2024 兵庫チャンピオンシップ(Jpn2) レポート
2024年04月29日(祝月)
全日本的な3歳ダート路線の変革に伴い、今年から距離が1870mから1400mに変更された兵庫チャンピオンシップ(Jpn2)。3歳ダート短距離王決定戦という位置づけと変わった。
距離は変わったが、JRA勢はいずれも強力。いずれもオープン勝ちや重賞好走歴がある強豪馬5頭が参戦。また、“3歳スプリントシリーズ”と題しステップとして組まれた4つのネクストスター競走のうち、東日本王者と西日本王者が参戦を表明。
地方他地区は船橋から2頭、高知から1頭が参戦、地元兵庫馬は3頭がエントリーし、11頭で争われた。
1番人気は、単勝2.2倍でJRAのエートラックス。
初勝利に5戦を要したが、1勝クラスは2戦目で卒業すると、前走のバイオレットSは2番手から抜け出して勝利。先行できるスピードがありここ2走はレースセンスの良さを見せて連勝を飾った。今回は、世界のトップジョッキーのジョアン・モレイラ騎手で初タイトルを狙う。
差のない2番人気は、単勝2.3倍JRAのイーグルノワール。
昨年11月の兵庫ジュニアグランプリを3連勝で勝利、直線の差し返しは見事だった。全日本2歳優駿は、のちにサウジダービー、UAEダービーを連勝するフォーエバーヤングに敗れるも2着を確保。前走雲取賞は太目残りが響いて4着も、今回勝利経験のある園田で巻き返しを図る。去年のミトノオーに続く連覇を狙う武豊騎手と初コンビ。
3番人気は、単勝6.2倍のJRAエコロガイア。
1200mで2勝。前走ブルーバードCは逃げてよく粘ったが、ゴール前で差されてクビ差2着の惜敗だった。前走は一気の距離延長も1800mに対応しており今回距離の不安はなし。初勝利を挙げた川田将雅騎手とのコンビでの出走となる。
さらに、単勝7.0倍の4番人気でJRAチカッパ。前走昇竜Sを勝った馬で、吉村智洋騎手悲願のダートグレード初制覇もかかる。単勝38.2倍と離れた5番人気にネクストスター東日本を制した船橋ギガース。エーデルワイス賞優勝で今回唯一の牝馬モズミギカタアガリが6番人気、ネクストスター西日本優勝馬で重賞連勝中の高知リケアサブルは7番人気だった。
出走馬
レース
ゴールイン
4日間連続で行われるゴールデンウィークシリーズの初日。なんとかお天気は持ち堪えていたが、メインスタート前になって予報通りにポツポツと細かい雨が降り始めた。
夏日となったが、レース発走時は気温24℃。5700人を超えるファンが詰めかけて熱気を帯びる中、スタートを迎えた。
スタートは、大外のモズミギカタアガリが大きく外側に寄れてしまい遅れを取った。チカッパ、イーグルノワール、ダイボウケンもやや後手。
発馬を決めたエートラックスがまずは逃げに持ち込むと、少し気合をつけられたエコロガイアがその外2番手へ。ギガースが一番外の3番手を取る。発馬後手から巻き返したチカッパが内の4番手で、そこにリケアサブルが並んでいく。イーグルノワールは6番手となり、ダイジョバナイ、クラウドノイズと共に中団グループを形成。後方はクルマトラサン、ダイボウケンがいて、モズミギカタアガリが最後方で1コーナーに入った。
馬群全長は10馬身ほどで固まり、ダートグレードとしては比較的ペースも落ち着いた。
向正面に入り、残り600m手前からまず動いたのは船橋のギガース。鞭に反応して加速すると一気に2番手に浮上し、逃げるエートラックスに接近して3コーナーへ。2番手にいたエコロガイアはポジションを下げ、内ラチ沿いからチカッパが3番手へ。中団ではリケアサブルとイーグルノワールが追われるも反応が鈍く、前との差が離れていく。大外からは序盤出遅れて後方にいたモズミギカタアガリがスピードに乗って中団へ進出。
4コーナーで2番手のギガースを内からチカッパが抜いて直線へ。
直線200mからエートラックスが後ろを突き放していき、他馬に並ばれることなく3馬身差で逃げ切り勝利を収めた。2着にチカッパが粘り、3着には末脚が届いたモズミギカタアガリ。4着にじわじわ直線で伸びたイーグルノワールでJRA勢が4着まで独占。地方最先着は5着の船橋ギガース、兵庫勢は3頭共に後方に沈んでしまった。
