騎手クローズアップ

万里一空 決戦の地で巻き起こす風

~土方颯太騎手~

今年デビューした西脇所属4人の新人騎手の1人、土方颯太騎手。高馬元紘厩舎所属の17歳だ。
4月のデビューから11月終了時点で26勝と、減量が1キロ取れる31勝まで目前に迫る活躍を見せる。

そして9月から始まったヤングジョッキーズシリーズ(以下:YJS)の西のトライアルラウンドでは、ホームの園田で奮闘、続く遠征先の金沢で勝ち星を挙げるなど大活躍を見せ、【地方競馬西日本】の堂々首位で12月のファイナルラウンドへ向かう。
デビューから半年余り経った今、何を感じ、どこを目指すのか。ヤングジョッキーズシリーズファイナルラウンドへの意気込みも含めて語ってもらった。

YJS トライアルラウンドを振り返って

「まさか首位でとは思わなかったですけど、金沢で1、2着で帰ってこれたのがすごく嬉しかったです」

土方騎手は、少しはにかみながら、YJSトライアルラウンドの結果を振り返った。

まずは9月5日の園田で4、6着。続く10月29日の金沢で1、2着と、計4鞍で70ポイントを挙げ、逆転で首位となった地方競馬西日本のトライアルラウンド。

園田の初戦は単勝8番人気のソウシュラリクリに騎乗。道中最後方から直線一気の追い込みで4着に入った。

「もうちょっと早めに仕掛けてもよかったのかなとは思っていて。直線ですごく外を回されて4着やったんで。横の隊列のもうちょっと前の方にいたら着順は変わっていたのかなとは思ってるんですけど」

園田2戦目も同じく8番人気のヴラマンクで6着に入った。道中は中団の前で進めて、早めにしごきつつ、粘りを見せた。

「意外とペースが遅かった分、前に行って正解だったなと。馬もよく頑張ってくれてましたね」

いずれも人気以上に走らせて、20ポイントを獲得。ファイナル進出に希望を残して、西日本のトライアル最終日、金沢での2戦に臨んだ。この時点でトップの長江慶悟騎手(笠松)とは44ポイントの差があった。

金沢の初戦は、3番人気のメイショウメイボクに騎乗、スタートの出はさほど早くなく、押して好位を取った。

「金沢は内が深くて、みんな内を空けているんで、あまり内を走りたくないなと思ってたんですけど、うまいこと1コーナーで前が流れていたので、割り切って後ろに下げて、中団ぐらいで競馬をしました」

そこから馬群を縫うように最後は内目から伸びて勝利を掴んだ。

「馬が砂を被って嫌がってたところがあるんで、なるべく砂を被らないところを進みながら捌けたらいいなと思っていたんですけど、外に馬がいたんで外にも出せなかったんで、内が開くのを待って、どこまで脚を使ってくれるかなと願いながら4コーナーを回っていました」

途中で走るのをやめたりする気性的にムラがある馬と聞いていたそうだが、このときは思いのほか素直に走ってくれたと振り返る。それもなるべく機嫌を損ねぬように馬を誘導した鞍上の手腕によるところもあるだろう。

そして、2戦目は3番人気のアリストロシュで好スタートを切ると、促して中団でレースを進めた。1、2コーナーでややバランスを崩す場面があったが、これも馬の気性的なところが出て、砂を嫌がり外に寄れてしまった。

これについては「そこから砂を被らないように外目を回って、リズムよく回ってこれたらいいなと思って乗っていました」とのことで、馬の動きに対して即座に判断するあたり、ルーキーながらさすがの対応力だ。
その後は最後の直線で追い込んでの2着、勝利まであと一歩だった。

「このときは1戦目と違って、馬場の軽い外々回る王道の競馬をしてみたんですけど、ロスはあっても馬が3、4コーナーでよく伸びてくれたんで、”これならもしかしたらいけるかもしれないな”と手応えを感じながら乗っていました」

