2024 新春賞 レポート
2024年01月03日(水)
新春恒例のハンデ重賞「新春賞」。毎年1/3に行われている園田競馬場の名物レースの一つだ。重賞ホース5頭を含む11頭が顔を揃えた。
1番人気は、単勝1.7倍のアラジンバローズ。トップハンデの58kgを背負う。
昨夏に兵庫に転入した元JRAオープン馬で、移籍初戦の鳥栖大賞(佐賀)で重賞初制覇を果たした。前走は初めて園田の馬場で走ってA1A2戦を勝利。アタマ差の辛勝ではあったが、本番に向けてのひと叩きという仕上げの中、58kg背負いながら2022年の道営記念勝ち馬サンビュートを抑えたのは間違いなく力の証だ。
2番人気は、ツムタイザンで単勝3.0倍。ハンデは57.5kg。
摂津盃で感動の復活勝利を挙げたが、前走園田金盃は4角と直線で2度勝ち馬に寄られる不利があってアタマ差の2着。陣営にとっては悔し過ぎる一戦となった分、今回にかける強い想いが感じられた。
3番人気は、単勝6.5倍のナムラタタ。ハンデは55kg。
昨年は六甲盃5着、摂津盃4着、姫山菊花賞5着と重賞に3度挑戦していずれも掲示板に載る堅実駆けを見せた。前走の揖保川特別でJRA馬を破り、勢いに乗って大一番へと臨む。
さらに、昨夏の兵庫転入後にA1連勝を飾った良血馬トリプルスリルが単勝8.7倍で4番人気、 新春賞連覇を狙う紅一点のアキュートガールが23.1倍の5番人気で続いた。
出走馬
レース
ゴールイン
この日はJRAジョッキーの岩田康誠・望来親子のトークショーなどイベントも多数開催。4年ぶりに年末年始シリーズのイベントが復活し、昨年まであった入場制限もなくなったこともあり、場内には6,000人を超えるファンが詰めかけて大いに賑わっていた。
天候は曇り、馬場状態は良。雨の予報が出ていて朝から曇天だったが、何とか1日お天気は持ってくれた。気温15℃近くまで上がって風もほとんどなく、この時期としては過ごしやすい気候の中でレースは行われた。
スタートは、ベストオブラックが出遅れていつものように後方からの競馬に。
先行争いは外からエイシンダンシャクが押して逃げていき、さらにその内から同じ勝負服のエイシンビッグボスも先行策。近走は中団でレースをしていたツムタイザンも序盤で位置を取りに来て、好位のインに納まった。
大外の11番枠からスタートのアラジンバローズだったが、ペースが落ち着き始めた1周目3~4コーナーから行きたがるそぶりを見せて4番手へ。下原騎手はスタンド前では立ち上がらんばかりの姿勢で馬をなんとか抑え込もうという構えを見せながら、ツムタイザンのすぐ外につける。
5番手インにアキュートガール。その外にナムラタタがいて、直後にトリプルスリルが中団。さらにリバプールタウン、フーズサイドが並んで、ベストオブラック、シェナキングという順。ペースは落ち着いたまま、馬群全長は13~4馬身となって2周目の向正面へ。
徐々にペースが上がり始めと、折り合いを欠いていたアラジンバローズはスムーズな走りに。内にツムタイザンを置きながら、前のエイシン勢に離されずについていく。アラジンバローズの真後ろにはナムラタタもいてツムタイザンは外への進路を封じられたまま直線まで待つしかない状況となった。
4コーナーから直線に向くところで、アラジンバローズが一気に先頭に立った。2番手にいたエイシンビッグボスは早々と後退。逃げていたエイシンダンシャクが粘りを見せる中、その内を突こうとしたツムタイザンは進路が狭く、一瞬追い出しが遅れた。その間に外からナムラタタ、間からトリプルスリルが伸びてくる。
直線半ばで一旦3馬身近くにリードを広げたアラジンバローズが最後は11/4馬身差で優勝し、重賞2勝目を挙げた。鞍上の下原騎手は鞭を持った右手を大きく振り上げて喜びを表現した。
2着はナムラタタで、3着は1馬身半差でトリプルスリル。ツムタイザンは差を詰め切れず3着とは半馬身差の4着だった。後ろで脚を溜めていたベストオブラックが末脚を伸ばすも5着まで。連覇を狙ったアキュートガールは8着だった。
◆年が明けて7歳となった騙馬のアラジンバローズは重賞2勝目。通算17戦7勝(地方移籍後4戦3勝)となった。
獲得タイトル
2023 鳥栖大賞(佐賀)
2024 新春賞
◆下原理騎手は重賞通算86勝目。(兵庫生え抜き騎手による)兵庫県最多重賞勝利記録を更新中。新春賞は2016年にアクロマティックで勝って以来となる2勝目。
◆新子雅司厩舎は重賞通算65勝目。曾和直榮師が持つ66勝の兵庫県記録にあと1つとなった。
<歴代 重賞勝利数>
1位 曾和直榮 66勝
2位 新子雅司 65勝 ※現役
3位 田中範雄 58勝 ※現役
4位 橋本忠男 52勝
5位 橋本忠明 41勝 ※現役
