2025 兵庫サマークイーン賞 レポート

2025年07月11日(金)

今年最初のナイター重賞として行われた3歳以上の牝馬限定戦、グランダムジャパン古馬秋シーズンの第2戦「兵庫サマークイーン賞」。
高知から遠征予定だった昨年の2着馬アンティキティラが取り消して遠征馬は4頭。地元馬7頭を加えた11頭で争われた。

1番人気は、単勝1.7倍という圧倒的支持を集めたヴィーリヤ。
兵庫転入後、すべて1400m戦で逃げ切り勝ちを収めて破竹の6連勝中。スピードの違いで主導権を奪い、後続を寄せつけないレースばかり。特に前走は序盤から競りかけられて、3番手以下を大きく離す展開になりながらも、余裕の手応えで逃げ切った。6/26は出走取消となったが、結果的にこれが転機となりB1からの格上挑戦での重賞参戦が実現。今回は兵庫で初の1700mという未知の距離への挑戦ともなる。

2番人気は、ラヴィアン(単勝4.1倍)。
1月に重賞初挑戦となったコウノトリ賞で優勝。グランダムジャパン春シーズンの戦いに挑み、高知から名古屋へと転戦して、3着、5着と健闘した。その疲れを取って3ヶ月ぶりに復帰した前走は3着に敗れたものの、+19kgと本番を見据えた余裕残しの体だった。近走は少しスタートに課題があるものの、叩き2戦目で上積みが見込める今回、ここで2つ目のタイトルを狙う。

3番人気は、単勝6.8倍でキガサ(大井)。
6歳ながら安定感ある走りが持ち味で、南関東の準重賞で好走するなど強豪相手にもたびたび馬券圏内を確保。勝ち切れない競馬が続いているが、地力は確か。各地の重賞で立て続けに勝利を挙げ、今週だけで既に重賞2勝という“優勝請負人”の吉原寛人騎手と初コンビで注目がさらに増した。今回も堅実な走りで上位進出を狙う。

さらに、ここまで重賞2着が3回あるプリムロゼが単勝6.9倍で4番人気。メランポジューム(船橋)が、単勝21.8倍と大きく開いた5番人気で続いた。

出走馬

1番 オモチチャン 永井孝典騎手
2番 ラヴィアン 廣瀬航騎手
3番 マルグリッド 小牧太騎手
4番 (船)メランポジューム 下原理騎手
5番 エントラップメント 鴨宮祥行騎手
6番 (大)グレースルビー (大)達城龍次騎手
7番 ヴィーリヤ 杉浦健太騎手
8番 (川)エレノーラ 長谷部駿弥騎手
9番 プリムロゼ (高)永森大智騎手
10番 メロディメーカー 山本咲希到騎手
11番 (大)キガサ (金)吉原寛人騎手

レース

スタート
1周目3~4コーナー
周目スタンド前
1周目スタンド前
1周目スタンド前
2周目向正面入口
向正面
3~4コーナー
最後の直線①
最後の直線②
最後の直線③
最後の直線

ゴールイン

6月中に梅雨が明けるという異例の気象に見舞われた今年の夏。7月に入ると連日の猛暑が続き、この日も最高気温は35℃を超える厳しい暑さとなった。
レース当週も、競馬場周辺では断続的にゲリラ豪雨が発生していたが、前々日、前日はほとんど降ることなく回避できていた。
しかし迎えた金曜日は、7R頃から突然の雷雨に見舞われ、馬場状態はわずか30分で「良」から「不良」へと急変。1時間ほど降り続いた雨は、まさにバケツをひっくり返したような豪雨だった。
それでも、夜の帳が降りたメインレースの発走時刻には雨も一旦収まり、兵庫の夏の風物詩とも言える“ナイター重賞”が、場内に響く拍手とともに、にぎやかに幕を開けた。

