2023 六甲盃 レポート

2023年06月01日(木)

兵庫県競馬において1年の中で唯一2400mで行われる長距離レース「六甲盃」。第61回となる今年は大井、船橋、名古屋、高知、佐賀からの遠征馬5頭を含むフルゲート12頭が顔を揃えた。そのうち重賞ウイナーは半数の6頭という豪華な顔ぶれ。去年の覇者である地元兵庫のジンギの姿がないのは寂しいところだが、
そのジンギを破り、現在兵庫の中長距離王に君臨するラッキードリームをはじめ、それぞれの地域でトップクラスの馬たちが集結した。

人気はラッキードリームと遠征馬に集まったが、最終的には特にラッキードリームと高知のグリードパルフェの2強ムードが漂っていた。

その人気の一角、2021年の門別三冠馬ラッキードリームは、昨夏に転入後、地元園田では負け知らずの5戦5勝。前走の兵庫大賞典はメイプルブラザーに半馬身差まで迫られたが、きっちり勝利を決め、王者の威厳は保った。道中の進みの悪さ、直線で遊ぶ癖が出た中での勝利ということで、それらの課題をどう克服するかも今回のポイントだったが、最終的には1番人気(単勝2.0倍)の支持を集めた。野田オーナー、新子厩舎は前日のさきたま杯(浦和)をイグナイターで制し、兵庫所属馬初のJpn2制覇という快挙を達成したばかり。返す刀で連日の重賞制覇となるか期待がかかった。


一方、差のない2番人気(単勝3.1倍)になったのは高知のグリードパルフェだ。
2021年の高知県知事賞や今年のはがくれ大賞典(佐賀)を勝利し、ここまで重賞2勝。なんといっても前走のオグリキャップ記念(笠松)では、後に大井記念を制するセイカメテオポリスのアタマ差の2着と、勝利まであとわずかの好走を見せた。
初の兵庫遠征となった2月の白鷺賞(姫路)でも3着に入っており、遠征でも堅実な走りを見せ続ける。

3番人気(単勝6.9倍)の支持を受けた佐賀のヒストリーメイカーは、中央からの移籍緒戦となった白鷺賞でジンギとの一騎打ちを制し、重賞初制覇。
その後、凡走や一頓挫あったが、前走の佐賀スプリングカップで2着に入り、復調気配を見せていた。

大井のウラノメトリアは、去年の北國王冠で名古屋アンタンスルフレのアタマ差2着。今回は初コンビとなる金沢の名手吉原寛人騎手を背に、そのときのリベンジ、そして悲願の重賞制覇を目論む。4番人気(単勝7.4倍)。

出走馬

1番  チェスナットコート 濱尚美騎手
2番 フーズサイド 廣瀬航騎手
3番 ナムラタタ 田野豊三騎手
4番 エイシンダンシャク 大山龍太郎騎手
5番 (船)トーセンブル 杉浦健太騎手
6番 ラッキードリーム 下原理騎手
7番 (名)アンタンスルフレ 丸野勝虎騎手
8番 (大)ウラノメトリア (金)吉原寛人騎手
9番 (高)グリードパルフェ 赤岡修次騎手
10番 アキュートガール 笹田知宏騎手
11番 メイプルブラザー 吉村智洋騎手
12番 (佐)ヒストリーメイカー 石川慎将騎手

レース

スタート

1周目正面スタンド前

1周目向正面

1周目3〜4コーナー

2周目正面スタンド前

2周目2コーナー

2周目向正面

2周目3コーナー

2周目3〜4コーナー

4コーナー〜最後の直線

最後の直線

最後の直線

ゴールイン

10年ぶりに“5月の梅雨入り”が発表されたばかりの近畿地方。この日も上空は曇天、警戒レベルの大雨が日本列島を襲うという予報があったが、幸いレースまで天気はもってくれた。
メイプルブラザーの枠入りにやや時間がかかったものの、比較的スムーズに態勢が整う。そこまで大きな出遅れはなくスタートを切った12頭。


中でもラッキードリームはやや内に寄れたものの、好スタートを決め、一旦は先頭に。その後すぐさま後続に先頭を譲り、好位の一角につける。代わって先頭に立ったのは大井のウラノメトリア、吉原騎手。しかし1周目1コーナー手前で、紅一点アキュートガールの笹田騎手がハナを奪う。2番手に名古屋アンタンスルフレが浮上し、結局ウラノメトリアは3番手、ラッキードリームは4番手好位の外、その内にエイシンダンシャクが続き、ほぼ差がなくラッキードリームの背後につける高知のグリードパルフェと赤岡騎手。中団に一昨年の覇者、船橋のトーセンブル、前走兵庫大賞典2着のメイプルブラザーが続き、後方に佐賀のヒストリーメイカー、ナムラタタ、フーズサイド、そして高知から期間限定騎乗中、濱のチェスナットコートが最後方を形成。


序盤こそ若干縦長となったが、前を引っ張るアキュートガールがペースをぐっと落とし、2周目のホームストレートに差し掛かる頃には、隊列が一団に。
アンタンスルフレ、ウラノメトリアといった先行する遠征勢の後ろ4番手をキープするラッキードリーム。スムーズに好位を追走していたが、1コーナー手前でグリードパルフェの赤岡騎手がスローペースの中で先に動きを見せる。ここでじんわりとラッキードリームの前に出て3番手に浮上。すかさずラッキードリームの下原騎手も促してこれについていく。
人気2頭が動きを見せたことで一気にペースが上がる向正面。
2番手追走のアンタンスルフレが早々に後退する中、逃げるアキュートガールを捕まえにかかるグリードパルフェとラッキードリーム。残り400mでこの2頭が抜け出すと、離れた3番手グループにウラノメトリア、ヒストリーメイカー、ナムラタタが続きここは一団。前を行く2頭と後続との差は5馬身となり、マッチレースの様相を呈して4コーナーから直線へ。