また新子師は、この勝利で開業翌年の2013年から12年連続重賞勝利となった。これは曾和直榮師の12年連続(1998~2009年)に並び、田中範雄師の13年連続 (2007~2019年) に次ぐ歴代2位タイの記録。
<連続重賞勝利記録>
1位 田中範雄 13年連続 (2007~2019年) ※現役
2位 新子雅司 12年連続 (2013~継続中) ※現役
2位 曾和直榮 12年連続 (1998~2009年)
4位 橋本忠男 10年連続 (2008~2017年)
新子厩舎は新春賞連覇でこのレース3勝目。(16アクロマティック、23アキュートガールに次ぐ)
昨年は新春賞勝利を皮切りに1年で重賞12勝を挙げて、兵庫県の年間重賞最多勝利記録を更新したが、今年も幸先よく最初の重賞を制した。
◆下原理騎手 優勝インタビュー◆
(そのだけいば・ひめじけいば 公式YouTubeより)
新春賞の枠順を聞いて「ええー」と天を仰いだ下原騎手。大外11番の枠順に「良くか悪くかはっきりするだろうと思って、肚を決めてレースに臨みました」と勝利騎手インタビューで答えたが、その思惑はこうだった。
「スタート後にペースがすぐに落ち着いてしまうと、3~4頭分の外をずっと回らされる展開になってしまう。それだけは避けたかった」と大外枠ならではの悩みがあった。
さらに「かかる馬なので自分から出してもいけないし・・・」と、序盤に押していくと抑えがきかなくなるリスクも大いにあり、自分からポジションを取りにいけない難しさもあった。
だからこそ良くも悪くもやってみなきゃ分からないと肚を決めてレースに臨んだ下原騎手だったが、「序盤の3コーナーまでに少し流れてくれた分でエイシン2頭とツムタイザンがバラけてくれた」と危惧していた外々を回らされる最悪の展開は回避した。
ただ、「今日は返し馬から仕上がりが良すぎて、もう行く気満々でした。かなり苦労しました」という言葉の通り折り合いには相当手を焼き、道中は自分との戦いに。
これだけ行きたがるならもう行ってしまおうと手綱を許し、途中から逃げていく選択肢もあっただろう。しかし、行かせてしまってはツムタイザンやナムラタタの思う壺になってしまうと、自らの騎乗姿勢を崩してでも抑える選択をしたのは、豊富な経験を持つ名手らしい好判断だった。
「後ろから早目に来てくれるなと思っていたけど、その通りになってくれたのも良かった」とは、向正面での駆け引きについて。
ナムラタタ(吉村騎手)をはじめとした他の馬が外から早目に動いてくるとそのタイミングで自分も動かざるを得なくなる、そうするとずっと内に閉じ込めて動きを封じてきたツムタイザンに進路ができてしまう。
「できるだけ閉じ込めておきたい」という思惑も叶い、「力があるので」思い通りにレースを進めることができた。
かくして、見事勝利を手にした。あれだけ折り合いを欠き、他馬より重い斤量を背負った中でも勝つのだからその実力は抜けていた。
様々な難しさがある中で単勝1.7倍の支持。開口一番出た「ホッとしました」という言葉に安堵感が凝縮されていた。
レース当日は、JRA岩田康誠騎手がトークイベントで園田競馬場に来場していた。
下原・新子コンビでの重賞制覇で表彰式にも登場するかと思われたが、関係者が電話をしても一向に繋がらなかったという。
「岩田兄貴ぃ~やったぞ~!どこにいるのか分からないんですけど・・・どこに逃げたのか(笑) 早く来てくださ~い!!」
勝利騎手インタビューでは、下原騎手がマイクを通して昔から兄貴と慕う岩田騎手へメッセージを送った。その光景に表彰式に詰めかけたファンからは和やかな笑いが起こった。
そして、その直後、プライベートで園田競馬場に遊びに来ていたJRA和田竜二騎手がウイナーズサークルに姿を見せ、馬主代理として表彰台に上がるとまたもや大きな歓声が。レースのみならず、表彰式も大いに盛り上がった新春賞だった。
総評
この後は、戦前から話していた通り、2/12(振月)に行われる佐賀記念(Jpn3 佐賀2000m)を目指すことになる。
「鳥栖大賞は時計も良かったし、もう一枚上のクラスの方が折り合い面で楽に走れる。佐賀の馬場も合っていると思う」と次を見据えた。
「ラッキードリームと共に中長距離を担う馬。佐賀記念で好走できれば、JBCクラシックを今年の最終目標にできる」と新子師。今年のJBCが史上初の佐賀開催というのも追い風になる。
去年はアキュートガールで新春賞を勝ったのを皮切りに、自己最多の年間重賞12勝を挙げイグナイターでJpn1も勝った。
「新年1発目に勝つのは気持ちがいいね」
ダートグレードを狙うのは、イグナイターやラッキードリームだけではない。中長距離路線にアラジンバローズも加わった。今年も新春賞から新子厩舎が力強く動き出した。
文:三宅きみひと
写真:齋藤寿一