2023 兵庫クイーンカップ レポート
2023年10月27日(金)
西日本地区の牝馬限定重賞「兵庫クイーンカップ」は、今年1700mから1870mに距離が変更。
来年4月に「兵庫女王盃(Jpn3)」が誕生することから、来年1月には「コウノトリ賞」が1870mの古馬牝馬重賞として復活する。それに伴い、古馬牝馬の中距離路線整備による距離変更となった。
今年の兵庫ダービー馬で重賞4勝のスマイルミーシャが初の古馬重賞挑戦。7月の兵庫サマークイーン賞を快勝した重賞18勝“金沢の女傑”ハクサンアマゾネスも参戦し、二強ムードが漂っていた。
1番人気は地元兵庫のスマイルミーシャ。単勝1.6倍の支持を受けた。
ここまで9戦8勝(2着1回)とほぼパーフェクトな戦績を残してきた今年の兵庫ダービー馬。秋初戦の園田オータムトロフィーも本来の状態にない中で勝利して重賞4勝目を挙げた。地元兵庫の3歳最強馬の古馬重賞初挑戦に注目が集まった。
単勝2.3倍の2番人気は、金沢のハクサンアマゾネス。
33戦22勝で重賞18勝を誇る「金沢の女傑」。今夏、6歳にして初の長距離遠征、初のナイターレースとなった兵庫サマークイーン賞を快勝した。しかし、名古屋の秋桜賞は状態面が芳しくなくまさかのしんがり負け。
前走の地元戦できっちり立て直されて勝利し、夏秋クイーンの座を狙って再びの遠征となった。
このレースは去年2着で、今年のグランダムジャパン古馬シーズンで3位の好成績を残したアンティキティラが二強から大きく離れた3番人気で単勝11.8倍。
笠松での重賞初制覇以降、重賞3着が6回もあるクリノメガミエースが4番人気。今夏4連勝があったものの前走笠松のオータムカップで自分の得意な形にならずに崩れたメイプルプリンが5番人気。
出走馬
レース
スタート
1周目向正面
1周目3コーナー
1周目スタンド前①
1周目スタンド前②
2周目2コーナー
2周目向正面
2周目3~4コーナー
4コーナー~最後の直線
最後の直線①
最後の直線②
最後の直線③
ゴールイン
園田競馬場は4R前後に強い雷雨に見舞われ、馬場状態は稍重に。気温も16℃台まで下がり秋の深まりを感じるナイター最終日。
ゴール板はオレンジと紫色のハロウィーン仕様の装飾がなされ、誘導馬や誘導員さんもお祭りムードを盛り上げる。9R後には西ウイナーズサークルで写真撮影会も行われた。
10Rと12Rは、全国キャラバン中の「東京トゥインクルファンファーレ」によるファンファーレ生演奏でも場内は大いに盛り上がった。
スタートはまずまず揃った飛び出し。スマイルミーシャも好スタートを決めたが、そのすぐ内でハクサンアマゾネスがトップスタートを切り、少し気合を付けながら前へ。いつも逃げるグリージャがハナを主張してきたのを見て、ハクサンアマゾネスは控え、絶好の2番手につける。
その内側、好位インにアンティキティラが入り、外のスマイルミーシャは4番手のポジションとなった。ソニンクヴァースがその2頭の間に入って5番手。
アキ、メイプルグレイス、メイプルプリンの3頭で中団を形成し、その後ろにクレモナ。後方はややバラけてクレウーサ、クリノメガミエース、最後方からエイシンレミーとなった。
大きな競り合いもなくポジションは比較的早くに決まったが、1周目スタンド前では馬群全長は約13~4馬身とやや縦長。極端にスローペースに落ちることはなく、ミドルペースくらいで流れた。
向正面で各馬のジョッキーの手が動き始める。4番手追走のスマイルミーシャ吉村騎手も手を動かして、1馬身半前方にいるハクサンアマゾネスに並びかけようとする。
しかし、ハクサンアマゾネスの吉原騎手の手はほとんど動かない。3コーナー入口で、必死に粘ろうとする逃げのグリージャを楽々抜いて先頭に立った。
4コーナーに向けてスムーズに加速するハクサンアマゾネス。スマイルミーシャとアンティキティラが必死に追いすがるが、手応えの差は歴然。並ばせることなく余裕を持って直線へ。
残り200m、鞭を入れられたハクサンアマゾネスはグイグイと伸びを見せて最後は3馬身突き放す完勝劇。“金沢の女傑”が兵庫サマークイーン賞に続き、秋のクイーンにも輝いた。重賞は19勝目で、獲得賞金は1億円を超えた。
2着は兵庫のスマイルミーシャ。イン有利な馬場傾向の中、ずっと外を回らされたこともあるが、完敗の内容だった。ただこの馬も後続は突き放しており3歳最強馬の意地を見せた。
