2025 兵庫女王盃 レポート

2025年4月3日(木)

全国的な古馬牝馬路線の整備の一環で、昨年新設された兵庫4つ目のダートグレード競走「兵庫女王盃(Jpn3)」。大井の「TCK女王盃(Jpn3)」が園田へと舞台を移した形だ。

今年は、昨年の1着馬ライオットガールと2着馬のアーテルアストレアがそろって参戦。
中央からはそれらを含む4頭、高知からは園田の常連アンティキティラ1頭が遠征し、地元馬5頭を合わせた10頭で女王の座を競った。

昨年の1、2着馬を押しのけて1番人気(単勝1.7倍)の支持を集めたのはJRAのテンカジョウだ。
ここまで7戦4勝3着3回とデビュー以来堅実な走りを見せる。昨年9月のマリーンカップJpn3(船橋)を5馬身差の圧勝で制し、重賞初制覇。続く古馬混合のJBCレディスクラシックJpn1(佐賀)、クイーン賞Jpn3(船橋)ではともに3着と、強敵相手に善戦を見せた。
発馬に若干の課題は残すものの、相手関係的には好勝負必至というところか。
2月に負傷し戦線を離れている主戦の国分優作騎手に代わり、兵庫のダートグレード2勝の松山弘平騎手が初めて手綱を握る。

2番人気(単勝2.4倍)はJRAのアーテルアストレア。昨年は出遅れて後方からのスタートとなったが、早めに動いて3コーナーでは一旦先頭に。長く良い脚は見せたが、最終的にライオットガールの粘りに屈して2着となった。直近2走のG1は7着、9着も牡馬の一戦級が相手なら仕方がなかったか。レディスプレリュードJpn2(大井)、クイーン賞Jpn3(船橋)、スパーキングレディーカップJpn3(川崎)と、ダートグレード3勝はここでは実績上位。
元々は前走のフェブラリーステークスG1で引退予定だったが、主戦の菱田裕二騎手を最後に乗せたいというオーナーの思いもあって引退撤回、ここが正真正銘のラストランとなる。左回りに勝ち星が集中する典型的なサウスポーだが、果たして有終の美を飾れるか。

3番人気(単勝5.6倍)はJRAのライオットガール。昨年のこのレースは前述のアーテルアストレアらの追い込みを退け、逃げ切り勝ち。見事初代女王の座に輝いた。
その後は強敵そろうダートグレード戦線でなんとか入着圏の走りは見せるも、勝利からは遠ざかっている。前走は挫跖で取り消し一旦放牧を挟んでの臨戦となるが、一頓挫を乗り越え連覇を決められるか。鞍上は昨年同様、岩田望来騎手。父の古巣にして、幼少期には自身も暮らしていたゆかりの地、兵庫で初めて重賞を制した。昨年末には中央G1を初めて勝って故郷に凱旋、新たな勲章を胸に帰ってきた。

4番人気(単勝17.2倍)はJRAのアンデスビエント。昨年の関東オークスを制して以降はシンガリ負けが続くが復活なるか。

5番人気(単勝47.6倍)は兵庫転入3戦目のサンオークレア。前走は高知のレジーナディンヴェルノ賞を制し重賞3勝目と勢いに乗る。

6番人気(単勝89.7倍)はスマイルミーシャ。地元兵庫生え抜き馬にして、兵庫ダービー、園田金盃を含む重賞6勝の実績誇る兵庫の女王。ただここのところは発馬の不安などで本来の力を出せていない。復活のきっかけをつかめるか。

中央馬と地方馬の人気は大きく乖離、特に中央馬の三つ巴ムードが漂っていた。

出走馬

1番  (J)アーテルアストレア (J)菱田裕二騎手
2番 (J)アンデスビエント  ()田口貫太騎手
3番 (J)テンカジョウ (J)松山弘平騎手
4番 マルグリッド 下原理騎手
5番 サンオークレア (北)石川倭騎手
6番 クレスコジョケツ 杉浦健太騎手
7番 フローラルドレス 山本咲希到騎手
8番 (J)ライオットガール (J)岩田望来騎手
9番 (高)アンティキティラ (高)多田羅誠也騎手
10番 スマイルミーシャ 吉村智洋騎手

