2024 兵庫ジュベナイルカップ レポート

2024年09月19日(木)

前週の園田プリンセスカップに続いて行われる2歳重賞「第2回兵庫ジュベナイルカップ」。重賞元年となった昨年は、マミエミモモタローが勝利し、その後重賞を3連勝。のちに怪我で戦線離脱となるが、一時は無敗のまま世代の頂点に君臨した。今年これに続くのはどの馬か。番組編成の見直しがあり、開催時期が今回は8月から9月に変更された。

当初出走を予定していた2戦2勝のスマイルモンブランは、最終追い切り後に骨折が判明し、出走を回避。デビューから逃げ切り圧勝を続ける本馬が離脱したことで一気に混戦模様となった。

前週の園田プリンセスカップは他地区馬による1〜3着独占となったが、このレースを勝ち、世代最初の重賞ウィナーに輝くのは果たしてどの馬か。将来のスター候補生10頭が顔をそろえた。

最終的には人気上位馬の中でもやや抜けた1番人気(単勝1.9倍)に支持されたのがマオリ。
8月28日のデビュー戦(1400m)は、2着に7馬身差をつける逃げ切り圧勝。
管理する長南調教師は、手前の変換が上手くいかないなど、馬格はあるがまだまだ”子ども”としながらも、その分の伸びしろ、スケールの大きさに期待を寄せていた。キャリア2戦目で一気の戴冠となるか、デビュー8年目で重賞初制覇がかかる長谷部駿弥騎手の手腕にも注目が集まった。

2番人気(単勝3.9倍)は新種牡馬ルヴァンスレーヴ産駒のキミノハート。
デビュー戦はスマイルモンブランに離されての2着。続く前走は道中2番手の馬に突かれながらも、最後の直線はこれらを振り切っての逃げ切り快勝を決めた。
牝馬にして480キロ台とすでに立派な馬体を有しているが、まだまだ心身ともに成長途上。鞍上の吉村智洋騎手が継続騎乗となる点も追い風となる。

3番人気(単勝6.4倍)はイザグリーンライト。デビュー戦の820mは流れについていけず6頭立ての4着だったが、その後1400m戦に変えてからレースぶりが改善。特に2走前は道中好位のインから鮮やか差し切り、前走は惜敗2着も直線は勝ち馬を凌ぐ末脚を披露し、上昇気配を漂わせる。
門別から移籍後、昨年春から兵庫で騎乗する山本咲希到騎手の移籍後初タイトル獲得となるか。

4番人気がラピドフィオーレで8.7倍。デビュー戦(820m)は、次走を圧勝するセクシーキャットをハナ差制して勝利。3着のウイングスオールは前週の園田プリンセスカップで4着と地元馬最先着。加えて4着のイザグリーンライト、5着のヒロノラファールもその後勝ち上がっており、ハイレベルの新馬戦だった。
続くアッパートライで連勝し、この世代で一歩リードしたかに見えたが、前走は気難しい面も影響したのか、伸び切れずの4着。よもやの敗戦となったが本番で巻き返せるか。今回はこの日ゴールデンジョッキーカップ騎乗のため、園田入りした高知の赤岡修次騎手が手綱を取る。

5番人気が前走デビュー勝ちのジーニアスレノンで15.0倍と、5番人気以降は上位とオッズに差が開いた。

出走馬

1番  キミノハート 吉村智洋騎手
2番 ビーチボーイ 下原理騎手
3番 エロイムエッサイム 松木大地騎手
4番 マオリ 長谷部駿弥騎手
5番 ジューンコメット 鴨宮祥行騎手
6番 イザグリーンライト 山本咲希到騎手
7番 チャンピオンセーラ 大柿一真騎手
8番 ラピドフィオーレ (高)赤岡修次騎手
9番 ジーニアスレノン 廣瀬航騎手
10番 レイナボニータ 永井孝典騎手

レース

スタート

スタンド前①

スタンド前

向正面

向正面②

3コーナー

3〜4コーナー

4コーナ最後の直線

最後の直線①

最後の直線②

最後の直線③


ゴールイン

この日は全国から通算2000勝以上の名手が集う第31回ゴールデンジョッキーカップが行われるとあって多くの観客で賑わっていた園田競馬場。JRA武豊騎手の連覇達成の余韻がまだ残る中でメインレースの発走を迎えた。

