2024 六甲盃 レポート

2024年06月06日(木)

伝統の古馬重賞「六甲盃」は第62回の今年から距離を短縮。昨年までは兵庫競馬のレースの中で唯一2400mの競走として行われていたが、この度1870m戦へと舞台設定が変わり、兵庫大賞典の距離変更も相まって、春の古馬中距離王決定戦の位置づけとなった。

兵庫中距離戦線のトップクラスの馬たちに加え、船橋、大井、高知から1頭ずつが遠征、重賞ウィナー7頭を含むフルゲート12頭で争われた。

1番人気は、単勝1.9倍で大井のセイカメテオポリス。
南関東所属の重賞5勝馬とあって、メンバー中、ナンバーワンの実績だ。
兵庫は初めてだが、昨年は笠松のオグリキャップ記念、2走前は佐賀のはがくれ大賞典も勝っており、遠征先で結果を出している。

ただここのところずっと2000m以上の距離で戦い続けており、2000m未満となると約1年前に走った地元のブリリアントカップ2着以来だ。
この馬と共に通算4勝と、勝手知ったる金沢の吉原寛人騎手を背に実績通りの力を示せるか。

2番人気は地元兵庫のラッキードリームで5.0倍。
門別三冠馬の看板を背負い、南関東経由で兵庫に来て以降、中距離戦線の中心として活躍を続ける。
今年も緒戦の白鷺賞を快勝し、安定した走りを見せていたが、前走の前哨戦は最内枠からスタートで後手を踏み、3着に甘んじた。
本番を見据えた仕上げの影響もあったか、本番での巻き返しが期待された。

3番人気の単勝6.1倍は、その前哨戦で圧巻の脚を見せた地元兵庫のメイショウハクサン。中央からの転入当初は状態が芳しくなく、緒戦は2ケタ着順と大敗。そこから治療と休養により立て直され、復帰戦で3着、2走前のA1A2混合戦でガリバーストームを撃破。そして、重賞級のメンバーが揃った前哨戦では、ほぼ最後方からのまくりを決め、一気に六甲盃の有力馬に名乗りを挙げた。
ただのまくりではなく、先団に取りついた後の勝負所では、一息入れる様子もあり、奥を感じさせる走りっぷりだった。破竹の勢いで勢力図を塗りかえるか。

その後は、紅一点のスマイルミーシャが単勝7.7倍の4番人気で続いた。
昨年暮れの園田金盃を制した勢いそのままに、今年緒戦のコウノトリ賞を快勝。
しかし、その後は新設の兵庫女王盃(Jpn3)で中央馬らの後塵を拝する6着、前走の前哨戦ではメイショウハクサンと真っ向勝負を演じるが、最後は離されて2着に敗れた。ダービー、グランプリを含む重賞6勝の地元最強牝馬が歴戦の牡馬相手に力を示せるか。

14.8倍の5番人気は船橋のユアヒストリー。
中央から転入後は着外なし。重賞では勝ちにこそ届かぬものの、3戦連続3着と堅実な走りを見せる。
前走のはがくれ大賞典で負かされたセイカメテオポリスとの再戦にもなるが、初の兵庫でリベンジなるか。

出走馬

1番  ナムラタタ 廣瀬航騎手
2番 ドンカポノ (高)永森大智騎手
3番 リバプールタウン 松木大地騎手
4番 (大)セイカメテオポリス (金)吉原寛人騎手
5番 サンライズホープ 川原正一騎手
6番 メイショウハクサン 大山真吾騎手
7番 (高)ガルボマンボ (高)林謙佑騎手
8番 ツムタイザン 杉浦健太騎手
9番 スマイルミーシャ  吉村智洋騎手
10番 ジンギ 鴨宮祥行騎手
11番 ラッキードリーム 下原理騎手
12番 (船)ユアヒストリー (船)澤田龍哉騎手

