2023 園田ジュニアカップ レポート
2023年12月31日(日)
大晦日の兵庫2歳王者決定戦「園田ジュニアカップ」。過去の勝ち馬にロードバクシンやオオエライジンなど兵庫の一時代を作った名馬の名が並ぶ。前回覇者のスマイルミーシャは2023年の兵庫ダービーや園田金盃を制覇するなど一気に頂点まで上り詰めた。
デビューから5戦全勝で重賞3連勝中のマミエミモモタローが出走する予定だったが、前走の枠入り不良で発走再検査の裁定が下った。試験は無事合格したものの出走申込日ルールの関係により、出走不可能となってしまった。
王者不在となったが今年の園田ジュニアカップも兵庫生え抜き馬12頭が集結。どの馬が勝っても重賞初制覇という激戦ムードが漂うメンバー構成となった。
1番人気(単勝1.3倍)は2戦2勝のウェラーマン。
新馬戦を9馬身差で快勝。前回の1700m戦も道中2番手からの競馬。2周目3角過ぎで先頭に立つと後続に8馬身差をつける圧勝。高いレースセンスで底をみせていない連勝馬にファンの期待が集まった。今回は2年連続3度目の全国リーディングを獲得した吉村智洋騎手に手が戻り、初対戦の重賞好走組に挑む。
メンバー最多の通算5勝を挙げているクラウドノイズが2番人気で単勝3.3倍。前回の認定戦はスタートで出負けし2番手からとなったが4角手前で先頭に立つ競馬で3着だった。順調に使われながら馬体も成長しており、自分の展開に持ち込む事が出来るかがポイントになりそうだ。鞍上の山本屋太三騎手はデビューから8ヶ月、ルーキーイヤーでの重賞初制覇がかかる。
3番人気はミスターダーリンで単勝9.5倍。デビューから逃げ、先行で堅実に走り4戦目で初勝利。2度目の1700m戦となった前走で控える競馬を試すと器用に立ち回り鋭い伸びをみせる。勝ち馬のマミエミモモタローとタイム差無しの2着と奮闘。不利と言われる大外枠でどう立ち回るか注目だ。
ネクストスター園田2着のトウケイカッタローが4番人気、単勝15.3倍。
2度目の重賞挑戦となるマルカイグアスが5番人気で続く。
出走馬
レース
スタート
1周目3~4コーナー
スタンド前
2コーナー
向正面
向正面〜3コーナー
3~4コーナー
最後の直線①
最後の直線②
最後の直線③
最後の直線④
最後の直線⑤
ゴールイン
レース前日の晩から雨は降ったが馬場が変化する程の雨量にはならなかった。31日もすっきりしない天気が続いたが、この時期らしからぬ暖かさで気温は17度まで上昇した。4000名以上のギャラリーが見守る中、12頭の若馬はスムーズに枠へ収まりゲートが開いた。
スタートは若干ばらつく。好スタートはゴールデンロンドン。人気上位馬の中ではマルカイグアスが出負けするがその他は五分のスタートを切る。イズジョーヒーローは1馬身出遅れた。
まず外からクラウドノイズが二の脚を活かしてハナに立つと大外枠のミスターダーリンが2番手で続く。好発のゴールデンロンドンがインの3番手。1番人気のウェラーマンは4番手。直後は3頭併走で外にグランゲレーロ、真ん中にマルカイグアス。スタート後手を巻き返したイズジョーヒーローが内に潜り込む。3馬身後方も3頭が並ぶ。内からティラミスアイ、スタビライザー、タプチャン。トウケイカッタローは後方2番手で脚をためる。さらに3馬身遅れてグレートメモリーズが最後方で続きスタンド前を迎えた。
理想の逃げに持ち込んだクラウドノイズだったが、ミスターダーリンが競り勝けるように並びペースは緩むことなく平均より速い流れで1コーナーを通過。
