2024 兵庫ゴールドカップ レポート

2024年10月18日(金)

園田競馬場で行われる唯一の1230m重賞は、創設から8年目を迎えた。第4回から全国交流戦となって今年が5年目。初年度(2020年)こそ地元兵庫のエイシンエンジョイが優勝したが、過去3年は他地区の馬が勝利している。

今年は、大井・川崎・金沢・高知・佐賀から1頭ずつ計5頭が参戦。今年は交流戦で遠征馬の優勝が続いており、迎え撃つ地元兵庫勢7頭の奮起が期待された。

1番人気は、単勝2.8倍で高知のイモータルスモーク。
元中央OP馬で川崎を経て、今年春に高知へ。園田FCスプリントで2着に好走すると、前走は大山龍太郎騎手を背に7番人気ながら園田チャレンジカップを勝利し、高知勢の層の厚さを見せつける結果となった。人馬共に重賞初制覇を果たしたコンビで重賞連勝を狙う。

2番人気は、単勝4.0倍で大井のローウェル。
オープン勝ちこそないものの、南関東A2で4勝を挙げるなど短距離路線で活躍中の一頭。前走、大井の重賞では12着と大きく崩れてしまったが、ハイレベルの南関東で揉まれてきた経験と先行力が買われて支持を集めた。

3番人気は、単勝4.9倍で金沢のオヌシナニモノ。
園田へは2年ぶりの遠征。一昨年の兵庫ゴールドカップは、JRAからの移籍初戦での出走となったが10着。その後、金沢で重賞3勝と力を見せる中、3連勝で再び園田へ。一昨年のリベンジに燃える。

昨年の2着馬で11歳のベストマッチョ(川崎)が単勝7.1倍の4番人気で、ここまでの人気は全て他地区の馬たち。

3歳時に重賞2勝も前走の勝利により2年越しでようやくA1まで昇級したエコロクラージュが8.9倍の5番人気、1230mのA1を5勝しているイナズマテーラーは6番人気(16.7倍)と地元勢は中穴人気で続いた。

出走馬

1番  トリニティノット 中田貴士騎手
2番 (金)オヌシナニモノ (金)吉田晃浩騎手
3番 (高)イモータルスモーク大山龍太郎騎手
4番 ケンジーフェイス 田野豊三騎手
5番 イナズマテーラー 山本咲希到騎手
6番 ヒメツルイチモンジ  下原理騎手
7番 ウインドケーヴ 川原正一騎手
8番 エコロクラージュ 小牧太騎手
9番 (川)ベストマッチョ (船)張田昂騎手
10番 (佐)ロンドンテソーロ 大山真吾騎手
11番 ハナブサ 廣瀬航騎手
12番 (大)ローウェル (金)吉原寛人騎手

レース

スタート
1周目スタンド前①
1周目スタンド前②
2コーナー~向正面
向正面
3コーナー
最後の直線①
最後の直線②
最後の直線③
最後の直線④
最後の直線⑤

ゴールイン

その金ナイターも残り2週。例年のこの時期だと夜は肌寒いくらいの日もあるが、残暑が長かった今年は秋の訪れも遅いようで、レース発走時の気温は25℃台。この日の前半戦は時折細かい雨がぱらつくなどして湿度も高目。少し蒸し暑さすら感じられる中、馬場状態「良」でのスタートとなった。

スタートは若干のバラつきはあったものの大きな出遅れはなし。最内でトリニティノットが好スタートを決め、最近スタートの速いウインドケーヴもいいゲート離れを見せた。

スタートは五分だったロンドンテソーロがまず二の脚速く先頭に立ってゴール板前を通過。そのすぐ内からベストマッチョも2番手に取り付いたが、1コーナー入口で、外から内へ入ってきたロンドンに前をカットされる形で若干失速し結果的に3番手となった。大外枠が奏功してスムーズにコーナーに入れたローウェルが難なく2番手に浮上して2コーナーへ。

4番手外にイナズマテーラー、内にオヌシナニモノ。さらに中団にイモータルスモーク。好発のウインドケーヴとトリニティノットは位置が取れず、ヒメツルイチモンジは中団の後ろ。エコロクラージュが後方3番手で、最後方でケンジーフェイスとハナブサが並んだ。

馬群全長10馬身弱、12頭が比較的固まったまま向正面へと出ていく。

ペースが緩むことなく流れる中、イモータルスモークが早くも中団から外を通って3番手に進出。残り400mでは逃げるロンドンテソーロを早くもローウェル抜いていく。4、5番手ではベストマッチョとイナズマテーラーもしぶとく食い下がり、そこから3馬身差ができてヒメツルイチモンジ。その真後ろでじっくり構えていたエコロクラージュの小牧太騎手は400m標識過ぎからアクションを起こす。その外からハナブサが上昇し、最後の直線へ。

イモータルスモークとローウェルの先頭争いから、イモータルが抜け出した残り150m。苦しくなったローウェルの内からベストマッチョが差し込み、間からはヒメツルイチモンジ、大外からハナブサも良い脚を見せる。しかし伸びが秀逸だったのはエコロクラージュ。勝ちパターンに思えたイモータルスモークをゴール寸前で差し切ってゴールイン。その差はクビ、まさに計ったような差し切り勝ちだった。
2着イモータルスモークから1馬身半後方の3着争いはハナ差の大接戦。人気薄の地元馬2頭の争いは、最後方追走から大外を良く伸びたハナブサが届いていた。ヒメツルイチモンジは牡馬相手に健闘の4着。
人気上位の遠征馬たちは最後の直線で伸びあぐね、5着ローウェル、6着ベストマッチョ、7着オヌシナニモノという結果に終わった。

