2025 兵庫優駿 レポート
2025年06月26日(木)
全国的なダート競走の体系整備に伴って、昨年から名称が「兵庫ダービー」から「兵庫優駿」と変更された兵庫クラシック三冠第2戦。新たな歴史を刻んで2年目となる3歳世代最強決定戦だが、今年はここまで6戦負けなし、異次元の強さを見せるオケマルの一強ムードとなった。
未対戦となるエイシンハリアー以外とは、勝負づけが済んだ感もあるが、これまで後塵を拝したライバルたちも遠征競馬で善戦するなど力を付けてきた。
そして何より“絶対はない”と言われるのが競馬の世界。果たして大方の予想通り、オケマルが順当に二冠を達成するのか、それともライバルたちの逆襲があるのか。
晴れの舞台に選ばれし12頭が世代最高のタイトルをかけて激突した。

1番人気は、単勝1.0倍の元返し、圧倒的な支持を集めたオケマル。
ここまでデビューから6戦全勝、重賞は4連勝中と、この世代不動の王者に君臨し続けている。着差がわずかだったのはデビュー戦と、道中馬群の中で苦しい競馬を強いられたネクストスター園田くらいで、暮れのジュニアカップからは毎レース7馬身差以上をつけるワンサイドゲームを披露。特に前走の菊水賞はノーステッキで2着に8馬身差をつける圧巻の内容だった。レース後は外厩施設で調整し、帰厩後も順調とのこと。唯一の懸念点だった馬群で包まれる可能性についても、5枠6番を引いたことで陣営は払拭されたとみる。無敗の二冠達成に曇りなし。
2番人気は、単勝12.7倍でベラジオドリーム。オケマルとは随分オッズに差ができたが、
門別から転入後、最初の重賞挑戦となった兵庫若駒賞以来、重賞は3戦連続で3着内と堅実さを見せる。前走笠松のぎふ清流カップでは勝ち馬と差のない2着と遠征先でも奮闘を見せた。その前走の1400m、あるいはさらに短いところの方が「適距離かな」と小牧太騎手は話すが、中距離でも実績十分、中1週でも順調に調整できたようだ。
門別在籍時を含めてここまで重賞では2着が最高で都合5回。最強のライバルを破り、今度こそ無冠返上を狙う。
3番人気は、単勝24.0倍でキミノハート。
元々大崩れはしない馬だったが、休養を挟んでからは馬が一変、気性面の成長が窺え、直近2戦で逃げ切り連勝と完全に軌道に乗った。その前走は他地区交流の西日本クラシック。道中絡まれる場面もありながら、直線でも後続の追い上げを振り切り見事勝利。地元や笠松の牡馬を蹴散らした。吉見厩舎は開業3年目にして嬉しい重賞初制覇。レース後は牧場先で休養と調整がなされ、予定通りの10日前入厩。追い切りも良い動きだったということで、前走同様に好気配でレースに挑む。自在性があるとはいえ、最内枠を引き当てたことで、今回も逃げの手に出るか。
そして前走兵庫優駿トライアルを完勝したセッティングサンが4番人気(単勝31.6倍)で続いた。今回の鞍上がここ2週間で東北優駿、石川優駿など重賞5勝を挙げている吉原寛人騎手(金沢)というのも注目だ。兵庫ユースカップの勝ち馬エイシンハリアーがそれに続く5番人気(35.3倍)、メンバー中、唯一オケマルと未対戦の馬だ。今回未知の相手、距離を乗り越え、栄光を掴めるか。
尚、キングスピカは笹田知宏騎手が疾病のため、急遽井上幹太騎手に騎乗変更。
井上騎手は2022年にニフティスマイル(2着)に騎乗して以来、2度目の兵庫優駿(兵庫ダービー)参戦となった。
出走馬












