でも戦える力は示した。サイレンスタイムも出遅れがなければという感じであったし、逃げたスマートセプターも直線半ばまで踏ん張っていたところを見ると、今後大いに期待できそうだ。


 文:木村寿伸  
写真:齋藤寿一  

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