騎手クローズアップ

YJS兵庫勢初制覇へ!決戦直前の2人に迫る

~塩津璃菜騎手・土方颯太騎手~

JRAと地方競馬の若手騎手(デビュー5年以下の見習騎手)が腕を競い合う、ヤングジョッキーズシリーズ(以下:YJS)。今年で9年目となる恒例のシリーズは、51名の騎手(地方競馬24名、JRA27名)が出場した。

8月6日(水)の門別競馬場を皮切りに各地でトライアルラウンドが行われ、最終決戦へ進む16名の騎手が決定した。前年に続きファイナルラウンドの舞台は園田競馬場(12月18日)、JRA中京競馬場(12月20日)の2場。王者を決める戦いが目前に迫っている。

兵庫勢は【地方競馬西日本】で2位に入った塩津璃菜騎手、3位の土方颯太騎手の2名がファイナルラウンドに出場する。大舞台へ挑む同期の二人に意気込みを伺った。

ファイナル初進出!塩津璃菜騎手

門別競馬場での期間限定騎乗(7月22日~11月13日)を終えて、兵庫に戻ってきた塩津璃菜騎手。修行期間中に行われた西日本地区のトライアルラウンドで好成績を収めて最終ステージへと進む。

「北海道から各地へ移動しながらの参戦で大変でした。門別競馬場から千歳空港は車で1時間ぐらいかかりましたね。飛行機の時間ギリギリに到着して大急ぎで搭乗手続きをした事もありましたよ。その中でファイナルへ行けたことは嬉しいです」

早朝からの調教に長距離移動、そしてレースと心身ともに負担の大きいスケジュールでその結果を残したのだから立派なものだ。

まずはそのトライアルラウンドについて振り返っていただいた。最初の騎乗となったのが9月23日の高知ラウンド。高知競馬場初騎乗となる塩津騎手は深くて重い特有の馬場に挑んだ。

「高知競馬場は初めてでどんな馬場か分からなかったのですが、乗りやすい馬場で気楽に乗ろうと思っていましたよ。どちらも人気が無いのは分かっていたので、気分良く走らせることを意識しました」

一戦目は単勝11番人気、二戦目は10番人気の馬に跨ったが4、4着にまとめ、二戦合計で24ポイントを獲得。幸先のいいスタートを切った。

「初戦は馬券圏内まであと一歩でしたね。4コーナー付近で前が詰まったのが痛かったですが、馬がもうひと伸びをみせてくれました。二戦目は逃げ馬を追いかける2番手追走でしたが道中から手応えが怪しくなりましたね。反省点もあって悔しさも残りますが、二戦とも4着でまとめられて良かったです」と、振り返る。

評価の低い馬に騎乗した時にうまく着順をまとめて得点を加算する要素がジョッキーレースには求められる。塩津騎手は高知ラウンドでの善戦がファイナル進出に繋がったといっても過言ではないだろう。

次戦は10月16日に行われた地元の園田ラウンド。一戦目は8着に敗れたが、二戦目は1番人気(単勝1.8倍)のべラジオガルフに跨った。中団追走から徐々にポジションを上げ、4コーナーで先頭に立つと土方騎手騎乗のアタリマエの追い上げを封じて勝利した。

「園田は二戦目は人気馬だったので緊張していましたよ。『坂本先生からは3コーナーに入る前から早めに仕掛けてしっかり追ってくれ』と、言われていました。序盤は内で詰まりましたけど、向正面で空いたスペースを抜けていけましたね。直線は外から馬が来ていましたけど、気にせず必死に追いました。馬が頑張ってくれましたね」

園田ラウンドを終えた時点でポイントを「58」まで伸ばし、【地方競馬西日本】の2位に浮上した。

最後の金沢ラウンドでは得点を伸ばすことができず、58ポイントのままトライアルラウンドを終了。最終決戦への進出は笠松ラウンド(西日本地区最終戦)の結果次第となったが、下位からの逆転劇はなくファイナルの切符を獲得した。

「同期の土方騎手に得点で並ばれましたけど、順位は上だったので良かったですね。松本一心騎手(笠松)は大きく抜け出していたので、他の騎手に抜かれないようにと思っていました」と、ホッとした表情だった。

修行と並行しながら戦い抜いたトライアルラウンド。この経験は間違いなく今後にも繋がるし、自信にもなることだろう。

塩津騎手は齊藤正弘厩舎の所属で7月22日から門別競馬場での期間限定騎乗を開始。当初は10月9日までの予定だったが、門別の最終週(~11月13日)まで期間を延ばして腕を磨いた。