ゲートが開き、後手を踏んだのはエロイムエッサイム。対して好スタートを切ったのは最内のキミノハート。マオリはまずまずの出を見せたが、すぐさま内へと寄れる形に。出鞭を入れるも先手は取れない。この間外からジューンコメットも押し寄せて一旦ポジションが悪くなりかけたが、なんとか外の2番手で落ち着いた。ジューンコメットが外目を通って3番手、インコースの4番手にビーチボーイ。それら前4頭を見る形でラピドフィオーレが続いて1コーナーのカーブへ。

前走逃げ切りのジーニアスレノンはそこから5馬身差の6番手。そこからまた2馬身開いてレイナボニータとイザグリーンライト、エロイムエッサイム、さらにチャンピオンセーラが差がなく追走して最後方を形成する。
前の5頭と後ろ5頭に分かれ、馬群全長20馬身ほどの縦長の展開で2コーナーから向正面に入る。

前走逃げ切り快勝のキミノハートがここも先手を取り切ってペースを握る。
これを体半分差で追うマオリだが、すでに長谷部騎手の手は激しく動く。
内の3番手に入ったビーチボーイも促しながらの追走、さらに鴨宮騎手のジューンコメットが4番手外から早めに進出、2番手に上がる。この間、マオリは抵抗できず後退加減。これに連れて5番手追走の赤岡騎手も促し、ラピドフィオーレが上昇。
そこから2馬身差、中団にいたレイナボニータとジーニアスレノンの8枠両馬も動き出す。
後方ポジションのイザグリーンライトは中団から7馬身ほど遅れる形、さらにはエロイムエッサイム、大きく置かれてチャンピオンセーラが変わらず最後方で3、4コーナーの中間点。

キミノハートが先頭をキープするも勝負所から急上昇のラピドフィオーレがあっという間にそれに並んでいく。
1馬身差の3番手グループは内からビーチボーイ、真ん中ジューンコメット、外から追い上げるレイナボニータの併走状態。さらに後方のジーニアスレノン、イザグリーンライトも詰め寄ってきて、前の集団は10馬身の圏内で4コーナーのカーブにさしかかる。

ラピドフィオーレが勢いよく先頭に変わって、直線残り200mの標識を通過。
内で応戦するキミノハートが半馬身差の2番手。
そこから5馬身離れてジーニアスレノンが3番手、大外からイザグリーンライトが追い込んで4番手に浮上。

残り100mを切って完全に抜け出したラピドフィオーレ、一杯になったキミノハート、そこに迫るジーニアスレノン。

最後は後続に2馬身つけてラピドフィオーレが1着のゴールインを決めた。
キミノハートが3/4馬身差で2着を死守。追い込んだジーニアスレノンが3着、イザグリーンライトがそれと差のない4着、レイナボニータが離れた5着で入線した。尚、1番人気のマオリは3コーナー付近で早々に後退し、よもやの最下位となった。

好位追走から勝負所で勢いついたラピドフィオーレが直線抜け出し快勝。前哨戦1番人気4着の悔しさを本番で見事に晴らした。

◆ラピドフィオーレは、これで4戦3勝。前走の初黒星から即反撃を見せ、今年の兵庫2歳世代最初の重賞ウィナーに輝いた。
父はホッコータルマエ、そして母のナナヨンハーバーは門別から兵庫に転入後、2018年の兵庫クイーンカップを制するなど重賞でも活躍。これで母仔重賞制覇となった。

獲得タイトル

2024 兵庫ジュベナイルカップ

◆高知の赤岡修次騎手は、これで重賞通算101勝目。今年の4月7日に佐賀のル・プランタン賞(グラインドアウト)で節目の重賞100勝決めて以来のタイトル獲得となった。兵庫重賞は昨年の六甲盃(高知のグリードパルフェ)以来の8勝目。兵庫の馬に騎乗しての兵庫重賞Vは2018年の園田オータムトロフィー(クリノヒビキ)以来6年ぶりとなった。


◆田中範雄厩舎は重賞59勝目。2019年に園田ジュニアカップをイチライジンで制して以来5年ぶりの重賞制覇となった。赤岡騎手とのコンビでの重賞勝利は、2015年秋の鞍(バズーカ)、2016年東海桜花賞(マルトクスパート)の名古屋重賞2勝に続いて3度目。