レース

スタート
1周目向正面
1周目スタンド前
2周目向正面
2周目3コーナー
2周目3〜4コーナー
コーナー〜最後の直線
最後の直線①
最後の直線②

ゴールイン

この日はほぼ1日曇り空、16時現在で実況席の気温は27℃台と、蒸し暑さを感じる中、新装なった六甲盃のファンファーレが場内に響いた。

前走とは一転、抜群のスタートを決めたのはラッキードリーム。発馬直後に1馬身抜け出すと、ツムタイザンがそれを追って前へ。すると復帰2戦目のジンギが二の脚でこれを交わし、ラッキードリームの背後2番手につけていく。その後、内にツムタイザン、外に船橋のユアヒストリーがつけて好位を形成。そして中団差がなく、大井のセイカメテオポリス、高知のガルボマンボ、サンライズホープが続いた。

中団から後方にかけ、ドンカポノといつもより後ろになったスマイルミーシャが並び、ナムラタタとリバプールタウン、最後方に前哨戦圧勝のメイショウハクサンがつける形でスタンド前に入る。


先頭を行くラッキードリームがうまくペースを落とし、隊列はほぼ切れ目なく、12馬身圏内で1コーナーへと向かっていく。

場内からの声援を背にジンギが2番手、ツムタイザンとユアヒストリーが変わらず、3、4番手をキープ。セイカメテオポリスはその直後、馬群の真っ只中で中団グループを走る。淡々とした流れのまま向正面に入るが、残り600mあたりから、中団のサンライズホープ、後方のスマイルミーシャ、そして最後方にいたメイショウハクサンが発進、レースが動く。

ペースが徐々に上がる中、ここまでマイペースで逃げていたラッキードリームも後ろからの追い上げに応戦し、下原騎手が促しながら先頭を守る。

ジンギが早々に後退し、変わってユアヒストリーが2番手に浮上、ツムタイザンもなんとかついていって3番手、ポジションを上げてきたサンライズホープが4番手で4コーナーから直線へ。この間、セイカメテオポリスは先頭集団から離された7番手あたりで伸びを欠く。

ラッキードリームが1馬身半ほどのリードを保って残り100m。追いすがるユアヒストリーが2番手、その2馬身差でツムタイザンが3番手、道中動いたサンライズホープは一杯になり4番手で、レースはクライマックスを迎える。

熾烈な追い比べが続くも、最後はラッキードリームがクビ差しのぎ、1着でゴールを決めた。前哨戦からの鮮やかな巻き返し、課題のスタートを克服し、改めて兵庫中距離王の力を示した。

直線追い詰めた船橋のユアヒストリーが2着、前々で運べたツムタイザンが3着に粘った。

4着にサンライズホープ、5着に高知のガルボマンボが入った。

道中のスローペースが響いたのか、1番人気だった大井のセイカメテオポリスは7着、3番人気のメイショウハクサンは9着に終わり、スマイルミーシャに至ってはよもやの最下位という結果となった。

◆ラッキードリームは今年の白鷺賞に続く重賞勝ちで通算重賞12勝目。咋年アタマ差の2着に泣いたこの六甲盃でリベンジを果たした。

獲得タイトル

2020 サッポロクラシックカップ(門別), JBC2歳優駿 (門別 Jpn3)
2021 北斗盃(門別), 北海優駿(門別), 王冠賞(門別)
2022 姫山菊花賞, 園田金盃
2023 兵庫大賞典, イヌワシ賞(金沢), 姫山菊花賞
2024 白鷺賞, 六甲盃

◆下原理騎手は重賞通算88勝目で兵庫歴代重賞勝利記録をまた1つ自ら更新。今年は2月の白鷺賞(ラッキードリーム)に続いて重賞3勝目。

◆新子雅司厩舎も同じく2月の白鷺賞(ラッキードリーム)に続いて今年の重賞3勝目。これで調教師の通算重賞勝利数は、曾和直榮氏の66勝を抜いて67勝となり、兵庫歴代単独トップとなった。

