2023 園田金盃 レポート
2023年12月07日(木)
兵庫版有馬記念とも称されるグランプリレース「園田金盃」は、今年の中距離No.1決定戦だ。
レースに先立ってファン投票が実施され、JBCスプリントでJpn1優勝を果たしたイグナイターが1位となった。路線が違うため出走してこないことが分かっていても断トツの得票数、改めて人気の高さが感じられた。
ファン投票の結果は以下の通りで、出走意思を示した上位6頭が選出された。
2位ラッキードリーム、3位スマイルミーシャ、5位ベラジオソノダラブ、6位ツムタイザン、7位アキュートガール、19位エイシンビッグボスが優先出走。
ファン投票以外では、エコロクラージュとフィアットルクスの2頭が記者選抜で選ばれ、さらに自場収得賞金上位順にシェナキング、エイシンダンシャク、コスモバレット、メイプルブラザーの4頭を加えた12頭で争われた。
1番人気は、単勝1.4倍でラッキードリーム。昨年は3連覇がかかっていたジンギを破って園田金盃を制覇。今年は兵庫大賞典、イヌワシ賞(金沢)、姫山菊花賞と重賞タイトルを3つ積み上げて重賞10勝。これまで地元馬には一度も負けていない中距離界のエースに金盃連覇の大きな期待が寄せられた。
2番人気は、スマイルミーシャで単勝4.1倍。兵庫生え抜きの3歳牝馬で、ここまで兵庫ダービーを含めて10戦8勝(2着2回)とほとんどパーフェクトの成績。重賞も4勝を挙げている。53kgの軽い斤量を味方にどこまで強豪古馬&牡馬と渡り合えるのか、試金石の一戦。
3番人気は、単勝6.5倍のツムタイザン。2歳王者に輝いたが、その後屈腱炎で長期離脱。復帰後やや時間はかかったが、ついに今年の摂津盃で重賞3勝目を挙げ、感動の完全復活を果たした。今年は中団控える競馬を会得してレースの幅を広げた中、暮れの大一番に挑む。
さらに、フィアットルクスが単勝13.5倍の4番人気、 エコロクラージュが25.6倍の5番人気で続いた。
出走馬
レース
ゴールイン
天候は晴れ、馬場状態は良。気温15℃で西風がやや強く少し肌寒さを感じる気候の中、重賞ホース9頭が集う豪華な一戦が幕を開けた。
スタートはまずまず揃った中、半馬身ほど最内のスマイルミーシャが出負け。しかし吉村騎手は手綱を押してすぐに巻き返した。
先行争いは外からエコロクラージュがじわっと前へ行き、エイシンダンシャクも手綱をしごいて先行策。さらにその内からラッキードリームも下原騎手が促して積極的にポジションを取りに行く姿勢を見せ一旦は3番手に納まった。
しかし、1周目3~4コーナーで折り合いを欠いてしまったベラジオソノダラブがスタンド前に向くところで先頭に入れ替わり、落ち着かない流れに。
5番手にフィアットルクスが追走し、スマイルミーシャはラチ沿い6番手中団、ラッキードリームを見る形のポジションとなった。
差し勢はエイシンビッグボス、コスモバレットと続き、ツムタイザンはその後ろで後方4番手の位置。さらにメイプルブラザーとアキュートガールが並び、最後方がシェナキング。
馬群全長は約15馬身と縦長、ペースもそれほど緩むことなく1~2コーナーも流れた。
向正面に入って早めに追い上げ始めたツムタイザンが好位5番手へ上がると、その前にいたラッキードリームとスマイルミーシャも前との差を詰めていく。
4コーナーから直線。一気に先頭に立ったのはラッキードリームだったが、内から外に上手く切り替えたスマイルミーシャとその外のツムタイザンが勢いよく伸びる。残り100mで先頭に立ったスマイルミーシャにツムタイザンが並んだところがゴール。
優勝はアタマ差でスマイルミーシャ。道中はインをうまく立ち回った3歳牝馬がビッグタイトルを手にした。ツムタイザンは惜しい2着、道中は外を回りながら僅差の競馬でその強さも光った。
連覇を狙ったラッキードリームは3着、地元馬に初めて敗れる結果となった。ここにアタマ差まで迫っていたのがアキュートガール、新春賞馬が尾林厩舎への転厩初戦で復活の兆しを見せての4着だった。5馬身離れた5着にエイシンビッグボス。
3歳馬の優勝は、2003年マイネルエクソン、2011年ホクセツサンデー、2014年トーコーニーケに続き4頭目。その年のダービー馬による戴冠は史上初。
