2023 兵庫ゴールドトロフィー レポート
2023年12月20日(水)
兵庫で行われる3つのダートグレード競走のトリを飾るハンデキャップ重賞の兵庫ゴールドトロフィー(JpnⅢ)。これまで22回の歴史の中で、兵庫勢はおろか地方馬の勝利が一度もないレースだ。ここまで全てJRA勢が優勝し、去年に至っては1着から4着までを独占。あのイグナイターでさえもそれらの後塵を拝する5着に敗れた。イグナイターに関しては当日の馬体重が+23キロ、本調子でなかったというのもあるが、それでも結果として地方馬にとって鬼門のレースと言わざるを得ない。
今年、そのイグナイターは登録時点ではハンデ60.5キロで名前があったが、陣営が早々に話していたように、来年の海外挑戦などを視野に入れているため回避。
重いハンデを背負うのは例年通り中央勢となり、加えて強力な他地区からの遠征馬たち、そしてそれらを迎え撃つ地元兵庫勢という構図となった。
過去を遡れば、2013年のドリームバレンチノ、2016のニシケンモノノフ、2017年のグレイスフルリープはこのレースを制して翌年のJBCスプリントで優勝を飾っており、去年5着のイグナイターも今年同レースで勝利を収めている。
そういった意味では来年の大舞台にも繋がる注目のレースだ。
ここをステップに更なる飛躍を遂げるのはどの馬か。
中央から4頭、大井、門別からそれぞれ2頭の遠征馬8頭に加えて、地元馬3頭の全11頭、そのうち8頭が重賞ウィナーという実力馬が顔を揃えた。
混戦模様の中、単勝1番人気2.4倍の支持を集めたのはJRAのセキフウ(58キロ)だった。
2歳時には今回と同じ舞台である兵庫ジュニアグランプリ(JpnⅡ)を勝利。
その後、国内重賞のみならず、サウジダービーやコリアカップと海外でも善戦したが、優勝にはあと一歩という成績が続いた。そんな同馬の久々の勝利が8月の札幌で行われたエルムステークスだ。道中最後方集団から直線は上がり最速の末脚で差し切り勝ち。今回の鞍上はその時以来の騎乗となる武豊騎手とあって、人気を後押しした。馬に蹴られる負傷から先日復帰したばかりのレジェンド。このレースの後、有馬記念では皆さんもご承知の通り、また一つ大きなドラマを見せてくれることになるのだが…。果たしてここではどんな騎乗を見せてくれたのか。
2番人気も中央、サンライズホーク(57キロ)。デビュー2戦目からダートに矛先を変え、3勝クラスまで4連勝を飾るが、その後オープンで振るわず3戦連続の着外負け。ところが前走の佐賀のサマーチャンピオン(JpnⅢ)では初ブリンカーの効果もあってか圧巻の逃げ切り勝利。これが単勝3.2倍で続いた。
3番人気はJRAのマルモリスペシャル(56キロ)で5.1倍。
オープンでは頭打ち状態だったが、前走のギャラクシーステークスは2着馬との接戦をクビ差で制し、ついにオープンで勝ち星をあげた。
鞍上のルーキー田口貫太騎手は、師匠である大橋勇樹調教師の馬で嬉しいメイン勝ち。兵庫でも度々騎乗する田口騎手の重賞での手腕に注目が集まった。
トップハンデを背負ったケイアイドリー(59.5キロ)は4番人気の7.0倍に甘んじた。今年は緒戦こそ中央だったが、その後、高知、大井、門別など重賞舞台の全国行脚。その中で6月の北海道スプリントカップ(JpnⅢ)では重賞初制覇を飾った。前走のJBCスプリントは落馬の影響を受け、9着に敗れる消化不良のレースに終わったが、今回は久々の1400m戦で本来の力を発揮できるか。巻き返しを誓う。
中央勢が1〜4番人気を占める中、地方馬最上位の5番人気(11.4倍)となったのが地元兵庫のタイガーインディ(53キロ)。中央からの転入後、摂津盃で2着、姫山菊花賞で3着と好走を見せるが、これらのレースはいずれも、逃げの手に出るもスタンド前で後続馬に絡まれて折り合いを欠くという厳しい展開となった。
中央では1400mで3勝と好走歴があるタイガーインディ。前走は距離を短縮し、兵庫では初めての1400m戦に挑戦、ここで後続を寄せつけぬ走りで逃げ切り圧勝。改めて1400適性を見せつけた。