レース














ゴールイン
この日は午前中にまとまった雨が降った影響で馬場状態は「重」でスタート。天候も曇りでどんよりとした中での開催だったが、後半に入ると天気も回復。馬場こそ「重」の表記のままだったが、メインの兵庫優駿は青空の下、行われた。場内から大きな拍手が送られ、スタート切る。
注目のオケマルはやや後手を踏んで後方からのスタート。一方先行争いは好発のラピドフィオーレを交わして、ベラジオドリームが前へ。するとすぐさま最内からキミノハートがこれらを制してハナに立つ。この間にオケマルも二の脚で前へと上がり、好位3番手の外に付けていった。
あとは内からタンバブショウが今日は前付けする形で4番手、直後にエイシンハリアー、ラピドフィオーレが続き、ジーニアスレノンとキングスピカ、イザグリーンライトが中団、後方にかけてチョッパスニーとセッティングサンが追走し、最後方にフセノオーロラが構える展開で正面スタンド前へ。
隊列は切れ目なく、先頭から最後方まで12、3馬身程度。今日も逃げて落ち着いた流れに持ち込むキミノハート。2番手ベラジオドリーム、3番手オケマル、4番手にややかかり加減でタンバブショウが続く。後続もほぼ馬順変わらぬまま、大きな動きなく向正面へと入る。
するとようやくここでレースが動く。スローな流れを見て3番手のオケマルが前を突きながら上昇すると、これに呼応するようにベラジオドリームもギアを上げて一旦先頭へ。しかしそれも束の間、3コーナー手前で早くもオケマルが抜き去り先頭に変わった。
キミノハートは3番手に後退するも、なんとか2番手には食い下がる。4番手以下はタンバブショウが早々に下がると、エイシンハリアー、ラピドフィオーレが代わって追い上げ、残り400m。
先頭を奪ったオケマルがリード2馬身、3馬身と後続を離し始めると、場内からは早くも拍手と歓声が起こり、ボルテージは最高潮に。
直線に向き、さらにリードを広げるオケマル。粘りを見せ、再び2番手に上がってきたキミノハート、さらにそれを追って、3番手からまた盛り返すベラジオドリーム。4番手以下、ジーニアスレノンらは思いのほか差を詰められない。
残り100mでは5、6馬身ちぎって独走を決め込むオケマル、そして最後は流してゴールイン。2着は差し返したベラジオドリーム、3着は逃げたキミノハートと、馬順は入れ替わったが結局前に行った3頭での決着となった。
今日も同世代を圧倒したオケマル、これで無敗の二冠達成。“競馬に絶対がある”ことを証明してみせた。
ちなみにこのレースでは第26回にして初めて単勝配当が100円元返しとなった。

◆オケマルはこれで7戦全勝、重賞5連勝。菊水賞に続く、兵庫クラシック制覇となり、サラブレッド導入後では史上初の無敗の二冠馬となった。
無敗での兵庫優駿(兵庫ダービー)制覇は2011年のオオエライジン以来2頭目。
今秋10月の園田オータムトロフィーを制すれば、2001年のロードバクシン以来、24年ぶりの兵庫三冠達成となる。
獲得タイトル
2024 ネクストスター園田、園田ジュニアカップ
2025 兵庫若駒賞、菊水賞、兵庫優駿


◆下原理騎手は重賞通算98勝目。菊水賞に続いて今年の重賞4勝目。
兵庫優駿(兵庫ダービー)は2006年のチャンストウライ、2009年のカラテチョップに続いて、16年ぶり3度目の制覇。節目の重賞100勝まであと2勝と迫った。
◆盛本信春厩舎は重賞通算14勝目。こちらも菊水賞に続く重賞Vで、今年の重賞3勝目(全てオケマルでの勝利)。2009年厩舎開業、17年目で兵庫優駿初制覇となった。
◆下原理騎手 優勝インタビュー◆
(そのだけいば・ひめじけいば 公式YouTubeより)

今日も圧倒的な支持を受け、そして圧倒的な走りでそれに応えたオケマル。
勝利に導いた下原騎手は「強いのは分かってたんですけど、枠順が出るまではちょっと安心はできなかったです」と、締まった表情を崩さず話し始めた。
その気になる枠が5枠6番になったときの心境について、「正直ガッツポーズして喜んでました。真ん中(の枠)が僕はダービーは乗りやすいと思っているので」と、ここでようやく顔がほころんだ。
スタートでは後手を踏んだが、すぐさまリカバリーして好位3番手外に付けられた。
陣営がレース前に述べていた唯一の不安点、馬ごみの中で競馬を強いられる形はこの時点で回避できた。

「行きたい馬が内の方にいると思っていたんでその様子を見ながら乗ろうと思っていました」
キミノハート、ベラジオドリームを視界に入れながら揉まれず運べる絶好位。ペースは上がらず淡々と流れて向正面に入った。このあたりで自ら仕掛ける形になったが。
「道中は安心して乗っている感じでした。ペースが思った以上に遅かったんで早めに動いても大丈夫と思って乗っていました」
もう3コーナー手前で、キミノハート、ベラジオドリームを抜き去って早めに先頭に立ったオケマル。