レース

スタート

1周目向正面

1周目3〜4コーナー

1周目スタンド前①

1周目スタンド前②

1周目スタンド前③

2コーナー〜向正面

向正面

3コーナー

3〜4コーナー

4コーナー

4コーナー〜最後の直線

最後の直線①

最後の直線②

最後の直線③

       

ゴールイン

この日の日中は16℃台まで気温が上がり、日なたに出るとポカポカと陽の温もりを感じられたが、その一方で冷たい北風が吹き続けた。
好天にして馬場状態は「良」、ダートグレード競走ということもあり、平日にも関わらず多くの来場者が詰めかけた。その観客らの大きな歓声と拍手が、ブラスバンド「H.B.B」によるファンファーレ生演奏と溶け合い、春の空へと響き渡った。

ゲートが開くと1番人気のテンカジョウが出遅れてしまい、アーテルアストレアも後方からとなった。最も良いスタート決めたのは近走発馬に課題のあったスマイルミーシャ。
しかしアンデスビエントがそれをすぐさま追い抜きハナを奪った。昨年逃げたライオットガールは2番手の外、並んで内にクレスコジョケツがつける形で1周目の3コーナーへ。
フローラルドレス、マルグリッドが中団グループ。差がなくスマイルミーシャ、そしてスタート後手を踏んだテンカジョウはすぐさま巻き返してその直後の後方から4頭目に。サンオークレア、アーテルアストレアが続き、1頭やや離れてアンティキティラが最後方を形成して、スタンド前へと入る。

隊列は12馬身程度、ペースがやや落ち着くホームストレートで一気にテンカジョウが進出、外に切り替えて3番手につけていく。これを追うように後方にいたアーテルアストレアもポジションを上げ、1、2コーナー中間へ。

向正面に入る頃には中央勢4頭が前を固める形に。逃げるアンデスビエント、馬体を合わせてライオットガールが2番手。一旦上昇後、また息を入れつつテンカジョウが離れた3番手。懸命に手綱を動かしながら4番手のアーテルアストレアがそれらを追っていく。
その後方では、クレスコジョケツ、マルグリッドらを交わす勢いでサンオークレアが発進。中央勢を追いかけて、3コーナーのカーブへ。

3、4コーナー中間で早くもアーテルアストレアが先頭に変わる。応戦するアンデスビエントとライオットガールの先行勢2頭。そしてアーテルアストレアの進出を一旦やり過ごしたテンカジョウは4コーナー手前で一気にスパート、JRA勢4頭横並びで最後の直線に入る。

あと200mを切ってアンデスビエントが後退し3頭の攻防へ。
外からテンカジョウが先頭に踊り出ると、真ん中のアーテルアストレアも必死に食い下がる。ライオットガールは一杯になって3番手に。そこに外から接近するサンオークレア。

残り100mで完全に抜けたテンカジョウが、粘るアーテルアストレアをねじ伏せてゴールイン。最後は2馬身と突き放しての勝利、ダートグレード2勝目を決めた。
テンカジョウの強さはさることながら、スタートの後手を正面スタンド前でリカバリー、勝負所も慌てることなく冷静に運んだ松山弘平騎手の手腕が光る勝利であった。

アーテルアストレアも自分の競馬をしての2着。3着はライオットガールがなんとか死守。そこに3/4馬身差と迫った兵庫のサンオークレアは惜しくも4着。地方馬最先着となった。アンデスビエントが5着、スマイルミーシャは6着に敗れた。

◆テンカジョウはこれで8戦5勝。昨年制した船橋のマリーンカップ(Jpn3)以来の重賞2勝目を挙げた。ここ2戦はJBCレディスクラシック(Jpn1)とクイーン賞(Jpn3)で3着続きと強敵相手に苦杯をなめたが、今回は見事歴戦の古馬を撃破しての戴冠となった。


獲得タイトル

2024 マリーンカップ(Jpn3)
2025 兵庫女王盃(Jpn3)

◆JRAの松山弘平騎手は(中央・地方合わせて)通算重賞67勝目。
兵庫のダートグレードは2023年兵庫ジュニアグランプリ(イーグルノワール)以来の3勝目。

◆JRAの岡田稲男厩舎は(中央・地方合わせて)通算重賞16勝目。兵庫のダートグレードは初制覇。(※河内孝夫オーナーと岡田稲男調教師はクロジシジョーのドバイ遠征のため不在。右写真は代理で表彰に立った大西貴史調教助手)

◆松山弘平騎手 優勝インタビュー◆
 (そのだけいば・ひめじけいば 公式YouTubeより)

