2023 兵庫ジュニアグランプリ レポート
2023年11月22日(水)
日本の砂路線発展への第一歩「ダート競走の体系整備」。2023年の2歳戦線から改革がスタートした。今秋に地方競馬の各地区でネクストスター競走を実施。将来が期待されるダート界のスター候補生が誕生している。
今年で25回目を迎える兵庫ジュニアグランプリ(Jpn2)は、12月に川崎競馬場で行われる「全日本2歳優駿(Jpn1)」のステップレースとなっている。今年のネクストスター覇者は北海道のトラジロウのみの参戦だったが、来年は各エリアの王者が園田の地で集うことを期待したい。来年4月末に行われる兵庫チャンピオンシップ(Jpn2)は距離が短距離路線の1400mに変更、3歳春の短距離NO.1決定戦に向けても重要な一戦だ。
このレースは、過去24回でJRA勢が20勝と強さを見せつけている。地方勢は05年モエレソーブラッズ(北海道)、09年ラブミーチャン(笠松)、14年ジャジャウマナラシ(浦和)、16年ローズジュレップ(北海道)の4頭が勝利している一戦。
今年はJRAから5頭、北海道3頭、名古屋1頭の遠征馬9頭を交えての12頭で争われた。
人気は拮抗していたが単勝2.4倍で1番人気はJRAのイーグルノワール。
1番人気の支持を集めた芝のデビュー戦は4着に敗れたが、ダート替わりの2戦目で初勝利。前走のプラタナス賞(東京)は速い流れを3番手から抜け出して快勝。連勝で勢いに乗っている。コーナー4つの競馬は小倉1700mで経験済。地方の深いダート、小回り1400mをどう立ち回るかが鍵になるが500㎏超の恵まれた馬体は魅力的だ。
単勝2.9倍の2番人気はJRAのサトノフェニックス。
阪神ダート1200m戦で初陣を迎えると、好位インをロスなく立ち回る。直線外へ出すと鋭く伸びる強い内容だった。前回のヤマボウシ賞は休み明けで馬体重は488㎏(+12㎏)。発馬は出遅れて後方になるが、道中でポジションを押し上げ直線で先頭。そのまま押し切り2戦2勝とした。小回りコース対応、前走でみせた砂を嫌がる面、外へ行く癖を修正出来るかがポイントになる。
北海道のトラジロウが3番人気(単勝5.9倍)。門別のデビュー戦は2着、2戦目で初勝利を挙げた。ゲートで立ち上がるなど若い面を見せていたが連勝を続けると、イノセントカップ、ネクストスター門別を勝って重賞連勝。走る度に時計を更新し、着差を広げる強い内容で地方勢の総大将としてダートグレードレースに挑む。初の長距離輸送にはなるが、鞍上には園田を知り尽くす吉村智洋騎手を起用。5連勝中の勢いで道営勢6年ぶりの勝利を目指す。
4番人気(単勝7.0倍)はJRAのオーキッドロマンス。距離を短縮したデビュー3戦目で初勝利。次走のカンナステークス(中山・芝1200m)も勝って連勝をマーク。重賞初挑戦で距離延長となった京王杯2歳ステークスは3着。レコード決着のレースだったが前付けから早めに先頭に立つ厳しい展開で粘る事が出来た。初ダート、初の関西輸送となるが持ち前のスピードを活かした競馬で初タイトルを狙う。コースから小回りに舞台が替わる点を克服できるかがポイントになりそうだ。
JRAのゼルトザームは5番人気(単勝7.6倍)。デビュー戦は函館ダート1000m。道中で追い上げて差し切り勝ちを決めた。2戦目は芝の重賞、函館2歳ステークスに挑戦。雨の影響で力を要する重い馬場となったが、力強く抜け出して重賞初挑戦初制覇。京王杯2歳ステークスは長距離輸送でイレ込むなど力を出せず11着。今回は新馬戦以来のダート、パワーを要する園田コースで巻き返しを誓う。
以降人気は大きく離れてカプセル(北海道)、ストリーム(北海道)、JRAのタリスマンと続いた。
出走馬
レース
スタート
スタンド前①
スタンド前②
2コーナー~向正面
向正面
3コーナー
4コーナー
最後の直線①
最後の直線②
最後の直線③
最後の直線④
ゴールイン
11月前半の開催は夏日が続いた園田競馬場だが、3週目に入るとこの時期らしい寒さが到来し、朝晩の気温は一桁台となった。今年の兵庫ジュニアグランプリは雲一つ無い快晴、馬場状態「良」で大一番を迎え、スムーズに12頭がゲートに収まった。