◆エートラックスは3連勝を飾り、これで通算9戦4勝。ダートグレード初挑戦初勝利となった。
獲得タイトル
2024 兵庫チャンピオンシップ(Jpn2)
◆ジョアン・モレイラ騎手は、地方重賞通算3勝目となった。園田競馬場での騎乗は2018年兵庫ジュニアグランプリ以来5年半ぶり2度目だったが、エートラックスで園田初勝利を決めた。
◆宮本博厩舎は地方重賞通算4勝目。兵庫のダートグレードは初優勝。
◆ジョアン・モレイラ騎手 優勝インタビュー◆
(そのだけいば・ひめじけいば 公式YouTubeより)
逃げ先行勢が揃った中で、競り合うことなく先行争いに決着をつけてマイペースの逃げに持ち込んだエートラックス。
今回この馬と初めてコンビを組んだモレイラ騎手は、「過去のレースを見て、ゲートが速いということは分かっていたので、そのゲートスピードをうまく使って先行できればいいかなと思っていました。今日も良いスタートを切って、先頭に立ちました。レース中も乗りやすい馬で、馬のおかげで勝利することができました」と振り返った。
好スタートを決めてスッとハナに立つスピードを見せたハイセンスな走り。他馬が競りかけて行く暇も与えなかったが、
「本当にいい馬です。レース前はテンションの高いタイプの馬で、ゲート裏でも緊張感を見せるところがあったのですが、うまくコントロールし勝利できました。小回りでもよく耐えられました。小回りの短距離でも悪くないと思います。今日は仕上がりも良くて重賞を勝つことができました。これから何回もすぐ勝てると思います」と賛辞を贈った。
ブラジル出身のモレイラ騎手だが、シンガポールや香港で長く騎乗して実績を残し、日本でも度々短期騎乗で抜群の成績を記録してきた。今春の短期遠征でも、いきなり阪神牝馬S、桜花賞、アーリントンカップとJRA重賞3連勝を飾るなどその手腕を遺憾なく発揮。そんな世界的名手の手綱が園田競馬場で見られたのは嬉しい限りだ。
さらに、園田競馬場の印象を尋ねるとこんな答えが返ってきた。
「以前園田に来た時には勝つ幸運には恵まれませんでしたが、今日は報われました。トラック自体が素晴らしく、とてもスムーズでどの馬にとっても良いコースです。このトラックを作った人に祝福を送ります。そして、世界中にこのようなレーストラックがもっと作られるといいなと思います」と馬にとって走りやすい馬場であり、それを管理している人たちへの賛辞をも話してくれた。
超一流の腕を持つモレイラ騎手、その人柄もよく分かる勝利騎手インタビューだった。またその騎乗が園田競馬場で見られる日が待ち遠しい。
総評
「見ていても楽でした。9戦目でしたが、使っていくうちに強くなっています」と確かな成長にうなずく。
ムルザバエフ騎手とルメートル騎手に乗ってもらってから「進化した」とのことで、「そこで馬が走りを教わったのかもしれないです」。
「前走も結構なメンバーの中で勝ったし、今日も無事に走ってくれたら勝てるかなと思っていました。ホッとしました」と笑みを浮かべた。
距離に関しては、「モレイラ騎手はこれぐらいが良いと言っていました」とのことで、さらに短い1200mでも対応は可能とのことだ。
今後については、「4勝したのでレースの選択がしやすくなりました。次走は未定、オーナーサイドとの相談になります」とのことで、一旦放牧に出されるようだ。
「スタートセンスが良くなって、道中も前で運べて、終いもしっかりして、言うことがありません」と太鼓判。
初代3歳短距離王として今後の活躍も大いに期待できそうだ。
一方、地方勢の再先着は5着の船橋ギガース。ネクストスター東日本優勝馬の意地で、JRA勢の掲示板独占はなんとか阻止したが、JRAのトップホースとの差は感じる内容だった。
歴史の転換点となった2024年の兵庫チャンピオンシップ。1400m戦に変わってもJRA勢の強さは相変わらずだが、いつかJRAの連勝を止め、3歳ダート短距離界の頂点に立つ地方馬が出てくる日を楽しみにしたい。
文:三宅きみひと
写真:齋藤寿一