スタートでやや後手を踏んだのはラヴィアン、メランポジューム、キガサの3頭。それぞれ1馬身ほど出遅れた。
序盤から気合をつけられたプリムロゼがスッとハナを奪うと、ヴィーリヤは2番手に抑えた。オモチチャンはその直後3番手のインを確保し、その外にエレノーラ。中団でマルグリッドとエントラップメントが追走し、その後ろにメランポジューム。ラヴィアンとキガサは差しに構える展開で、グレースルビー、メロディーメーカーが後方追走となった。

馬群全長12馬身ほどで2コーナーから向正面へ。
向正面に入ったところから2番手のヴィーリヤの杉浦騎手が手を動かして、前のプリムロゼにプレッシャーをかけに行くと一気にペースアップ。3番手のオモチチャンが前2頭に食らいつくが、その後ろは3馬身ほど離されて3コーナーを迎えた。

3~4コーナー中間では、プリムロゼとヴィーリヤが完全に抜け出し、3番手のオモチチャンは5馬身離されてしまう。後方待機勢からはメランポジュームとラヴィアンが外を通って少しずつ順位を上げながら直線へ。

逃げるプリムロゼと2番手で追うヴィーリヤのマッチレースは、残り100mで決着。直線で末脚をしっかり伸ばしたヴィーリヤが4馬身リードを広げて優勝。兵庫移籍後無傷の7連勝で重賞初挑戦初制覇を果たした。
2着争いは3頭接戦。外からラヴィアンとメランポジュームが急追し、内で粘ったプリムロゼを2頭がほぼ同時に捉えかけたところがゴールだったが、僅かにプリムロゼが踏ん張って2着を確保。ハナ差でメランポジュームが3着、アタマ差でラヴィアンが4着と続いた。最後方から追い込んだメロディメーカーが5着。3番人気のキガサは勝負所での反応が鈍く、見せ場なく10着に敗れた。

B1からの格上挑戦で重賞初挑戦だったヴィーリヤが、7連勝で一気に夏の女王の座を射止めた。初の1700m、初めて2番手から進めた競馬での勝利で、収穫は大きかった。

◆ヴィーリヤはこれで9戦7勝、兵庫移籍後無傷の7連勝で重賞初制覇を果たした。同レースは5年ぶりに地元馬が優勝を果たした。

獲得タイトル

2025 兵庫サマークイーン賞

◆杉浦健太騎手は、地方重賞通算18勝目。門別のスペシャルエックスに騎乗して優勝した1月の兵庫ウインターカップに続き、今年重賞2勝目。兵庫サマークイーン賞は初制覇。

◆田中一巧厩舎は重賞通算6勝目。過去5勝は他地区での勝利(笠松4勝、高知1勝)、今回が地元重賞初制覇となった。

◆杉浦健太騎手 優勝インタビュー◆
 (そのだけいば・ひめじけいば 公式YouTubeより)

「こんな強い馬に出会えて、本当に幸せです!」と杉浦健太騎手は笑顔でインタビューに答えた。

「1700mが初めてだったんで逃げにこだわらず、折り合いだけ気をつけていけば大丈夫かなと思っていました。初めてでちょっと戸惑ってた部分もあったんですけど、それを考慮しても、しっかり走ってくれたと思います」

1周目の4コーナーで少し首を上げるシーンはあったが、「もうスタンド前ではしっかり折り合ってくれたんで良かったです。このままこの馬のペースで行けば大丈夫」と馬を信頼し、自信を持って乗っていた。

道中は、自分のお手馬でもあるプリムロゼが目の前で軽快に逃げていた。

「プリムロゼは、逃げたらしぶといというイメージだったんで、そこはちょっと注意して早めに動かしに行く感じで勝負しに行きました。最後までしっかり脚を使って伸びていましたし、(自分が乗っていた馬には)負けたくないなと思ってたんで本当に良かったです。(不良馬場も)気にすることなく、強いパフォーマンスで走ってくれました。すごく真面目で一生懸命走ってくれるところが強みかなと思います」とヴィーリヤを称賛した。

