2024 摂津盃 レポート
2024年08月16日(金)
今年で56回を迎える園田の夏の風物詩、伝統のハンデ重賞「摂津盃」。
6月の六甲盃を制するなど、兵庫の中距離界を引っ張ってきたラッキードリームの大井への電撃移籍もあり、この路線は一気に戦国時代を迎えた。
そのラッキードリームと入れ替わるタイミングで新子厩舎にやってきたキリンジや、去年の暮れに門別から転入してきたサンビュート、中央からの転入初戦で鮮やかな差し切りを決めたダッシュダクラウンなど、まだ兵庫で底を見せぬ新興勢力らと、重賞戦線で善戦を続ける実力馬たちが入り乱れた。
上位4頭までが単勝10倍以下とやや混戦模様のオッズ。
とりわけ転入2走目となる新興勢力組が人気を集めた。
その中で1番人気の2.3倍の支持を集めたのがキリンジだ。
去年のジャパンダートダービー(Jpn1)、兵庫チャンピオンシップ(Jpn2)で2着になるなどダートグレードでも好走。重賞タイトルこそまだないものの、このメンバーでは実績最上位と言えるだろう。
鳴り物入りで中央からやってきた前走の兵庫初戦のA1戦はメイショウハクサンにアタマ辛勝だったが、状態面は5、6割だったとのことで、それでも勝ち切ったあたりは地力の高さの成せる業と言えるかもしれない。
道中でのズブさと遊ぶ面が課題と鞍上は語っていたが、今回はそれらの課題とトップハンデ58キロを克服して真の力を示せるか。
2番人気はダッシュダクラウンで単勝3.6倍。
兵庫転入初戦だった前走のA2B1混合戦(1700m)は、メンバー最速の上がりで差し切り勝利。勝ちタイムの1分52秒1は前日のA1戦を1秒上回る好時計だった。兵庫2走目、前走から斤量2.5キロ減と前進必至。
まだ自身はA2クラスで今回は格上相手となるが、重賞舞台でも好調の廣瀬航騎手との初コンビで、その名の通り、初タイトル奪取となるか。
そのダッシュダクラウンと同じ田中一巧厩舎のサンビュートが単勝3番人気の5.9倍となった。
門別から兵庫転入初戦となった去年12月のA1A2戦は、中団追走から最後の直線でアラジンバローズを追い詰めアタマ差の2着に。
惜しくも敗れはしたが直線での勢いはこちらが上回るほどだった。
そこからトラブルがあって8ヶ月の休養を余儀なくされたが、その間オーナー牧場で坂路調教を施されており、動ける状態にあると陣営は話す。一昨年の道営記念、去年の瑞穂賞を制した門別重賞2勝馬で、メンバーでも実績上位の存在。加えて金沢の吉原寛人騎手が手綱をとるとあり、ブランクがあっても侮れない。
4番人気はツムタイザンで単勝6.2倍。
去年はこの摂津盃で屈腱炎からの完全復活を示す劇的勝利。そこからの重賞戦線でも笠松のマーチカップVを含む善戦続きだ。
前哨戦のA1戦こそ、キリンジ、メイショウハクサンの後塵を拝する3着に敗れたが、メンバー中最も重い58キロも影響した模様。
夏場はすこぶる調子が良いとのことで、気配も絶好、連覇達成を目指す。
その後の単勝人気は、
前走この馬らしいまくりで反撃の狼煙を上げたメイショウハクサンが5番人気の14.4倍。
6番人気20.8倍が最軽量53キロ、柏原厩舎3頭出しの1頭ミステリーボックス。
7番人気はナムラタタで23.0倍。この週14日に兵庫復帰初戦を迎えた小牧太騎手が手綱を取る。
その後は柏原厩舎の残り2頭、8番人気26.5倍のウインドケーヴ、そこから大きくオッズが乖離した9番人気にオーバーディリバーの94.0倍が続いた。
出走馬
レース
スタート
1周目向正面
1周目3~4コーナー
1周目スタンド前①
1周目スタンド前②
2周目2コーナー~向正面
2周目向正面
2周目3~4コーナー
4コーナー~最後の直線
最後の直線①
最後の直線②
最後の直線③
ゴールイン
漆黒の闇にやや強めの西風が吹き、夏の暑さは和らいでいた園田競馬場。
お盆シリーズ最終日のナイター開催とあり、4,570人の観客が訪れ、大いに賑わいを見せていた。
その観衆らの大きな拍手と歓声が、ファンファーレとともに夏の夜空に響き渡った。
ゲートが開き、抜群のスタートを切ったのはウインドケーヴ。あっという間に後続に1馬身つけると、それを追って同じく柏原厩舎のミステリーボックスが2番手を取って1周目の3コーナーへ。
その後、出負けから巻き返した柏原厩舎の3頭目オーバーディリバーが後続の壁になる形で外の3番手に浮上し、同厩舎3頭が前を固めて3、4コーナー中間に入る。
差がなくインの4番手に連覇がかかるツムタイザン、1番人気のキリンジは5番手の外め、中団にサンビュート、メトセラ、そして小牧騎手騎乗のナムラタタとミステリオーソが続き、スタンド前へ。
スタート後手のメイショウハクサン、ダッシュダクラウンがこれらの馬群から少し離れた最後方を形成し、1コーナーに向かう。
ロケットスタートから主導権を握ったウインドケーヴと川原騎手。2番手にミステリーボックス、3番手にオーバーディリバーと同厩舎が続く形でペースは落ち着き、馬群全長12馬身ぐらいで2コーナーから向正面に入る。