スタートは少しバラついたが大きな遅れは無かった。まずダッシュを決めたラブミーテキーラ、イーグルノワールが前へ出てくるが、外からはトラジロウ、オーキッドロマンスが押し上げてくる。スタンド前でトラジロウがハナを叩くとオーキッドロマンスも追従し、2番手の外につけた。
3番手は内にラブミーテキーラ、外にイーグルノワール、カプセルが続き、サトノフェニックスはイーグルノワールの背中を見る位置。中団は内からタリスマン、ストリーム、ミトノウォリアー。砂を嫌って下がってしまったゼルトザームは10番手。浜中騎手は冷静に内に入れて馬を落ち着かせる。後方はヴァリオ、デリシャスパーティと続き、馬群全長15馬身差ぐらいで各馬1コーナーを通過した。
序盤は速い流れになったが、コーナーに入るとペースダウン。吉村騎手の得意な展開に持ち込んだが、2コーナーを通過するとオーキッドロマンスがトラジロウに競りかけ再びペースが上がった。
イーグルノワールは単独3番手で前の2頭を見る位置で折り合う。ライバルを徹底マークするサトノフェニックスは外に持ち出すとイーグルノワールとの差を縮める。カプセル、ストリームの道営馬2頭も人気馬に食らいつくが、ラブミーテキーラは徐々に後退。後方にいたゼルトザームは外へ切り替えると中団まで浮上。ミトノウォリアーも離されまいと懸命に追い掛ける。ヴァリオ、デリシャスパーティの2頭は置かれる展開となった。
3コーナーを通過するとイーグルノワール、サトノフェニックスがさらに加速。中団位置につけていた各馬も差を詰め8頭が固まって3~4コーナーを通過する中、勢いづく人気馬2頭が4コーナー手前でトラジロウ、オーキッドロマンスを捕えて後続との差を広げ、ここから2頭のマッチレースが始まった。
先行していた2頭は苦しくなって後退。ゼルトザームは外から末脚を伸ばすが前との差は詰まらず、内から迫るストリームとの3着争いになる。
4コーナーから残り200mまでは、外のサトノフェニックスが若干前に出た。しかし、直線でイーグルノワールが内から伸び返し、手に汗握るデッドヒートにファンのボルテージは最高潮。両者互いに譲らず並んだままゴールを駆け抜けた。
目視では判断出来ないぐらいの大接戦で、審判の判定を待つことになった。暫くすると着順掲示板に1着7番、2着2番と点灯。ハナ差でイーグルノワールが激闘を制していた。
サトノフェニックスは惜しくも2着に敗れたが、初の地方コースで勝ちに等しいレース内容だった。コーナーで外へ逃げる面は出ていたが、ポテンシャルの高さを見せた。今後の大一番で逆転を狙う。
5馬身差の3着はゼルトザーム。序盤で砂をかぶってポジションを下げたが、向正面から進出を開始。跳びの大きい馬で小回り適性の差で上位には離されるも馬券圏内は確保した。
地方最先着は4着のストリーム。中団からとなったが田中騎手が気合いを入れつつ前とは離されずに追走し、じわじわ差を詰めて3着馬とはクビ差だった。5着はミトノウォリアー。後方からの競走となったが勝負どころから徐々に進出を開始して掲示板を確保。
5連勝中のトラジロウは7着。果敢にハナを奪ったがオーキッドロマンス(6着)に絡まれるなど自分のペースで競馬ができなかった。
JRA勢は同レース7連勝。上位3着までを独占した。全日本2歳優駿や来春の海外遠征を目指す素質馬が参戦するようになり、レースレベルが年々上昇しているが、来年は地方勢の巻き返しに期待したい。
◆イーグルノワールは通算4戦3勝、重賞初挑戦で初制覇。芝のデビュー戦は1番人気の支持を集めたが4着。2戦目からダートへ転向すると負けなしで重賞タイトルを仕留めた。新種牡馬のブリックスアンドモルタルはダートの重賞は初勝利。先月のサウジアラビアロイヤルカップ(ゴンバデカーブース)に続き重賞2勝目。初年度産駒から芝、ダートの両方で活躍馬を輩出し注目を集めている。
獲得タイトル
2023 兵庫ジュニアグランプリ(Jpn2)
◆JRAの松山弘平騎手は兵庫のダートグレード2勝目。サクセスエナジーで勝利した2020年の兵庫ゴールドトロフィー以来、3年ぶりの勝利となった。
◆JRAの音無秀孝厩舎は兵庫のダートグレード2勝目。2021年の兵庫チャンピオンシップ(クリソベリル)以来、2年ぶりの勝利となった。