◆赤岡修次騎手 優勝インタビュー◆
 (そのだけいば・ひめじけいば 公式YouTubeより)

この日行われたゴールデンジョッキーカップでは4位と、あと一歩で表彰台に届かなかった高知の赤岡修次騎手。重賞の勝利騎手インタビューは、苦笑いを浮かべながらの「複雑ですね」でスタートした。

「(ゴールデンジョッキーカップでは)あと1つ上だったら3位だったのになと思って。でも(メインを)勝ってよかったです」と悔しさと喜びを同時に味わいながら赤岡騎手はこのあとレースを振り返った。

スタートを決めて好位5番手からレースを進められたラピドフィオーレ。近走はゲート内での駐立が悪くなっているのが映像から見てとれた上、陣営からも事前に聞いていたという。

「そこだけ気をつけて。スタートだけ出さないといけないなと思ってたんですけど、トップスタートぐらいで出てくれて。ハナでも行こうかなと思ったんですけど、内が結構(ハナを)主張していたので、もうどこでもいいかなという感じで乗ったんですけど」と発馬に集中し、見事最初の課題をクリア。

陣営からの話通り、レース序盤は乗りづらさがあったというが、他馬の後ろに入れると馬は落ち着きを見せた。

「思っていたイメージよりも真面目なんだなと感じました。終始見せ鞭していたら反応していたので、(向正面では)いつでも抜かせる感じだなと。ただ気の悪さもある馬だと聞いていたのでそこだけ気をつけて乗っていました」

勝負所で一気に加速、4角では勢いよく先頭に並んでいた。「思っていたのと全然違うなという感じで。ただやっぱり聞いていた通り、手前も変えなかったんで、終いは甘くなってきたんですけど、最後まで押し切ってくれてよかったです」とラピドフィオーレの最後の頑張りを讃えた。

「これから馬がしっかりしてきて器用に立ち回れるようになったら、もっと面白いとは思います。ただちょっと難しさがある馬なんで、そこだけかなと思います。(長所に関しては)力がすごくあるんですよね、ただ、馬が子どもらしさを見せすぎて生かしきれていないかな」と赤岡騎手。未完ながらこの走りとは、逆に今後の伸びしろを感じさせる。

癖馬も乗りこなして見事勝利を決めるあたり、さすがは高知のゴールデンジョッキー。シリーズでは惜しかったが、兵庫の重賞でその輝きを放った。

「(ゴールデンジョッキーカップには)また来られれば、なんとか(武)豊さんみたいにポンポンといけるぐらいになれればいいですね」と最後は敬愛する名手の名を挙げて締め括った赤岡騎手。来年こそは悲願のシリーズ優勝にも期待したい。

総評

表彰式終了後、勝負所での早めの進出について、赤岡騎手にさらに話を聞くと、「手前を変えないので、待っていてももう一脚はなさそうなので動きました。
それに2歳馬同士だし、そんな追い込んでくる馬もいないだろうと思って」と返答が。
一筋縄ではいかない馬を乗りこなす技術、そして状況判断。
さすがは長年高知のトップを走る名手だ。
この日はセールに赴き、不在だった田中範雄調教師はレース前、「まだトモが緩く蹴りが弱い。前脚だけで走っている。その分、どうしても時計が詰められない。早い時計への対応はまだ無理かな。10月のネクストスター園田につながるような走りができれば」と、今回に関しては半信半疑とも取れるコメントを残していたが、終わってみれば勝ち時計は1分31秒8と、前走から3秒も縮めることができた。
「体が完成してくれば、同世代の中では負けないと思います」とそのポテンシャルには自信をのぞかせていたが、前走からの即巻き返しは、田中師にとって嬉しい誤算だったのではと想像する。

2着のキミノハートも淀みない流れの中、2着で粘りを見せたし、3着のジーニアスレノンもまだキャリア2戦目、差しの形でも上位でまとめるあたり先々が楽しみになる。

1番人気に応えられなかったマオリも、まだまだ幼い馬とのことで、先手を取れなかったことも影響したか。少なくともデビュー戦の時とはかけ離れた姿で、能力は全く出しきれていないように見える。ラピドフィオーレが今回一変を見せたように、マオリの反撃にも期待したい。

2歳の戦いはまだ始まったばかり、年末の大一番までに果たしてどの馬が台頭してくるか、まだまだ目が離せない。


文:木村寿伸    
写真:齋藤寿一    

information