3番手併走で内にツムタイザン、変わらず5番手追走のキリンジは向正面半ばから促しはじめるが、前走同様ズブさを見せる。その間に外からメイショウハクサンがまくり加減に上昇開始。以下、サンビュート、メトセラらが続いて残り400m。
ここまで楽に来られたウインドケーヴとミステリーボックスが並ぶ形で4コーナーへ。2、3馬身後ろからこれらを追うツムタイザンが3番手。そこからまた2馬身空いてキリンジが4番手から追い込み、残り100m。
粘りを見せるウインドケーヴ、クビ差まで詰め寄るミステリーボックス、2馬身差で追うツムタイザンに、並んでくるキリンジ。
前は2頭の激しい追い比べが続くも、最後はミステリーボックスが逃げるウインドケーヴを捉えて抜け出しての勝利。
2着はウインドケーヴが死守し、柏原厩舎のワンツーフィニッシュ。前の2頭が止まらなかった。
猛然と追い上げたキリンジは2着にクビ差届かずの3着に敗れた。ツムタイザンは連覇ならずの4着。そこから4馬身差でミステリオーソが5着で入線した。
この日の園田は10Rまでで逃げ切り勝利が7つ、この後の最終12Rも逃げ切りという結果に。他にも逃げ馬が3着内で粘るレースが多々あり、先行有利の馬場になっていた。
序盤から柏原厩舎の3頭が先団を固めて、結果的にレースを支配。
スローな展開の中、後続各馬にとっては流れ、位置取りともに厳しかったかもしれない。
◆ミステリーボックスは斤量の恩恵と流れを味方に重賞初挑戦初制覇。
2022年1月JRAでデビュー。その中央で勝利に届かず、同年11月に兵庫に移籍し無傷の3連勝。中央再転入初戦で1勝クラスを勝利するも、昇級後は再び頭うちに。今年の5月に兵庫へ再転入後はA2B1混合クラスで善戦していたが、今回こうして5歳の夏に花開いた。
獲得タイトル
2024 摂津盃
◆下原理騎手は6月の六甲盃(ラッキードリーム)以来、重賞89勝目(今年4勝目)。摂津盃は2018年タガノヴェリテ、2021年エイシンデジタルに続いて3勝目。
◆柏原誠路厩舎は通算重賞3勝目。2019年の摂津盃をヒダルマで制して以来の重賞Vで同レース2勝目。
◆下原理騎手 優勝インタビュー◆
(そのだけいば・ひめじけいば 公式YouTubeより)
「正直びっくりしています」。波乱の立役者、下原理騎手は観客からの大きな拍手に迎えられながら、開口一番、笑顔でこう答えた。
今回は格上相手、ハンデ53キロの馬ということで、「できるだけ1頭でも多く交わしたいという気持ちでいたのが、(結果として)1着だったのでびっくりです」と、自身でも驚きを隠せない勝利だったようだ。
同じ柏原厩舎のウインドケーヴが逃げていたため、できるだけ邪魔をせず、ペースを合わせる形で運んだという下原騎手。
スローペースの展開の中、後続の動きも気にしていたが、思いのほか、追い上げてくる馬はいなかった。
余裕をもって直線を迎えた前2頭の叩き合い、最後は逃げ粘るウインドケーヴを競り落とし、ミステリーボックスが重賞初挑戦初制覇を飾った。
「同厩舎ですけど、後は追い合いで勝つだけかなという感じで、手応えあったんで。53キロと前残りの馬場というのがかなり大きかったと思うんですけど、この暑い時期にしっかり仕上げていただいたおかげだと思います」と、下原騎手は斤量と馬場を最大の勝因に挙げた。
前日はヒメツルイチモンジとともに笠松に遠征し、くろゆり賞で4着だった下原騎手。
「昨日はレースが終わった後もゲリラ(豪雨)にうたれてなかなか帰れず、しんどい思いをしたんですけど、今日53キロで減量して頑張って良かったです」と振り返り、最後は再び笑みがこぼれた。
総評
鞍上曰く、「今日は汗かきもよく、ゲートの中でも元気いっぱい。課題とされていた気難しさの面もこの日は見せなかった」とのことで状態面はかなり良かったのだろう。
ただ、管理する柏原調教師は序盤の流れ、隊列が「勝因の7割です」と振り返る。
その後、オーバーディリバーが3番手を取ってくれたのが、また大きかったです」と、レースのポイントに言及した。
柏原誠路厩舎は、去年のNARグランプリで自身4度目の最優秀勝率調教師賞を獲得するなど、毎年高い勝率を誇る一方、ここまで重賞勝利は、2018年の園田ウインターカップ(ドリームコンサート)、2019年の摂津盃(ヒダルマ)の2勝のみと意外に少なかった。
NARグランプリの記者会見でも「(今年の目標は)重賞を獲りたいですね。全然獲れないんで。どうしたらタイトルを獲れるのかスタッフ共々考えて狙っていきたい」と、タイトル奪取に向けての思いを吐露していただけに、この5年ぶり3度目の重賞制覇は、柏原厩舎にとってとても大きい1勝となったことだろう。
今年のリーディング争いは、現在トップ圏からは離れているが、これを機にまた浮上を期待したいところ。
そして、キリンジをはじめ、今回力を出しきれなかったであろうライバルたちの秋の巻き返しにも注目したい。
文:木村寿伸
写真:齋藤寿一