◆松山弘平騎手 優勝インタビュー◆
(そのだけいば・ひめじけいば 公式YouTubeより)
五分のスタートを決めたイーグルノワールは二の脚を使って好位の外につけ、道中も折り合ってじっくり脚をためていた。
「行きたい馬を何頭か前に行かせて良い位置が取れました。コーナーで動くよりはしっかりそこは抱えながら行きたかったので、前に出られても焦らずに対応できました」。冷静な立ち回りでイーグルノワールの能力を最大限に引き出した松山弘平騎手。
4角から直線の入り口でサトノフェニックスが前に出たが、イーグルノワールは抜き返す根性を見せた。
「直線を向いてしっかり伸びてくれたので馬に感謝しています」と愛馬の力を信じて追い続けた。
「返し馬から行きっぷりが良かったですし、馬はやる気になっていました。ただ、今回はコーナーが4つの小回りコースという所で少し忙しいのではと思っていました。スタートも出てくれて道中も上手に園田の馬場を対応してくれました」。
園田競馬場のコースは1周1051m。スピードだけでなく器用さも求められる馬場をイーグルノワールはこなしてみせた。
「距離は1600~1800mがベストかと思いますが、1400mを対応してくれたので、様々な距離にも順応出来ると思います。これからまだまだ良くなっていく馬なので今後も楽しみです」。地方のダート、距離短縮という課題も克服。将来の選択肢が広がった。
今回の馬体重は532kg、前回から+12kgで過去最高馬体重となった。
音無師は「前回は東京への輸送競馬で馬体減りもあったかと思って気を付けながら調整しました。でも若干太めでしたが良い馬体で当日を迎えることが出来ました」。小倉、東京と長距離輸送が続いたが馬体はパワーアップし、タフな馬場にも負けない力強さが出てきた。
「2~3日様子をみて大丈夫であれば次走は来月13日の川崎(全日本2歳優駿)を予定しています。小回りは小倉、園田で経験して左回りも東京で勝っているから川崎でも問題ないと考えています」。
イーグルノワールは克服すべき項目を次々とクリアし、更なる高みへ羽ばたこうとしている。
松山弘平騎手は11月12日の京都12Rで4年連続4回目のJRA年間100勝を決め、JRAリーディング5位につけている。
若手時代は園田競馬場で行われるJRA交流に遠征するとエキストラ騎乗で平場競走に跨る姿が多くみられた。技術力の向上と共に勝ち鞍も増加。着実にステップアップすると2020年にはデアリングタクトで牝馬クラシック3冠を獲得するなど、日本を代表するトップジョッキーの1人となった。
「また園田競馬場で勝たせていただいて、馬にも感謝していますし、関係者の皆様にも感謝しています。本当にありがとうございます」。ウイナーズサークルに詰めかけたファンからは大きな歓声が飛んだ。表彰式終了後もサイン、撮影を希望する競馬ファンへ丁寧な対応をする姿がみられた。
総評
「サトノフェニックスの和田竜二騎手は思い通りなレースをしていたと思いますよ。あの馬にずっとマークされて前に出られたけど差し返してくれたね。前走でも見せていたけど勝負根性がある馬ですよ」と厳しいレースを競り勝った愛馬を称えた。
次戦はダートを選択した。「新馬戦の走りを見て芝よりダートの方が向いているのではと感じました。2戦目でダートへ転向させたのは確実に勝たせてあげたかったからですよ。馬が期待に応えてくれて今回の舞台に間に合った。あの時の決断が良い方向に行きましたね」。数々のビッグタイトルを獲得している音無師のジャッジが飛躍の起点となった。
改革によりJRAの競走もスピードに秀いでる馬が活躍出来る競走が増加。JRA勢は兵庫ジュニアグランプリ出走組と今回出走が叶わなかった素質馬が限られた枠を競うことになる。
地方競馬では来春に4ブロックでネクストスター(北日本、東日本、中日本、西日本)競走が実施。勝ち馬には兵庫チャンピオンシップの優先出走権が付与されるだけに、各ブロックのスピードスターが集う最高峰の戦いになることを願いたい。
園田をステップにJBC競走、そして世界の舞台へ飛躍するダート短距離界の名馬が生まれるかもしれない。
文:鈴木セイヤ
写真:齋藤寿一