3着は高知のアンティキティラ。ずっと好位インをロスなく立ち回る走りで二強に食い下がったが、最後は伸びあぐねて2着馬と2馬身半の差がついた。そこに後方待機のクリノメガミエースがゴール前強襲、際どい3着争いとなったがギリギリ凌いだ。5着は5馬身は離れてソニンクヴァース。
地方他地区の馬が3年連続勝利。金沢勢は2年連続で兵庫クイーンカップ優勝となった(2012年ロッソトウショウ、2019年ヤマミダンス、2022年ベニスビーチに続き4度目)。
◆ハクサンアマゾネスはこれで34戦23勝、重賞19勝目となった。1着賞金700万円を加えて生涯獲得賞金は101,098,000円となり、ついに金沢生え抜き牝馬として史上初の1億円超え。
獲得タイトル
2020 ノトキリシマ賞、石川ダービー、加賀友禅賞、お松の方賞、中日杯
2021 JBCイヤー記念、利家盃、百万石賞、北國王冠、読売レディス杯、中日杯
2022 利家盃、百万石賞、お松の方賞
2023 金沢競馬移転50周年記念、利家盃、百万石賞、兵庫サマークイーン賞、兵庫クイーンカップ
◆吉原寛人騎手は、地方重賞通算147勝目。今年重賞19勝目。 兵庫の重賞は、2023兵庫サマークイーン賞(ハクサンアマゾネス)に続く6勝目。
◆加藤和義厩舎は重賞通算26勝目(今年5勝目)で、他地区の重賞は2023兵庫サマークイーン賞(ハクサンアマゾネス)に続く2勝目。
◆吉原寛人騎手 優勝インタビュー◆
(そのだけいば・ひめじけいば 公式YouTubeより)
単勝1.6倍のスマイルミーシャと2.3倍のハクサンアマゾネス。二強と見られていた秋の女王決定戦は、ハクサンアマゾネスの完勝に終わった。
吉原騎手は「馬場的にも内が軽い感じだったので、あまり外は回りたくないなと。スタートだけ不安がある馬なのでしっかり決めたい」という思いでレースに臨んでいた。
そのスタートをしっかりと決めると、「ある程度いい位置で競馬できるなと思ったので安心しました」と「絶好の位置」の2番手を確保できたことで、レース序盤で既にビクトリーロードが見えた。
「4コーナーでまだ余裕もありましたから、なんとか凌いでくれと。(スマイルミーシャが)どれくらい伸びてくるか心配でしたけど、最後は流す余裕もありました」との言葉の通り3馬身差という決定的な差をつけて、夏に続いて秋の女王にも輝いたハクサンアマゾネス。
これで生涯獲得賞金は1億円を超えた。金沢生え抜きの馬では、1990年代に1着賞金5000万円のダービーグランプリ(水沢)を優勝するなどして約1億2000万円を獲得したミスタールドルフもいるが、牝馬としては金沢競馬史上初の1億円ホースとなった。
この夏は猛暑で調整が難しい中、名古屋の秋桜賞はまさかのしんがり負け。しかし、そこからすかさず立て直した陣営の手腕は見事なものだった。
加藤師曰く「前走地元で一度使って勝って、もう一段(調子が)上がると思っていました。兵庫サマークイーン賞と同じくらいの出来でした」と納得の仕上げ。
「(スタート地点の)2コーナーでレースは見ていましたが、(2周目に目の前を通過した時に)ペースや手応え的に『これで負けたら仕方がない』と思いました。勝ててホッとしました」と振り返った。
レース前日の10/26が吉原騎手40歳誕生日で、翌日10/28が加藤調教師46歳の誕生日。「間に挟まれた日なんでどうしても決めたかった」という吉原騎手。ハクサンアマゾネスが期待に応え、ダブルのバースデープレゼントももたらしてくれた。
総評
牧場に帰り、母としての仕事も待っている。まずは最後まで無事に、そして願わくば引退の花道を鮮やかに飾るシーンにも期待したい。
騎乗した吉村騎手は「完敗でした」としながらも、「これまで経験したことのない流れや時計でしたし、今回は経験の差が出たかなと。ただ今後も逆転できないような差ではないと思いました。
前半はしばらく外を回らされましたし途中から勝負にも行ったので、普通ならアンティキティラに差されてもおかしくない展開。その中でむしろ後ろを突き放しましたから。この馬も強いですよ」と振り返った。
次走は現時点では未定だが、来年1月には復活重賞のコウノトリ賞(牝馬限定 園田1870m)も控え、4月にはダートグレード「兵庫女王盃(Jpn3)」が誕生する。ここが今後の大きな目標となるだろう。
スマイルミーシャが兵庫の牝馬路線を牽引していく一頭であることには違いない。「金沢の女傑」から得た学びを糧に、いずれ「兵庫の女傑」と呼ばれるような存在へと邁進する。
文:三宅きみひと
写真:齋藤寿一