「1700mも克服できましたし、これからもっとレースの幅も広がってさらに楽しみが増えた」とさらなる飛躍に期待を込めた。

ちなみに、ヴィーリヤの生産者は上村勇人(うえむらはやと)さん。上村さんは、2008年から2011年にかけて兵庫に在籍した元騎手で、大柿一真騎手と同期。騎手を引退したあと、ノーザンファームやJRAを経て、現在は北海道浦河町でサラブレッドの生産と育成を手がける牧場を経営している。
2021年に生産部門を開設してから4年、ついに上村さんにとって嬉しい重賞初制覇の瞬間ともなった。

田中一巧師は、「出たなぁ!勇人のとこから重賞馬が!」と言葉を交わし、喜び合った。

総評

レースの2日前に軽いアクシデントがあったというヴィーリヤ。管理する田中一巧師は、「自分で乗って歩様も確認して問題なかったので、出走に踏み切りました。その分でちょっと不安はあったんですけど、ホッとしました」と安堵の表情を見せた。
直前に降った雨で馬場が一気に悪化したが、「パワーもスピードも持ってる馬なので、そこはそんなに気にならなかったです。自信はありました」と馬の能力に疑いはなかった。
兵庫での6連勝はいずれも逃げ切りだったが、戦前のインタビューでも「逃げにこだわるタイプではなく、スピードの違いで逃げているだけ」と答えていた。
今回については、「逃げても良かったんですけど、自分のペースを乱してまで逃げる必要はないと思っていました。杉浦には“他がしつこく来るようなら、さっと2番手に控えていい。その代わりそこから自分のペースで行こう”と伝えていたんです」と作戦を練っていたという。
1周目の3~4コーナーでいつものように首を少し上げるシーンがあったが、それについては「ハミ受けに少しわがままなところがあってハマりが悪く、収めようとすると反抗するんです。別にかかっているわけではないんですよ」と、体力を消耗するような状態ではなかったという。

「初めての距離にちょっと戸惑ってたのか、外2番手でちょっと行きっぷりもマシだったような気もします。この先の遠征を考えれば、いい経験ができたんじゃないかな。勝利を確信したのは直線半ば。追われたことがなかったんで、追ってからどうかと思っていましたが、初距離でもこの暑い中しっかり頑張ってくれました。前走あれだけ競られても結局追わずに勝つっていう確信的な強さでしたから…本物でしたね!」と、その能力を絶賛した。

今後については、「ここ数日の状態見てから決めます。暑さが結構厳しいんで、遠征も難しいですしね。あんまり無理しても仕方ない。来年にしっかり結果残したいなと思ってるんで、馬に疲れが残っていたらやめるという判断になると思います」とグランダムシリーズを続戦するより、休養に向かって今後に備える可能性の方が高そうだ。


勝利の裏にあったもう一つものドラマも紹介しよう。

ヴィーリヤの馬主である菊池靖二氏は、故・菊池五郎氏の跡を継いだ息子である。
「社長も、社長の奥さんもすごく厳しい方でしたけど、開業してから本当にかわいがってもらいました」
田中一巧師の声には、深い感謝がにじんでいた。

その関係性を築く転機となったのが、キクノグロウという一頭の牝馬だった。
「僕の中で代表作の牝馬。社長にあれからすごく認めてもらえた。生きていてくれたら、もっと一緒に喜べたんですけど…」と、目を伏せる。

JRAから兵庫に移籍後、2年半で16勝もの勝ち星を挙げたキクノグロウの現役最後のレースが、奇しくも2021年の兵庫サマークイーン賞(7着)だった。
あれから丸4年。今度はヴィーリヤがその舞台で、オーナーの、指揮官の、夢を叶えた。

時は流れ、人の想いと馬の記憶は受け継がれる。そして、またひとつ、夏の夜に感動の物語が生まれた。


 文:三宅きみひと
写真:齋藤寿一  

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