2023 新春賞 レポート
2023年01月03日(火)
重賞『第65回新春賞』(園田1870m)
1986年以降40年近くにわたり毎年1/3に行われている新春恒例のハンデ重賞「新春賞」。
2017年の初制覇を皮切りに2019年から4連覇、新春賞5勝の“ミスター新春賞”エイシンニシパによる明け10歳での5連覇に期待が集まったが、年末に故障し出走回避。
また、兵庫大賞典ではジンギとクビ差の激闘を演じ、摂津盃で重賞初制覇を果たしていたシェダルも蹄骨の骨折で引退が決まった。
そんな中、虎視眈々と重賞制覇を目論む11頭が顔を揃えた。
1番人気は、単勝2.7倍でタガノウィリアム。トップハンデの56.5kg。昨年の姫山菊花賞は得意の逃げに持ち込むと、僚馬のラッキードリームには差されたがジンギを抑えて2着に粘った。前走の園田金盃は4着も好位に控える競馬で一定の結果を残し、今回同型は揃ったが重賞初制覇のチャンスと見られた。下原理騎手とは初コンビを組む。
2番人気は、単勝3.2倍のクリノメガミエース。最軽量の52kg。昨年3歳時に笠松のぎふ清流カップで重賞初制覇を遂げると、秋には楠賞を追い込んで3着、園田金盃は大逃げで3着と、変幻自在のレースぶりで好走を続けた。今回も金沢・吉原寛人騎手(現在高知で短期騎乗中)を背に、どんな戦法を取るかにも注目が集まった。
3番人気は、単勝5.5倍のアキュートガール。クリノ同様、明け4歳牝馬で最軽量の52kg。JRA新馬勝ちの後、1勝クラスで低迷して兵庫に移籍。移籍後B1からA2まで4連勝を飾って今回重賞初挑戦となった。下原騎手がタガノ騎乗で、こちらは笹田知宏騎手と初コンビ。
4番人気は、エイシンアンヴァルで単勝5.9倍。ハンデは54kg。抑えて折り合いを欠くレースが続いていたが、3走前に抑えずマイペースを逃げを打つと快勝。ここ2走は大逃げでA2を連勝し、3連勝で重賞初挑戦となった。
上位は4頭で人気が少し割れ、やや離れた5番人気に単勝13.9倍で末脚自慢の11歳馬エイシンナセルが続いた。
スタートは横一線。そこからタガノウィリアムが押して先頭に立ち、アキュートガールが2番手。レース序盤で早くも新子勢は2頭で前を固める理想的な展開に持ち込んだ。大逃げで連勝してきたエイシンアンヴァルは折り合い重視でそれほど出してはいかずに3番手。クリノメガミエースは中団に抑え、エイシンナセルは後方3番手で脚を溜めた。
1~2コーナーでコスモバレットが内からスルスルと3番手へ上がり、2周目向正面で早くもエイシンアンヴァルが後退した以外は大きな動きもなく3コーナーを迎えた。
残り400mで、逃げるタガノウィリアムを外からアキュートガールが抜いて先頭に立っていくと、ぽっかり空いた内を通って一気にエイシンナセルが差を詰め、アキュートガールに内から並んで直線へ。
直線は2頭の叩き合いになったが、最軽量52kgの分もあって伸びが勝ったアキュートガールが勝利。JRAから転入後5連勝での初重賞制覇となった。
新春賞5連覇を狙った吉村智洋騎手と11歳馬エイシンナセルのコンビは、3~4角インまくりで場内を沸かせたが2着。
3着は接戦となったがクリノメガミエースが上がり、コスモバレットが4着と石橋勢2騎が続いた。
いいペースに持ち込んだかに見えたタガノウィリアムは馬群に呑まれてしまい10着だった。
上位3頭は1番人気→2番人気→6番人気の決着で、三連単は2,540円。
アキュートガールは、重賞初挑戦で初制覇。JRAから転入後無傷の5連勝で初タイトルをゲット。
獲得タイトル
2023 新春賞
笹田知宏騎手は昨年の兵庫ダービー(バウチェイサー)以来となる重賞10勝目。
新春賞は初制覇。
新子雅司厩舎は、昨年園田金盃(ラッキードリーム)に続く重賞53勝目。
新春賞は2016年アクロマティック以来となる2勝目。
出走馬
レース
年末年始開催はずっとお天気に恵まれ、気温も10℃とこの時期としては過ごしやすい気候。
年末から続く、内2~3頭分を空けながらレースをするシーンは変わらないが、勝負所で敢えて内を使って進出する馬も出始めていた。
スタート
スタートは大きな出遅れなく横一線。10エイシンダンシャクが好スタートを決めた。
1周目向正面
一旦は9アキュートガールが押し出されるように先頭に立ちかけたが、2タガノウィリアムがスタートから200mでハナを奪う。1クリノメガミエースも一旦は前の争いに加わりかけたが外が積極的に行くのを見ると抑えた。11エイシンアンヴァルは3番手外で折り合いに専念。
1周目スタンド前①
好スタートの10エイシンダンシャクも好位に控え、逃げ先行馬が揃った割には落ち着いた展開に。6コスモバレットよりも後ろの中団まで1クリノメガミエースは控える展開。3クレモナ、5メイプルブラザーと続き、4エイシンナセルは後方3番手。8ケンジーフェイス、7アワジノサクラという並びになった。