決してワンパターンではなく、その状況、馬の動きによって、進路取りを考え、それを形にする柔軟性。プロの騎手だから当たり前かもしれないが、デビューしてわずか半年。しかも2ヶ月ほどは怪我で戦線離脱していたことを考えれば、いやはや将来楽しみなルーキーだなと筆者も思わず感心してしまった。

こうした普段とは異なる地区、そして同世代との戦いの中で学ぶことは多々あったと土方騎手は話す。

「いつもと違う馬で、苦戦するところもあったんですけど。金沢の馬は行きっぷりが違うというか、すごくかかっていくイメージですね。馬場が軽いのかわからないですけど。内は言われているほど深そうには思えなかったですけど、意外と内も使えるなと思いながら初戦は乗っていました」

また、JRA若手騎手のきれいな騎乗フォームも参考になった。騎乗姿勢は日頃から熱心に研究している土方騎手だが、それでもその姿勢や馬の動かし方は吸収すべきところがあったようだ。

「若手騎手が集まるとペースは速くなるのは速くなるんですけど、極端に落ちつくときもあってムラがありますね。普段先輩方と乗っているときはペースにまとまりがあるというか、でも先輩方と乗っているときとは違って、直線はスペースが空くので捌きやすいです。先輩はそんなに簡単に開けてくれないですから(苦笑)。そのあたりは経験が活きていると改めて思いました」

金沢での1戦目の勝利時には、JRAの田口貫太騎手をはじめ、他地区も含めていろんな騎手から「おめでとう!」と祝福の言葉をかけてもらい、少し話が弾んだ。
教養センター時代の同期である望月洵輝騎手(愛知)と城野慈尚騎手(高知)とは「南関東の騎手や他の同期はどう?」など世間話や情報交換をしながらYJSを戦い、和気藹々な雰囲気の中で楽しむことができた。

兵庫のジョッキーとしては現時点で唯一ファイナルに挑むことになる土方騎手。(補欠1番手に高橋愛叶騎手がいる)
改めて園田、そして中央の中京競馬場で行われるファイナルへの思いを尋ねてみた。

「やっぱり園田は地元の競馬場なんで、勝ちたいのはありますね。中京は直線が長く、左回りですしね。芝がどんな感じか、ちょっと経験してみたいなとは思ってます」

土方騎手は岐阜県出身で、中京は比較的実家から近いエリアにある競馬場だ。競馬好きの父の影響で騎手になったというが、幼い頃はその父に連れられ、チャンピオンズカップ(GⅠ)を観にこの地を訪れたこともある。

このことに触れると「その競馬場で乗れるのは嬉しいですね」と思わず顔がほころんだ。

気になるのは、地元にほど近いということで、親戚一同による大応援団が、当日来てくれるのかというところだが…。

「一応あるらしいですけど…(笑)。みんな行くとは聞いています。近場の人とか、土曜日で休みですし」

ファイナル進出が決まったときも、「やったね!絶対観に行くで!」と親御さんは大喜び。比較的応援しに行きやすい競馬場というのも嬉しいところだろう。
園田と中京という土方騎手にとって縁のある場所での大一番というのも何か運命めいたものがあるかもしれない。

兵庫所属としては、このままいけば1人で挑むことになるが、「おめでとう」と声をかけて送り出す新庄、塩津、高橋の同期三騎手の思いも背負っている。

「ちょっとプレッシャーも背負いながら、期待に応えられるように頑張りたいと思います」と、土方騎手は静かに決意を口にした。

デビューから半年余り経って

11月終了時点で、通算26勝を挙げている土方騎手。減量が1キロ取れる31勝が近いが、ここまでの結果を自身はどう捉えているのだろうか。

「そうですね…途中怪我していて26勝、まぁもうちょっと伸ばせたかなとは思うんですけど、現状これぐらいなんで。1頭1頭大切に乗れたらとは思っているんですけど。20勝するまでがすごく焦っていたんで」