「本当に馬が強かったなぁと。もうその一言ですね」

鞍上の松山弘平騎手は勝利インタビューの開口一番、テンカジョウの走りを讃えた。

元々発馬に若干課題は見られたが、今回は出遅れる形に。

「スタートするギリギリまで我慢してくれていたんですけど、本当に(ゲートが)開く寸前で態勢を少し崩してしまいまして出れなかったんですけど。3番という枠で、向正面なんかは少し嫌な形かなと思いました。前もちょっと楽だなと思ったので、こっちの正面に来てからは少しポジションを上げさせてもらって前をつつくような競馬をさせていただきました」

序盤のビハインドをリカバリーし、同時に先行勢にもプレッシャーを与える見事な前半の手綱さばきだった。

道中早めに進出するも、終始手応えは十分。ただコーナーの多い競馬はまだそれほど経験がないため、課題も見られた。

「コーナーでは少し置かれるようなところはあったんですけど、直線に向いてからはしっかり伸びてくれて強い競馬をしてくれたと思います」

テンカジョウはこれで8戦5勝、キャリアも浅くまだまだ成長が楽しみな牝馬だ。
手綱を取った鞍上もそのポテンシャルには太鼓判を押す。

「能力は非常に高い馬ですし、こういった競馬もしてくれたのでこれからも先が楽しみな馬だなと思います」

松山弘平騎手はこれで兵庫のダートグレード競走3勝目。
2020年の兵庫ゴールドトロフィーJpn3(サクセスエナジー)、2023年兵庫ジュニアグランプリ(イーグルノワール)に続く勝利で、あとは兵庫チャンピオンシップを制すると兵庫のダートグレードは完全制覇となる。

「園田は地元兵庫県で大好きな競馬場ですし、ここでこうした勝利を挙げられたことをすごく嬉しく思いますし、今日乗せていただいたことに感謝しています」

兵庫出身の松山騎手の勝利は地元競馬ファンにとっては嬉しいかぎりだろう。

松山騎手の人柄の良さは定評があるが、本当に終始丁寧な受け答え。このインタビューのコメントもあえて松山騎手の言葉の通り記載したが、実直な人柄が表れているように思う。

中央では、デアリングタクトで無敗の牝馬三冠を達成した2020年から5年連続で年間100勝超えを継続中。そして同時にリーディングトップ5入りを果たしている。
今年も4月7日現在で33勝の3位につけているが、この先、初のリーディングというのも期待したいところだ。

総評

岡田調教師はドバイ遠征のため不在。代わって取材に応じた大西貴史調教助手は「ゲートでばたついて遅れてしまいましたが、松山騎手がカバーをしてくれました。途中で上手く外に出してくれて、厳しいかなと思った中、力でねじ伏せる強いレースを見せてくれました。改めて強い馬だなと思いました。力のいる馬場は合っているようですが、広い馬場の方がいいとは思います」と振り返った。馬体もまだ緩いところがある中、ここまで好成績を挙げてきたとのことで今後の伸びしろが楽しみだ。
一方、悔しさが溢れていたのは今回がラストランだったアーテルアストレア陣営。橋口慎介調教師は「うーん、左回りだったら…。右回りだとどうしてもコーナーで遅れるから。こういう競馬しかできないんだけども」と天を仰いだ。鞍上の菱田裕二騎手も「1番枠を引いた時点でどうしようかとは思いました。テンカジョウにも早めに被せる感じで上がったんですけど。自分の競馬はできましたが、最後に勝てず悔しいです」と肩を落とした。力負けではない、そんな思いが両者から伝わってきた。

”あーちゃん”の愛称で親しまれたアーテルアストレア。ラストランを見届けようと多くのファンが園田を訪れていたようだ。この後は「急いで繁殖に出さないと」と橋口師。夢の続きは次の世代に託される。

地元兵庫勢ではサンオークレアが最後に良い脚を見せてくれたし、スマイルミーシャも着外とはなったが、課題のスタートは決めてくれた。これが復調のきっかけになればと願うばかりだ。

そして、今回はとにもかくにもその強さが光ったテンカジョウ。この後は一旦放牧に出て、この先の大目標となるJBCを目指す。

ここを弾みにいざ天下獲りへ!大きく羽ばたいてもらいたい。

 文:木村寿伸
写真:齋藤寿一

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