牝馬の優勝は2015年エーシンサルサ以来、8年ぶり3頭目のことだった。3歳牝馬としてはトーコーニーケ以来9年ぶり2頭目となる。
(※いずれもサラブレッド導入後における記録)
◆スマイルミーシャは重賞5勝目。通算11戦9勝(2着2回)とした。
並み居る古馬&牡馬を破り、3歳牝馬が中距離界の頂点に立った。
獲得タイトル
2022 園田ジュニアカップ
2023 のじきく賞、兵庫ダービー、園田オータムトロフィー、園田金盃
◆吉村智洋騎手は重賞通算46勝目。今年の園田オータムトロフィーを同じくスマイルミーシャで制したのに続き、今年5勝目。園田金盃はこれまで2着4回あったが、嬉しい初制覇となった。
◆飯田良弘厩舎は重賞通算7勝目。吉村騎手同様、今年の園田オータムトロフィーをスマイルミーシャで優勝して以来、今年の4勝目。園田金盃は初制覇となった。
◆吉村智洋騎手 優勝インタビュー◆
(そのだけいば・ひめじけいば 公式YouTubeより)
「スタートから内でじっとして、しまい伸ばすイメージだったが、スタートから思ったよりも叩いて行ったのでビックリしました。ラッキードリームの位置取りもビックリ、イメージとは逆だった」とスマイルミーシャを管理する飯田師はレース後に話した。
画面で見るとスタートで半馬身ほど遅れているように見えたが、「ゲートは五分には出たけれど、2歩目のステップが少し寄れたのとカメラの角度(での見え方)もあるでしょうね。出負けというほどではなかったです」と騎乗した吉村騎手。
飯田師も驚いたという序盤の動きについて、吉村騎手は「ラッキードリームの後ろが欲しかったので出して行きました。出たなりの競馬だったら、もう一列後ろになっていたでしょうね。相手は強いですが、今の段階でこのメンバー相手に現段階でどのくらいやれるかを把握したかったので真っ向勝負の競馬をしました」と振り返った。
「道中は内をロスなくできるだけラッキードリームから離されないようリラックスして走らせようと心がけました。ラッキードリームが先に行ってくれたのも“ラッキー”でした」と勝利騎手インタビューで話してファンの笑いを取ったが、ただのラッキーではなく、序盤に鞭を入れてまでラッキードリームの真後ろを取りに行った吉村騎手のファインプレーも勝利の一因に違いない。
「直線に向くところでラッキードリームはかわせるなと思いました。でも外からもう一頭来ていたのでまずいなと・・・よく凌いでくれました」とツムタイザンの追い上げを振り切った愛馬を讃えた。
「こちらが思っている以上に頑張ってくれました。やっぱり“天才的なアイドル様”でした」と今年の流行曲になぞらえて、吉村騎手はスマイルミーシャのレースセンスの良さ、強さを表現した。
レースを見守った飯田師の談話もご紹介しておこう。
「叩いていった分最初は少し折り合いも付きにくそうでしたが、操縦性が高い馬なのでだんだん落ち着いてスタミナを温存できました。すぐに折り合えたのは成長を感じます。前走は外回りの競馬になって脚が溜まらなかったですが、今回は枠が良かったですね。ラチ沿いで経済コースを回れたので、脚が溜まっているのは分かりました。あとはどれだけ伸びるかと思って見ていましたが、頑張ってくれました。1870mをこなせる体力もついてきていますね」
「今回は枠の差と斤量の差です」と謙虚に話していたが、「3歳馬ではなかなか勝てないですからね」と想像以上の頑張りに目を細めていた。
総評
前走の兵庫クイーンカップでは金沢のハクサンアマゾネスに敗れたが、わずか1ヶ月ほどの間でも「前走からの成長が感じられた」と吉村騎手は話した。「中距離のNo.1を証明し、来年は迎え撃つ立場になる」が、全力を出して強豪馬たちと戦った今回もまた大きな糧となるに違いない。
「名だたる馬たちの中で勝てたし、今後のさらなる成長も期待できます」と今回の勝利を自信にして、さらなる飛躍が期待できそうだ。
兵庫に新たに誕生する4つ目のダートグレード。
中距離No.1の称号を得たスマイルミーシャが、桜花舞う華やかな舞台に地元の看板を背負って立つ来春が待ち遠しい。
文:三宅きみひと
写真:齋藤寿一