「調教では2歳馬や気難しい馬に乗る機会が多くて大変でしたね。前進気勢の強い馬が多くて抑えるのに苦労しました。レース実戦が豊富な古馬も元気一杯。調教で何度か落とされたりしましたよ。所属厩舎の調教は休み明けだけコースで乗って、それ以外は坂路中心で行っていました。それ以外の時間は他の厩舎の馬に乗っていました」

気の強い馬、前進気勢の強い馬に苦労しながらも関係者へのアピールを続けた。門別競馬はワンターンの1000m~1200mの競走が多く組まれ速力のある馬が揃う。逃げ、先行タイプの馬に塩津騎手の減量特典(★4キロ減)が加わればかなりのアドバンテージとなる。

「齊藤先生からは『減量を活かしてなるべく前で競馬をして、上がりの脚をどこまで引き出すか』を言われていました。意識してやっていたが、中々うまくいかなかったですね」

その強みを活かそうと意識はするが、そう易々と理想通りの競馬をさせてもらえるわけではない。門別のスピード競馬に四苦八苦しながらも8月6日の門別3Rで期間限定初勝利をマーク。勢いそのままに同日の門別8Rでも勝って自身初の1日2勝を挙げた。

「初めての1日2勝は1頭が人気馬でした。緊張しましたが馬の力を信じて乗りましたよ。もう1頭は中穴人気だったので気楽に臨めました。後続の馬の動向を気にしながら逃げて最後までよく粘っていたし、後ろから来る気配がなくて行けると思いました」

11月5日にも2勝を挙げてマルチ勝利を記録。どちらも単勝6番人気馬で高配当を提供した。

「減量特典も活きて先手を主張できたのも大きかったです。外にヨレるところもありましたが、馬が頑張ってくれて後ろの追い上げを封じてくれました」

師からの言葉を意識し続けた成果が表れた1日2勝だった。今後もこの積極的な姿勢を続けていけば、さらに勝ち鞍を伸ばしていけるはずだ。

門別での勝ち鞍は5勝止まりだったが、人気薄での好走もあって数字以上の存在感を示していた。修行期間で得たものは多かったという。

「門別は2歳馬が多くて跨る回数も多かったので、若さを出す馬の扱い方など技術面を学ぶことができましたね。石川倭さんとの追い比べを制して勝てたのも嬉しかったし、成長を感じるところもありました」

ホッカイドウ競馬で学んだこと、身につけた事を発揮する舞台が直前に迫っている。ファイナルでの活躍する姿をみせることが関係者への恩返しとなるはずだ。

「非開催日も含めて関係者の皆さんには凄くお世話になりましたね。離れる時は『YJSのファイナルで頑張ってこいよ』と、声をかけていただきました。兵庫と門別の看板を背負って本戦に臨みたいです」

今年は【JRA東日本】2位の谷原柚希騎手、【JRA西日本】3位の古川奈穂騎手、【地方競馬東日本】2位の川崎・神尾香澄騎手もファイナルラウンドへ名を連ね、合計4名の女性騎手が出場する。

「古川奈穂騎手(JRA)、谷原騎手(JRA)は競馬場で会ったときに『ファイナルで会おう』と約束していたので実現できて嬉しい。女性ジョッキーの中で一番良い順位が取れたらいいですね」と、嬉しそうに語っていたが、あらためて目標を伺うと間髪入れずに「目標はもちろん優勝です!最低でも表彰台(3位以内)には入れるように頑張っていきたいです」と、力強く答えてくれた。

「中央の馬はスピードもパワーも違うと思うので、門別で経験したことを思い出して頑張りますよ」

人懐っこい性格で関係者からも愛される塩津騎手。ただ、レースになると優しそうな表情が勝負師の顔へと切り替わる。北海道での経験を糧に晴れ舞台で躍動する姿を楽しみにしている。

2年連続のファイナル!土方颯太騎手

12月11日終了時点で、地方通算95勝と節目メモリアルまでカウントダウンに入った2年目の土方颯太騎手。兵庫リーディング9位につけている若手有望株が2年連続でファイナルへと駒を進めた。

「トライアルラウンドの勝利はありませんでしたが、前回よりも着順をまとめながら乗れたので良かったと思います。ペースが流れたら流れたで良いポジションにつけられたのも要因ですかね」と、2年目の18歳とは思えないぐらい落ち着いた様子で予選を振り返った。