「この馬はソラを使わないところが強みなので。もう後ろもあのペースだったら追いつけないと思って乗っていました」と、この馬の特性と、レースの流れを読んでの早めの進出、ベテランの落ち着いた騎乗が光った。
そこから先はいつものように独走、今回も菊水賞と同様に2着に8馬身差をつける圧勝劇であったが、意外にも手応え的には思うほどではなかった模様。
「今日は正直暑さもあるんでしょうけど、ちょっと最後はバテてましたけど、それでも8馬身差は強いと思います」と、あのパフォーマンスでも本調子ではなかったことを明かした。
「スタッフの方もオーナーさんもしっかり気を上げていただいて、しっかりリフレッシュできて、(外厩施設から帰厩後は)かなり重めに感じたんですけど、それをマイナス体重(ー3キロ)までもっていかれてたんですごい仕上げだったと思っています」

「僕も調教に乗った感じではまだまだ速いところ、一杯(に追っての調教)もいったことがないので、まだまだ上を目指せると思います」と、今後の伸びしろについても語ってくれた。
体質面がしっかりしていないということで、まだそれほどビシビシ鍛えられないんだと、盛本調教師も話していたが、それでこの強さなのだから全く末恐ろしい。
何が起こるか分からぬ競馬の世界において、“勝って当然”というムードを跳ね除けての兵庫優駿制覇には「慣れました(笑)。ジュニアカップが1番緊張しましたね」と笑って答えた。大ベテランでさえも緊張するほどの特別な存在。ただこれまで受け続けたそうした大きな重圧がこの大舞台でも動じないメンタルを作り上げた。
「いずれはグレードレースにも挑戦できるような馬になってくれたら」と、今後の期待に目を細める。

今回の勝利が自身の重賞通算100勝にあと2勝と迫る98勝目となったが、当の本人は「あ、そうでした。忘れてました。(今日の勝利が)嬉しくて」と、この一戦に集中していたことが伺える。三冠レースの最終戦、10月の園田オータムトロフィーで100勝達成なんてことが起これば、どんなにドラマティックだろうか。
その三冠に向けては、「絶対に負けられないという気持ちでスタッフの方と一緒に頑張っていきたいと思います」と、最後は静かに決意を口にした。
「パドックでも(オケマルのファンの方が)最前列に並んでいただいて、ゴールに入るときもすごい声援が聞こえてたんで」と、レース中、またその前後まで多くのファンの熱を肌で感じていたようだった。
インタビュー前、関係者一同で決めた恒例のオケマルポーズも印象的だった。

総評


「いやー嬉しいですね。今回はレース前にオケマルの特集をYouTubeで挙げてもらったり、いろいろプレッシャーもかかったりしていたので嬉しかったです」と、その言葉からは自身がこのタイトルを取れたことよりも、オケマルを勝たせることができた喜びの方が大きかったのだと伝わってくる。実際メディアへの露出も増えてきて、ただ強い馬ではなく、スター的存在になりつつあるが、そのあたり「そのプレッシャーが今回強かったですよね(苦笑)」と本音を吐露した。
戦前には勝つ確率は「99%です」と宣言し、ファンや周囲を沸かせたが、オーナーからは「なんで100%って言わないんだ」と突っ込まれたそう。
そんなオーナーとのご縁で、この日はJRAの武藤善則調教師と尾形和幸調教師も美浦から駆けつけた。「ジュニアカップのときも来てくれて。(高橋文男)オーナーとのつながりで。僕もオーナーにはすごく良くしてもらっているんで応援に来てくれましたね」。
夏場の弱さを考慮して、このあとはゆっくり休養に入るというオケマル。この後は無敗の三冠を目指して、10月9日の兵庫クラシック最終戦、園田オータムトロフィーに直行で挑む予定だ。
アラブの時代まで遡れば、アサヒマロツト、ケイエスヨシゼンらが、そしてサラブレッド導入後は2001年に達成したロードバクシンが三冠馬として名を連ねる。
それ以来24年ぶりの快挙となるか、しかも兵庫ではこれまでなかったであろう初の“無敗の三冠”となるだけに胸は高鳴る。
さらに三冠を取った後は、「もちろん園田金盃も視野に入れて、そして関東へ、JRA勢にも挑戦したいなと思っています」という盛本師の言葉もあり、夢は広がるばかりだ。
すでに“兵庫の怪物”とも呼ばれはじめているが、その異名には似つかわしくない名前と愛らしさのオケマル。
兵庫の“宝”、“スター”としてこの後も我々が見たことのない景色を見せてもらいたい。
文:木村寿伸
写真:齋藤寿一