2頭併走の先頭から3馬身後方に3番手集団の4頭。さらに4馬身離れて7番手集団が5頭追走。グレートメモリーズが1頭ポツンと最後方で馬群全長18馬身ぐらいで2コーナーへ向かう。
向正面に入っても先頭は2頭併走が続く。残り800m付近から後続馬に跨る騎手達の手が動き始める。4番手追走のウェラーマンは追い通しで先頭との差を3馬身に詰めるが、内でロスなく立ち回るゴールデンロンドンの方が手応えが良い。中団で構えるマルカイグアスは反応良く浮上を開始。後方待機のトウケイカッタローは内ラチ沿いを通りながら進出するが先頭とはまだ10馬身差がある。
3コーナーを過ぎても前4頭の隊列は変わらず。ここにマルカイグアスが外から良いスピードで5番手に浮上。加速がついたトウケイカッタローも6番手まで押し上げるがまだ前は遠い。
4コーナーを迎えても先頭の2頭は互いに一歩も譲らず並んだまま。ここにイン回りのゴールデンロンドン、外からマルカイグアスが差を詰めてくる。ウェラーマンはペースアップに対応出来ず優勝争いから脱落。トウケイカッタローは6番手のまま直線を迎える。
粘る先行馬2頭に併せ馬でゴールデンロンドン、マルカイグアスが急追。外からじわじわトウケイカッタローが迫り、直線は手に汗握る叩き合いとなる。残り100m付近でゴールデンロンドンは前が塞がると、すかさずインに切り替えて立て直すもブレーキがかかった影響で遅れを取る。
粘るクラウドノイズを捕らえて一旦前に出たミスターダーリンだったが外から来たマルカイグアスの脚色が優った。3/4馬身抜け出してマルカイグアスが死闘を制した。
2着はミスターダーリン。終始外を回りながら逃げ馬をマークする厳しい展開だったが驚異的な粘りをみせた。上がり最速(39.9秒)の末脚で迫ったトウケイカッタローが3着。後方からとなったがネクストスター園田でみせた末脚をここでも発揮した。
直線での不利が響いたゴールデンロンドンだったが首差の4着と奮闘。クラウドノイズは逃げに持ち込めたが序盤からマークされる厳しい流れで5着入線。1番人気のウェラーマンは6着だった。
◆マルカイグアスはマクフィ産駒の2歳牡馬。3代母にG1馬のシンコウラブリイがいる血統。重賞2度目の挑戦で嬉しい初制覇。勝ち時計1分54秒0はオーストラリア産の白い砂に変わった2020年以降で同レースの最速タイム。
獲得タイトル
2023 園田ジュニアカップ
◆鴨宮騎手は去年2月の兵庫ウインターカップ以来の重賞勝利。重賞通算6勝目。
◆橋本忠明厩舎は去年の六甲盃以来1年半ぶりの重賞制覇。重賞通算41勝目。鴨宮騎手、橋本厩舎ともに園田ジュニアカップ初制覇。
◆鴨宮祥行騎手 優勝インタビュー◆
(そのだけいば・ひめじけいば 公式YouTubeより)
「学さん!やりました!」と、腰痛で休養中の田中学騎手にお立ち台で勝利を報告した鴨宮騎手。テン乗りで重賞制覇という大仕事をやってのけた。
「(デビューから)学さんが大事に乗ってくれていた馬でした。レース前に学さんから『思い切り乗って来い!』と言われた通りに乗りました」。尊敬する先輩のゲキに応えて勝利を掴んだ。
マルカイグアスは園田ジュニアカップと同じ距離のアッパートライ競走(11月15日)で2着。距離延長のレースで収穫のある内容だった。その後は大晦日に向けてじっくり調整された。
「攻め馬で初めて跨りましたが乗った感触は良かったです。返し馬も雰囲気が良く十分戦えると思いました。厩舎スタッフさんが仕上げてくれたおかげですね」と馬に携わる関係者に感謝した。