◆下原理騎手 優勝インタビュー◆
 (そのだけいば・ひめじけいば 公式YouTubeより)

強豪揃った全国交流重賞で、ラッキードリームをしっかり勝利に導いた下原理騎手。
勝利インタビューの冒頭、最大の勝因となったであろう最高のスタートについて訊いてみると、「今日は前回を覆すようなスタートでした」と目を細めた。

レースは理想の逃げの形で、ゆったりとマイペースで運べたが、それでも4コーナーあたりでは手応えも一杯になってきていたというラッキードリーム。

「どうかなと思ったんですけど、最後は(後ろから)来る分、伸びてくれたんで、馬の底力だと思います」と鞍上は愛馬の地力を称えた。

今年で6歳、兵庫に来てからもずっとハイレベルのパフォーマンスを見せ続けるラッキードリームだが、

「(陣営からは)前回よりも馬の落ち着きが出てきたと聞いていたんですけど、正直返し馬も進まないぐらい大人しかったです。落ち着きすぎてて不安になったんですけど、それが良い方に出たと思います」と、この日はこれまでにない変化も見られたという。

ゲート裏に行くとイレ込んで仕方ない面を見せていた本馬の変化、そしてその中での勝利。
下原騎手は、「大人になってきて、さらに扱いやすくなるのかな」と前向きに現状を捉えていた。
現在兵庫の生え抜き騎手歴代重賞勝利記録のトップを走る下原騎手は、これでまた1つ自身で更新して88勝目とした。

そして新子厩舎にとっては重賞67勝目、厩舎歴代重賞勝利記録で単独首位に立った。
これに関して下原騎手は「嬉しいんですけど、僕の重賞の勝ち鞍を抜かれそうですね」と謙遜しつつ、笑顔で厩舎を称え、場を沸かせていた。

兵庫のトップを走るタッグでの貫禄の重賞制覇となった。

総評

下原騎手が言及していた”馬の落ち着き”。この点に関して新子調教師は「成長して大人になったのか、それともズブさなのか、まだ判別できない」と述べるにとどめた。
「(前哨戦は)本番を見据えた五分程度の状態。(当日のテンションを考慮しつつ)どれだけギリギリの仕上げができるか」と新子師は戦前話していたが、有言実行、しっかりと本番で一変させた手腕はさすがの一言だ。
重賞勝利数で兵庫歴代単独トップに立ったが、ここもまだまだ通過点といった様子だった。
心の変化?を見せたラッキードリームは今後どのような走りを見せるのか。
昨年同様、金沢のイヌワシ賞からの姫山菊花賞といったローテーションになるのか、今後のプランは決まっていないが、「今年の最後は園田金盃に臨むつもり」ということだけ、野田オーナーは明言した。これからの下半期も王者の走りを期待したい。
他地区を含め、スローペースで力が発揮できなかった馬たちの巻き返しにも今後は注目したいところだが、10着に敗れたジンギについては、レース後、引退するという一報が入った。

2018年のデビューから通算成績は36戦19勝、そのうち重賞は兵庫大賞典や園田金盃といったビッグタイトル連覇など11勝。2021年からは3年連続で名古屋大賞典に挑戦し、最高着順は2022年の3着とダートグレードでも健闘を見せた。
2020年、2021年と2年連続兵庫の年度代表馬に輝き、主戦の田中学騎手と共に、一つの時代を築いたジンギ。
総獲得賞金2億1000万円超えは、兵庫生え抜き馬としての歴代最高額、記録にも記憶にも残る名馬が競馬場を去ることになる。

とても寂しい限りだが、まずはゆっくり休んでもらいたいし、絶対王者のバトンを受け継いだ形となるラッキードリームには今後も頑張ってもらいたい。


文:木村寿伸  
写真:齋藤寿一  

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