1年前にファイナルを経験した分だけ気持ちの余裕があるのかもしれない。YJSのレポート動画での受け答えも冷静に今の状況を判断しているようにも見えた。

「あの舞台を経験できたのは大きいですね。今年は一人あたりの騎乗鞍が増えたのもありますが、得点状況や馬の状態などを気にしながら乗れました」と、振り返る。

前述の塩津騎手と同様に高知ラウンドから騎乗を開始した。一戦目は10着と奮わなかったが、二戦目は人気馬の騎乗で最内枠から果敢にハナを主張してレースを牽引した。

「高知の二戦目は内を狙ってくる馬に注意しながら良い雰囲気で逃げられました」

深い内を避けながら絶妙なペースで逃げたが、楽をさせまいと後続馬の追い上げも早い。リードがみるみるうちに無くなった。

「勝負どころで外から並ばれる厳しい競馬でしたね。勝ち馬の決め手には屈しましたが、リズムを崩されながらもよく粘ってくれました」

ゴール手前で勝った馬には捕まったが、最後まで粘りをみせて2着は確保。20ポイントを加算した。

続く園田ラウンドも一戦目で大敗(11着)を喫したが、アタリマエとコンビを組んだ次戦で巻き返しをみせる。人気を分け合った塩津騎手(べラジオガルフ)を意識しながらの競馬で最後は2頭の争いとなる。直線で突き放されたが2着で20ポイントをゲットした。

「園田の二戦目は塩津騎手の馬(べラジオガルフ)が強いのは分かっていたので、序盤は外につけてマークしていました。勝負どころもその馬について行ってくれて頑張ってくれました」

園田ラウンドを終えた時点で4戦合計で42ポイント。ファイナル進出圏内の4位で笠松ラウンドを残すのみとなった。岐阜県出身の土方騎手にとってより一層気合いの入るラウンドだ。

「最後は地元の笠松ラウンドだったので、なるべく良い結果を残したかったですね。勝てませんでしたけど、着順をまとめられたのかなという印象でした」

笠松の騎乗馬は単勝5番人気、7番人気の2頭で厳しい戦いを強いられた。それでも5着(10ポイント)、6着(8ポイント)にまとめて得点の上積みに成功。上位の得点を得た4競走分の合計点を58ポイントに伸ばし、【地方競馬西日本】3位(※)でファイナル出場を決めた。

※塩津騎手と同ポイントも着順差で3位

ジョッキーレースは定量戦。騎乗馬の能力差はあるものの鞍上の手腕、判断力が問われる。軽斤量のアドバンテージを活かして乗ってきた若手にとっては試練の戦いだ。

「負担重量の変更や減量のアドバンテージが少なくなったこともあって、馬の進みが悪くなったなと感じましたね。慣れるのには時間を要しましたが、この苦労が定量戦のYJSに繋がりましたね」

土方騎手は今年の2月13日に減量変更(△2kg→☆1kg)となる地方通算51勝目を挙げた。トライアルラウンドの前にどの騎手も一度は必ずぶち当たる壁と向き合ったことで、新たな気付きや対策を考える時間があったのも大きい。

「馬のエンジンのかけ方、動くタイミングがワンテンポ遅くなるときがあるので、折り合いに気を付けつつ、少し早めに仕掛けるようにしています。園田は前の方に行かないと苦しいというイメージがあります。展開にも左右されるコースなので難しい場ですね」

騎乗馬の特性を活かしながら小回りコースの園田をどう攻略するのか?さらに百戦錬磨の名手達相手にどういった戦略を立てるのか?毎週行われるレースで良い結果を残すためには試行錯誤が必要となる。

負傷離脱があった1年目は年間35勝で終えたが、今年はここまで順調に勝利数を伸ばしてきた。気がつけば地方通算100勝までは残り5勝。減量騎手卒業まで残り6勝に迫っている。

「昨年は怪我で離脱する時期もありましたが、意外と長かったようで早かったですね。ここまでは順調にきているので、一つ一つ積み重ねながら年内にメモリアルを達成できたらと思っています」と、順調なら12月後半には地方通算100勝のインタビューが場内に響き渡るかもしれない。

「同期の新庄騎手が先に重賞を勝っているので、なるべく早く勝ちたい。僕はまだ重賞は2回しか乗っていないので、数多く乗れるジョッキーになりたいです。所属する高馬厩舎で重賞を獲りたいですね」

