2024 コウノトリ賞 レポート
2024年01月11日(木)
兵庫の県鳥コウノトリ。その名を冠した重賞レースが14年ぶりに復活した。
コウノトリ賞は2008年に3歳馬によるリミテッドのハンデ重賞として誕生したが、わずか3回の開催で終了していた。(リミテッド戦での実施は第1回のみ)
大井のJpn3であったTCK女王盃が今年から兵庫に移設し、兵庫女王盃と名前を変えて、4/4(木)に園田1870mを舞台に行われる。そこへ向けてのステップレースとしてコウノトリ賞は復活、4歳以上牝馬による1870m戦と様変わりした。
1番人気は、スマイルミーシャ。単勝1.1倍の断然人気となった。
去年は兵庫ダービーや園田金盃などを勝利し、ここまで重賞5勝。昨年の最優秀3歳馬、最優秀牝馬をW受賞した兵庫生え抜きの4歳馬が今年初戦を迎える。前走の園田金盃では強力な古馬&牡馬を破っただけに、牝馬同士のここは負けられない一戦だ。
2番人気は、クリノメガミエースで単勝4.5倍。これまで重賞タイトルは1つだけだが、一昨年には楠賞3着、園田金盃3着など一線級を相手にも善戦。去年は重賞制覇まであと一歩のレースが続く中、JRAのジャパンカップに出走して話題を呼んだ。兵庫現役牝馬、エース候補の一頭だ。
3番人気は、単勝16.0倍のマルグリッド。去年は佐賀のル・プランタン賞を制するなどして、グランダムジャパン3歳シーズンの女王となった。同期のスマイルミーシャには過去に二度負けており、三度目の正直を期す。
さらに、タガノオボロが単勝20.5倍の4番人気、 マヤローザが32.4倍の5番人気で続いた。
出走馬
レース
ゴールイン
朝のうちは曇っていたが、午後に入ると晴れ間が広がって気温も11℃くらいまで上昇した中、馬場状態「良」でスタートを迎えた。
スタートはマヤローザが躓いて最後方、マルグリッドも半馬身ほど出負けした。スマイルミーシャは五分にスタートを決めた。
まず出て行ったのはタガノオボロ。小谷騎手が序盤から手綱を押して何が何でもという構えで逃げると、ニネンビーグミも難なく2番手を取り、序盤からこの2頭が飛ばしていく。
離れた3番手にスマイルミーシャがポジションを取り、その1馬身後方の内にクリノメガミエース、外に出負け挽回のマルグリッドが位置づけ、2,3番人気の2頭が断然人気のスマイルミーシャをぴったりマークする形でレースは進んだ。
その1列後ろから内アイヤナと外デンコウハピネスが並走、さらにクレモナ、マヤローザと続いた。
スタンド前では前の2頭が3番手のスマイルミーシャ以下をどんどん突き放していき、2コーナーでその差は12馬身ほどに。
しかし、オーバーペース気味の2頭に構うことなく自分のペースを守って走るスマイルミーシャは、向正面に入ったところから吉村騎手に軽く促されるとスッと反応してスピードアップ。みるみるうちに前との差は詰まり、3コーナーではもう先頭へ。
直後にいたクリノメガミエースとマルグリッドも離れずについていく形だったが、4コーナーで早くもマルグリッドは苦しくなり、代わってアイヤナとマヤローザが3番手争いに加わって直線へ向いた。
直線、馬場の4分どころに持ち出した先頭のスマイルミーシャに、外からクリノメガミエースが必死に追いすがる。しかし、これを全く寄せ付けることなく最後は3馬身差でのゴール。スマイルミーシャは重賞6勝目を挙げた。“兵庫の現役最強牝馬は私よ“と言わんばかりの快勝だった。
2着クリノメガミエースは、道中はインをぴったり回り直線だけ外に出す完璧な競馬だったが相手が悪かった。2つ目のタイトルまであと一歩の走りが続くが、後ろは3馬身半離しており、力は見せた。
3着はアイヤナ。重賞初挑戦で8番人気と人気薄だったが、インをずっとスムーズに立ち回れたことも好走に繋がった。
最後方から追い上げたマヤローザが4着、3番人気のマルグリッドは5着だった。
◆スマイルミーシャは重賞6勝目。通算12戦10勝(2着2回)となった。依然としてデビューからのパーフェクト連対が続く。
獲得タイトル
2022 園田ジュニアカップ