1周目スタンド前②
新子勢2頭が前を固める理想的な形に持ち込んでゴール板前を通過。あと1周。
2コーナー~向正面
6コスモバレットが1~2角で内からスルスルと3番手まで浮上した。馬群全長は10馬身くらい。
向正面~3コーナー
2タガノウィリアムと9アキュートガールが徐々にペースを上げていく。好位にいた11エイシンアンヴァルが後退し、代わって4エイシンナセルが3~4コーナーでインから一気に上昇を見せる。
4コーナー~最後の直線
残り400mで先頭に立った9アキュートガールに、内から4エイシンナセルが並びかけて直線へ。2タガノウィリアムは後退し、3着争いは6コスモバレット、1クリノメガミエースの追い比べに、外から8ケンジーフェイスも迫ってくる。
最後の直線①
外は4歳牝馬の9アキュートガール、内は11歳牡馬の4エイシンナセル。後続を離しながらの猛烈な追い比べ。
最後の直線②
最軽量52kgの斤量もあり、伸びが勝った9アキュートガール。
最後の直線③
残り50mからぐいっぐいっと前に出た9アキュートガール。4エイシンナセルの後ろは7馬身ちぎれた。
9アキュートガールが1馬身差で優勝。兵庫移籍後5連勝で重賞初制覇を果たした。2着には4エイシンナセル、明け11歳馬が激走した。3着争いは1クリノメガミエースが同じ石橋厩舎の6コスモバレットとの争いをハナ差だけ制した。
管理する新子師は、転入当初の印象を「怖がりな牝馬」と話していたが、連勝街道を歩むうちに少しずつその面も解消されていく中での大一番だった。
新春賞を明け4歳牝馬が勝つのは史上初。52kgの軽量ハンデだったとはいえ、A2を勝ち上がったばかりで重賞初制覇を成し遂げるのだから非凡な能力の持ち主と言えるだろう。
「レース前に先生から揉まれない方が良いと聞いていたのでスタートだけ気を付けて出していきました。内からタガノウィリアムが見えたのでそれを先行させて、自分の形に持ち込むことだけに集中した」と笹田騎手。
その言葉の通り理想的な2番手でレースを進め、「すんなり折り合いもついてくれた。ずっと気分よく終始リラックスして走ってくれていた」と不安面を出させない展開に持ち込んだ笹田騎手の手腕もさすが。
残り400mで厩舎の先輩タガノウィリアムを楽に抜いて先頭に立ち、後ろを警戒しながら追い出しのタイミングを計る中で、一気にインから吉村騎手とエイシンナセルが急接近。
「今の馬場になって、内外両方から来るので気を付けてはいた。死角を突かれた形にはなったが、エンジンかけた時にすんなり反応してくれた」という言葉の通り、先頭を譲らないまま直線の追い比べを制した。
笹田知宏騎手 優勝インタビュー
(そのだけいば・ひめじけいば 公式YouTubeより)
スタート地点に赴いていたという新子師は「先頭と2番手を走っているのが見えて、これならどっちかは勝つなと思った。56kgでも勝ってきた馬なので、52kgは軽かったね」と安心してレースを見られたようだった。
新子師はこの勝利で、兵庫県競馬の重賞勝利記録の単独3位になった。
1 曾和直榮 66勝
2 田中範雄 58勝 ※現役
3 新子雅司 53勝 ※現役
4 橋本忠男 52勝
5 橋本忠明 40勝 ※現役
「今年中には田中範雄先生を抜きたいね」と話した新子師は、年始開催を終えて、地方通算996勝。大台の1000勝も近づいている。
兵庫県競馬における1000勝調教師は過去11名いるが、最年少記録(49歳3ヶ月2日)と最速記録(18年6ヶ月19日)を共に森澤憲一郎元調教師が持つ。
新子師は現在44歳10ヶ月、開業から約10年7ヶ月ということで、大幅に記録を更新しての達成となることが濃厚となっている。
「早く勝ちたいけど、来週はそんなに使う馬にいないので姫路かな」、金字塔まであと4勝だ。
総評
今後のアキュートガールのローテーションについては未定とのこと。
夏のグランダムシリーズなどを他地区への遠征を考えると、「もっと賞金を稼がないとなかなか選んでもらえない」(新子師) とこれから最適な番組を探していくことになる。
兵庫県は牝馬の層が薄い・・・そんな状況が近年続いていたが、そこに誕生した牡馬混合重賞の優勝馬アキュートガール。
古馬の牡馬混合重賞を兵庫の牝馬が勝つのは、2019年園田FCスプリントのタガノカピート以来。中距離戦線においては2015年園田金盃のエーシンサルサ以来7年ぶりのことだった。
来年からは、大井で行われているJpn3「TCK女王盃」が「兵庫女王盃」と名前を変えて、4月に園田競馬場で行われることが発表されている。兵庫初の牝馬ダートグレードが盛り上がるためにも、地元馬の活躍は必要不可欠。
それだけにこのアキュートガールの出現は嬉しいことだ。3着クリノメガミエースと共に4歳牝馬、まだ伸びしろもある年代の活躍がさらに楽しみになってきた。
写真:齋藤寿一
文:三宅きみひと