今年9月に笠松の第52回オータムカップ(サンライズホープ)で新庄海誠騎手が重賞初制覇を飾った。先に同期が重賞を勝たれた事については悔しさもあるが、まだこれから幾らでもチャンスは巡ってくることだろう。

「所属する高馬厩舎もキャリアハイを更新して良い流れなので、その勢いに乗っていきたい。自厩舎の馬で重賞を獲りたいですね。先生からは『折り合いのつけ方と積極性』を求められているので、意識しながら乗っていきたい」

高馬厩舎は12月11日終了時点で年間76勝で兵庫調教師リーディング5位につけている。昨年のキャリアハイ(55勝)を大きく更新して上位を賑わせている。勢いに乗っている師弟タッグが重賞の表彰台に並ぶ姿を見てみたいものだ。

現時点で33名の騎手が在籍する兵庫県競馬。大所帯の中で乗り鞍を確保するのは容易なことではない。兵庫に復帰して2年目の小牧太騎手、吉村智洋騎手、下原理騎手など名手が揃う中で競争をしていかなければならない。

「それぞれ騎乗スタイルは違いますけど1日に5つ、6つ勝つのが凄いですよね。馬の事がよく分かっているし、勝つためにはどういう乗り方、ポジション取りをするのか参考になりますね。上手い騎手が多いのでお手本がたくさんいます」

減量の恩恵があったとはいえ、2年目の騎手が強者揃いの兵庫で騎手リーディング9位にランクインしているのは立派なことだ。今後は中堅、ベテラン騎手と同じ負担重量で戦って勝ち鞍を積み上げていけるかがポイントになる。

「今年は10位以内には入れそうな感じですが継続していけるようにしたい。減量が無くなっても年間70~80勝できるように頑張っていきたいです。将来的な目標としては20年で2000勝という目標でやっていきたい」

ここ数年は活きの良い若手が次々と出現している兵庫。その中で勝ち抜いてトップの座を射止め、地方を代表するトップジョッキーへと成長していってほしい。

「前回のファイナルラウンドは人気の無い馬でも着を拾うというイメージで乗っていましたけど、今年は前の方で積極的に乗りたい」

昨年のファイナルラウンドは園田で勝利を挙げて好位置で中京へと乗り込んだが、得点を伸ばすことができず総合6位で大会を終えた。上位に食い込むためには思い切りの良さも必要となる。

「中京は外差しが決まりにくいようなので、なるべく内の枠が当たってくれたらなと思っています」と、経験を武器にシリーズ制覇へ突き進む。

2024年の大会は同期の望月洵輝騎手(名古屋)がファイナルラウンド中京二戦目でJRA初勝利を挙げて総合2位となった。すると、年明け早々に地方通算100勝、減量卒業を難なく決めると、6月には東海優駿で重賞初制覇を成し遂げた。12月11日終了時点で名古屋リーディング2位の年間220勝を挙げる大躍進をみせている。

「(中京で勝たれた時は)やられたな~と思いましたね。同期の存在はもちろん意識していますが、JRAで乗れる機会も限られるので、僕も与えられたチャンスで勝ちたいですね。家族も見にくる予定なので良いところを見せたい」

兵庫所属騎手のファイナルラウンド過去最高順位は松木大地騎手(2019年)、大山龍太郎騎手(2022年)の2位。兵庫勢初のYJS総合優勝への期待も高まる。

「進路取りの上手いJRAの高杉騎手など上手い人がいますけど、地元の園田で良い得点を取って中京に向かいたいです。出るからには優勝を目指して乗りたい。そのためには園田で良い着順を取って上位圏で中京に向かいたいです」

全国の競馬ファンに名前と顔を覚えてもらえる絶好の機会。兵庫の看板を背負って大暴れをしてきてほしい。

現在、競馬界の第一線で活躍中の坂井瑠星騎手(JRA)、横山武史騎手(JRA)、岩田望来騎手(JRA)、西村淳也騎手(JRA)、落合玄太騎手(北海道)、渡邊竜也騎手(笠松)も過去にYJSファイナルラウンドへ進んでいる。トップジョッキーへの登竜門的存在に成長したYJS。今年はどの騎手に勝利の女神が微笑むのか?新進気鋭の若手ジョッキー16名の戦いにご注目いただきたい。

文:鈴木セイヤ   
写真:斎藤寿一   

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