その他、前走楠賞の1、2着馬である大井のボヌールバローズ(52キロ)と門別のスペシャルエックス(53キロ)がそれぞれ6番人気、7番人気で続いた。
出走馬
レース
スタート
スタンド前①
スタンド前②
2コーナー~向正面
向正面
3〜4コーナー
4コーナー~最後の直線
最後の直線①
最後の直線②
最後の直線③
ゴールイン
今週は冷え込みが厳しい一週間ではあったが、この日は16時現在で実況席の気温計は13℃台と寒さは幾分和らいでいた。
白い雲と青い空が広がる競馬日和の中、高らかに響き渡る、お馴染みブラスバンドH.B.B.による生ファンファーレ。それに呼応するように場内から拍手と歓声が沸き起こった。
逃げ馬が多い中、誰が先手を取るのか、注目のスタートが切られた。
スタート直後、門別のスティールペガサスが少し外に寄れたことで、隣のサンロアノークが後方に。
好発を決めた大井のボヌールバローズが先手を主張。前走逃げ切り圧勝のサンライズホークのミルコデムーロ騎手は2番手に控え、スティールペガサスが3番手、五分の出を見せたタイガーインディは、そこまでダッシュが効かず結局インの4番手となって1コーナーのカーブへ。
その後ろにトップハンデ59.5キロのJRAケイアイドリー、スタート直後、ボヌールバローズに前をカットされる形になった門別スペシャルエックスは先行できず中団ポジションになった。
後方の内に兵庫のバーニングペスカ、少しかかり気味にマルモリスペシャル、背後にセキフウと中央勢2頭が続き、サンロアノークと4年前の覇者、大井のデュープロセスが並んで最後方を形成して向正面へ。
同型が多い中でもしっかりハナに立ち、自分の形に持ち込んだボヌールバローズ。
それに並ぶようにサンライズホークが先頭の外へと付けて、好位集団もスティールペガサス、タイガーインディが馬順変わらず追走、残り600m付近でその背後にいたケイアイドリーと後方3番手にいたセキフウが徐々に進出を開始。
追いすがるスペシャルエックス、マルモリスペシャル、さらになかなか前との差が詰まらないバーニングペスカ、サンロアノークにデュープロセスの後方陣。
残り300mでサンライズホークが先頭に並び、ボヌールバローズがこれに抵抗。この間にケイアイドリーが脚を伸ばして3番手の外に進出。
セキフウの武豊騎手も4番手の外からこれを追って直線に入る。
4番手の内で苦しくなったタイガーインディ。それを交わしにかかるスペシャルエックスと大外のマルモリスペシャル。
残り100mで完全に先頭に立ったサンライズホークと、これに迫るケイアイドリー。3番手に浮上したセキフウの脚色が鈍る中、内からじわじわと足を伸ばすスペシャルエックスと外から懸命に追うマルモリスペシャルの2頭。
5頭一団で迎えたゴール前の攻防は、最後まで粘りを見せたサンライズホークが、ケイアイドリーを3/4馬身差で振り切って押し切り勝ち。
59.5キロを背負いながらも良い脚を見せたケイアイドリーが2着でJRAのワンツーフィニッシュとなった。
一方、大接戦の3着争いは門別のスペシャルエックスが制し、地方勢として一矢報いた。ハナ差でJRAのマルモリスペシャルが4着、セキフウは5着に敗れた。
兵庫勢最先着のバーニングペスカがそれらに離された6着で入線を果たした。
去年のように馬券内独占とはならなかったが、それでもやはり過去の傾向と人気通り、JRA勢がレース創設以来負け知らずの23連勝。今年も中央の壁は厚かった。
◆サンライズホークはこれで通算10戦6勝、重賞は前走のサマーチャンピオンJpnⅢ(佐賀)に続いて2勝目。重賞連勝を飾った。
デビューから2戦目でダートに転向後、破竹の4連勝。オープンに上がってからは振るわなかったが、前走初めてブリンカーを着用し、一変。逃げ切り圧勝を見せた。
今回は番手に控える形から抜け出しての勝利ということで今後の戦法にも幅ができたことだろう。
まだ来年5歳でキャリアも10戦と浅い。今後の飛躍を大いに期待したい。
獲得タイトル
2023 サマーチャンピオン (佐賀 Jpn3)