ここで一旦外のラッキードリームが前に出るも、内のグリードパルフェもしぶとく食い下がって再び抜き返す。残り200m、互いの馬体と意地をぶつけながら両者の追い比べは続く。この間、3番手争いも粘るウラノメトリアと追い込むヒストリーメイカーの接戦になるが、それらを尻目に、前を行く2頭は激闘を繰り広げる。
高知の赤岡修次、兵庫の下原理、名手によるデッドヒート。
グリードパルフェ、ラッキードリームによる火の出るような一騎打ちは互いに譲らぬまま最後まで並んでのゴールイン。
熾烈を極めた大接戦の結末は、ゴール寸前でわずかにアタマ差出た高知グリードパルフェ、赤岡騎手に軍配。
兵庫の王者ラッキードリームは惜しくも2着に敗れた。
地元園田では6戦目にして初めて土がついた。
3着には佐賀のヒストリーメイカー、4着に大井のウラノメトリアが入り、ラッキードリーム以外は遠征馬が上位を占める中、ナムラタタは重賞初挑戦ながら5着と地元馬として健闘を見せた。しかし2着と3着の差は大差。いかに今年は2頭が抜けていたかが分かる。

グリードパルフェ(高知)は兵庫初勝利。重賞通算3勝目を挙げた。

獲得タイトル

2021 高知県知事賞(高知)
2023 はがくれ大賞典(佐賀)
2023 六甲盃

◆赤岡騎手は3月の御厨人窟賞(高知)をモダスオペランディで制したのに続き、通算重賞97勝目。今年の重賞3勝目。兵庫での重賞は2020年の楠賞(船橋のサロルンに騎乗)以来通算7勝目となった。六甲盃は初勝利。

◆田中守厩舎は2日前の福永洋一記念(高知)をアポロティアモで制したのに続いて通算重賞59勝目。今年の7勝目。 兵庫重賞は2015年の園田FCスプリント(赤岡騎手騎乗のサクラシャイニー)以来、2勝目。
この日は不在だったため、代わりに兵庫の橋本忠明調教師が表彰を受けた。

◆赤岡修次騎手 優勝インタビュー◆
 (そのだけいば・ひめじけいば 公式YouTubeより)

額に汗を滲ませながら安堵の表情で勝利インタビューに答えた赤岡騎手。
熾烈なマッチレースを、笑顔を交えながら振り返ってくれた。

「ほっとしました。並んだら交わさせないんですけど、それ以上に動き切らないというか。だから他の馬が(視界の外から)ピュッと来るなよという感じでしたけど。ただ、しのいでくれたんで、元々の地力はこの馬も高いんだなと思いました」と愛馬の力を再認識。前走のオグリキャップ記念はカイルには競り勝ったが、ゴール直前、離れた外からセイカメテオポリスの強襲に遭い、惜しい2着に終わっていた。その時のことが脳裏によぎったが、今回の相手は結果的にラッキードリームただ一頭だった。

レースの前半、ラッキードリームの背後につけていたグリードパルフェは2周目の1コーナー手前に差し掛かると、先んじてラッキードリームの前へ出た。勝敗を分けたであろうこの時の仕掛けについて赤岡騎手はこう振り返る。「かなりペースが遅かったんで、ラッキードリームが先に動かないんだったら動こうと、ちょうどマークできた時点で思っていて。先に自分のペースを作っておこうと。それが結果的にラッキードリームが来てからの粘りに繋がったのかなと思います」。

「成長しているというか、他場に来ても落ち着いて走ってくれるんで」と近走は遠征でもしっかり力を出し、結果を残してきた。7歳ながらもまだまだ大いに活躍が期待される。

赤岡騎手にとっては、帰りの飛行機の時刻が迫り、焦りがある中でのインタビューであったと想像するが、それでも笑顔で丁寧に答える自身の誠実さが滲み出た場面だった。高知の名手は素晴らしい。

総評

一方、惜敗の2着となったラッキードリームの下原騎手は2周目スタンド前の駆け引きについて「グリードパルフェに前に出られてむしろ良かったと思いました。良い目標ができたと。こちらは先に先頭に立たされる方が嫌だったから。4角ではこっちが前に出たんだけど、相手がしぶとかったですね。すみません」と悔しさを滲ませた。下原騎手にとっても理想の展開だったが、結果的に一歩及ばなかった。
ただ、課題とされていた直線で遊ぶ面については「今日はソラは使わなかったですね。だから3着とは大差だったでしょ」と下原騎手。さすがに終始競り合う形ではしっかり集中力を見せた。
そうであったなら尚更悔しさも生まれてくるが…。しかし地元馬に半馬身差まで迫られた兵庫大賞典とは、まるで違う走り。やはり力を出し切れさえすれば、地元馬の中では圧倒的に抜けた存在であることを証明して見せた。
グリードパルフェの赤岡騎手、ラッキードリームの下原騎手、双方にとって思惑通りの展開、仕掛けに持ち込んでからの一騎打ち。2周目3コーナーからの火の出るような叩き合いは、兵庫県競馬史の名勝負の一つとして刻まれることであろう。
人馬共に死力を尽くしての戦いは本当に美しく、胸を熱くさせる。

ただ今年は白鷺賞でジンギが、今回はラッキードリームが大接戦の末、遠征馬に敗れるという兵庫勢からすると悔しい交流戦が続いているのもまた事実だ。また秋以降、地元馬の巻き返しに期待したい。


 文:木村寿伸
写真:齋藤寿一

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