関係者インタビューで鴨宮騎手は「内枠でロスなく立ち回って前に馬を置く形が理想。中団よりも前でレースを進めたい」というコメントを出していたが枠順は7枠9番と外目の枠が当たった。
「外枠だったので内に潜り込みたいなと思っていました。ウェラーマンの後ろを取れたのが大きかったですね。道中も手応えが抜群でしたが最後の直線は力が入って自分の追い方がバラバラになってしまいました。ゴールまで無我夢中で追っていました」。直線で前走馬に寄られる所もあったがスピードは衰えず差し切った。
金曜日3勝、土曜日2勝と好リズムで大晦日を迎えていた鴨宮騎手は1年10か月ぶりの重賞勝利。2023年は年間96勝で自身のキャリアハイを更新した。
「毎年重賞を獲りたいという気持ちでいました。当初は乗り馬が無かったのですが、橋本先生から騎乗依頼が入りました。結果で恩返しが出来て嬉しかったです。もうちょっとで年間100勝でしたけど、最後に重賞を勝てたので来年頑張ります!」と、ファンの前で力強く語った。
管理する橋本忠明調教師は「マルカイグアスはデビュー前から能力があるのは分かっていたが、本格化するのは来年だと思っていました。今日のパドックでも完成している馬と比べるとまだ緩さがあります。ここで勝てば凄い馬になると思っていたけど、本当に勝てるとは・・・。もちろん勝つ気で送り込んだけどね」。成長途上での重賞制覇に驚いていた。
「3頭外を回るような展開にはならないでほしかったが、少し強引でも良いところに入れてくれたし、しっかり追ってくれた。学さんから鴨宮騎手へのスイッチはすぐに決めました。現状できる仕上げでうまく乗ってくれた彼のおかげです!」と、好騎乗で勝利に導いたジョッキーを称えた。
「今後はまだ決まっていませんが、もっと長い距離でも大丈夫だと思う」と2024年の兵庫クラシック戦線での活躍が楽しみだ。厩舎先輩馬のジンギ、エイシンニシパが獲れなかった兵庫優駿(旧兵庫ダービー)の奪取を目指してほしい。
総評
マルカイグアスを管理する橋本忠明厩舎は大晦日に重賞を制覇。去年の六甲盃以来を勝って以来の勝利だった。厩舎に数々の重賞タイトルをもたらしたジンギとエイシンニシパの”2枚看板”が怪我で離脱。厳しい戦いが強いられた。
「ジンギやエイシンニシパが怪我で休んでいる間]に重賞を取れていなかったので今回は本当に嬉しかった。重賞の連続勝利が続いて良かったですね」。
2023年の最終日にタイトルを掴み、連続重賞勝利を9年連続に伸ばした。
「毎年マルカのオーナーには良い馬を買ってもらいながら重賞を勝てていなかったのでそれも嬉しかったですね」と、お世話になっているオーナーの馬で勝てた喜びに浸った。
ダート路線の改革で2024年は重賞の新設やレースの実施時期、距離が変わる重賞もある。園田競馬場で4月29日に行われる兵庫チャンピオンシップは距離が1400mに変更。3歳短距離馬の頂上決戦という位置づけになる。5月1日には東京ダービーのステップ競走「第1回西日本クラシック」(園田1870m)が行われる予定だ。成長途上の3歳馬達はキャリアを積んで得意な路線を歩んでいくことになるだろう。
今回、園田ジュニアカップに出走が叶わなかった無敗の重賞3勝馬マミエミモモタロー。管理する諏訪調教師に話を伺うと4月の菊水賞に直行する予定とのことだ。園田ジュニアカップ出走組やこれから出現する新興勢力と春のクラシックで激突する。
変革元年、どんな化学変化が起きるのか期待したい1年だ。
文:鈴木セイヤ
写真:齋藤寿一