重賞で騎乗できるのは通算20勝以上という決まりがある。

「重賞で乗れる機会があったんですよね。それで余計意識して、勝ちに急いでみたいな感じの競馬をやっていたんで」

結局、このときは実現しなかったが、すでに今は20勝超え。「1回は経験として乗ってみたいとは思うんですけど」と、近い将来訪れるであろう、そのときを待っている。

そしてこの先、勝利を積み重ねていけば、減量の恩恵も1キロずつなくなっていく。

「1キロ取れてくるごとにやっぱり馬の走りも違ってくるのかなとは思ってるんですけどね。YJSで定量になったときもちょっと馬の動きがやっぱり違ったんで。エンジンがかかるのが遅いですかね。いかに早く動かすかとか課題になってきますかね」

戦線離脱で見えたもの

4月のデビュー後、同期の中でトップを走り、順調に勝ち星を挙げていった土方騎手だったが、6月に入って間もなく、調教中、馬に腹部を蹴られて肝臓を損傷してしまう。
そこから2ヶ月弱の入院生活を余儀なくされたが、その間はネット配信で園田競馬を観て過ごしていた。元々自分が調教していた馬に他のジョッキーが乗ったらどんな走りをするのかなどをチェックをする日々。そこで学べるものもあったという。

「このジョッキーはここらへんを捌いてくるのかとか、レースの乗り方は勉強になりましたね。特に新庄くんの位置の取り方や乗り方は、やっぱり減量が同じなので、参考になりました」

そして5月31日以来の騎乗となる8月8日の復帰戦を迎えた。

「だいぶ感覚が違いましたね。戻るまでには1ヶ月ぐらいかかりましたかね。すぐ疲れて、体力が戻ってないなという感じがしました」

1ヶ月ほど経つ頃には、体力も戻り、勝ち星も増えた。体力さえ戻れば、今度は休んでいた間、俯瞰でレースを見ていた経験が活きてくる。

「見え方は変わりましたね。デビューしたときは、後ろからになってしまったら、向正面に入ってから仕掛けたりとかしてたんですけど、徐々に動かしながら、残り600m過ぎたぐらいでじわーっと動かしていく感じで。仕掛けを遅らせたことによって馬もそんなにバテなくなりましたし、最後の直接でまた伸びてくれるようになりました。後ろからの競馬もできるようになってきたなとは思っています」

まさに怪我の功名。気がつけば、以前より冷静に乗れるようになり、視野も広くなった自分がいた。

騎手仲間について

今年のデビュー4人組の中でも、特に新庄騎手と勝ち鞍の上で競い合っているように見えるが、本人はそれほど意識していないようだ。

「勝ち星の意識はそこまでないですね。もちろん馬の話はお互いしますが。(塩津騎手や高橋騎手も含めて)競い合える同期がいることで一緒に頑張れるなぁとは思っています」

続けて、「理想とする先輩は?」と尋ねてみると、少し思案した後、小牧太騎手の名を挙げた。

「やっぱり位置取りというか、判断力がすごいなと思います。たまに小牧騎手に訊くこともありますよ。もっとタイトに回った方がいいよとか、もうちょっとスタートしてから流していった方がいい、あんまり早く抑えすぎない方がいいとかいろいろ教えてもらってありがたいですね。他の先輩にも訊きたいのは訊きたいですけど、自分はコミュニケーション能力がなくて…萎縮しちゃうんですよね(苦笑)」

小牧騎手から話を聞いたときも、小牧騎手の方から声をかけてくれたから成立したとのこと。レースのときと同様、勇気を持って先輩の元へ飛びこめば、また得られるものがあるかもしれない。ぜひこのあたりは頑張ってもらいたい。

思い出のレース

デビューから半年が経ち、何か気持ちの面で変化はあるのか?との問いに、「騎手としての意識には変わらないですね」ときっぱり一言。こうして取材をしていても本当に真面目というか、実直な性格が見てとれる。

「真面目って言われることも多いですけど、乗せてもらいたいという一心でやっているんで。ただ騎手という仕事は思っていた通りじゃないっていうか、なんかいい意味で、思っていた以上に難しいなと思いました」