2023 のじきく賞、兵庫ダービー、園田オータムトロフィー、園田金盃
2024 コウノトリ賞
◆吉村智洋騎手は重賞通算47勝目。第3回コウノトリ賞を2010年にコスモハレルヤで優勝しており、14年越しでの同レース連覇となった。
◆飯田良弘厩舎は重賞通算8勝目。コウノトリ賞は初制覇。
◆吉村智洋騎手 優勝インタビュー◆
(そのだけいば・ひめじけいば 公式YouTubeより)
返し馬でスマイルミーシャに跨った感触として、「前走の園田金盃で目一杯走り切っちゃってるんで、正直そんなには良くなかった」と吉村騎手は話した。
「返し馬でいつものように手前を替えてサッと流した時に乗ってこなかったんです。スッといかなかったので『ん?』と思いました。ゲート裏でも変にイラついていました」といつもと違うスマイルミーシャを戦前から感じ取っていた。
それでもレースでは、「いつも通り操縦性はかなり良かったのでインが取れましたし、道中はずっとリラックスして走っていました」といつものこの馬らしさも発揮とした。
「でもその割には直線離していないのでね・・・3馬身差まで寄られたという感覚ですね。菊水賞からずっと厩舎にいますし、園田金盃が古馬相手にギリギリ凌ぐような死闘だったので、その分の反動が出ていたのかな。前走から間隔もそれほど空いていなかったですしね」とパフォーマンスについてはいつもの彼女の走りではなかったようで、パートナーは辛口のジャッジだった。
「結果的に勝ってはいるのでそこまで求めてあげるのもかわいそうですけどね。負けないだけ偉いです。牝馬同士と言っても負ける時はあっさり負けちゃうので、(ちゃんと勝てたことは)評価はできます。勝負強いです」とベストコンディションではない中でもちゃんと勝ち切った愛馬を労った。
コウノトリ賞は2010年以来14年ぶりに復活したタイトル。吉村騎手は2010年にコスモハレルヤで勝っており、14年越しでの連覇となった。
吉村騎手は、2005年に名古屋の東海クィーンカップをハツネドオゴに騎乗して重賞初制覇。デビュー4年目の夏、20歳のことだった。
その後しばらく重賞勝利から遠ざかっていたが、2010年の新春賞(騎乗馬キーポケット)で4年半ぶりの重賞制覇を果たすと、この年はさらに他地区でも重賞を2勝、大舞台での活躍も見せ始めていた。
そんな中で迎えたコウノトリ賞は、3連勝中のコスモハレルヤに騎乗し、単勝1.5倍の支持を受けてのレースだった。吉村騎手は当時25歳、「14年前はプレッシャーでしたね。やばいな・・・負けたら乗せ替えられるなと思ったりしていましたね」と昔を振り返る。結果的に優勝を果たして大きな糧としたのだが。
あれから14年。
今回もまた断然人気馬での騎乗だったが、「明らかにその時とは余裕が違いますね、ノンプレッシャーです。負けたらどうしようとかそんなことを気にしていたら乗っていられないです。勝つ時は勝つし、負ける時は負けるんで。経験って大事ですね」とあっけらかん。いやはや様々な経験が余裕を生み、人を強くするのだ。
そして、それは人も馬も同じだ。スマイルミーシャも今後また様々な経験を経て、さらに強くなっていくことだろう。
総評
「前2頭を見る形の絶好の展開でした。状態面は金盃よりは良いと感じていましたが、吉村騎手は金盃の疲れが残っていたのかなと…乗り役にしか分からない感覚かもしれませんね。まだうるさいところはありますが、レースに行く毎に経験を積んで少しずつ落ち着きは出てきています」と振り返った。
このあとは「馬体に不安はないし見た目は好調だけど一回リフレッシュした方がいいかな」ということで坂路のある施設に放牧に出る予定だ。
「そんなに長くは休めないので1ヶ月半くらいのイメージです。1400mの能力検査を叩いて、ぶっつけ本番になると思います」と次なる大舞台を見据えた。
スマイルミーシャはこれまでもレースごとに陣営の期待を上回り、ここまで重賞6勝、連対率100%という結果を残してきた。
桜舞う季節、さらに力強い走りでファンを魅了して欲しい。
文:三宅きみひと
写真:齋藤寿一