地元馬の勝利は、2020年のエイシンエンジョイが勝って以来4年ぶりとなった。

◆兵庫生え抜き馬のエコロクラージュは重賞3勝目。これで23戦16勝となった。約2年ぶりのタイトル奪取で、古馬となってからは初めて。

獲得タイトル

2022 園田オータムトロフィー、楠賞
2024 兵庫ゴールドカップ

◆小牧太騎手は重賞通算110勝目(地方76勝、中央34勝)。今年3月のネクストスター西日本以来、今年重賞2勝目。兵庫復帰からわずか2ヶ月で、復帰後初の重賞制覇を果たした。

◆保利良平厩舎は重賞通算8勝目。今年はタイガーインディで重賞3勝しており、それに続く今年4勝目となった。

◆小牧太騎手 優勝インタビュー◆
 (そのだけいば・ひめじけいば 公式YouTubeより)

JRAから兵庫に復帰して、わずか2ヶ月での重賞制覇となった小牧太騎手。

「計ったように勝って馬も強かったですね。今日はゲートも良かったです。ゲートを出たら馬を信用して乗ってきました。窮屈な馬混みのところでも全然へっちゃらで入っていくし、最後はまだ余力残しで勝ちました。全国でも通用する馬になる可能性がありますね」と勝利騎手インタビューでエコロクラージュを讃えた。

小牧騎手の腕もさすがだ。
「早目に先頭に立ったら遊ぶ癖があるので、その点を注意して乗らないと思いました」と話したように仕掛けどころが難しい馬。「手応えが良すぎて、引き抜くのに手間がかかりました」と抜群の感触を得ながら迎えた3コーナーでは外に出すことなくヒメツルイチモンジの真後ろでじっくりと追い出しのタイミングを待った。残り400m標識を過ぎたところからアクションを起こして馬を外へ誘導、直線の末脚を引き出しゴールできっちりクビ差だけ差し切った。

思えば、前走の勝利も、直線で完全に抜け出さないようにスピードを調整しながら先頭に並び、残り100mだけ気合いをつけてきっちりアタマ差だけ先着するレースを見せていた。

エコロクラージュの個性を踏まえた上で、ゴールからの逆算でレースを組み立て、それをきっちりと体現して勝つのだからさすがという他ない。

「この重賞を勝てて、園田に帰ってきて良かったなという実感がすごく湧いています」と、笑みを浮かべた小牧騎手。ちなみに、ここまで保利良平厩舎とのコンビでは8勝と、一番多くの勝利を得ている。(2位 森澤厩舎6勝、3位 飯田厩舎・松平厩舎5勝) 「小牧さんはうちの攻め馬を率先して手伝ってくれています」と保利良平調教師も大きな信頼を寄せている。

「ゆくゆくはJRAの中央馬たちを蹴散らすような馬と巡り合えたら最高ですね」と話すと、ウイナーズサークルに集まったファンから「おお~」とどよめきが起こった。

2ヶ月前の復帰セレモニーでも語った「JRAのG1に勝てるような馬を園田から出したい、中央を見返してやりたい」の強い思いは、変わらずに滾り続けている。

エコロクラージュとの勝利は、その夢への第一歩だ。

総評

「我が強すぎて“園田のゴールドシップ”やね」と、エコロクラージュのキャラクターを説明するのに保利師は往年の名馬を引き合いに出した。
レースで絶対的な強さを持っているが気難しさもあって、能力が出せるかどうかは常に自分との戦いだ。

近走は目立っていたスタートの出遅れも「小牧さんがこの中間でゲート練習を入念にしっかりやってくれた」ことで今回は解消された。
「追い切りもすごく良かったので、ゲートを普通に出てくれたら流れに乗って良いレースができる」という自信が保利師にはあった。
「ゲートは思ったよりも出て位置を取りに行ったけど周りが速くてあの位置(後方3番手)になった。でも気分良く走ればこれくらいのパフォーマンスができる。弟のゴールドボンドも短いところを走っているし、今は1230mや1400mがベスト。今日はすごく嬉しかった」とホッとした表情を浮かべた。
元々デビューから6連勝で園田オータムトロフィーを勝利し、全国交流の楠賞を勝ったほどの馬。3歳時から溢れんばかりの能力を感じていたが、4歳の1年間は5勝したものの条件戦でのレースに明け暮れ、A1まで上がることはできなかった。5歳の今年はB1から再出発。前走の勝利で遂にA1に昇級し、2年ぶりの重賞制覇に繋げた。

「攻め馬でも気分が乗らなかったら勝手にやめたりゲート難が出たり、本当に難しい。この1年本当に長かった。ただずっと『この馬は走る』という思いしかなかったです」と保利師は愛馬の力を再確認し、安堵の表情を浮かべた。

次走について、今年は園田金盃ではなく、12/25の兵庫ゴールドトロフィー(Jpn3 園田1400m)に登録予定。12/12の笠松グランプリ(笠松1400m)も視野に入れる。


今年は先月までに13度の交流戦(ダートクレードは除く)があったが、地元馬はわずか3勝と特に苦戦が続いていた。
白鷺賞と六甲盃を勝ったラッキードリームは大井へ移籍し、兵庫ウインターカップを勝ったタイガーインディは佐賀のサマーチャンピオン(Jpn3)3着後に故障で引退。
今年の交流戦ウイナー2頭が兵庫を去った後に、他地区と戦える馬が出現したことは大変喜ばしいことだ。しかも、タイガーインディと同じ保利良平厩舎所属。先輩から看板馬のバトンを引き継いだ形となった。

兵庫生え抜きの怪物候補が覚醒した。難しい気性の持ち主だけに自分との戦いはこれからも続くが、さらなる成長を遂げて全国の舞台へ。タイガーインディを超える活躍に期待したい。


 文:三宅きみひと
写真:齋藤寿一  

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