ただ、難しいからこそ、より魅力的に感じるとも話す土方騎手。その難しい戦いの中で挙げた26勝のうち、特に印象に残っているものにクーシェルで勝った8月29日のメインレース(3歳以上C1特別戦)をまず挙げた。

「初めてメインレースを勝って、820m戦も初めて勝ったんで。距離によって難しさがあります。820mはやっぱり焦ってしまうというか、押して押してになってしまうんですけど…1400mからはゆっくりいけるんですけどね」

一般的には距離が延びるほど、騎手の手腕が試されると言われるが、土方騎手からするとむしろそういった長い距離の方がありがたいとのこと。思考を巡らせて騎乗する彼にとっってはそちらが合うということだろうか。

それともう一つ、8月9日の6R、ファッシネイトパイに騎乗して差し切ったレース(3歳以上C2戦)も印象的なものとして挙げてくれた。

「初めての差しの競馬やったんですけど、仕掛けどころとか、怪我明けの2日目で意外と1番冷静に乗れた馬でしたね。怪我明けの勝ったレースの中では」

冷静に乗れた要因については、「この馬の脚を信じていたというのはありますけどね」と話す。実際にこの馬の追い切りに跨り、良い脚を持っていることを事前に感じていた。調教に乗る大切さを改めて知った一戦だった。

プライベートについて

休みの日は、もっぱら寝ているという土方騎手。「疲れているのか、ほんと1日中寝てますね。体作りのために自宅で筋トレや体幹を鍛えるトレーニングはしていますけど」

本当にそれだけなのか?と、食い下がって質問を続けると、「最近、圧力鍋を買いました。いろんなものを作ってみようかなと思って(笑)」と興味深いワードが飛び出した。

時折、外食も行くが、親元離れた今は自炊がメインだ。これまで3回ほど使ったという圧力鍋の献立は…。

「豚の角煮を一度王道で試してみたいなって思って作って、あとは、牛すじ煮込みと、鍋のレシピにあったローストビーフを作ってみました」

気になるその出来栄えは?

「やっぱり機械の力ってすげぇなと思って。やっぱ家電ってすごいんやなって。誰かに振る舞ったりはしないですけど、1人で圧力鍋に感動しました(笑)」と、大変満足の出来だったようだ。

実家暮らしのときには、「自分が食べたいものは自分で作れ」が家訓だったそうで、親の手伝いをする中で料理を作るのが好きになった。そして今もその教えを守っている。

今後に向けて

今後の目標について、「重賞を勝てるような、いや、乗せてもらえるようなジョッキーになりたいなと思います」と答えた土方騎手。

ここまで取材を続けてきて感じたのは、聡明で、落ち着いていて、言葉選びも実に丁寧だということ。このとき言い直したのも、”重賞を勝つには、まず乗せてもらえないと”と瞬時に頭をよぎったからだろう。こういうところが真面目な彼らしい。

特にこれといった騎手の理想像はまだないとのことだが、

「馬の邪魔はしない。周りに気を配って乗る。その中でも勝つところはしっかり勝って、少ないチャンスをいかにものにするかだと思っています」と、自分が今やるべきことは明確に認識している。

父に競馬場に連れてこられたことがきっかけで進んだ騎手の道。実際に仕事として向き合う今、「憧れていた頃と比べて、ジョッキーに対する熱は日に日に高まっています」と真っ直ぐな目で話してくれた。

そして、間もなく迎える12月のYJSファイナルラウンドに向けては、

「まずは1着取れるように、優勝を目標にして頑張りたいですね。(優勝した暁には)賞品があるじゃないですか。あれでなんか作りたいですね」と笑顔で締めくくった。

果たしてどのような騎乗で沸かせてくれるのか、そして自分へのご褒美に何を作るのか、今から楽しみなところだ。

12月12日(木)の園田、14日(土)のJRA中京と2日間にわたる大一番、YJSファイナルラウンドで巻き起こす”土方旋風”に大いに期待したい。

文:木村寿伸   
写真:斎藤寿一   

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