2023 兵庫ゴールドトロフィー(Jpn3)
◆ミルコデムーロ騎手は中央のみやこステークス以来の重賞制覇。
ダートグレードはサンライズホークとのコンビで勝利した佐賀のサマーチャンピオンに続いて今年の2勝目。兵庫重賞は2021年の兵庫ジュニアグランプリ(セキフウ)以来2年ぶりで通算3勝目となった。
◆牧浦充徳厩舎は浦和のオーバルスプリント(Jpn3)をドライスタウトで勝利して以来、今年の交流重賞3勝目。ダートグレード勝利は通算5勝目。兵庫重賞は初制覇となった。
◆ミルコデムーロ騎手 優勝インタビュー◆
(そのだけいば・ひめじけいば 公式YouTubeより)
勝利インタビュー前、口取り撮影にはサンライズホークと関係者、そしてミルコデムーロ騎手とその家族の姿があった。
幸せオーラを身にまとい、なんとそのまま小さな息子くんを抱えて、ミルコ騎手の勝利インタビューがスタートする。
第一声は愛する息子くんを見つめながらの「こんにちわ〜」からのおでこにキス。
こんなほのぼのとした勝利インタビューがかつてあっただろうか。
場内のお客さんからも自然と温かい拍手が沸き起こった。
「やっぱりすごい良い馬ですね。本当に夏からだいぶ成長している。良くなっている。ただ気が難しいからね。先頭に立ったときにちょっとフワフワして。でも他の馬が来たらまた伸びました」とミルコ騎手。
今回は控える形になったが、その道中の位置取りに関しては、まずは馬のリズムを優先し、流れなければ逃げに、外から他馬が来なければ無理せず番手でもいいというプランだったという。今回は大方、自身の思い描いた通りに運べた。
前走は初ブリンカーで一変したが、今回も引き続きその効果が見られたと鞍上は話す。加えて3ヶ月半の休み明け、馬体重が+20キロでの出走となったことについては、「調教に乗ったときから成長分というか、パワーアップしたと感じました」と確かな進化を感じ取っていた。
「どんどん強くなっているから楽しみですね。この短距離のところで」とのことで、今後の更なる活躍に期待は高まる。
ミルコ騎手の兵庫での重賞勝利は、セキフウで勝った2021年の兵庫ジュニアグランプリ以来、2年ぶりで通算3勝目。
これに関しては「今年は辛かったですね。全然勝ってなくて。たまたま家族が見に来てくれたときに重賞が勝ててとても嬉しいですね。応援してくれた人もありがとうございました」と本音を吐露し、「家族からのパワーも伝わってきた」と目を細めた。
そして「今年はそんなにいっぱい勝てなくて残念だったけれども、来年頑張ります、本当に。いつもありがとうございます」と、来年への決意を口にして締めくくったミルコ騎手であった。
成績に目を向けると、確かに今年は大幅に勝ち鞍が減る寂しい状況で、
2012年から毎年続いていたGⅠ勝利も2021年を最後に途切れてしまっている。
また大舞台で輝くミルコデムーロ騎手の姿が見てみたい。
微笑ましかったのは、インタビューの間、ずっとマイクが気になり、触ろうとしていた息子くん。
その注意を引こうと終始あやしてくれたそのたんや、オーナー不在のため、
表彰式ではその代理を務めたミルコ騎手の奥様の姿もあって場内は終始ほっこりムード。
このときインタビュアーであった筆者の私も、経験したことのない状況にドギマギしつつも、ミルコファミリーから醸し出されるハートウォーミングな雰囲気に、なんだか幸せをお裾分けしてもらったような気持ちになった。
総評
「逃げた方がいいのかもしれないですけど、どうなんでしょうね。他地区の速いのがいるとなかなかそうもいきませんからね。それに夏に重賞で戦っていた頃に比べると状態も良いとは思わなかった。摂津盃や姫山菊花賞も途中でリズムを崩されなければ勝ちまであったと思いますし。距離云々より折り合いなんですかね」と何度も首をかしげながら敗因を探っていた。
いずれにせよ、その話ぶりから本来の力を出せれば巻き返しは充分見込めそうだ。
バーニングペスカ、サンロアノークを含めて、また兵庫勢の奮起に期待したいし、来年こそは地方馬による勝利も見てみたい。
文:木村寿伸
写真:齋藤寿一